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一章

私と師匠

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森の中を進み始めて、何時間がたったのだろうか。
空は暗くなってしまい、あたりには魔物の気配がする。
アカネもさっきまで師匠と会った時には復讐してやろうと息巻いてはいたが、いつか訪れるかもしれない危険に神経を集中させているので、そんなことを考える余裕がない。
今は野宿が嫌なのでとりあえずどこか眠れる場所を探している。
最低限の水が確保できているのは不幸中の幸いだ。
「そろそろどこかに止まらないと...」
昼頃から魔法を使っているせいで、もう魔力のほとんどは残っていない。
どこか身を隠せる場所を探さないといけない。
「外じゃ魔物に襲われるし、ちゃんと体力も回復しないから、できればどこか...」
森の中での野宿はまだアカネにとって危険だ。
アカネは最近魔法を使えるようになったが、使える魔法の数や、魔法の威力がそこまで強くない。
おそらくだが、襲われたらスライムにでさえ殺されてしまうだろう。
「でもそろそろ休まないと、明日の旅にも影響でるし...あ」
アカネの目線の先にほのかの明かりが見える。
明かりのほうに近づいてみると、そこには廃れた小屋があった。
小窓があったのでその中をアカネはおそるおそる除いてみる。
明かりの正体は中にある魔法石の光だ。
光のおかげで中の様子がうかがえる。
中には誰もいなさそうだ。
念のためドアをノックしてみる。
「ごめんくださーい。誰かいませんか?」
反応はない。
「・・・後で謝ればいっか」
食料や水をもらうわけではないので、後で言えば許してくれるだろうと、部屋を汚さないように中へと入る。
簡素な小屋なので、ものはあまり置かれてないが、机、いす、ソファがあるので一晩止まるには問題なさそうだ。
むしろ森の中にいる状況に比べれば贅沢といっていいほどだ。
アカネは床に荷物を置いて、ソファに腰を下ろした。
「はぁ...」
たまっていた不安やら疲れがため息となって、出てくる。
「師匠...なんでこんなところに私を跳ばしたのよ...」
魔女という存在はどんな状況でも覆せる力を持つ者が持つ異名だ。
村にいたときは大人になれば、魔女になれるものだと思っていたのだが、師匠に言わせると、私がいた村は異常なそうだ。
魔女は魔法使いの中でも一握りしかいない。
そのほぼ半数を私の村の出身者らしい。
魔女の村といわれてもおかしくない話である。
しかしその中で魔力は持っていても、魔法を使えなかった私のほうがもっと異常らしい。
でも私は師匠のほうが異常だと思う。
魔法が嫌いなのに、魔女として世界を旅回っているのだ。
「師匠はなんで魔女なんかやってるんだろう...」
魔女が嫌いな魔女。
今の彼女の瞳に映っている私は一体どんな姿をしてるんだろう。
「会いたいな...」
師匠に魔法使いとなった私が煩わしく思われていても、今はとても師匠に会いたい気分だ。
私はソファに横になって、空間から毛布を取り出す。
意識がまだはっきりしている内に明日のことを考えようとしたが、体は正直で、もう目が閉じ始めた。
「おやすみなさい師匠」
誰もいない部屋にぽつりとつぶやく。
もちろん誰も返事などしてくれない。
孤独を抱く私を魔法石が仄かに照らしてくれた。
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