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6.柊VS風鈴
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「とにかく私、一度帰ります。今後のことはまた日を改めてお話ししましょう」
「なんで? 帰さないよ。雫の家はここなんだから」
にこやかに言う柊の方を極力見ないようにして雫は立ち上がった。
(この人に付き合ってたら一生かかっても話が進まないわ)
そう思って廊下の方へ歩きかけたその時。
ピシャンッ!!
ともの凄い勢いで、目の前の襖が閉まった。
「ひっ」
思わず、一歩後ずさる雫の後ろから柊の
「帰さないって言っただろう?」
という声が聞こえてくる。
まったく怒ってはいない優しげな声音なのが余計に怖い。振り向けない。
襖に手をかけて引こうとした雫は泣きそうになった。
(開かない……)
鍵もつっかい棒も何もかかっていない襖が、まるで壁になってしまったようにビクともしない。
でも、ここは和室のお座敷だ。ドアが一か所しかない洋室と違って出口は四方にある。
そう思って踵を返しかけた途端に、部屋の四方の襖と障子戸が全部ピシャーンと閉まった。
慌てて駆け寄るがすでに遅く、どこの戸も塗り固められたように開かない。
(なんなのよ、このホラー展開~)
涙ぐみながら必死に襖の一枚と格闘していると、風鈴が呆れたように言った。
「やめなさいよ、柊。雫ちゃん怖がってるじゃない。そんなんだからあんた女に逃げられるのよ」
「う、うるさい! 別に逃げられてなんかない!」
「逃げられてるじゃない。氷女の沙雪に、雨女の結雨、一番最近のは椿の精の紅華だっけ? みーんなあんたのその重たすぎる愛情表現に恐れをなして逃げてったのよ。同じあやかしでも怖がるレベルの重たさの愛に人間の雫ちゃんが耐えられるはずないでしょう? 少しは考えなさいよっ」
そう言って風鈴がさっと手を振ると、最初に閉じられた廊下に面した襖がスパーンと開いた。
「あっ、風鈴。てめえ、何するんだよ!」
柊が怒鳴ると同時にまた襖がピシャッと閉まる。
「何するじゃないわよ。あんたいくら自分がモテないからって、人間の娘を無理矢理攫って嫁にするなんて、それじゃまるっきり悪霊じゃないの。仙狐としてのプライドってものはないの?」
風鈴が言い返すと、また襖が開く。
「誰がモテないって? 俺は別にモテないから今まで独り身だったわけじゃない! 真に愛する人と出逢うまで待ってただけだ。そして今こうして雫と出逢った。邪魔するな!」
「何が真に愛する人よ。相手の意見を無視してよく言うわ!」
「無視してない。雫は僕を愛してる!」
「愛してないわよ、怖がってるじゃない!!」
「それはおまえが余計なことして邪魔するからだろ!」
「邪魔してるのはあんたでしょ! いい加減現実みなさいよっ!!」
「おまえこそ、自分が独り身だからって人の恋路を邪魔するなよ。年増の嫉妬は見苦しいぞ!」
「誰があんたに嫉妬するのよ! 私は伊蔵さま一筋なんだから! あんたみたいな色狂いのスケベ狐と一緒にしないでよねっ」
「何だと!!」
言い争う二人の声に合わせて襖がもの凄い勢いで開いたり閉まったりしている。
「雫ちゃん! 今のうちに出て。これ以上ここにいたらこの色魔狐に何されるか分からないわよ!」
「誰が色魔だよ! 雫、ちょっと待っててくれ。今すぐ、この化け柳を黙らせて君のために用意した新婚の部屋に案内するから!」
今のうちに出ろと言われても、こんな速さで開閉している襖に突っ込んだりしたら挟まれて怪我するのが関の山だ。
困り果てた雫を見て榊がはあっと溜息をついた。
「二人ともいい加減にしなさい……!」
静かな声だったが、榊がそう言った途端、開閉していた襖は音もなく霧のようになって消え失せた。
「柊も風鈴も、私たちを信頼して雫さまを託して下さった伊蔵さまのお気持ちを無駄にするつもりですか?」
榊に諭すように言われて、風鈴と柊はきまり悪そうに雫を見た。
「柊。伊蔵さまは、雫さまの幸せを心から願っておいででした。それは分かっていますね?」
「当たり前だろ。だからこそ、俺が雫を幸せにしようと……」
「雫さまのお気持ちを無視して無理矢理に娶ったところでお幸せにすることは出来ませんよ」
柊は叱られた子供のように肩を落として、雫の方を見た。
「雫は俺が嫌い?」
「えっ?」
「どうしてもここから出て行きたい? 俺の妻になるのはそんなに嫌?」
そう言う柊の切れ長の目には涙が浮かんでいる。
「き、嫌いとかイヤとか以前に私たち、さっき会ったばっかりでお互いのこと何も知らないと思うんですけど……」
「雫ちゃん! そんなこと言ったら彼女いない歴数百年のその色呆け狐が調子に乗るわよ」
風鈴の言葉に雫がはっとした時にはもう遅かった。
「それは本当かい、雫!」
気がついた時には柊の腕のなかにお姫様抱っこのようにして抱き上げられていた。
「ぎゃっ、な、何!?」
じたばたとする雫を構わず抱きしめて頬ずりする柊。
「それはこれからもっとお互いのことを知り合いたいっていうことだよね?
つまり、それは俺のことが嫌いなわけじゃないってことで、ということはつまり、俺のことが好き、愛してるってことだよね!?」
「何でそうなるんですかっ!」
必死に腕のなかから逃れようとする雫に風鈴が憐れむような眼を向ける。
「ダメよー、雫ちゃん。そのテの男に中途半端に気をもたせるようなこと言ったら。最初から全力で叩き潰すつもりで向き合わなくちゃ」
(だ、だって下手に刺激したら絶対にまずそうな雰囲気だったじゃない!)
雫は柊の顔を思いっきり両手で押しやって少しでも距離を取ろうとしながら必死に言った。
「嫌いじゃないけど好きでもないです。ましてや愛しては絶対にないです。だから下ろして!」
「そんな照れなくてもいいのに」
「照れてないです!」
「柊。いい加減にしないと怒りますよ」
榊が溜息まじりに言ってパンッと手を打った。
気づくと雫は柊の腕のなかから解放されて榊の隣りに立っていた。
「なんで? 帰さないよ。雫の家はここなんだから」
にこやかに言う柊の方を極力見ないようにして雫は立ち上がった。
(この人に付き合ってたら一生かかっても話が進まないわ)
そう思って廊下の方へ歩きかけたその時。
ピシャンッ!!
ともの凄い勢いで、目の前の襖が閉まった。
「ひっ」
思わず、一歩後ずさる雫の後ろから柊の
「帰さないって言っただろう?」
という声が聞こえてくる。
まったく怒ってはいない優しげな声音なのが余計に怖い。振り向けない。
襖に手をかけて引こうとした雫は泣きそうになった。
(開かない……)
鍵もつっかい棒も何もかかっていない襖が、まるで壁になってしまったようにビクともしない。
でも、ここは和室のお座敷だ。ドアが一か所しかない洋室と違って出口は四方にある。
そう思って踵を返しかけた途端に、部屋の四方の襖と障子戸が全部ピシャーンと閉まった。
慌てて駆け寄るがすでに遅く、どこの戸も塗り固められたように開かない。
(なんなのよ、このホラー展開~)
涙ぐみながら必死に襖の一枚と格闘していると、風鈴が呆れたように言った。
「やめなさいよ、柊。雫ちゃん怖がってるじゃない。そんなんだからあんた女に逃げられるのよ」
「う、うるさい! 別に逃げられてなんかない!」
「逃げられてるじゃない。氷女の沙雪に、雨女の結雨、一番最近のは椿の精の紅華だっけ? みーんなあんたのその重たすぎる愛情表現に恐れをなして逃げてったのよ。同じあやかしでも怖がるレベルの重たさの愛に人間の雫ちゃんが耐えられるはずないでしょう? 少しは考えなさいよっ」
そう言って風鈴がさっと手を振ると、最初に閉じられた廊下に面した襖がスパーンと開いた。
「あっ、風鈴。てめえ、何するんだよ!」
柊が怒鳴ると同時にまた襖がピシャッと閉まる。
「何するじゃないわよ。あんたいくら自分がモテないからって、人間の娘を無理矢理攫って嫁にするなんて、それじゃまるっきり悪霊じゃないの。仙狐としてのプライドってものはないの?」
風鈴が言い返すと、また襖が開く。
「誰がモテないって? 俺は別にモテないから今まで独り身だったわけじゃない! 真に愛する人と出逢うまで待ってただけだ。そして今こうして雫と出逢った。邪魔するな!」
「何が真に愛する人よ。相手の意見を無視してよく言うわ!」
「無視してない。雫は僕を愛してる!」
「愛してないわよ、怖がってるじゃない!!」
「それはおまえが余計なことして邪魔するからだろ!」
「邪魔してるのはあんたでしょ! いい加減現実みなさいよっ!!」
「おまえこそ、自分が独り身だからって人の恋路を邪魔するなよ。年増の嫉妬は見苦しいぞ!」
「誰があんたに嫉妬するのよ! 私は伊蔵さま一筋なんだから! あんたみたいな色狂いのスケベ狐と一緒にしないでよねっ」
「何だと!!」
言い争う二人の声に合わせて襖がもの凄い勢いで開いたり閉まったりしている。
「雫ちゃん! 今のうちに出て。これ以上ここにいたらこの色魔狐に何されるか分からないわよ!」
「誰が色魔だよ! 雫、ちょっと待っててくれ。今すぐ、この化け柳を黙らせて君のために用意した新婚の部屋に案内するから!」
今のうちに出ろと言われても、こんな速さで開閉している襖に突っ込んだりしたら挟まれて怪我するのが関の山だ。
困り果てた雫を見て榊がはあっと溜息をついた。
「二人ともいい加減にしなさい……!」
静かな声だったが、榊がそう言った途端、開閉していた襖は音もなく霧のようになって消え失せた。
「柊も風鈴も、私たちを信頼して雫さまを託して下さった伊蔵さまのお気持ちを無駄にするつもりですか?」
榊に諭すように言われて、風鈴と柊はきまり悪そうに雫を見た。
「柊。伊蔵さまは、雫さまの幸せを心から願っておいででした。それは分かっていますね?」
「当たり前だろ。だからこそ、俺が雫を幸せにしようと……」
「雫さまのお気持ちを無視して無理矢理に娶ったところでお幸せにすることは出来ませんよ」
柊は叱られた子供のように肩を落として、雫の方を見た。
「雫は俺が嫌い?」
「えっ?」
「どうしてもここから出て行きたい? 俺の妻になるのはそんなに嫌?」
そう言う柊の切れ長の目には涙が浮かんでいる。
「き、嫌いとかイヤとか以前に私たち、さっき会ったばっかりでお互いのこと何も知らないと思うんですけど……」
「雫ちゃん! そんなこと言ったら彼女いない歴数百年のその色呆け狐が調子に乗るわよ」
風鈴の言葉に雫がはっとした時にはもう遅かった。
「それは本当かい、雫!」
気がついた時には柊の腕のなかにお姫様抱っこのようにして抱き上げられていた。
「ぎゃっ、な、何!?」
じたばたとする雫を構わず抱きしめて頬ずりする柊。
「それはこれからもっとお互いのことを知り合いたいっていうことだよね?
つまり、それは俺のことが嫌いなわけじゃないってことで、ということはつまり、俺のことが好き、愛してるってことだよね!?」
「何でそうなるんですかっ!」
必死に腕のなかから逃れようとする雫に風鈴が憐れむような眼を向ける。
「ダメよー、雫ちゃん。そのテの男に中途半端に気をもたせるようなこと言ったら。最初から全力で叩き潰すつもりで向き合わなくちゃ」
(だ、だって下手に刺激したら絶対にまずそうな雰囲気だったじゃない!)
雫は柊の顔を思いっきり両手で押しやって少しでも距離を取ろうとしながら必死に言った。
「嫌いじゃないけど好きでもないです。ましてや愛しては絶対にないです。だから下ろして!」
「そんな照れなくてもいいのに」
「照れてないです!」
「柊。いい加減にしないと怒りますよ」
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