離縁は計画的に、恋は衝動的に、本当は愛していたんだと言われましても困ります

迷い人

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本編

08.バルテルス帝国NEWS

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 アイズお爺様がお亡くなりになり、およそ8カ月。
 フェルト侯爵家で行われた誕生祝いから2カ月が経過した。





 アーダ・オーバリー

(それがワイズ様との間に、真実の愛を誓い合った女性の名。 幼いと勝手に思い込んでいたけれど、彼女は私やワイズ様よりも年上の22歳。 あの破天荒さ、常識の欠如が、誤解を生みだしてしまったのかしら?)

 アーダ・オーバリーには家族がない。

 幼い頃、1つの家紋を記した封蝋印と、彼女の名を記された布地と共に孤児院の前に捨てられていたと言う。 彼女の手にしていた家紋は、十数年前に後継者不在と取り潰された貴族家。 家を再興させるためには彼女が貴族として認められる必要があり、それには多くの金銭が必要であった。

 そうして、金銭トラブルとなった。

 ソレを収めたのが、ワイズ・クルール次期公爵。
 アーダ・オーバリーの運命の人である。

 レイフ皇太子殿下の親衛隊左翼隊長として与えられた剣を、アーダの借金の抵当とすることでその場を収めた。

(その後、その場を見ていた右翼隊長ユリウスが剣を買い取ったため、未だワイズの元に剣は戻っていない)

 現在、アーダはワイズ様の後見を持って、本来の地位を戻すために日々貴族としての研鑽を重ねている。



 インタビュアー:バーバラ・バーリエル
 インタビュイー:アーダ・オーバリー

『フェルト侯爵家で、ワイズ様はアーダ様とは愛人関係ではないとおっしゃっていましたが、実際のところどうなのでしょうか?』

『真実の愛を交し合った関係を、愛人と呼ぶには余りにも不謹慎だと思いませんか?』

『大変ロマンチックな考え方ではありますが、貴族社会はロマンチックだけで通る社会ではありません。 ワイズ様は正式な妻がいらっしゃり、世間ではアーダ様は浮気相手とみられるのが事実。 その点を今後、どう処理されていくかワイズ様とは話し合っていらっしゃるのですか?』

『確かに貴族社会的には、ワイズ様は奥方がいらっしゃることとなっています。 ですが、あの結婚式でワイズ様とファーストダンスを踊ったのは私です。 誰もがそんな私を妻として見た事でしょう。 では、ワイズ様の本当の妻は誰なのでしょうか?』

『では、お二人の結婚は正式に認められるものではなかったと?』

『はい、ワイズ様は婚姻を断って欲しいと、彼女が神に祈りを捧げている場に頼みにいっております。 ソレは私の目の前で繰り広げられ、司祭の方も確認し、マイズ様も耳にしているはずです。 あの婚姻は、アイズ・クルール様の御心を安らかにするための偽装と考えるべきでしょう』

『なるほど……。 では、フェルト侯爵家でアーダ様が語られていた。 シア様の嫌がらせとはどのようなものかお伺いしてもよろしいですか?』

『それは……、今後のシア様の世間体を考えると……』

『人々は真実を知りたがっているのです。 アナタのシンデレラストーリーを楽しみにしている女性達は、アナタの不幸を知る事で、よりアナタの幸福を共に喜ぶことができるでしょう』

『ワイズ様は、庶民として育った私が、爵位を取り戻すために協力をしてくださる約束をし、屋敷に招いてくださいました。 それはとても立派な部屋で、美しい茶器セット、多くのドレス、絵物語で覚える礼儀作法の絵本、いろんなものが準備されていたのです。 それを、あの方は突然に表れて、ドレスは切り裂き、茶器は割り、テーブルは窓から投げ捨て、本はビリビリにし茶をこぼし、ヒステリックに喚いて……。 私は恐ろしくて、辞めて欲しいと訴えることも出来なかったのです』

『それは、とても恐ろしかったことでしょう。 いくらアナタがワイズ様の婚姻が不当であると知っていても、世間ではお二人は夫婦。 そしてアナタは庶民、彼女は次期公爵夫人。 この地位の格差は大きいですからね……。 とても恐ろしい思いをされたのでしょうね』

『はい……屋敷では、長年ワイズ様の婚約者として彼女が支配しておりましたから、使用人にも私の味方はおらず……。 それでも、私はワイズ様しか頼るものがいませんので……耐えしのぶしかできませんの』

『なるほどなるほど、我々が貴方の味方として事実を広げて見せます。 是非、本来の地位を取り戻し、ワイズ様の婚姻無効を確定し、真実の愛を貫いてください。 応援しております』



 バルテルス帝国NEWS(記者:バーバラ・バーリエル)



 私は、分厚い宛名不明の封筒に入れられてきた雑誌に目を通して溜息をついた。 祖父たちの隠れ家である屋敷の場所を知る者は数少ない。 それでも、その数少ない知人たちが知らせてくれる……社交界嫌いのワイズ様が、この2カ月アーダと言う女を伴い頻繁に夜会に参加していると言う事実を……。

 そして、世間からの白い目に耐える事ができずに、逃げるように途中退場していると言うことを……。

「貴族女性にとってドレスはステータス。 私が着ていたドレスを手直しもせず着ていけば、それだけで笑いものになると言うもの。 そんな事すら知らない女性」

 聞く者のいない独り言。

「社交界嫌いのワイズ様が女性社会を知るはずもなく、お爺様譲りのあの方にドレスをプレゼントするなどの甲斐性がある訳もなく……。 それでも恥を覚悟して社交界に出向くのは、恥よりも良い人だと思われたいそんな思いが勝っているのかしら? そうね……彼なら、そうかもしれませんわね。 可哀そうな彼女を助けている自分に酔いしれて……なんて愚かで、可哀そうで、可愛らしい方かしら」

 そして、私は何処から送られて来たともわからぬ新聞に火をつけ、目の前から消失させた。
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