3 / 59
01
03.報告、その1
しおりを挟む
「よぉ」
背後から急に声をかけられ、私はビクッと身を竦めた。 驚く私を見て、楽しそうに気配を消し近寄ってきたネコ科の大型獣を思わせる女は笑う。 婚約者であるマルスの同腹の妹マイルだ。
「気配を消して近寄らないでください」
冷静な素振りをするが、可笑しくてならないと女は笑う。
「アレ、放置しておいていいの?」
「良くないと思うなら、止めて下さいご兄妹でしょう」
「良くないと思わないから、と~めない」
きゃははっはと甲高い声で女は笑った。
「では、お願いしていた準備金の回収はどうなりましたか?」
「え~~、出来る訳ないだろう? 祝いだぜ、祝い、そりゃぁもう、飲めや歌えやの大騒ぎで、大盤振る舞いよ。 祝いの品に、祝いの酒、踊り子招いて酒池肉林を何日やったと思ってる」
「知りませんよそんな話」
「そりゃぁそうだろう。 アンタがその場にいて、興を削ぐような事をすれば理性を失くした酔っ払いたちに呆気なく殺されただろうからな。 兄貴がアンタに内緒にしていたのも、婚約者相手の気遣いと言う奴よ」
けらけら笑い、私の視線まで腰をまげて彼女は口元をニッとあげてこう続けた。
「まぁ、一応婚約者のアンタがいては、女遊びもままならないってのもあるがな。 厳しい事は言うが、兄貴は兄貴なりにアンタを愛しているからなぁ~」
飴と鞭……。
もっと、ずっと、幼い頃は鞭の部分が見えずに、そうか……彼は照れ屋なんだなとか思っていた日もあったものだ……だが!! 流石に、違う!! 違いますよね!! 私は強く言いたいが、今はもうこの立場に慣れ、関係に諦めていた……。
大地の民は、仲間意識が強く人情に篤く、頑強な体躯を持ち、その獣性に沿った強いこだわりを持つが、衝動的で本能的、大雑把で計画性がない。
やりたい事だけをしたい。
嫌な事はしたくない。
嫌な事をしなければいけない理由が分からない。
勝利する者が正しく、弱い者は間違い。
だから、彼等にとって私は何時だって間違いなのだ。
だけれど私は言わずにはいられない。
「良くないよね? エイマーズ領は皇帝陛下の慈悲によって大地の民の使用が認められている土地。 ここを追い出されれば、どんなに優秀な能力を持っていようと、皆肉体労働だよ? 酷ければ奴隷なんだよ?」
「そうならないように何とかするのがアンタの役目だろう」
高い背、鍛えられた筋肉、自信満々の黄金の髪の女性は、ニヤリと楽しそうに笑ってみせれば、私は深い溜息をついた。
「それで、皇帝の愛人を望んだと言うキャノと言う女性は?」
「親元に戻り引きこもってる」
マイルは肩を竦めて見せた。
キャノは美貌を売りとする第四部族の長の娘で、幼い頃から皇帝の愛妾になりたいと立候補し、皇都で教育を受けていた女性だ。 マルスが破った請求金額は莫大なものだろう事は容易に想像できる。
「皇帝は、とても見目が良いと聞くわ」
「あ~、まぁ、オレ等が見てもかなり良いな。 戦場で戦う時なんか、ゾクゾクするぞ」
私は肩を竦めて見せ、話を元に戻した。
「貴方達の性質上、強者であれば簡単に尻尾を振るわけでしょう? なら、どうして?」
「怖かったんだとさ」
私は首を傾げた。
「貴方達にとって、恐怖なんてご褒美でしょう?」
「あ~、なんだろう……。 例えばオレ達が好む強さは腕力だったり、頑強さだったり、素早さだったり、まぁそういうやつだが。 同じ強さでも魔導師は嫌いな訳よ。 コレって本能的なもので、どうしようもない」
「そう、なら……愛妾として迎える準備をする前に、親睦を深めておかなかった事が問題なのではありませんか? って、ところが責めどころかしら?」
「さっすが、兄嫁殿だ。 その調子で頼むわ!! オレは取りたての仕事に戻る。 用事があるなら夕食の時にでも言ってくれ」
そう言って彼女は去って行くが、窓枠を乗り越えた先に見えるのは、最近付き合い始めた男性。 今は仕事をする気は無いのだと言う事が、ありありと分かった。
「まぁ、仕事さえしてくれればソレでいいんだけど、全く調子がいいんだから」
背後から急に声をかけられ、私はビクッと身を竦めた。 驚く私を見て、楽しそうに気配を消し近寄ってきたネコ科の大型獣を思わせる女は笑う。 婚約者であるマルスの同腹の妹マイルだ。
「気配を消して近寄らないでください」
冷静な素振りをするが、可笑しくてならないと女は笑う。
「アレ、放置しておいていいの?」
「良くないと思うなら、止めて下さいご兄妹でしょう」
「良くないと思わないから、と~めない」
きゃははっはと甲高い声で女は笑った。
「では、お願いしていた準備金の回収はどうなりましたか?」
「え~~、出来る訳ないだろう? 祝いだぜ、祝い、そりゃぁもう、飲めや歌えやの大騒ぎで、大盤振る舞いよ。 祝いの品に、祝いの酒、踊り子招いて酒池肉林を何日やったと思ってる」
「知りませんよそんな話」
「そりゃぁそうだろう。 アンタがその場にいて、興を削ぐような事をすれば理性を失くした酔っ払いたちに呆気なく殺されただろうからな。 兄貴がアンタに内緒にしていたのも、婚約者相手の気遣いと言う奴よ」
けらけら笑い、私の視線まで腰をまげて彼女は口元をニッとあげてこう続けた。
「まぁ、一応婚約者のアンタがいては、女遊びもままならないってのもあるがな。 厳しい事は言うが、兄貴は兄貴なりにアンタを愛しているからなぁ~」
飴と鞭……。
もっと、ずっと、幼い頃は鞭の部分が見えずに、そうか……彼は照れ屋なんだなとか思っていた日もあったものだ……だが!! 流石に、違う!! 違いますよね!! 私は強く言いたいが、今はもうこの立場に慣れ、関係に諦めていた……。
大地の民は、仲間意識が強く人情に篤く、頑強な体躯を持ち、その獣性に沿った強いこだわりを持つが、衝動的で本能的、大雑把で計画性がない。
やりたい事だけをしたい。
嫌な事はしたくない。
嫌な事をしなければいけない理由が分からない。
勝利する者が正しく、弱い者は間違い。
だから、彼等にとって私は何時だって間違いなのだ。
だけれど私は言わずにはいられない。
「良くないよね? エイマーズ領は皇帝陛下の慈悲によって大地の民の使用が認められている土地。 ここを追い出されれば、どんなに優秀な能力を持っていようと、皆肉体労働だよ? 酷ければ奴隷なんだよ?」
「そうならないように何とかするのがアンタの役目だろう」
高い背、鍛えられた筋肉、自信満々の黄金の髪の女性は、ニヤリと楽しそうに笑ってみせれば、私は深い溜息をついた。
「それで、皇帝の愛人を望んだと言うキャノと言う女性は?」
「親元に戻り引きこもってる」
マイルは肩を竦めて見せた。
キャノは美貌を売りとする第四部族の長の娘で、幼い頃から皇帝の愛妾になりたいと立候補し、皇都で教育を受けていた女性だ。 マルスが破った請求金額は莫大なものだろう事は容易に想像できる。
「皇帝は、とても見目が良いと聞くわ」
「あ~、まぁ、オレ等が見てもかなり良いな。 戦場で戦う時なんか、ゾクゾクするぞ」
私は肩を竦めて見せ、話を元に戻した。
「貴方達の性質上、強者であれば簡単に尻尾を振るわけでしょう? なら、どうして?」
「怖かったんだとさ」
私は首を傾げた。
「貴方達にとって、恐怖なんてご褒美でしょう?」
「あ~、なんだろう……。 例えばオレ達が好む強さは腕力だったり、頑強さだったり、素早さだったり、まぁそういうやつだが。 同じ強さでも魔導師は嫌いな訳よ。 コレって本能的なもので、どうしようもない」
「そう、なら……愛妾として迎える準備をする前に、親睦を深めておかなかった事が問題なのではありませんか? って、ところが責めどころかしら?」
「さっすが、兄嫁殿だ。 その調子で頼むわ!! オレは取りたての仕事に戻る。 用事があるなら夕食の時にでも言ってくれ」
そう言って彼女は去って行くが、窓枠を乗り越えた先に見えるのは、最近付き合い始めた男性。 今は仕事をする気は無いのだと言う事が、ありありと分かった。
「まぁ、仕事さえしてくれればソレでいいんだけど、全く調子がいいんだから」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
927
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる