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04.今更出てくるな
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慰謝料は難癖つけて値引く事はできるだろうけれど、キャノが皇都にいた間の費用は回避できない……よね……。
どこまで交渉できるか……。 そもそも、愛妾付きの役人に何処まで権限を与えているか? マルスではないが、余りにも下っ端では値切り交渉をするだけの意味がない。
なんて考えていると、本人がやってきた。
「エリス殿!! 一体どうなっておるのですか!!」
マルスとのやり取りで怒りをため込んだのだろう。 声を荒げて開かれたままの扉をくぐり私に詰め寄ってきた。 まだ、交渉の方針すら決めていないのに、突然に来られては私も対応に困ると言うものだ。
「どう、とは?」
私は愛想笑いで誤魔化しながら、ソファを進めた。 焦りを隠すように、役人に背を向け、水で薄めた果実水をカップに注ぎながら冷静さを取り戻し、そしてカップをテーブルへと置いた。
役人は煽るように一気に飲み干し、そして良く潤った喉で再び怒鳴り始める。
しまった!! なんて思うが、流石にトウガラシ入りの水を出す訳にはいかない……まぁ、準備もしていないが……。
「大地の民の態度ですよ!! 世間では、奴隷と見られている民であるにも関わらず、陛下から向けられた慈悲を理解するどころか、対等だとでも言うかのような態度を取るとは何事ですか!!」
「申し訳ございませんが、ソレを理解できるようなら、大地の民の多くが奴隷となる事はなかったでしょう」
えぇ、考えなしなんです。
直情的なんです。
「むっ……まぁ、それはそうだが……、分かっておるのか? エイマーズ領の滞納税は、陛下の愛妾となられる方がいるからこそ待っていたに過ぎない。 彼等の態度は、戦をしかけたも同然なのですぞ」
痛いところをついてくるが、税に関しては支払えなかったのではなく支払わなかったのだから、どうにでもなるだろう。 税を支払うからと言うのを交渉材料に仕えますかねぇ?
そんな事を考えながらも私は予定していた言葉を告げる。
「正式な愛妾となる前に、関係性を構築しておかなかった事にも問題があるのではございませんか?」
「陛下にお会いできるまでの、礼儀が備わっていなかったためですぞ。 礼儀作法を身に着ける間もどれだけの費用が彼女にかけられたか、これをご覧くだされ」
分厚い費用請求の内訳書が提示された。
食費、住居費等はギリギリ却下出来るだろうが、ドレス、装飾品をはじめとする贅沢品は言い訳のしようがない。 だが、言い訳のしようもないものは、売れば多少の金銭が回収できる。 回収班を派遣しよう……なんて、私は色々と考える訳だ。
「随分と、甘やかしていたようですね。 この不必要な甘やかしをコチラの責任にされても困るのですが?」
「陛下にお仕えするのが使用人の務め、陛下の愛妾に相応しいレディには相応の礼儀作法、知性、品格、美貌が必要、みすぼらしい恰好をさせては陛下の格が下げられてしまいますからな。 陛下の愛妾となる方の!! 必要経費ですぞ」
私は溜息をつきながら、内訳書を眺めた。
「少し、お時間をいただけませんか? 私の一存で決められる範囲を超えております」
「時間ですか?」
ニヤリとした下卑た笑みが男の顔に浮かんでいた。
「はい……」
「まぁ、そうですなぁ、エリス殿の気持ち次第と言うところでしょうか?」
そう言いながら私の正面に座っていた役人の男は、私の横へと移動してくる。 大地の民にとっては、私は何の魅力も無い女だが、中庸の民の中には私の容姿は随分と好ましいらしいのだ。
触れ合うほどの距離に腰を下ろし、私の身体に役人が手をかけようとしたとき、資料室の奥から書類がバサバサと落下する音がした。
わざとらしく年若い男が顔をだす。
「あぁ、すみません。 邪魔をしてしまいましたね。 ですが、その言い方はどうなのでしょう? 明らかに職権乱用ですよね。 う~ん、同じ皇都から派遣された者同士仲良くしたかったのですが、これは余りよろしくありません。 残念ですが話し合いはいったん中止でしょうかねぇ?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!! 何、私はただ彼女に社会の厳しさを教えただけ、決して本気だった訳ではない!! 誰がこんなガキ相手に!!」
そんな事を言いながら逃げ出していった。
ペロリと舌を出した男は、政治、経済を不得意とするエイマーズ領のために、皇国が派遣してきた秘書官の1人だ。
「助かりました……」
「いえいえ、でも、なんだか大変な話になっていますね」
「えぇ、どうしましょう?」
「そうですねぇ……僕の任期もあと3月、一緒に僕と一緒に皇都に来るのはどうですか?」
「ぇ?」
「あはっははっは、冗談、冗談ですよ。 エリス様には立派な婚約者様がいられますもんね」
正直、本気で逃げ出したい金額なだけに頷きたいと思ったが、戸口には愛妾担当の役人と入れ違いにやってきたマルスの姿があって、なんとも気まずい思いをすれば、慌てた秘書官の男が書類を両手に抱えて、仕事に戻りますと逃げ去って行った。
不機嫌まるだしの嫌味たらしい口調で、マルスは言う。
「随分とお盛んのようだな」
どこまで交渉できるか……。 そもそも、愛妾付きの役人に何処まで権限を与えているか? マルスではないが、余りにも下っ端では値切り交渉をするだけの意味がない。
なんて考えていると、本人がやってきた。
「エリス殿!! 一体どうなっておるのですか!!」
マルスとのやり取りで怒りをため込んだのだろう。 声を荒げて開かれたままの扉をくぐり私に詰め寄ってきた。 まだ、交渉の方針すら決めていないのに、突然に来られては私も対応に困ると言うものだ。
「どう、とは?」
私は愛想笑いで誤魔化しながら、ソファを進めた。 焦りを隠すように、役人に背を向け、水で薄めた果実水をカップに注ぎながら冷静さを取り戻し、そしてカップをテーブルへと置いた。
役人は煽るように一気に飲み干し、そして良く潤った喉で再び怒鳴り始める。
しまった!! なんて思うが、流石にトウガラシ入りの水を出す訳にはいかない……まぁ、準備もしていないが……。
「大地の民の態度ですよ!! 世間では、奴隷と見られている民であるにも関わらず、陛下から向けられた慈悲を理解するどころか、対等だとでも言うかのような態度を取るとは何事ですか!!」
「申し訳ございませんが、ソレを理解できるようなら、大地の民の多くが奴隷となる事はなかったでしょう」
えぇ、考えなしなんです。
直情的なんです。
「むっ……まぁ、それはそうだが……、分かっておるのか? エイマーズ領の滞納税は、陛下の愛妾となられる方がいるからこそ待っていたに過ぎない。 彼等の態度は、戦をしかけたも同然なのですぞ」
痛いところをついてくるが、税に関しては支払えなかったのではなく支払わなかったのだから、どうにでもなるだろう。 税を支払うからと言うのを交渉材料に仕えますかねぇ?
そんな事を考えながらも私は予定していた言葉を告げる。
「正式な愛妾となる前に、関係性を構築しておかなかった事にも問題があるのではございませんか?」
「陛下にお会いできるまでの、礼儀が備わっていなかったためですぞ。 礼儀作法を身に着ける間もどれだけの費用が彼女にかけられたか、これをご覧くだされ」
分厚い費用請求の内訳書が提示された。
食費、住居費等はギリギリ却下出来るだろうが、ドレス、装飾品をはじめとする贅沢品は言い訳のしようがない。 だが、言い訳のしようもないものは、売れば多少の金銭が回収できる。 回収班を派遣しよう……なんて、私は色々と考える訳だ。
「随分と、甘やかしていたようですね。 この不必要な甘やかしをコチラの責任にされても困るのですが?」
「陛下にお仕えするのが使用人の務め、陛下の愛妾に相応しいレディには相応の礼儀作法、知性、品格、美貌が必要、みすぼらしい恰好をさせては陛下の格が下げられてしまいますからな。 陛下の愛妾となる方の!! 必要経費ですぞ」
私は溜息をつきながら、内訳書を眺めた。
「少し、お時間をいただけませんか? 私の一存で決められる範囲を超えております」
「時間ですか?」
ニヤリとした下卑た笑みが男の顔に浮かんでいた。
「はい……」
「まぁ、そうですなぁ、エリス殿の気持ち次第と言うところでしょうか?」
そう言いながら私の正面に座っていた役人の男は、私の横へと移動してくる。 大地の民にとっては、私は何の魅力も無い女だが、中庸の民の中には私の容姿は随分と好ましいらしいのだ。
触れ合うほどの距離に腰を下ろし、私の身体に役人が手をかけようとしたとき、資料室の奥から書類がバサバサと落下する音がした。
わざとらしく年若い男が顔をだす。
「あぁ、すみません。 邪魔をしてしまいましたね。 ですが、その言い方はどうなのでしょう? 明らかに職権乱用ですよね。 う~ん、同じ皇都から派遣された者同士仲良くしたかったのですが、これは余りよろしくありません。 残念ですが話し合いはいったん中止でしょうかねぇ?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!! 何、私はただ彼女に社会の厳しさを教えただけ、決して本気だった訳ではない!! 誰がこんなガキ相手に!!」
そんな事を言いながら逃げ出していった。
ペロリと舌を出した男は、政治、経済を不得意とするエイマーズ領のために、皇国が派遣してきた秘書官の1人だ。
「助かりました……」
「いえいえ、でも、なんだか大変な話になっていますね」
「えぇ、どうしましょう?」
「そうですねぇ……僕の任期もあと3月、一緒に僕と一緒に皇都に来るのはどうですか?」
「ぇ?」
「あはっははっは、冗談、冗談ですよ。 エリス様には立派な婚約者様がいられますもんね」
正直、本気で逃げ出したい金額なだけに頷きたいと思ったが、戸口には愛妾担当の役人と入れ違いにやってきたマルスの姿があって、なんとも気まずい思いをすれば、慌てた秘書官の男が書類を両手に抱えて、仕事に戻りますと逃げ去って行った。
不機嫌まるだしの嫌味たらしい口調で、マルスは言う。
「随分とお盛んのようだな」
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