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09.そして私は旅立った
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誘拐されるように連れていかれるのかな?
そう思えば少し困った。
母は歴史に名を遺すような魔導師で、翼持つ者が長命である事を活かして様々な便利魔法を生み出し中庸の民たちに与えて来た。 そんな母が残した財産と言う物が存在している。
「この後、どうするんですか? 持って行きたい荷物があるんですけど」
と、言ってから少し後悔した。
母が、中庸の民はとても恐ろしいと、何でも器用にこなし、多くの物を作り出す。 1代で作れないなら2代、3代と世代をまたぎ作り続ける、その精神性が怖いと……。 彼等に与えた母の魔法は、中庸の民にも使いやすいよう簡易化され、そして攻撃魔法として改造されたのだと……。
中庸の民は、大地の民ほど単純ではないの……もし、関わる事になるなら、気を許してはダメよ。 そう言われて育ったのだ。
母の遺産は、ここに隠していくのが良いかもしれない……。 持って行くと悪用されるかも……そんな不安が胸を覆ったが、
「そんな不安そうにしないで。 私、真面目で可愛くて素直な子には優しいから」
「……自分で自分を優しいって言う人は、余りあてにならないと思います……」
「あら、本当ね……。 でも、私、マジ優しいから」
そう言ってウィンクされた。 反応に困っていると、部下の人がたしなめてくれて話が変えられた。
「そうそう、コレからの事ね。 持って行きたいモノもあるだろうから、小鳥ちゃんは荷物をまとめておいて、その間に私はもう少しだけ仕事をしてくるから。 準備が終わったら皇都に向かうのだけど、それで、小鳥ちゃんが陛下に合わせても大丈夫だと分かれば、陛下に面会することになるわ」
「あ、愛妾として?」
「……あ~、ソレ……ね。 そう……貴方は本当に翼持つ者なのかな?」
ためらいがちに頷き、羽根をバサリと開いて見せた。
「そう、そっかぁ……これは、幸運だわ。 陛下は少しだけ変わった病気にかかっていて、生命力が必要なの。 それで、大地の民に助けを求めようと思っていたのよ」
「助け?」
私は首を傾げる。
何処をどう思い出しても、助けを求めるような態度には思えなかった。 まぁ、愛妾として立候補したキャノには贅沢をさせていたみたいだけど……。
「キャノはダメだったの?」
「性格がアレだと生命力もねぇ……。 それに陛下が病気だと知ったら、何をしだすか分からないような子だったし」
「えっと、それは、私が知っても良かったのかな?」
「良いのよ。 小鳥ちゃんも秘密を教えてくれたでしょ。 あぁ、でも陛下の秘密で、私の秘密ではないから、小鳥ちゃんも心配ね。 そうね、小鳥ちゃんには私のスリーサイズを教えてあげる」
「いらない」
被せ気味に言ってみた。
「あら、つれないんだから。 なら、お兄さんに聞きたい事はない?」
「お兄さんなの? どうしてお兄さんなのに、お姉さんみたいなの?」
「それはねぇ、可愛い女の子が大好きだからよぉおお!! あぁああああ、可愛い、可愛い、小鳥ちゃん可愛い」
お兄さんは無表情な私を嬉々として撫で転がす。
母様……これも母様が言っていた中庸の者の怖いところでしょうか? 私は困惑と共に亡き母に問うのだった……。
「ナルサス様……」
部下の人がたしなめるように声をかければ、撫でる手が止められ、私はホッと息をつく。 人間怖い……。 怖いけど、なんか思っていたのと違う気がした。
本音を言えばエイマーズ領から離れるのは、凄く心細かった。 あんなんだけど、マルスとは兄妹のように育ったのは事実だし、一応、秘密を隠し、そしてかばってもらっていた。 まぁ、台無しにされたんだけど。
だ、大丈夫かな、私。
「それで、何の話だったかしら?」
首を傾げるナルサスさん。
私も一緒になって首を傾げた。
「陛下の病の話と、助力を願いたいと言う話です」
「あぁ、そうそう、そうだったわね。 本当なら、今回のこのドサクサに紛れて、陛下が負担なく摂取できる生命力の持ち主を何名か連れて帰る予定だったの。 今回色々とやらかしてくれたし、まぁ多少の無茶は聞くでしょうからね。 小鳥ちゃんのおかげで、手間は省けたのだけど。 せっかくだから未納税を受け取って、あと、お馬鹿さんの身ぐるみを剥いで、あと、可愛いくて性格が良くて、優秀な子がいたら連れて帰るのもいいわねぇ~」
「な、る、さ、す、様!!」
「あら、ごめんなさい。 そうね。 陛下は、発作中でなければ優しい方よ。 発作で苦しんでいる時は、まぁ、誰でもイライラしたり、乱暴になったりするものでしょ? でも、本当に良い……いいえ、可哀そうな方なの。 だから、お願い、羽根の1.2枚でいいから、力になって頂戴」
「はね、でいいなら……」
ボソリと私は言う。
血肉は痛そうだから嫌だし、
「ぁ、でも、私未だ、幼体だから毒かも?」
「あら……そうなの? どれぐらいで大人になるものなのかしら?」
「さぁ? 幼体で困った事はないので」
「まぁ、陛下に接種いただく前には、毒の検査もしましょう。 あとやっぱり何人か連れて帰りましょう。 色々と利子もあるから」
なんか……扱いがアレだなぁ……と、私はかつての仲間に語られる言葉を黙って聞き流していた。
翌日、私はエイマーズ領を後にする。
未練はない……。
うん、全くない。
なのに、
「俺が悪かった。 エリス、行かないでくれ!!」
なんてマルスが縋ってきたが、まぁ……残る訳ないよね? だって、私、キャノの浪費と慰謝料の対価として売られたんだし?
「馬鹿じゃないの?」
それが、私がマルスにかけた最後の言葉……になるだろう。
そう思えば少し困った。
母は歴史に名を遺すような魔導師で、翼持つ者が長命である事を活かして様々な便利魔法を生み出し中庸の民たちに与えて来た。 そんな母が残した財産と言う物が存在している。
「この後、どうするんですか? 持って行きたい荷物があるんですけど」
と、言ってから少し後悔した。
母が、中庸の民はとても恐ろしいと、何でも器用にこなし、多くの物を作り出す。 1代で作れないなら2代、3代と世代をまたぎ作り続ける、その精神性が怖いと……。 彼等に与えた母の魔法は、中庸の民にも使いやすいよう簡易化され、そして攻撃魔法として改造されたのだと……。
中庸の民は、大地の民ほど単純ではないの……もし、関わる事になるなら、気を許してはダメよ。 そう言われて育ったのだ。
母の遺産は、ここに隠していくのが良いかもしれない……。 持って行くと悪用されるかも……そんな不安が胸を覆ったが、
「そんな不安そうにしないで。 私、真面目で可愛くて素直な子には優しいから」
「……自分で自分を優しいって言う人は、余りあてにならないと思います……」
「あら、本当ね……。 でも、私、マジ優しいから」
そう言ってウィンクされた。 反応に困っていると、部下の人がたしなめてくれて話が変えられた。
「そうそう、コレからの事ね。 持って行きたいモノもあるだろうから、小鳥ちゃんは荷物をまとめておいて、その間に私はもう少しだけ仕事をしてくるから。 準備が終わったら皇都に向かうのだけど、それで、小鳥ちゃんが陛下に合わせても大丈夫だと分かれば、陛下に面会することになるわ」
「あ、愛妾として?」
「……あ~、ソレ……ね。 そう……貴方は本当に翼持つ者なのかな?」
ためらいがちに頷き、羽根をバサリと開いて見せた。
「そう、そっかぁ……これは、幸運だわ。 陛下は少しだけ変わった病気にかかっていて、生命力が必要なの。 それで、大地の民に助けを求めようと思っていたのよ」
「助け?」
私は首を傾げる。
何処をどう思い出しても、助けを求めるような態度には思えなかった。 まぁ、愛妾として立候補したキャノには贅沢をさせていたみたいだけど……。
「キャノはダメだったの?」
「性格がアレだと生命力もねぇ……。 それに陛下が病気だと知ったら、何をしだすか分からないような子だったし」
「えっと、それは、私が知っても良かったのかな?」
「良いのよ。 小鳥ちゃんも秘密を教えてくれたでしょ。 あぁ、でも陛下の秘密で、私の秘密ではないから、小鳥ちゃんも心配ね。 そうね、小鳥ちゃんには私のスリーサイズを教えてあげる」
「いらない」
被せ気味に言ってみた。
「あら、つれないんだから。 なら、お兄さんに聞きたい事はない?」
「お兄さんなの? どうしてお兄さんなのに、お姉さんみたいなの?」
「それはねぇ、可愛い女の子が大好きだからよぉおお!! あぁああああ、可愛い、可愛い、小鳥ちゃん可愛い」
お兄さんは無表情な私を嬉々として撫で転がす。
母様……これも母様が言っていた中庸の者の怖いところでしょうか? 私は困惑と共に亡き母に問うのだった……。
「ナルサス様……」
部下の人がたしなめるように声をかければ、撫でる手が止められ、私はホッと息をつく。 人間怖い……。 怖いけど、なんか思っていたのと違う気がした。
本音を言えばエイマーズ領から離れるのは、凄く心細かった。 あんなんだけど、マルスとは兄妹のように育ったのは事実だし、一応、秘密を隠し、そしてかばってもらっていた。 まぁ、台無しにされたんだけど。
だ、大丈夫かな、私。
「それで、何の話だったかしら?」
首を傾げるナルサスさん。
私も一緒になって首を傾げた。
「陛下の病の話と、助力を願いたいと言う話です」
「あぁ、そうそう、そうだったわね。 本当なら、今回のこのドサクサに紛れて、陛下が負担なく摂取できる生命力の持ち主を何名か連れて帰る予定だったの。 今回色々とやらかしてくれたし、まぁ多少の無茶は聞くでしょうからね。 小鳥ちゃんのおかげで、手間は省けたのだけど。 せっかくだから未納税を受け取って、あと、お馬鹿さんの身ぐるみを剥いで、あと、可愛いくて性格が良くて、優秀な子がいたら連れて帰るのもいいわねぇ~」
「な、る、さ、す、様!!」
「あら、ごめんなさい。 そうね。 陛下は、発作中でなければ優しい方よ。 発作で苦しんでいる時は、まぁ、誰でもイライラしたり、乱暴になったりするものでしょ? でも、本当に良い……いいえ、可哀そうな方なの。 だから、お願い、羽根の1.2枚でいいから、力になって頂戴」
「はね、でいいなら……」
ボソリと私は言う。
血肉は痛そうだから嫌だし、
「ぁ、でも、私未だ、幼体だから毒かも?」
「あら……そうなの? どれぐらいで大人になるものなのかしら?」
「さぁ? 幼体で困った事はないので」
「まぁ、陛下に接種いただく前には、毒の検査もしましょう。 あとやっぱり何人か連れて帰りましょう。 色々と利子もあるから」
なんか……扱いがアレだなぁ……と、私はかつての仲間に語られる言葉を黙って聞き流していた。
翌日、私はエイマーズ領を後にする。
未練はない……。
うん、全くない。
なのに、
「俺が悪かった。 エリス、行かないでくれ!!」
なんてマルスが縋ってきたが、まぁ……残る訳ないよね? だって、私、キャノの浪費と慰謝料の対価として売られたんだし?
「馬鹿じゃないの?」
それが、私がマルスにかけた最後の言葉……になるだろう。
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