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本編
11.それぞれの旅立ち?
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アイズお爺様がお亡くなりになり12カ月。
そして、婚姻から1年が経過しました。
白い結婚による離縁が成立する時期です。
途中、レイフ皇太子殿下の計らいで、ワイズ様と食事を一緒する機会が設けられました。
「申し訳なく思う」
彼はそういって、私はこうこたえた。
「お気になさらず」
彼は結婚事態を嫌がってはいましたし、まぁ、私に断るようにと彼は言うあたり、本人の強い意思は感じられない、いえ……彼はアイズお爺様を、ずいぶんと恐れていましたから……仕方がないのかもしれません。
身内には無情な方でしたから。
婚姻から1年を得て、私は執事夫婦を伴い白の婚姻を神殿に証明し離縁を申し出た。 次期公爵であるワイズ様の醜聞を知らぬ者は既に王都にはおらず、離縁の手続きはアッサリと終了。
現状を考えれば、可哀そうな花嫁である私はワイズ様相手に慰謝料を請求できるのですが、私自身、婚姻を持ってグリフィス名を捨て、家名を完全に王家に返却することで、その財産を手にしたのですから、愛情がないにも関わらずワイズ様を利用したことに変わり有りません。
何も求めず、黙って去ることに致しましょう。
既に私は、加護縫いの紋様を提供することを条件に、庶民出身者が集まり作った大手商会に他国での留学準備を整えて頂きました。 使用人にも新たな職場と、十分な退職金を支払い終え、後は馬車に揺られ旅立つだけです。
過去の私よ、さようなら。
離縁成立が、ワイズ様の手元に届くのは3日後でしょうか? 後はご自由にお過ごしくださいませ。
ワイズは離縁成立の書類を受け取る事なく、その事実を知ったのは王宮で行われる新年の祝いの場の事だった。 公爵家次期当主ではなく、王家に仕える騎士としての職務中、アーダが声を大にしシアを悪くいっている。
何時もであれば、その行為がどれほど品性に欠けるかを語り、溜息と共に夜会を後にするのだが、今は王家主催の祝いの場であり、職務中。 眉間を寄せながらグッと我慢をし続けた。
「シア様ったら貴族であれば誰もが参加する王家の祝いの場に顔を出す事が出来ないなんて~~~。 余りにも惨めで情けなくて顔出しできないのかしら?」
クルール公爵家では、アーダに与えるドレスを新調することはなく、アーダにとってはソレが不満だった。
シアが離縁し消えたのだから、私が妻の立場に立つべきなのに!!
そんな風に思っていても、アーダはワイズが離縁された事実をワイズに……いや、クルール家の者に伝える気はなかった。 ワイズは口を開けば
『勘違いするな。 私がアーダを助ける行為には一切の恋心はない、情もない、困っている人間に対する当たり前の親切心に過ぎないのだからな』
等と言って距離を置く。 公爵夫婦に至っては、シアが戻ってこないのをアーダのせいにしはじめていた。
ワイズの弟であるマリスは……何処か不気味で、何時も軽蔑するかのような視線を向けてくる割に愛想笑いをし、話しかけてくるのが末恐ろしかった。
「おや、シア殿にお会いできると楽しみにしていたのですが」
「いや、時間的には不参加とはいいきれませんよ。 彼女は両殿下と懇意にしており、共に会場入りすることもありますからな」
「となれば、彼女への面会順を決めておきますかな」
「それは、早いものがち、彼女の気分次第でしょう」
等と言う言葉を聞けば、気分が良くない。
誰もがシアと話をしたがると聞けば、ワイズは気が気ではない。
私ですら、もうずいぶんと話をしていないと言うのに!! ここは私に譲るべきだろう!! 等と、割って入りたくなるのを必死に耐える。 だが、耐えきれぬ者もいた。
アーダだ。
「彼女は顔出しできる訳ありませんわ。 何しろ女として最も惨めな白の離縁を行い、今では貴族ではないのですから」
「ぇ?」
周囲からギョッとした表情が向けられた。 まさか愛人である女性が堂々とそれを告げるとは、なんとも恥知らずな! 加護縫いで一財産設けるだろう娘を、逃がさぬよう甘い蜜を与えるでもなく、あっけなく手離すとは、ありえない!!
さまざまな「ぇ?」が、そこにあった。
「嘘だ……そんな、何故!!」
ワイズは、夜会に混ざる神殿関係者を見つけて、人のいない部屋へと引きずるように連れてきて問いただす。
「どういうことだ!!」
「何事ですか? ワイズ殿?」
「私が離縁されたなど、知らない!!」
余りにも哀れな娘の白の離縁は、神殿関係者の中でも有名な話となっていた。
「それは……もう半年ほど前に、シア様は白の婚姻を理由に離縁を申し出られており、私共は彼女の訴えに間違いがないと、その離縁を認めた次第でございます。 連絡の方は書類で送らせて頂いているはずですが?」
「そんなの、私は知らない!! なぜ、なんだ!!」
司祭は冷静に説明を行った。
「新婚の蜜月時期に、子作りが行われないとなれば、その後の関係改善は難しいと一般的に判断されます。 ワイズ様の場合は、ほかに愛する方もいらしたこと。 強く婚姻を勧められたアイズ様がお亡くなりになったこと。 様々な理由から、シア様の申し出は正当であると判断し、つつがなくお受けさせて頂きました」
「いや、ありえないだろう?」
「何が、で、ございますか?」
「私は、彼女を愛していたし、アーダは祖父のように人助けをしているに過ぎない!! 下種な勘ぐりは辞めて頂きたい!!」
「では、なぜ、その愛情を示されなかったのですかな? 夫婦の営みも行わず、共に生活もせず、会話もろくにかわさず、政治的な意味合いも少ない。 私共には、いえ何方であっても離縁をおとめするだけの理由はないはずです」
「いや、だが、彼女は未成年だ。 手を出しては……」
「婚姻を持って夫婦は成人としての責任が問われるようになります。 それは子供を作ると言う意味合いにおいてもあてはまります」
「いや、だが……そんな……私は彼女に触れてもよかったのか?」
「それが普通の夫婦でございます」
「口づけすることも許されたのか?」
「むしろ、なぜ許されないと思われていたのですか」
「お爺様が、婚姻の誓いを行ったからと言って、シアに無体な事をするのは許さないと、その指先に、唇に、滑らかな肌に触れてはならないと……許さないと……。 だから、お爺様の支配の元での結婚は嫌だったんだ……」
「アイズ様は、お亡くなりになられたのですよ」
「だが……、アーダはお爺様の代わりに見ていると……。 お爺様の代わりに救ってやらなければならないと……」
司祭は哀れみのこもった視線をワイズに向けた。
「アナタの心は、故人に捕らわれ。 開放されることなく、呪われ続けているかのようだ。 お気の毒に……。 もし、アナタが望むなら、その呪いから解放されるのをお手伝いいたしましょう」
そしてワイズは、公爵家から離れ神殿のカウンセリングを受ける事となった。
ワイズがいなければ、アーダを保護する者は公爵家には存在しない。 それでもしばらくの間はアーダも公爵家に居座った。 それは、ワイズほど騙されやすいお人よしが存在しないため、他に行く当てがなかったと言うのが理由である。
礼儀作法を一切身に着けようとしないアーダ。 自分の父親は莫大な財産を残していると夢ばかりを語るアーダ。 そんなアーダを公爵家の者達が鬱陶しく思うまで時間を必要とせず……彼女の素性は探られ、バラされ、公にされ、王都にいられなくされた……。
過分な欲に比べれば、安い罰と言えるだろうが、彼女程度の人間を気にかける貴族などいないのだから、そんなものである。
そして、婚姻から1年が経過しました。
白い結婚による離縁が成立する時期です。
途中、レイフ皇太子殿下の計らいで、ワイズ様と食事を一緒する機会が設けられました。
「申し訳なく思う」
彼はそういって、私はこうこたえた。
「お気になさらず」
彼は結婚事態を嫌がってはいましたし、まぁ、私に断るようにと彼は言うあたり、本人の強い意思は感じられない、いえ……彼はアイズお爺様を、ずいぶんと恐れていましたから……仕方がないのかもしれません。
身内には無情な方でしたから。
婚姻から1年を得て、私は執事夫婦を伴い白の婚姻を神殿に証明し離縁を申し出た。 次期公爵であるワイズ様の醜聞を知らぬ者は既に王都にはおらず、離縁の手続きはアッサリと終了。
現状を考えれば、可哀そうな花嫁である私はワイズ様相手に慰謝料を請求できるのですが、私自身、婚姻を持ってグリフィス名を捨て、家名を完全に王家に返却することで、その財産を手にしたのですから、愛情がないにも関わらずワイズ様を利用したことに変わり有りません。
何も求めず、黙って去ることに致しましょう。
既に私は、加護縫いの紋様を提供することを条件に、庶民出身者が集まり作った大手商会に他国での留学準備を整えて頂きました。 使用人にも新たな職場と、十分な退職金を支払い終え、後は馬車に揺られ旅立つだけです。
過去の私よ、さようなら。
離縁成立が、ワイズ様の手元に届くのは3日後でしょうか? 後はご自由にお過ごしくださいませ。
ワイズは離縁成立の書類を受け取る事なく、その事実を知ったのは王宮で行われる新年の祝いの場の事だった。 公爵家次期当主ではなく、王家に仕える騎士としての職務中、アーダが声を大にしシアを悪くいっている。
何時もであれば、その行為がどれほど品性に欠けるかを語り、溜息と共に夜会を後にするのだが、今は王家主催の祝いの場であり、職務中。 眉間を寄せながらグッと我慢をし続けた。
「シア様ったら貴族であれば誰もが参加する王家の祝いの場に顔を出す事が出来ないなんて~~~。 余りにも惨めで情けなくて顔出しできないのかしら?」
クルール公爵家では、アーダに与えるドレスを新調することはなく、アーダにとってはソレが不満だった。
シアが離縁し消えたのだから、私が妻の立場に立つべきなのに!!
そんな風に思っていても、アーダはワイズが離縁された事実をワイズに……いや、クルール家の者に伝える気はなかった。 ワイズは口を開けば
『勘違いするな。 私がアーダを助ける行為には一切の恋心はない、情もない、困っている人間に対する当たり前の親切心に過ぎないのだからな』
等と言って距離を置く。 公爵夫婦に至っては、シアが戻ってこないのをアーダのせいにしはじめていた。
ワイズの弟であるマリスは……何処か不気味で、何時も軽蔑するかのような視線を向けてくる割に愛想笑いをし、話しかけてくるのが末恐ろしかった。
「おや、シア殿にお会いできると楽しみにしていたのですが」
「いや、時間的には不参加とはいいきれませんよ。 彼女は両殿下と懇意にしており、共に会場入りすることもありますからな」
「となれば、彼女への面会順を決めておきますかな」
「それは、早いものがち、彼女の気分次第でしょう」
等と言う言葉を聞けば、気分が良くない。
誰もがシアと話をしたがると聞けば、ワイズは気が気ではない。
私ですら、もうずいぶんと話をしていないと言うのに!! ここは私に譲るべきだろう!! 等と、割って入りたくなるのを必死に耐える。 だが、耐えきれぬ者もいた。
アーダだ。
「彼女は顔出しできる訳ありませんわ。 何しろ女として最も惨めな白の離縁を行い、今では貴族ではないのですから」
「ぇ?」
周囲からギョッとした表情が向けられた。 まさか愛人である女性が堂々とそれを告げるとは、なんとも恥知らずな! 加護縫いで一財産設けるだろう娘を、逃がさぬよう甘い蜜を与えるでもなく、あっけなく手離すとは、ありえない!!
さまざまな「ぇ?」が、そこにあった。
「嘘だ……そんな、何故!!」
ワイズは、夜会に混ざる神殿関係者を見つけて、人のいない部屋へと引きずるように連れてきて問いただす。
「どういうことだ!!」
「何事ですか? ワイズ殿?」
「私が離縁されたなど、知らない!!」
余りにも哀れな娘の白の離縁は、神殿関係者の中でも有名な話となっていた。
「それは……もう半年ほど前に、シア様は白の婚姻を理由に離縁を申し出られており、私共は彼女の訴えに間違いがないと、その離縁を認めた次第でございます。 連絡の方は書類で送らせて頂いているはずですが?」
「そんなの、私は知らない!! なぜ、なんだ!!」
司祭は冷静に説明を行った。
「新婚の蜜月時期に、子作りが行われないとなれば、その後の関係改善は難しいと一般的に判断されます。 ワイズ様の場合は、ほかに愛する方もいらしたこと。 強く婚姻を勧められたアイズ様がお亡くなりになったこと。 様々な理由から、シア様の申し出は正当であると判断し、つつがなくお受けさせて頂きました」
「いや、ありえないだろう?」
「何が、で、ございますか?」
「私は、彼女を愛していたし、アーダは祖父のように人助けをしているに過ぎない!! 下種な勘ぐりは辞めて頂きたい!!」
「では、なぜ、その愛情を示されなかったのですかな? 夫婦の営みも行わず、共に生活もせず、会話もろくにかわさず、政治的な意味合いも少ない。 私共には、いえ何方であっても離縁をおとめするだけの理由はないはずです」
「いや、だが、彼女は未成年だ。 手を出しては……」
「婚姻を持って夫婦は成人としての責任が問われるようになります。 それは子供を作ると言う意味合いにおいてもあてはまります」
「いや、だが……そんな……私は彼女に触れてもよかったのか?」
「それが普通の夫婦でございます」
「口づけすることも許されたのか?」
「むしろ、なぜ許されないと思われていたのですか」
「お爺様が、婚姻の誓いを行ったからと言って、シアに無体な事をするのは許さないと、その指先に、唇に、滑らかな肌に触れてはならないと……許さないと……。 だから、お爺様の支配の元での結婚は嫌だったんだ……」
「アイズ様は、お亡くなりになられたのですよ」
「だが……、アーダはお爺様の代わりに見ていると……。 お爺様の代わりに救ってやらなければならないと……」
司祭は哀れみのこもった視線をワイズに向けた。
「アナタの心は、故人に捕らわれ。 開放されることなく、呪われ続けているかのようだ。 お気の毒に……。 もし、アナタが望むなら、その呪いから解放されるのをお手伝いいたしましょう」
そしてワイズは、公爵家から離れ神殿のカウンセリングを受ける事となった。
ワイズがいなければ、アーダを保護する者は公爵家には存在しない。 それでもしばらくの間はアーダも公爵家に居座った。 それは、ワイズほど騙されやすいお人よしが存在しないため、他に行く当てがなかったと言うのが理由である。
礼儀作法を一切身に着けようとしないアーダ。 自分の父親は莫大な財産を残していると夢ばかりを語るアーダ。 そんなアーダを公爵家の者達が鬱陶しく思うまで時間を必要とせず……彼女の素性は探られ、バラされ、公にされ、王都にいられなくされた……。
過分な欲に比べれば、安い罰と言えるだろうが、彼女程度の人間を気にかける貴族などいないのだから、そんなものである。
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