化け物と呼ばれた公爵令嬢は愛されている

迷い人

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7章 それぞれの歩み

72.遠ざかる当たり前の日常

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「誰の、何を?!」

 ヒラヒラ可愛らしい部屋での発言だった……。

「私とユリアのカワイイカワイイ娘に、汚い汚物のような手で触れようとした奴らの、あらゆる首とかどうでしょうか?」

 父様の笑顔が怖い。

 父様……疲れている?
 いえ、疲れているよね?
 疲れていない訳ないよね?
 疲れているなら仕方ないよね!!

「あはははっはははは、父様、ちょっと落ち着こうか。 重要なのは、回避したソコではなく、未来の回避事項だから」

 私は乾いた笑みを張り付けた。

「未来ですか? そう……そうですね。 今は先にするべきことがありますね」

 父様……。

「それで、エリアルは何を望むのですか?」

 私は私の望みを告げれば、父様はとても嫌そうな顔をした。 憎々し気とでもいう表情を珍しく私の前で見せ、溜息と共に問い返してくる。

「本当に、それでいいのですか?」

「はい。 ただ、その場合問題となるのは、体裁上、外交上、見栄えの良い宰相閣下が必要になると言う事です。 誰か良い人はいませんか?」

「今の宰相も、お飾りと変わりませんから……変わりはいくらでもいますが……そういうのとは違うのですよね?」

 父様が私に確認を取るから頷いた。

「出来るなら、王位を目指す者。 やる気のある者。 離宮に訪れた者達の中から、国の未来を憂い、民を守ろうとする者がいたなら……そう思ったのだけど……」

「それは諦めて下さい。 彼等は私の獲物です。 いえ……そうですね……久々に回復魔法の訓練をしたいと言うなら、認めて差し上げないでもありません」

 ニコニコと……言う父様……。

 話が戻ってます。

「いえ、あの方々は私欲にまみれているので、再利用する気はありません」

 違う、違う!! これじゃない!! 私は自分の返事に頭を抱えた。



 父様への報告には、まだあどけない少年は除いた……。 協力してもらったし、訳も分からず父様の怒りの的にされるには、余りにも気の毒だと思ったから。

 いずれ来るだろうゴースト溢れる未来を憂う事が出来たのは少年のみ。 だけれど彼では実績どころか経験が足りない。 認知度が足りない。 直ぐに丸め込まれ傀儡とされて終わりだろう。 

 それこそ、女王教育を受けた母様から教育を受けた父様が、責任ある地位に収まりたいと言ってくれるなら話は簡単だった。 だけど、父様はこの国の王族に仕える気等ないから難しい。

 それでも父様は、溜息と共に言う。

「わかりました。 何人か候補を上げましょう」



 一応、伝える事は伝えた。

 父様は、私の望みを叶えると言っていた通り、私の言葉にダメだ等と言う事はなく、そして出来ないと言う言葉も口にする事は無かった。

 私は、ふぅと大きく深呼吸をして、父様に笑いかける。

「お茶にしようか?」

「そろそろ、そう言うだろうと思っていたよ」

 と言ったのは、ミカゲ先生。

 彼はずっと一緒にいた。 黙って彼は私と父様の会話を聞いていた。 元は他国からやってきた魔導医師の子。 公爵家に仕える身分ではない……それでも、彼は母様が残した宝の一人なのだろう。

 信頼できる人。
 いいな……。

 お茶を入れてもらい、菓子、果物、サンドイッチが準備される。

 いいな……なんて思ったそれは、羨望か? 嫉妬か? 私は私が持っていない目に見えぬ何かを望んだことに気づかれたのか、父様はおいでおいでと手招きする。

「何?」

 ポンポンと父様は自分の膝を叩いて見せる。 視線がおいでと告げていた。

「私は、もう大人だもん」

「親にとって~」

 変わらず繰り返される言葉。
 何時もと変わらないのが嬉しい。

 そして私もまた何時もと変わらない反応を取る。 ミカゲ先生に椅子に座るように言い、そしてその膝の上を陣取った。

「どうして!! 君ばかり贔屓されるんだ?!」

 なんて声を上げ、不貞腐れ、不機嫌そうにミカゲ先生を睨む父様。 ミカゲ先生は苦笑し、やはりいつもの言葉を返す。

「遊ばれているだけですよ。 そうやって騒ぐから、お嬢ちゃんが面白がるんですよ」

 私は、次の瞬間にはミカゲ先生の膝をおり、父様の膝の上で笑って見せれば、笑い返された。 何処までが本気で、何処までが遊びなのか……私達は、何時もを繰り返し、繰り返せる事に安堵したかのように笑った。

「父様。 私は父様の子供ですよね?」

「当たり前です」

「変えようのない子供?」

「当然ですとも」

 私は髪を撫でる父様の手に身を預けた。

 私達は変化を恐れ繰り返す。

「大切な私とユリアの宝物ですよ」

 愛おしい安穏とした、他愛ない幸福。



 こうしている間にも、魔導師長と神官長は捕縛されていた。 精霊ギルドの長の手によって。 貴族達が私を探し、殺し、首を差し出し、身の潔白を晴らせと宰相が告げた翌日の事だった。

 わざわざ王宮内に貴族達を集め、謁見の広間に人々を集め、宰相はこれ見よがしに玉座に座り、傍らに立つのは精霊ギルドの長で……精霊ギルドの長は声を高らかに告げた。

「2人は、言え……聖女殿と魔導師長、神官長は、魔人を目覚めさせ、魔人を私欲に使うために、争いを起こした事を私が証明しましょう」



 人々は、困惑を顔に浮かべる。



 宰相の過去を思い起こせば、余りにも彼に都合が良すぎる。
 どうせ……裏で暗躍している。

 だが、彼を罰する者はいない。

 何時ものように分かりやすく気に入らない者に罪を着せているだけだ。
 やがて、じわじわと死に追い込んでいくに違いない。

 そう思いながらも、いや、そう思ったからこそ多くの貴族達は、王位についてくださいと頭を下げる事も、私も閣下が作る未来を共に歩ませて下さいとも言えず、もっと適した者が王位に名をあげる事を望むばかりだった。



 静かに、とても静かに……災害の水面を揺らさぬように……。


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