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64.2人は狂気を愛している 02
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獣の唸りに、歓声を上げていた貴族達の声も悲鳴に変わり、我先にと逃げ始め、そして逃げる者を優先し追いかける獣。
猫がネズミを弄ぶように、追い掛け回し、命を奪う。
「味方である貴族を全て失った後、貴方の立場はどう変わるのかしら? いえ……それよりも、貴方は生き残る事ができるのかしら?」
そう囁けば、第二皇子がつばを飲む音が聞こえた。
「こ、この女がどうなってもいいのか!!」
側にいた護衛騎士の剣を抜き私に向けられた。 心臓の位置を斜めに置かれる剣は、私の肌を薄く傷つけ血を流す。
遠吠えと共に、襲い掛かっていた貴族の元から、第二皇子へと向かった。
「守れ!! 守るんだ!!」
騎士達に向かって叫ぶのは、第三皇子だった。 だが、その言葉がきっかけに騎士達も逃げ始める。 逃げれば追うのが獣である。
止めるべきだろう。
止める術は知っている。
オークランドの民が、暴走状態で他国を侵略しない理由は、彼等が魔法に弱いと言う欠点を持つから鎮静の魔法をかけてやればそれでいいのだ。 彼の後の精神状態を考えるなら、止めるべきだろう。 だけど私は止めなかった。
この状況を生み出した者達を腹立たしく思っていたから。
そして、いっそ全て殺しつくした結果……。
事実を知る者がいない方が幸運だと思ったから。
「あぁ、でも……」
悲鳴と共に、金属の鎧ごと騎士達は食いちぎられる。
「彼だけに罪を背負わせるのは、卑怯かしら?」
「へっ、なに」
死の色を顔に張り付けた第二皇子が問おうとしたその瞬間、宮殿の遥か遠くに小さいが威力の強い竜巻が、雷とカマイタチを起こしながら移動してくる。 屋根を吹っ飛ばし、壁を破壊しながら、粉砕し、切り裂き、砂にし、移動してくる。
「ぁ、な、何をした!!」
「秘密を知った人は、秘密ごと……死んで?」
その言葉と共に、獣は第二皇子の首を飛ばし、
第三皇子の悲鳴よりも早く、その首を飛ばした。
もう、動いている存在は、私と彼だけ……。
鎮静の魔法で落ち着く事は知っている。
だけど、
私は、両手を広げた。
狂気とも言える感情が胸をしめていた。
血と恐怖に寄っているのだろう。
「私も食べて」
だけど、彼は、広げた腕の中にユックリと鼻先を収め、血を流す胸元を切なげに見つめ、くぅ~んっと切なく悲しそうに泣いていた。 ……人を殺すごとに膨張を繰り返し、最初の頃の3倍に放っているからだが犬サイズまで縮んでいく。
私と彼は、鼻と鼻をくっつけ瞳を閉ざす。
頬と頬をすり合わせ、抱き合うように身を寄せた。
『人前で容易に裸になるのは、どうかと思うぞ? 今後は止めてくれ』
小さく囁くように、人の言葉で彼は語り、ベッドにかけられたシーツをひっぺがえし、私の頭から被せた。 私はそこから顔を覗かせ笑って見せた。
『竜巻が来る。 逃げよう』
その言葉で、彼は私の事を何も知らないのだと知った。
それでも、私は、この狂気を。
共に狂ったこの瞬間を。
幸福だと感じていた。
猫がネズミを弄ぶように、追い掛け回し、命を奪う。
「味方である貴族を全て失った後、貴方の立場はどう変わるのかしら? いえ……それよりも、貴方は生き残る事ができるのかしら?」
そう囁けば、第二皇子がつばを飲む音が聞こえた。
「こ、この女がどうなってもいいのか!!」
側にいた護衛騎士の剣を抜き私に向けられた。 心臓の位置を斜めに置かれる剣は、私の肌を薄く傷つけ血を流す。
遠吠えと共に、襲い掛かっていた貴族の元から、第二皇子へと向かった。
「守れ!! 守るんだ!!」
騎士達に向かって叫ぶのは、第三皇子だった。 だが、その言葉がきっかけに騎士達も逃げ始める。 逃げれば追うのが獣である。
止めるべきだろう。
止める術は知っている。
オークランドの民が、暴走状態で他国を侵略しない理由は、彼等が魔法に弱いと言う欠点を持つから鎮静の魔法をかけてやればそれでいいのだ。 彼の後の精神状態を考えるなら、止めるべきだろう。 だけど私は止めなかった。
この状況を生み出した者達を腹立たしく思っていたから。
そして、いっそ全て殺しつくした結果……。
事実を知る者がいない方が幸運だと思ったから。
「あぁ、でも……」
悲鳴と共に、金属の鎧ごと騎士達は食いちぎられる。
「彼だけに罪を背負わせるのは、卑怯かしら?」
「へっ、なに」
死の色を顔に張り付けた第二皇子が問おうとしたその瞬間、宮殿の遥か遠くに小さいが威力の強い竜巻が、雷とカマイタチを起こしながら移動してくる。 屋根を吹っ飛ばし、壁を破壊しながら、粉砕し、切り裂き、砂にし、移動してくる。
「ぁ、な、何をした!!」
「秘密を知った人は、秘密ごと……死んで?」
その言葉と共に、獣は第二皇子の首を飛ばし、
第三皇子の悲鳴よりも早く、その首を飛ばした。
もう、動いている存在は、私と彼だけ……。
鎮静の魔法で落ち着く事は知っている。
だけど、
私は、両手を広げた。
狂気とも言える感情が胸をしめていた。
血と恐怖に寄っているのだろう。
「私も食べて」
だけど、彼は、広げた腕の中にユックリと鼻先を収め、血を流す胸元を切なげに見つめ、くぅ~んっと切なく悲しそうに泣いていた。 ……人を殺すごとに膨張を繰り返し、最初の頃の3倍に放っているからだが犬サイズまで縮んでいく。
私と彼は、鼻と鼻をくっつけ瞳を閉ざす。
頬と頬をすり合わせ、抱き合うように身を寄せた。
『人前で容易に裸になるのは、どうかと思うぞ? 今後は止めてくれ』
小さく囁くように、人の言葉で彼は語り、ベッドにかけられたシーツをひっぺがえし、私の頭から被せた。 私はそこから顔を覗かせ笑って見せた。
『竜巻が来る。 逃げよう』
その言葉で、彼は私の事を何も知らないのだと知った。
それでも、私は、この狂気を。
共に狂ったこの瞬間を。
幸福だと感じていた。
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