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2章 精霊の愛し子

04.双子?

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 オルコット公爵家は、王家に妻ユリアの死亡を報告したが、王家からは故人とその家族に対する定型文が書かれ、その後に聖女はどうした!!と、書かれており……オルコットを怒らせたのだった……。



 そして、人間の世界では10年の時が過ぎる。



 迷宮の狭間に捨てられた生まれたばかりの赤ん坊は、精霊達に人の世に帰るべき人として大切に育てられていた。


 異界の迷宮図書館。

 世界は虹色に染まり、地面が右で、天井が下。
 階段は逆さになって、本棚は空中遊泳をする。

「今日の図書館は機嫌が良すぎて、見たい本が捕まらなくて困ってしまうわ」

 私の名はレティシア。
 育ての親である時空の精霊ロノスが名付けてくれた。

 家名はオルコットと言い、公爵家と言う高い地位にあるそうだ。

 ロノスは人間との契約に縛られ、自由に世界中を旅する事は出来ないけれど、時と空間を操りあらゆる場所を見聞きし、あらゆる場所に繋げ、私に護衛の小精霊をつけ、時に人間の護衛を雇い、人間社会に馴染むように育ててくれている。

『レティ、レティ!! 勉強の時間ですよ』

 この勉強の時間だけれど、人間の、それも公爵家の令嬢に相応しい教育と言うものがされるのだ。 私の双子の妹と言う女の子が受けている教育を真似ながら。

「は~い!」

 良い子な返事を返すが、読みたい本を探すために今も視線を巡らせながら、ゆっくりと本棚と一緒に空中遊泳をし、人を真似た居住区へと向かう。

「ぁ、あった!!」

 その途中で目的の本を見つけて立ち止まる。 いや、この状況は浮き止まるが正しいのかな?

「少しだけならいいよね?」

 なんて独り言は、周りをふわふわする小精霊への言い訳。

 ダメ、ハヤクハヤク!
 オコラレル。

「平気よ~。 だってロノスは時間を忘れるくらいに年寄りなんだから。 それに少しくらい自由に時間を使っても、ここは時間の認識が歪んでいるから平気よ」

 膨大に集められた本は、世界中だけでは収まらない。 異世界の本だったり、人の記憶を本にしたものだったり。 新しい本が欲しいと、高名な絵描きに滅びた動植物を見せ辞書を作らせたこともあったそうだ。

 そんな貴重な本を守るため、迷宮図書館の時は止まったようになっている。 物質が行うべき時の変質を止めてあるのだ。 ただし、空間自体の時間は、私がいた世界に合わせてあるのだと言う。

『止めれば、永遠なのに』

 そう聞けば、

『永遠に同じ時を巡っていては、新しいものに出会えませんからねぇ……』

 と、言う事らしい。

 だけど、私の肉体の時間は、人の半分の速さで進んでいる。 そうすることで魔力暴走が抑えられ、身体の負担を小さくできるからだ。

 だから、私の双子だと言うアリアメアと言う女の子は、私よりもずいぶんと大きく見える。 未だ1度もあった事もなく、手紙を交わしたこともない相手だけれど、精霊ロノスは人間らしくの基本を彼女に定め私に語って聞かせる。

 アリアメアは大人になったら聖女として王妃の座につき、国を支えるために、5歳の時から、領地を離れ王宮で生活しているそうだ。 そう語る時だけ、ロノスは複雑な顔をして見せた。

 彼女は双子と言うだけあって私と似ていた。
 色だけ……なのだけど。

 ハニーブロンドの髪色。
 新緑色の瞳。
 ピンク色の唇。
 白い肌に、淡く色づく頬。

 うん、色だけ。

 アリアメアは私とは随分と印象が違っていた。 豪華な巻き毛、大きな瞳は何時も潤んでいて、弱弱しく甘えた声は庇護欲を誘うらしく、皆に愛され純粋無垢と言う言葉に等しい育ち方をしていた。

 今の生活に不満があるわけではないけど、ちょっと嫉妬しちゃう。

 言い換えれば……可愛く純粋で、多くの人が彼女を溺愛していた。 なぜ知っているか? それは育て親のロノスの能力により、お后様教育をする彼女を見て、礼儀作法を学んでいるから。

『遅い!! 何時まで待たされるんですか!!』

「ロノスには、大した時間に感じていないんでしょう?」

『誰が年寄りですか!!』

 柔和な雰囲気、優しい目鼻立ち。 背が高く、肩幅もある、美女(?)がエプロン姿でやってきた。

「えっと、読みたい本があったから?」

『えっと、ではありません。 貴方はいずれ人の世で生活しなければいけないのですよ。 ちゃんと外の事も学ばないといけません』

 直接脳裏に精霊ロノスの声が響けば、レティは頭をクラクラとさせ、床も存在しない空間に倒れ込み……チラチラとロノスを覗き見ていた。

『騙されませんよ』

 ひょいっと荷物のように肩に担がれて持っていかれ、連れていかれたのは人の世のパーティルームのような場所。 ロノスは何時だって私を人の世界に戻そうとする。

 私が嫌だって言っても。
 ロノスが寂しそうな顔をしていても。
 私は人の世に帰らなければいけないらしい。

『今の貴方は小さく、身体も弱く、外に長時間出る事もできませんが。 それでも貴方は、人と精霊を救えるほどの膨大な魔力を持ち合わせているんです。 だから何時か貴方は人の世に帰らなければいけない。 その時、恥をかかないために勉強が必要なのですよ。 妹に負けてどうするんです。 お姉ちゃんでしょ』

 あった事もない妹だけどね。

 パーティルームを模した部屋は、部屋の周囲や天井には鏡のような壁が張られていた。 そこには、レティシアと同じ蜂蜜色の髪と緑の瞳をした少女アリアメアが、ダンスを学んでいる様子が見え、声が聞こえた。

 必死にステップを踏むが、足元を見続けていて未だになれないらしい。 そんな授業を見て何になるの? と、ロノスに聞いたことがある。 ロノスが言うには見聞きするのは妹ではなく先生ですから。 って、

『さぁ、お手をどうぞお嬢様』

 そう言葉にして手を差し出した精霊ロノスは、レティシアの手に触れる瞬間、世間に出ればほほえましい似合いの子供達だと言われるだろう姿に転じた。

 レティシアとロノスは、少女がダンスを学ぶ間、精霊達が歌う中、楽しそうにリズムを刻み、くるくると回り笑いあう。

 一方少女の方と言えば、上手くリズムを刻めず、ステップを踏めず、やがて足をもつれさせ転び泣き出し休憩をとっていた。 泣き出す少女をなだめるために、人々は菓子と飲み物を準備する。 お腹が満ちたアリアメアはお昼寝をするらしい。

 一方、私と言えば、一通りダンスの練習を終えた後、精霊ロノスと共にエプロン姿でキッチンに立ち、お菓子の本を広げ、菓子作りにいそしんでいた。





 精霊は幸福であることを、楽しい事を好む。
 それが精霊である。

 見た目が美しいからと忘れるなかれ、
 精霊と人の楽しみは、価値観が違うから。
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