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37.辺境伯来襲 その5
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顔色悪くクッションを抱え、顔を隠してしまっている私ノエルの元へ、侍女頭さんが訪れる。
「旦那様がお呼びです」
聞こえていた。
でも、嫌だ。
嫌なんだ。
「行きたくない……」
「では、旦那様にそう願ってくださいませ」
そう、膝を曲げて私の顔を見ながら告げる侍女頭さんの顔は優しかった。 でも、違う……私は、辺境に行きたくないと言うのではなく、隣室、2人の元に行きたくないのだ!!
だけど、それは許されることはなかった。
侍女頭がノックを鳴らせば、内側からクルト公爵によって扉が開かれた。
シャツにズボン、リラックスをした格好の辺境伯。 そして、自分の屋敷であるにもかかわらず公爵は今から出かけるとでもいうように、身体全体が隠れる黒コートに、黒手袋、仮面も何時もの白ではなく黒いものをつけていた。
黒手袋をはめた手が差し出され、私は公爵の顔を覗き込み、そして手を添え部屋の中に入る。
久々に出会った辺境伯は、目を充血させギラギラと……追い詰められた獣のような、そんな目をしていた。
「……ご無沙汰しております……」
「ほんの数日会わなかっただけで、ずいぶんと美しくなったね」
そう微笑むが、何時もの穏やかさはその表情にはなく、口元が歪み、その歪んだ口元からヨダレが垂れていたとしても、私は不思議に思いはしなかっただろう。
「そんな……、私は何も変わって等……」
居ない訳ではないが、そんな風に思われたくなかった。 肉体的に、魔力的には変化はあったが、私と言う存在自身には何も変わりはない。
「ずいぶんと可愛らしい恰好だ」
「公爵に作って頂きました」
「それは、クヴァンツ公爵、家の者が面倒をおかけした」
そう言われて、公爵は赤い唇を微笑むように形作った。
「可愛いだろう?」
愛おしそうな声色で、私をそっと抱きしめる。
「触るな!!」
辺境伯の激昂にビクッとした。
「可哀そうに、怯えさせるものではないよ。 よしよし大丈夫だ。 俺が守ってあげるから」
そう言って、翼の中にヒナを隠す親鳥のように、コートの中に私を隠し入れる。
「何をする!!」
怯えて公爵に縋れば、あぁと辺境伯は自らの顔を覆い、指でひっかくようにして、そして泣きそうな顔で笑いながら私を見た。
「あぁ……俺はね、ずっとノエルを愛していた。 可愛いと思っていたんだ」
もし、フランがこう言ったなら馬鹿か!と、罵っただろう。 だけど、それが辺境伯になっただけで、ソレは恐怖となり気持ち悪くも思えたのだ。 もし、最初から私をモノにしようと言う気が合ったなら、そういう奴隷として育てられれば、私も覚悟が出来ただろうに……。
彼の発言は、今、私が聖女になったからこその発言に思えて仕方がなかった。
辺境伯と私が初めて出会ったのは、私には記憶がないが生まれたばかりの頃。 辺境伯の領地にフランの婚約者としてやってきたのは10歳。 そういう風に見た事もない、辺境伯は「娘」と言う体裁を大切にした。
だが、本当に、10歳の娘に恋情を抱いているなら、侯爵家からもらった妻はどう思うだろうか? そう思えば息子の婚約者であり、娘と言う扱いはありえたのかもしれない。
そう考えてみたが、嫌悪感しかなかった。
そんな目で見られていると思えば、耐えられなかった。
なのに、辺境伯は自分のソレは純愛であると切々と語ってくるのだ。
「公爵様……助けて……」
私は絞り出すように告げた。
「あぁ、いいとも」
公爵の声が、甘く優しく耳をくすぐった。
「旦那様がお呼びです」
聞こえていた。
でも、嫌だ。
嫌なんだ。
「行きたくない……」
「では、旦那様にそう願ってくださいませ」
そう、膝を曲げて私の顔を見ながら告げる侍女頭さんの顔は優しかった。 でも、違う……私は、辺境に行きたくないと言うのではなく、隣室、2人の元に行きたくないのだ!!
だけど、それは許されることはなかった。
侍女頭がノックを鳴らせば、内側からクルト公爵によって扉が開かれた。
シャツにズボン、リラックスをした格好の辺境伯。 そして、自分の屋敷であるにもかかわらず公爵は今から出かけるとでもいうように、身体全体が隠れる黒コートに、黒手袋、仮面も何時もの白ではなく黒いものをつけていた。
黒手袋をはめた手が差し出され、私は公爵の顔を覗き込み、そして手を添え部屋の中に入る。
久々に出会った辺境伯は、目を充血させギラギラと……追い詰められた獣のような、そんな目をしていた。
「……ご無沙汰しております……」
「ほんの数日会わなかっただけで、ずいぶんと美しくなったね」
そう微笑むが、何時もの穏やかさはその表情にはなく、口元が歪み、その歪んだ口元からヨダレが垂れていたとしても、私は不思議に思いはしなかっただろう。
「そんな……、私は何も変わって等……」
居ない訳ではないが、そんな風に思われたくなかった。 肉体的に、魔力的には変化はあったが、私と言う存在自身には何も変わりはない。
「ずいぶんと可愛らしい恰好だ」
「公爵に作って頂きました」
「それは、クヴァンツ公爵、家の者が面倒をおかけした」
そう言われて、公爵は赤い唇を微笑むように形作った。
「可愛いだろう?」
愛おしそうな声色で、私をそっと抱きしめる。
「触るな!!」
辺境伯の激昂にビクッとした。
「可哀そうに、怯えさせるものではないよ。 よしよし大丈夫だ。 俺が守ってあげるから」
そう言って、翼の中にヒナを隠す親鳥のように、コートの中に私を隠し入れる。
「何をする!!」
怯えて公爵に縋れば、あぁと辺境伯は自らの顔を覆い、指でひっかくようにして、そして泣きそうな顔で笑いながら私を見た。
「あぁ……俺はね、ずっとノエルを愛していた。 可愛いと思っていたんだ」
もし、フランがこう言ったなら馬鹿か!と、罵っただろう。 だけど、それが辺境伯になっただけで、ソレは恐怖となり気持ち悪くも思えたのだ。 もし、最初から私をモノにしようと言う気が合ったなら、そういう奴隷として育てられれば、私も覚悟が出来ただろうに……。
彼の発言は、今、私が聖女になったからこその発言に思えて仕方がなかった。
辺境伯と私が初めて出会ったのは、私には記憶がないが生まれたばかりの頃。 辺境伯の領地にフランの婚約者としてやってきたのは10歳。 そういう風に見た事もない、辺境伯は「娘」と言う体裁を大切にした。
だが、本当に、10歳の娘に恋情を抱いているなら、侯爵家からもらった妻はどう思うだろうか? そう思えば息子の婚約者であり、娘と言う扱いはありえたのかもしれない。
そう考えてみたが、嫌悪感しかなかった。
そんな目で見られていると思えば、耐えられなかった。
なのに、辺境伯は自分のソレは純愛であると切々と語ってくるのだ。
「公爵様……助けて……」
私は絞り出すように告げた。
「あぁ、いいとも」
公爵の声が、甘く優しく耳をくすぐった。
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