37 / 42
37.辺境伯来襲 その5
しおりを挟む
顔色悪くクッションを抱え、顔を隠してしまっている私ノエルの元へ、侍女頭さんが訪れる。
「旦那様がお呼びです」
聞こえていた。
でも、嫌だ。
嫌なんだ。
「行きたくない……」
「では、旦那様にそう願ってくださいませ」
そう、膝を曲げて私の顔を見ながら告げる侍女頭さんの顔は優しかった。 でも、違う……私は、辺境に行きたくないと言うのではなく、隣室、2人の元に行きたくないのだ!!
だけど、それは許されることはなかった。
侍女頭がノックを鳴らせば、内側からクルト公爵によって扉が開かれた。
シャツにズボン、リラックスをした格好の辺境伯。 そして、自分の屋敷であるにもかかわらず公爵は今から出かけるとでもいうように、身体全体が隠れる黒コートに、黒手袋、仮面も何時もの白ではなく黒いものをつけていた。
黒手袋をはめた手が差し出され、私は公爵の顔を覗き込み、そして手を添え部屋の中に入る。
久々に出会った辺境伯は、目を充血させギラギラと……追い詰められた獣のような、そんな目をしていた。
「……ご無沙汰しております……」
「ほんの数日会わなかっただけで、ずいぶんと美しくなったね」
そう微笑むが、何時もの穏やかさはその表情にはなく、口元が歪み、その歪んだ口元からヨダレが垂れていたとしても、私は不思議に思いはしなかっただろう。
「そんな……、私は何も変わって等……」
居ない訳ではないが、そんな風に思われたくなかった。 肉体的に、魔力的には変化はあったが、私と言う存在自身には何も変わりはない。
「ずいぶんと可愛らしい恰好だ」
「公爵に作って頂きました」
「それは、クヴァンツ公爵、家の者が面倒をおかけした」
そう言われて、公爵は赤い唇を微笑むように形作った。
「可愛いだろう?」
愛おしそうな声色で、私をそっと抱きしめる。
「触るな!!」
辺境伯の激昂にビクッとした。
「可哀そうに、怯えさせるものではないよ。 よしよし大丈夫だ。 俺が守ってあげるから」
そう言って、翼の中にヒナを隠す親鳥のように、コートの中に私を隠し入れる。
「何をする!!」
怯えて公爵に縋れば、あぁと辺境伯は自らの顔を覆い、指でひっかくようにして、そして泣きそうな顔で笑いながら私を見た。
「あぁ……俺はね、ずっとノエルを愛していた。 可愛いと思っていたんだ」
もし、フランがこう言ったなら馬鹿か!と、罵っただろう。 だけど、それが辺境伯になっただけで、ソレは恐怖となり気持ち悪くも思えたのだ。 もし、最初から私をモノにしようと言う気が合ったなら、そういう奴隷として育てられれば、私も覚悟が出来ただろうに……。
彼の発言は、今、私が聖女になったからこその発言に思えて仕方がなかった。
辺境伯と私が初めて出会ったのは、私には記憶がないが生まれたばかりの頃。 辺境伯の領地にフランの婚約者としてやってきたのは10歳。 そういう風に見た事もない、辺境伯は「娘」と言う体裁を大切にした。
だが、本当に、10歳の娘に恋情を抱いているなら、侯爵家からもらった妻はどう思うだろうか? そう思えば息子の婚約者であり、娘と言う扱いはありえたのかもしれない。
そう考えてみたが、嫌悪感しかなかった。
そんな目で見られていると思えば、耐えられなかった。
なのに、辺境伯は自分のソレは純愛であると切々と語ってくるのだ。
「公爵様……助けて……」
私は絞り出すように告げた。
「あぁ、いいとも」
公爵の声が、甘く優しく耳をくすぐった。
「旦那様がお呼びです」
聞こえていた。
でも、嫌だ。
嫌なんだ。
「行きたくない……」
「では、旦那様にそう願ってくださいませ」
そう、膝を曲げて私の顔を見ながら告げる侍女頭さんの顔は優しかった。 でも、違う……私は、辺境に行きたくないと言うのではなく、隣室、2人の元に行きたくないのだ!!
だけど、それは許されることはなかった。
侍女頭がノックを鳴らせば、内側からクルト公爵によって扉が開かれた。
シャツにズボン、リラックスをした格好の辺境伯。 そして、自分の屋敷であるにもかかわらず公爵は今から出かけるとでもいうように、身体全体が隠れる黒コートに、黒手袋、仮面も何時もの白ではなく黒いものをつけていた。
黒手袋をはめた手が差し出され、私は公爵の顔を覗き込み、そして手を添え部屋の中に入る。
久々に出会った辺境伯は、目を充血させギラギラと……追い詰められた獣のような、そんな目をしていた。
「……ご無沙汰しております……」
「ほんの数日会わなかっただけで、ずいぶんと美しくなったね」
そう微笑むが、何時もの穏やかさはその表情にはなく、口元が歪み、その歪んだ口元からヨダレが垂れていたとしても、私は不思議に思いはしなかっただろう。
「そんな……、私は何も変わって等……」
居ない訳ではないが、そんな風に思われたくなかった。 肉体的に、魔力的には変化はあったが、私と言う存在自身には何も変わりはない。
「ずいぶんと可愛らしい恰好だ」
「公爵に作って頂きました」
「それは、クヴァンツ公爵、家の者が面倒をおかけした」
そう言われて、公爵は赤い唇を微笑むように形作った。
「可愛いだろう?」
愛おしそうな声色で、私をそっと抱きしめる。
「触るな!!」
辺境伯の激昂にビクッとした。
「可哀そうに、怯えさせるものではないよ。 よしよし大丈夫だ。 俺が守ってあげるから」
そう言って、翼の中にヒナを隠す親鳥のように、コートの中に私を隠し入れる。
「何をする!!」
怯えて公爵に縋れば、あぁと辺境伯は自らの顔を覆い、指でひっかくようにして、そして泣きそうな顔で笑いながら私を見た。
「あぁ……俺はね、ずっとノエルを愛していた。 可愛いと思っていたんだ」
もし、フランがこう言ったなら馬鹿か!と、罵っただろう。 だけど、それが辺境伯になっただけで、ソレは恐怖となり気持ち悪くも思えたのだ。 もし、最初から私をモノにしようと言う気が合ったなら、そういう奴隷として育てられれば、私も覚悟が出来ただろうに……。
彼の発言は、今、私が聖女になったからこその発言に思えて仕方がなかった。
辺境伯と私が初めて出会ったのは、私には記憶がないが生まれたばかりの頃。 辺境伯の領地にフランの婚約者としてやってきたのは10歳。 そういう風に見た事もない、辺境伯は「娘」と言う体裁を大切にした。
だが、本当に、10歳の娘に恋情を抱いているなら、侯爵家からもらった妻はどう思うだろうか? そう思えば息子の婚約者であり、娘と言う扱いはありえたのかもしれない。
そう考えてみたが、嫌悪感しかなかった。
そんな目で見られていると思えば、耐えられなかった。
なのに、辺境伯は自分のソレは純愛であると切々と語ってくるのだ。
「公爵様……助けて……」
私は絞り出すように告げた。
「あぁ、いいとも」
公爵の声が、甘く優しく耳をくすぐった。
14
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
私の妹は確かに聖女ですけど、私は女神本人ですわよ?
みおな
ファンタジー
私の妹は、聖女と呼ばれている。
妖精たちから魔法を授けられた者たちと違い、女神から魔法を授けられた者、それが聖女だ。
聖女は一世代にひとりしか現れない。
だから、私の婚約者である第二王子は声高らかに宣言する。
「ここに、ユースティティアとの婚約を破棄し、聖女フロラリアとの婚約を宣言する!」
あらあら。私はかまいませんけど、私が何者かご存知なのかしら?
それに妹フロラリアはシスコンですわよ?
この国、滅びないとよろしいわね?
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
【本編完結・番外編追記】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。
As-me.com
恋愛
ある日、偶然に「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言する婚約者を見つけてしまいました。
例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃりますが……そんな婚約者様はとんでもない問題児でした。
愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。
ねぇ、婚約者様。私は他の女性を愛するあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄します!
あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。
番外編追記しました。
スピンオフ作品「幼なじみの年下王太子は取り扱い注意!」は、番外編のその後の話です。大人になったルゥナの話です。こちらもよろしくお願いします!
※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』のリメイク版です。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定などを書き直してあります。
*元作品は都合により削除致しました。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる