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第43話 飛び込んできたもの
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クラリッサ司教の言う通り、神聖魔法の実地試験はわずか数分——、図南と紗良がそれぞれ怪我を負った見習い神官を治療して終了だった。
一人は騎士団の魔物狩りに同行した際に左脚の膝を砕いた少女。もう一人は搬入される荷物の下敷きになり右腕を複雑骨折した少年。
どちらも大怪我であった。
司祭クラスの神聖魔法の術者でないと治療は難しいとされるレベルである。
だが、図南と紗良はそれを難なく完治させた。
馬車隊が襲撃を受けたあと行われた図南と紗良の治療の様子は伝え聞いていた。話半分としても二人が稀有な才能の持ち主であることは間違いない、とクラリッサも考えていた。
だが、実際に図南と紗良の神聖魔法を目の当たりにしたクラリッサ司教はその速度に驚く。それは治療を受けた見習い神官たちも同様であった。
「カッセル市の神殿であなた方二人よりも速く正確に治療できる司祭はいないでしょうね」
と、クラリッサ司祭が思わず溢しほどである。
クラリッサ司教の感嘆の言葉で実地試験は幕を閉じた。
実地試験を終えた図南はすぐに騎士団本部へと移動する。とはいっても、診療所に来た時と同様、見習い神官に伴われての移動である。
「あちらが、騎士団本部です」
見習い神官が高い塀に囲まれた石で作られた飾り気のない建物を指さす。その建物を見た図南は自身が通っていた小学校を連想した。
騎士団本部に近付くと門の付近で押し問答が繰り広げられているのが目に泊まる。それはよく知った少年だった。
図南が少年の名前を呼ぶ。
「拓光、どうしたんだ?」
「図南!」
振り返った拓光の様子にただ事ではないと感じた図南が即座に駆け寄った。
「どうしたんだ? 何かあったのか?」
「相談というか、お前に助けて欲しいんだ」
「分かった」
「二つ返事かよ」
拓光が嬉しそうに返す。
「一先ずここで待っていてくれ。先約を済ませたらすぐに戻る」
図南は騎士団長と会う約束があることを告げるとすぐに騎士団本部へと足を踏み入れた。
◇
騎士団本部に図南が消えてから十数分。
「すまない、待たせたな」
門の前で待っていた拓光に図南の声が届く。
「随分と早かったな」
「緊急で対応しなきゃならない用事ができた、と言ったら二つ返事で予定を先延ばししてくれた」
「すまないことをした」
先約をキャンセルした図南に自分のせいで信用を失うことになりはしないかと、拓光が心配そうに問う。
「問題ない」
「お前の口にする『問題ない』、は全部お前が問題をひっかぶることだから、その言葉は信用できないんだよな」
「セリフが間違っているぞ。こういう時は『ありがとう』、って言うもんだろ」
図南の言葉に拓光が苦笑する。
「ありがとう」
「それで、なにがあったんだ?」
「ちょっと待ってくれ。俺も混乱してててさ。もう、何から話せばいいか……」
「整理できてないなら順番に言えよ」
必死に頭の中を整理しようとする拓光を図南がうながした。
拓光が話を切り出す。
「テレジアさんの旦那さんが半年前に店を出した、って話があっただろ?」
「移動しているときに聞いた」
「テレジアさんの旦那さんが店を出すためにカッセル市に到着したのが半年前。市内に店を買ったと手紙が来たのがその一ヶ月後。その後も、店は順調だという手紙が送られて来ていたんだ」
「その辺りのことはおれもニーナちゃんから聞いている」
図南が相槌を打つ。
念願の店が順調だと父親が喜んでいること、喜ぶ父親に早く会って店を手伝うのだと嬉しそうに話していたニーナの顔が脳裏に浮かんだ。
「ところが、昨夜遅くに店を訪ねると――――」
店は既に他人のものとなっており、テレジアさんの旦那さんは二週間ほど前に暴漢に襲われて命を落としたことを知らされた。
さらに多額の借金まであるのだという。
「――――その借金をした相手があのヒキガエルみたいな顔をした奴隷商人だ」
嫌な予感を覚えながら図南が聞く。
「それで、俺に何をして欲しいんだ?」
「まだ話の続きがある――――」
拓光がこの短時間で調べた範囲だが、テレジアさんの旦那さんが用意した資金は店を出すだけでなく、その後の運転資金も含めて十分に足りる額だという。
間違っても評判の悪い奴隷商人に多額の借金をする必要などなかった。
「――――今朝、ロルカのところに話に言った。あいつが言うには、本人が死亡し返済の目処が立たなかったので借金のかたに店を売り払ったと言っていた」
「それは、気の毒な話だな……」
「ところが、テレジアさんが亡くなった旦那の奥さんだと分かった途端、話が変わった。店を売り払っただけじゃ足りないから、テレジアさんとニーナちゃんに残りの金を返せと言うんだ」
「何で突然借金が増えるんだ?」
図南の質問には答えずに拓光が話を続ける。
「その後、変身能力を使って情報を集めた」
「何か分かったのか?」
「そもそもテレジアさんの旦那さんはロルカのことを毛嫌いしていて、間違ってもロルカから借金をするとは思えない、と言う話を耳にした」
(俺だって、あのヒキガエルから借金はしたくない)
「でも、噂じゃ証拠にはならないぞ」
騎士団員となった図南に正攻法で協力をして欲しいのだと言うことは察していた。
だが、正攻法で協力する以上、証拠が必要となる。
「俺はこれらかさらに情報を集めて証拠を集める。図南には教会とヒキガエルとの関係を探って欲しいんだ。万が一、ヒキガエルが教会と太いパイプを持っていて、騎士団に影響力が及ぶようなら……、図南、お前は手を引いてくれていい」
「ここへ向かう途中に聞いた噂か」
ケストナーが口にした、ロルカが教会上層部とつながりがあるという話が脳裏をよぎる。
「今朝、ロルカが騎士団員と親しげに話しをしている姿を見た」
思わず図南が天を仰ぐ。
だが、すぐに拓光を真っすぐに見ると、
「ヒキガエルがテレジアさんの旦那さんを嵌めたなら、誰が敵に回ろうと俺はお前の味方をする」
図南と拓光二人の目が合う。
互いに口元を綻ばせて拳をぶつけ合った。
一人は騎士団の魔物狩りに同行した際に左脚の膝を砕いた少女。もう一人は搬入される荷物の下敷きになり右腕を複雑骨折した少年。
どちらも大怪我であった。
司祭クラスの神聖魔法の術者でないと治療は難しいとされるレベルである。
だが、図南と紗良はそれを難なく完治させた。
馬車隊が襲撃を受けたあと行われた図南と紗良の治療の様子は伝え聞いていた。話半分としても二人が稀有な才能の持ち主であることは間違いない、とクラリッサも考えていた。
だが、実際に図南と紗良の神聖魔法を目の当たりにしたクラリッサ司教はその速度に驚く。それは治療を受けた見習い神官たちも同様であった。
「カッセル市の神殿であなた方二人よりも速く正確に治療できる司祭はいないでしょうね」
と、クラリッサ司祭が思わず溢しほどである。
クラリッサ司教の感嘆の言葉で実地試験は幕を閉じた。
実地試験を終えた図南はすぐに騎士団本部へと移動する。とはいっても、診療所に来た時と同様、見習い神官に伴われての移動である。
「あちらが、騎士団本部です」
見習い神官が高い塀に囲まれた石で作られた飾り気のない建物を指さす。その建物を見た図南は自身が通っていた小学校を連想した。
騎士団本部に近付くと門の付近で押し問答が繰り広げられているのが目に泊まる。それはよく知った少年だった。
図南が少年の名前を呼ぶ。
「拓光、どうしたんだ?」
「図南!」
振り返った拓光の様子にただ事ではないと感じた図南が即座に駆け寄った。
「どうしたんだ? 何かあったのか?」
「相談というか、お前に助けて欲しいんだ」
「分かった」
「二つ返事かよ」
拓光が嬉しそうに返す。
「一先ずここで待っていてくれ。先約を済ませたらすぐに戻る」
図南は騎士団長と会う約束があることを告げるとすぐに騎士団本部へと足を踏み入れた。
◇
騎士団本部に図南が消えてから十数分。
「すまない、待たせたな」
門の前で待っていた拓光に図南の声が届く。
「随分と早かったな」
「緊急で対応しなきゃならない用事ができた、と言ったら二つ返事で予定を先延ばししてくれた」
「すまないことをした」
先約をキャンセルした図南に自分のせいで信用を失うことになりはしないかと、拓光が心配そうに問う。
「問題ない」
「お前の口にする『問題ない』、は全部お前が問題をひっかぶることだから、その言葉は信用できないんだよな」
「セリフが間違っているぞ。こういう時は『ありがとう』、って言うもんだろ」
図南の言葉に拓光が苦笑する。
「ありがとう」
「それで、なにがあったんだ?」
「ちょっと待ってくれ。俺も混乱してててさ。もう、何から話せばいいか……」
「整理できてないなら順番に言えよ」
必死に頭の中を整理しようとする拓光を図南がうながした。
拓光が話を切り出す。
「テレジアさんの旦那さんが半年前に店を出した、って話があっただろ?」
「移動しているときに聞いた」
「テレジアさんの旦那さんが店を出すためにカッセル市に到着したのが半年前。市内に店を買ったと手紙が来たのがその一ヶ月後。その後も、店は順調だという手紙が送られて来ていたんだ」
「その辺りのことはおれもニーナちゃんから聞いている」
図南が相槌を打つ。
念願の店が順調だと父親が喜んでいること、喜ぶ父親に早く会って店を手伝うのだと嬉しそうに話していたニーナの顔が脳裏に浮かんだ。
「ところが、昨夜遅くに店を訪ねると――――」
店は既に他人のものとなっており、テレジアさんの旦那さんは二週間ほど前に暴漢に襲われて命を落としたことを知らされた。
さらに多額の借金まであるのだという。
「――――その借金をした相手があのヒキガエルみたいな顔をした奴隷商人だ」
嫌な予感を覚えながら図南が聞く。
「それで、俺に何をして欲しいんだ?」
「まだ話の続きがある――――」
拓光がこの短時間で調べた範囲だが、テレジアさんの旦那さんが用意した資金は店を出すだけでなく、その後の運転資金も含めて十分に足りる額だという。
間違っても評判の悪い奴隷商人に多額の借金をする必要などなかった。
「――――今朝、ロルカのところに話に言った。あいつが言うには、本人が死亡し返済の目処が立たなかったので借金のかたに店を売り払ったと言っていた」
「それは、気の毒な話だな……」
「ところが、テレジアさんが亡くなった旦那の奥さんだと分かった途端、話が変わった。店を売り払っただけじゃ足りないから、テレジアさんとニーナちゃんに残りの金を返せと言うんだ」
「何で突然借金が増えるんだ?」
図南の質問には答えずに拓光が話を続ける。
「その後、変身能力を使って情報を集めた」
「何か分かったのか?」
「そもそもテレジアさんの旦那さんはロルカのことを毛嫌いしていて、間違ってもロルカから借金をするとは思えない、と言う話を耳にした」
(俺だって、あのヒキガエルから借金はしたくない)
「でも、噂じゃ証拠にはならないぞ」
騎士団員となった図南に正攻法で協力をして欲しいのだと言うことは察していた。
だが、正攻法で協力する以上、証拠が必要となる。
「俺はこれらかさらに情報を集めて証拠を集める。図南には教会とヒキガエルとの関係を探って欲しいんだ。万が一、ヒキガエルが教会と太いパイプを持っていて、騎士団に影響力が及ぶようなら……、図南、お前は手を引いてくれていい」
「ここへ向かう途中に聞いた噂か」
ケストナーが口にした、ロルカが教会上層部とつながりがあるという話が脳裏をよぎる。
「今朝、ロルカが騎士団員と親しげに話しをしている姿を見た」
思わず図南が天を仰ぐ。
だが、すぐに拓光を真っすぐに見ると、
「ヒキガエルがテレジアさんの旦那さんを嵌めたなら、誰が敵に回ろうと俺はお前の味方をする」
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