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第二章 恋と陰謀の輪舞曲
23. 王妃クラウスの憂鬱
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その日の午後。王妃クラウスはテラスに座ってテーブルクロスに刺繍を刺していた。
田園の風景を描いた図案の森の部分を、ひたすら緑の糸で埋めていくのはいつもなら単調でうんざりしてしまう作業だが、今はその単調な作業が心を落ち着かせてくれた。
側では侍女たちが、低いスツールに腰かけた侍女たちがめいめい、刺繍糸をより分けたり、縁かざりにするレースを編んだりしている。
温厚で物静かな王妃の侍女は、もともと口数の少ない者が多かったが、それにしても誰もが黙って手を動かしているのは、先日の件で受けた王妃の心痛を気遣ってだと思われた。
口に出して何か言う者はいないが、さりげなく好きな花が飾られていたり、心が落ち着くような香油の香りが漂っていたりする。
侍女たちが自分を労ってくれる気持ちを ありがたく思いながら、
(でもあまりに沈んでいたら皆に心配をかけてしまうわね)
と、久しぶりに庭でささやかなティーパーティーでも開こうかと考えていたその時。高らかにリュートの音色が響き渡った。
続いて妙に情感たっぷりの歌声が流れてくる。
『君さえいれば何もいらない 君は僕のただ一つの光~』
「な、なあに? あの声は?」
王妃の問いかけに侍女たちも困惑した顔を見合わせる。
王妃付きの侍女には楽器に堪能な者も多いが、こんな時に呑気に音楽に興じるような能天気な者がいるとは思えない。
しかも、聞こえてきた歌声は男のものだった。
王妃は無言で立ち上がると歌の聞こえてくる方へと歩きだした。
声は宮殿の東の方から聞こえてきた。
王妃が足早に東の庭園に向かうと、そこではリュートを抱えた吟遊詩人が、椅子に足を組んで座り、妙にもったいぶった様子で弾き語りをしていた。
その側の薔薇のポーチの下のベンチでは、アドリアンとマリエッタがうっとりと目を閉じて寄り添っている。
いや寄り添っているなどという可愛らしいものではない。
マリエッタが腰かけているのは、ベンチではなくアドリアンの膝の上だった。
頬をアドリアンの胸にぴったりとくっつけ、白く細い指で、アドリアンの喉元あたりを撫でている。
アドリアンの右手はマリエッタのほっそりとした腰に添えられており、もう片方の手はマリエッタの片手と指を絡めるようにして繋がれていた。
(まるで娼婦だわ)
王妃はこみ上げてくる嫌悪に顔をしかめた。
マリエッタの男爵令嬢という身分では、アドリアンとは釣り合わないと思っていたがそれどころではない。
マリエッタの振る舞いは、自分の愛くるしい顔立ちと、それに似合わぬ豊かな曲線を描いた体がどれだけ男の心を惹きつけ、蕩かすのかを知り尽くしている女のものだった。
とても貴族としての教育を受けた良家の子女とは思えない。
「何をしているのです!」
思ったよりも険しい声が出た。
マリエッタは「きゃっ」と叫んでアドリアンの膝から立ち上がったが、そのまま跪くわけでもなくアドリアンの腕にすがって甘えるように彼を見上げた。
吟遊詩人は慌てて歌をやめ、椅子から滑り降りて平伏した。
「これは母上」
アドリアンはさすがに決まり悪そうに立ち上がって王妃に対する正式な礼をした。
「父上のもとへいらっしゃったのではなかったのですか。本日は確か貴族との謁見の日だったかと」
王妃は我が耳を疑った。
確かに今日は週に一度、王妃が国王と並んで臣下の拝礼を受ける日であった。
しかし、不祥事を起こした息子が王太子を廃され、そのかわりに他の王妃が生んだ王子が指名されたということが知れ渡っている状況で、自分がどんな顔をして家臣たちと向き合うことが出来るというのか。
しかも今日はクレヴィング公爵が娘のアマーリアとその新しい婚約者を連れて挨拶にやって来るという。
少女の頃から可愛がっていたアマーリアに自分からも謝罪したい気持ちはあったが、国王がエルリック王子の立太子と婚約について公爵に相談したいようだったので、自分がいては話しづらかろうと思い遠慮をした。
そういった母の心労がいったい誰のせいなのか、アドリアンは本当に何も分かっていないのだろうか。
それほど、この嫌らしい、身の程知らずの少女に芯まで毒されてしまっているというのか。
王妃はかたわらの侍女に
「衛兵を。闖入者を追い出して」
と命じた。
すぐさま侍女が出て行き、数人の衛兵を連れて戻ってきた。
衛兵たちは無言で吟遊詩人に歩み寄ると、その腕をつかんで立ち上がらせた。
「わ、私は何も……」
うろたえるその詩人を衛兵たちが両側から引きずるようにして連行する。
「で、殿下! 王太子殿下! お助け下さい!」
「母上。その者は私が呼んだ吟遊詩人で……」
「そのような報告を受けてはおりません。主である私の許可なく王妃宮に男性を入れるなど言語道断です。それにあなたはもう王太子ではありません。そう呼ばせていることが知られればお咎めがありますよ」
王妃はぴしゃりと言って、次にアドリアンの背中に隠れるようにして立っているマリエッタに視線を移した。
「イルス男爵令嬢」
「は、はい」
「出てきてきちんと礼をなさい。それとも貴女は王妃である私に対する拝礼を免ずるとの許可を誰かから得ているのですか?」
アドリアンに促されて、マリエッタはおずおずと進み出てドレスの端をつまんで膝を曲げる淑女の礼をした。
その仕草はいかにもぎこちなくて、男爵家とはいえ貴族の令嬢として育ったものとは到底思えなかった。
「それで貴女は今日は誰の許可を得てここに来ているのですか?」
王妃は尋ねた。その声は静かだったけれど、日頃王妃の側に仕えている侍女たちが思わずはっとするほどの冷ややかさな怒りが込められていた。
「え、誰って……」
マリエッタが困ったように眉尻を下げてアドリアンを見上げる。
「母上。マリエッタは私の……」
「私はイルス嬢に聞いています」
王妃はアドリアンの言葉を遮った。
「私は貴女にここの宮へ立ち入る許可を与えた覚えはありませんよ。早々に立ち去りなさい」
「え、でも……」
「聞こえませんでしたか? 私は立ち去りなさいと言ったのです。それとも先ほどの吟遊詩人のように衛兵を呼ばねばなりませんか?」
「殿下……」
泣き出しそうな顔ですがりつくマリエッタを見てアドリアンは、困ったように王妃と彼女を見比べていたが、やがて諦めたように
「少し下がっておいで。マリエッタ。あとで使いをやるから」
と言った。
さすがにここで母に逆らうのが得策ではないと判断するくらいの力はまだ残っているらしい。
マリエッタがアドリアンの侍従に付き添われて渋々下がっていくと王妃は改めて息子に向き直った。
「貴方は自分の立場が分かっているの? 陛下のお怒りをかって謹慎中なのよ」
「はい……」
「今の騒ぎは何? あの吟遊詩人は何なの?」
「ああ。あの者は王都で評判のセオドールという吟遊詩人ですよ。いま都で流行っている歌を聞かせて貰っていたのです」
アドリアンは得意げに胸をそらした。
「都で流行の歌?」
「はい。『君は僕の光 あなたは私の夢』というタイトルでしてね。なんと私とマリエッタとの恋を題材にして作られた歌なのですよ。意地悪な公爵令嬢の妨害に負けずに愛を貫く高貴な王子と清楚な令嬢の物語で……それはもう素晴らしい出来なのです。母上もお聞きになれば良かったのに。今からでもあの者を呼び返して……」
「馬鹿なことをおっしゃい!」
王妃はもう泣きだしたい気持ちで息子を叱りつけた。
「貴方は本当に何も分かっていない。下手をしたら命さえも危ういという状況なのに、娼婦のような女を侍らせて流行り歌など……自分が今どういった立場にいるのか分かっているの!?」
日頃、おだやかな母の取り乱した様子と「命さえも危うい」という言葉にアドリアンは、愛するマリエッタを「娼婦のような」と罵られたことを咎めるのも忘れて、ぽかんと母を見返した。
田園の風景を描いた図案の森の部分を、ひたすら緑の糸で埋めていくのはいつもなら単調でうんざりしてしまう作業だが、今はその単調な作業が心を落ち着かせてくれた。
側では侍女たちが、低いスツールに腰かけた侍女たちがめいめい、刺繍糸をより分けたり、縁かざりにするレースを編んだりしている。
温厚で物静かな王妃の侍女は、もともと口数の少ない者が多かったが、それにしても誰もが黙って手を動かしているのは、先日の件で受けた王妃の心痛を気遣ってだと思われた。
口に出して何か言う者はいないが、さりげなく好きな花が飾られていたり、心が落ち着くような香油の香りが漂っていたりする。
侍女たちが自分を労ってくれる気持ちを ありがたく思いながら、
(でもあまりに沈んでいたら皆に心配をかけてしまうわね)
と、久しぶりに庭でささやかなティーパーティーでも開こうかと考えていたその時。高らかにリュートの音色が響き渡った。
続いて妙に情感たっぷりの歌声が流れてくる。
『君さえいれば何もいらない 君は僕のただ一つの光~』
「な、なあに? あの声は?」
王妃の問いかけに侍女たちも困惑した顔を見合わせる。
王妃付きの侍女には楽器に堪能な者も多いが、こんな時に呑気に音楽に興じるような能天気な者がいるとは思えない。
しかも、聞こえてきた歌声は男のものだった。
王妃は無言で立ち上がると歌の聞こえてくる方へと歩きだした。
声は宮殿の東の方から聞こえてきた。
王妃が足早に東の庭園に向かうと、そこではリュートを抱えた吟遊詩人が、椅子に足を組んで座り、妙にもったいぶった様子で弾き語りをしていた。
その側の薔薇のポーチの下のベンチでは、アドリアンとマリエッタがうっとりと目を閉じて寄り添っている。
いや寄り添っているなどという可愛らしいものではない。
マリエッタが腰かけているのは、ベンチではなくアドリアンの膝の上だった。
頬をアドリアンの胸にぴったりとくっつけ、白く細い指で、アドリアンの喉元あたりを撫でている。
アドリアンの右手はマリエッタのほっそりとした腰に添えられており、もう片方の手はマリエッタの片手と指を絡めるようにして繋がれていた。
(まるで娼婦だわ)
王妃はこみ上げてくる嫌悪に顔をしかめた。
マリエッタの男爵令嬢という身分では、アドリアンとは釣り合わないと思っていたがそれどころではない。
マリエッタの振る舞いは、自分の愛くるしい顔立ちと、それに似合わぬ豊かな曲線を描いた体がどれだけ男の心を惹きつけ、蕩かすのかを知り尽くしている女のものだった。
とても貴族としての教育を受けた良家の子女とは思えない。
「何をしているのです!」
思ったよりも険しい声が出た。
マリエッタは「きゃっ」と叫んでアドリアンの膝から立ち上がったが、そのまま跪くわけでもなくアドリアンの腕にすがって甘えるように彼を見上げた。
吟遊詩人は慌てて歌をやめ、椅子から滑り降りて平伏した。
「これは母上」
アドリアンはさすがに決まり悪そうに立ち上がって王妃に対する正式な礼をした。
「父上のもとへいらっしゃったのではなかったのですか。本日は確か貴族との謁見の日だったかと」
王妃は我が耳を疑った。
確かに今日は週に一度、王妃が国王と並んで臣下の拝礼を受ける日であった。
しかし、不祥事を起こした息子が王太子を廃され、そのかわりに他の王妃が生んだ王子が指名されたということが知れ渡っている状況で、自分がどんな顔をして家臣たちと向き合うことが出来るというのか。
しかも今日はクレヴィング公爵が娘のアマーリアとその新しい婚約者を連れて挨拶にやって来るという。
少女の頃から可愛がっていたアマーリアに自分からも謝罪したい気持ちはあったが、国王がエルリック王子の立太子と婚約について公爵に相談したいようだったので、自分がいては話しづらかろうと思い遠慮をした。
そういった母の心労がいったい誰のせいなのか、アドリアンは本当に何も分かっていないのだろうか。
それほど、この嫌らしい、身の程知らずの少女に芯まで毒されてしまっているというのか。
王妃はかたわらの侍女に
「衛兵を。闖入者を追い出して」
と命じた。
すぐさま侍女が出て行き、数人の衛兵を連れて戻ってきた。
衛兵たちは無言で吟遊詩人に歩み寄ると、その腕をつかんで立ち上がらせた。
「わ、私は何も……」
うろたえるその詩人を衛兵たちが両側から引きずるようにして連行する。
「で、殿下! 王太子殿下! お助け下さい!」
「母上。その者は私が呼んだ吟遊詩人で……」
「そのような報告を受けてはおりません。主である私の許可なく王妃宮に男性を入れるなど言語道断です。それにあなたはもう王太子ではありません。そう呼ばせていることが知られればお咎めがありますよ」
王妃はぴしゃりと言って、次にアドリアンの背中に隠れるようにして立っているマリエッタに視線を移した。
「イルス男爵令嬢」
「は、はい」
「出てきてきちんと礼をなさい。それとも貴女は王妃である私に対する拝礼を免ずるとの許可を誰かから得ているのですか?」
アドリアンに促されて、マリエッタはおずおずと進み出てドレスの端をつまんで膝を曲げる淑女の礼をした。
その仕草はいかにもぎこちなくて、男爵家とはいえ貴族の令嬢として育ったものとは到底思えなかった。
「それで貴女は今日は誰の許可を得てここに来ているのですか?」
王妃は尋ねた。その声は静かだったけれど、日頃王妃の側に仕えている侍女たちが思わずはっとするほどの冷ややかさな怒りが込められていた。
「え、誰って……」
マリエッタが困ったように眉尻を下げてアドリアンを見上げる。
「母上。マリエッタは私の……」
「私はイルス嬢に聞いています」
王妃はアドリアンの言葉を遮った。
「私は貴女にここの宮へ立ち入る許可を与えた覚えはありませんよ。早々に立ち去りなさい」
「え、でも……」
「聞こえませんでしたか? 私は立ち去りなさいと言ったのです。それとも先ほどの吟遊詩人のように衛兵を呼ばねばなりませんか?」
「殿下……」
泣き出しそうな顔ですがりつくマリエッタを見てアドリアンは、困ったように王妃と彼女を見比べていたが、やがて諦めたように
「少し下がっておいで。マリエッタ。あとで使いをやるから」
と言った。
さすがにここで母に逆らうのが得策ではないと判断するくらいの力はまだ残っているらしい。
マリエッタがアドリアンの侍従に付き添われて渋々下がっていくと王妃は改めて息子に向き直った。
「貴方は自分の立場が分かっているの? 陛下のお怒りをかって謹慎中なのよ」
「はい……」
「今の騒ぎは何? あの吟遊詩人は何なの?」
「ああ。あの者は王都で評判のセオドールという吟遊詩人ですよ。いま都で流行っている歌を聞かせて貰っていたのです」
アドリアンは得意げに胸をそらした。
「都で流行の歌?」
「はい。『君は僕の光 あなたは私の夢』というタイトルでしてね。なんと私とマリエッタとの恋を題材にして作られた歌なのですよ。意地悪な公爵令嬢の妨害に負けずに愛を貫く高貴な王子と清楚な令嬢の物語で……それはもう素晴らしい出来なのです。母上もお聞きになれば良かったのに。今からでもあの者を呼び返して……」
「馬鹿なことをおっしゃい!」
王妃はもう泣きだしたい気持ちで息子を叱りつけた。
「貴方は本当に何も分かっていない。下手をしたら命さえも危ういという状況なのに、娼婦のような女を侍らせて流行り歌など……自分が今どういった立場にいるのか分かっているの!?」
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