職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~

新米少尉

文字の大きさ
91 / 196

作られた英雄

しおりを挟む
 ゼロは意識が無い危険な状況のままで風の都市の治療院に運び込まれた。
 ゼロの身体を詳細に確認した医師は

「身体に付いた毒は全て取り除いてあるからこれ以上の浸食の心配はないが、それ以前に浴びた毒と負傷でいつ死んでも不思議ではない。今は本人の生命力に賭けるしかない」

と説明し、ゼロはそのまま入院となった。
 その知らせを受けた風の都市の冒険者ギルドでシーナが顔面蒼白になり、そのまま倒れるという事態になったが、その後にギルドの休憩室で目を覚ましたシーナは気丈に振る舞い、ドラゴン・ゾンビ出現の厄災の後始末の事務処理に当たっていた。

「ゼロさんに教わったことです。元気になったゼロさんに胸を張っておかえりなさいと言うために私の仕事は全うします」

 ゼロが出発する時に感じた言いようのない不安。
 あの時に無理にでもゼロを引き止めればよかったと思う反面、ゼロが北に行かなければ被害は甚大なものになっていた筈だというジレンマ。
 そして何よりもシーナが引き止めたとしてもゼロはそれを振り切ってでも旅立っただろう。
 シーナに限ったことではない、自分の為すべきことを見つけたゼロを止めることは誰にもできないだろう。
 だからこそ、ゼロのことを誰よりも理解しているつもりのシーナは直ぐにでもゼロが運ばれた治療院に駆けつけたい気持ちを抑えて自分の仕事を全うしていた。

 王国を震撼させたドラゴン・ゾンビは聖騎士団と魔導部隊、そしてそれに同行した金等級冒険者2人によって撃退され、危機は回避された。
 聖騎士団が現場に到着した時、そこにいたのは前脚を1本失ったドラゴン・ゾンビだった。
 それでもドラゴン・ゾンビを倒し、消滅させるまでに聖騎士数十名と金等級冒険者1人が犠牲になった。
 ドラゴン・ゾンビの脅威とはそれ程のものであり、天災にも等しい被害をもたらすものだ。
 今回のドラゴン・ゾンビの出現による被害は百人以上の鉱山夫等と金等級冒険者と数十名の聖騎士。
 多大な被害であることには変わりはないが、それでもドラゴン・ゾンビの出現による被害としては無に等しいと言える。
 本来であればいくつもの町が犠牲になってもおかしくないのだ。
 それなのに、いち早く危険を察知し、町の住民全てを無事に避難させて被害を最小限に抑えたのはある冒険者達の活躍であり、国は聖騎士団の活躍の他にその冒険者達を大々的に宣伝した。
 その知らせを受けた人々はその冒険者達を新たなる英雄と称え、7人の英雄、七英雄と呼んだ。
 国が祭り上げた7人の英雄は、魔導師、神官、レンジャー、槍戦士、魔術師、武闘僧侶、斥候の7人。
 この7人に対して国は勲章の授与を決め、ギルド本部に対して全員の冒険者等級の昇級をすることを通告した。
 しかし、真に称えられるべき者の名は意図的に消されており、命をかけ、瀕死の中にいる彼には何の報いもなかった。
 レナは銀等級、セイラとアイリアは紫等級、レオン、カイル、ルシア、マッキは青等級になった。

「俺達は英雄なんかじゃない!ゼロさんがいなければ俺達は何もできなかった。真の英雄はゼロさんだ!俺達は英雄なんて名乗ることはできない!」

 自分達だけが昇級して勲章を授与され、さらには英雄などともてはやされることに憤慨したレオンはそれを伝えたシーナに抗議した。
 彼のパーティーメンバーやセイラ達も同じ気持ちだが、レナは違う気持ちだった。
 祭り上げられることに頑として納得しないレオン達に対してシーナは泣きながら土下座して懇願した。

「撃退されたとはいえ、ドラゴン・ゾンビ出現の事実という国民の不安を和らげるために英雄になる人が必要なんです。しかもレオンさん達は多くの住民を助けたという揺るぎない実績があるんです。お願いします、ゼロさんのためにも受け入れて下さい」
「ゼロさんのため?」
「ゼロさんは英雄になることなど微塵も考えていません。ネクロマンサーは人々の尊敬の対象になってはいけないと本気で思っている人なんです。そんなゼロさんにこんなことをお願いしても絶対に受け入れてくれませんし、却って彼を困らせるだけなんです。それに・・・」

 言いよどんだシーナの言葉をレナが続けた。

「それに、多くの民を救った英雄が黒等級のネクロマンサーとは、国として政治的に受け入れられないってことでしょう?」
「はい」

 レナの言葉にシーナが頷くが、これは確かに政治的な判断としてはやむを得ないことだ。
 ドラゴン・ゾンビの脅威から人々を守ったのが多くのアンデッドを従えるネクロマンサーとは、政治的にもそうだが、国民の信仰を守るためにも公にはできないのだ。
 レナは土下座するシーナを立ち上がらせた。

「分かりました。私は今回に限り、その任を引き受けます。現実的にはドラゴン・ゾンビを倒したのは聖騎士団達だし、英雄と言っても町の人々を無事に逃がしたという実績だけのささやかな英雄でしょう?」

 そう言ってレナが受諾するとなると、固辞していたレオン達も受け入れざるを得ない状況になった。
 それでも納得がいかないのはセイラだ。

「私も信仰を守るためならば身分不相応な英雄として祭り上げられることも吝かではありません。ただ、文字通り命がけで戦ったゼロさんがなにも報われないのは納得がいきません」

 セイラの意見はシーナを含めて全員が同じ気持ちであるが、現実的に国からの勲章は与えられない、ある意味で最高位の黒等級のゼロを昇級させることもできないのだ。

「非常に下品ではありますが、ゼロさんに対しては金銭面で報いさせていただきます。これはギルド職員としての私のプライドをかけて実行して見せます」

 シーナの決意の表情を見たレオン達は今度こそ納得してシーナの願いを受け入れた。

「こうなったら英雄になろうぜ。いつかは英雄になることを夢見ていたんだ。確かに今回は名ばかりの作り上げられた英雄だが、これから自分達で努力して真の英雄と呼ばれるようになろう」

 レオンの言葉にルシアも笑った。

「そうね、先に英雄に祭り上げられたけど、その名に恥じないように精進しないとね。これは凄いプレッシャーだわ」

 その言葉に他のメンバーも同意した。
 セイラとアイリアも互いに頷きあう。

「私達も、今まで頑張ってきたんですから」
「そうね、英雄の名に恥じないようにこれからも頑張りましょう」

 6人は英雄の名に恥じない努力をする決意を固めたが、最初に英雄になることを受け入れたレナだけは違っていた。
(私が英雄になるのは今回だけ。今後この英雄の名を汚そうが、貶めようとそれは私の自由)
 レナは言葉にこそ出さないが、レオン達とは別の道を進むことを決意していた。
 そしてここに七英雄と呼ばれる新たな英雄達が誕生した。

 ゼロの意識はまだ戻らない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~

タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。 時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま! 「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」 ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは―― 公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!? おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。 「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」 精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!

【読切短編】処刑前夜、地下牢に現れた王女は言った。「お前でなければ駄目なんだ」滅びの未来を覆す、騎士との契約

Lihito
ファンタジー
王国騎士団の副長ヴェルドは、無実の罪で投獄され、明日処刑される運命にあった。 腐敗した国に絶望し、静かに死を待つ夜。 地下牢に現れたのは、実権を持たない「傀儡」と噂されるイゾルデ王女。 彼女はヴェルドに仮死毒を渡し、こう告げた。 「死んで、私の影になれ」 彼女は知っていた。 この国が三年後に滅ぶこと。誰が裏切り者か。 そして——ヴェルドこそが、国を救うための唯一の「切り札」であることを。 これは、滅びの未来を知る孤独な王女と、一度死んで生まれ変わった騎士が、裏から国を救う「共犯」の物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

慈愛と復讐の間

レクフル
ファンタジー
 とある国に二人の赤子が生まれた。  一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。  慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。  これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。  だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。 大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。  そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。  そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。  慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。  想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……

精霊が俺の事を気に入ってくれているらしく過剰に尽くしてくれる!が、周囲には精霊が見えず俺の評価はよろしくない

よっしぃ
ファンタジー
俺には僅かながら魔力がある。この世界で魔力を持った人は少ないからそれだけで貴重な存在のはずなんだが、俺の場合そうじゃないらしい。 魔力があっても普通の魔法が使えない俺。 そんな俺が唯一使える魔法・・・・そんなのねーよ! 因みに俺の周囲には何故か精霊が頻繁にやってくる。 任意の精霊を召還するのは実はスキルなんだが、召喚した精霊をその場に留め使役するには魔力が必要だが、俺にスキルはないぞ。 極稀にスキルを所持している冒険者がいるが、引く手あまたでウラヤマ! そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。 そんなある日転機が訪れる。 いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。 昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。 そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。 精霊曰く御礼だってさ。 どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。 何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ? どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。 俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。 そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。 そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。 ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。 そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。 そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ? 何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。 因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。 流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。 俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。 因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...