文太と真堂丸

だかずお

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~ 道来と太一 ~

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チュン チュン 

それは、とある静かな朝

「道来さん、もし大帝国との戦が終わったら結婚でもして家庭持ったらどうです?道来さんの子供でも面倒見れたら、俺、嬉しーんすけどね」

道来は微笑む
「太一、私の幸せを考えてくれてありがとう。だが私の幸せは刀の道を歩むこと、世間一般の求める幸せとは違う」

「ハイハイ 分かりましたよ」

「太一」

「なんっすか?」

「私もお前の子供を可愛いがる事が出来たら、嬉しいぞ」

太一も微笑んだ。

残りの人生も共に歩もう

俺はずっと道来さんについて行きますよ。

どこまでも

ずっと

・・・・・・・・・

その刀は道来の心臓を的確に捉えていた。

ビュゥン

その光景を前に身体は勝手に動いていた

考える前に、考えるより速く 当たり前に・・・

道来の命を守るべく太一は身を投げ出していた。

ズサッ   グサッ  ズシャアッッ

すぐに背後の異変に気付く真堂丸。
真堂丸は自身の命の危機的状況の中でも、二人の事が気になり、集中は乱れていた。
だからこそ、すぐに異変に気付く。
自分が近くに居れば、守れると、そう信じていた。

全身を覆う一つの感情

恐怖

現実の直視が

怖かった

嫌な予感がした


ああ


ああ


どうして


どうして己は?


これほどの勝利を積み重ねながら


これほどの力を得たにも関わらず


大切な仲間を・・・・・





一番守りたかったものを





















守れなかったんだろう


「うわあああああああああああああああっ」

叫び声をあげたのは

太一だった。

道来を身を挺してかばった太一を、道来が、かばっていたのだ。

道来の身体を貫通する無数の刀

真堂丸が、その光景を見て直後に感じた正直な思い

あの傷は  もう   助からない

道来は太一の腕を力強く掴む

「道来さん、何やってんだよ 死ぬな 死んじゃいけねえ、嘘だろ 誰か助けてくれよ」

「太一、相手は人間、大帝国に言われ仕方なく戦場に来てる、私も覚悟の上にここに立った。恨んだりしなくていい」

なんでこんな時に、自分を攻撃した人間を一番に庇う、俺はそんなに人間が出来てない。許せるかよ、道来さんをこんなにした奴らを。
どうやって許せるか。

「なあ道来さん  しっかりしろ」

真堂丸の脚は震えていた。


道来


道来


嘘だろ?


道来

「本当は ガハッ」

「喋るな道来さん、まだ助かるかも」

「お前には生きて欲しかった」

「おいっ、道来さん 目を閉じないでくれ、俺やだよ、おいっ頼むからしっかりしてくれ」

「あんたが居なくなって俺はどうしたらいいんだ」

「太一、お前なら大丈夫、私は信じている」

「太一  今まで   あり   が    と・・・う」

ズサッ

道来の腕が地面に落ちた

あれっ?

おかしいな?

何故

道来さんが動かない?



嘘だ

嘘だろ

ほんの今さっきまで喋ってたじゃないか

動いてたじゃないか

一緒に会話してたじゃないか

何故喋らない

何故動かない

何故いつもみたいに笑わない

どうして表情が変わらない

ああ

そうか

道来さんが

死んじゃった

道来さんが死んだ

「うわあああああああああああーーっ」

「貴様ら、よくも道来さんを」
太一が直後に精神を乱すのは分かっていた。

だからこそ真堂丸は、全力で叫ぶ
「太一、落ち着け、心を乱すな」お前は生き延びろ、生き延びてくれ太一

「貴様らよくも道来さんを、道来さんの仇、容赦はしない」

「太一 しっかりしろ、道来はお前になんと言った」

知ってるよ、道来さんは俺の為に言ったんだ。
怨恨、怒り、復讐、それらは誰よりも己を不幸にする。分かっている、だが止められるか、ならこの怒り、何処にぶつければいい?
大事な者を殺され何故?この怒りは貴様らにぶつける。

ザッ 太一は目の前の兵を斬り殺す為、刀を振りかざしていた。
その時だった。

「父ちゃん」背後から聞こえた声

「父ちゃん」

ああ

ああ

太一は泣いた

ちきしょお

出来ねぇじゃねえか

ちくしょう

俺はこいつらを斬れない。

ザッ

この時の真堂丸の思いは一つ

太一だけでも生きて戦場から逃す

そう

だからこそ跳んだ

今、出来る己の最大限の力を振り絞り、全力で跳んでいた。

もう自身の身体は、どうでも良かった。
自身に向け飛んでくる攻撃を守るつもりもなかった、全て受けても構わなかった

真堂丸は高く跳んだのだ

何故?

真堂丸には見えていたから

しっかり捉えていたから

それは見事な弧を描き飛んでくる一本の矢

その矢は的確に、かつ完璧に太一の心の臓に向かって飛んで来ていたのだ。

おそらく偶然に放たれた矢だろう

その矢は太一の心臓めがけて飛んでくる

頼む

頼む

届いてくれ

待に合ってくれ

真堂丸は自身の腕を全力で伸ばした

頼むっ

届け

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」


ピッ

刀は矢をかすった様に思われた、実際矢に触れただろう

だが

死ななかったのだ

勢いは死なず

見事に太一の身体を貫通した。

「ぐはっ」

ビュンッ

真堂丸が地面に着地したと同時

しんべえから生まれた小さなさざ波が前方に届く

「戦をもう続ける必要は無い、大帝国に従う必要はもうないんだ」

「そっ、そうだよな 幹部も三國人も、もういない。大帝国の支配は終わったんだ」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおー」
歓喜の声が戦場に響く

真堂丸は一人立ち尽くしていた。

ヒュオオオオオーー ヒョオオオオーッ

人々が歓喜に包まれるこの状況の最中、足を失い必死に逃げる鬼道の姿があった。

まずい、人々は己を殺しに来るだろう

鬼道が逃げ、向かう場所

それはこの平地に一軒たつ古びた家屋

しんべえは人をかき分け必死に走っていた。
あいつらはどうなった?
生きてるのか?

次の瞬間

しんべえの瞳に映った光景

それは

逃げる鬼道を追い、古びた家屋に入って行った真堂丸の姿だった。

「真堂丸」

しんべえは泣いていた

生きてた

生きてたんだ

その瞬間、再び全力で走っていた

あの野郎、許さないからな、文太に会わないまま死ぬなんて俺がさせない。

「真堂丸」
しんべえも二人を追い、家屋に入って行く

それは本当に最期の決着の時だった。

長きに渡る大帝国との戦いの本当の決着の時

この時

まだ誰も知らなかった

この後に待ち構えていた決着

それは、しんべえの想像とは大きく異なるものとなっていく


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーオオーーッ


辿り着く


 終焉の時


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