【R18】婚約者がとんでもない女を運命のツガイだといいました。 そして私は運命に出会う。【完結】

迷い人

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19.皇帝陛下 02

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【彼は、本当に中庸の者なのか? 翼ある者なのか? だからと言って大地の者でない事だけは理解できる。 アナタは何者だ?】

 皇帝陛下に対してこのように言うのはどうなのだろうか?
 いや、声に出さなければ許されるだろう。

 生き物には『生命エネルギー』と呼ばれる3つのエネルギーを持つ。

 生きるための力、肉体を活かす『生体エネルギー』
 心を生かすための『精神エネルギー』
 人の個性を作り出す『魔力エネルギー』

 皇帝陛下からはソレが感じられなかった。
 皇帝陛下はどういう原理で動いているのだろう?

 私には疑問でしかなくて、彼の放つ腐敗臭、死臭、悪臭、そんな匂いが気にならなくなるほどに、彼自身のことが気になった。

 何も聞けなかった。

 アナタは生きているのですか?

 アナタは死んでいるのですか?



 この世界には、生命の理から外れた存在がある。



 人の屍を食らう【死食鬼】

 その発生理由は、彼等の先祖が人を食らい続けたことにある。 人と同じように食事は出来るが、人と同じような食事では生きる事が出来ない。 脳がスポンジのようにスカスカとなり、精神崩壊を起こす。生きるための栄養を摂取するためには、彼等の先祖がそうしたように死体を食べ続けるしかない。


 人の発するエネルギーを食らう肉体を持たぬ【ゴースト】

 肉体を活かすための生命エネルギーが尽きた後も、強い精神エネルギーが維持された場合に発生。 大抵は強い願いを持っており、ソレが叶うまでは存在し続ける。


 人の発するエネルギーを食らい人と同じ形を維持する【生食鬼】

 上位種と呼ばれる力の強い存在を食べた時、その上位種の呪いによって生まれる生物。 自然界のルールから外れ、死そのものになることで、死を超越する存在となる。 人を食らう事で人の姿を維持できるが、常にエネルギーを摂取しなければ、身体が腐敗し崩壊してしまう。 人としての意識や人格を持つからこそ、耐えがたい空腹、身近な者であるほど食べたいと感じる欲求に、精神が破壊され自滅する者も少なくはない。 だが、少なくないと言うだけで、大半は空腹に正気を失い、空腹を満たそうと生き物を襲いつづける。 もし、食事を行わず肉体が朽ち落ちた場合であっても、ゴーストとして永遠にさまよい続ける事になる。

 まさか……と思った。

 生食鬼に変化させるほどの力ある上位種は、翼ある者が全盛期である時であっても多くはなかったのだと母の残した知識の内に存在していた。 なら、この生き物は何だと言うんだ?

「陛下は……上位種を食べたのですか?」

 一人考えるよりも聞く方が良いだろう。

 目の前のブニブニに膨れ上がっている男は、首を横に振りながら告げる。

「食ってなど無い」

「エリス様」

 悲痛な声でモイラが声をかけ、手を握ってきた。

「すみません、色々と考えこむ癖がありまして」

 死食鬼は大きな問題はない。 食べるのは死んだ人間だから、栄養はとりやすい。 既に人としての自我はなく、屍があれば屍を食らうが、屍がなければ生者を殺し屍を作ると言う危険な存在。 大概は、墓守等に身をやつし上手く隠れて生きているものだという。

 ゴーストは人を殺さない。 死の気配に人を病に落とす場合はあるし、倦怠感で動けなくさせることもあるが、殺しをするほどの力はないとされる。

 問題は生食鬼である。

 生食鬼が存在し続けるには、生きた者を食らい続けなけれならない。

 一時、神に近しい存在への進化を求め、上位種を食べた者が数多くいたが、念願通り力を得たとしても、命を食らわなければ自らの肉体が朽ちていくのだ。 命を食らわなくても死ぬことは無いが、肉体が朽ち果てれば化け物として退治されてしまう。

 私は首を横にフルフルと振って見せた。

 とりあえず、会話を求められている状況なのだから、思考は止めてしまおう。



 視線を上げれば、誰もが自分の方を向いていた。

「えっと?」

「何か、言いたい事があるんじゃないのかしら?」

 ナルサスが私に祈るような表情と共に問うてきた。

「言いたいこと? 聞きたいこと?」

「どちらでも……」

「そうですねぇ……、その見慣れない光沢をもつ服は、どのような素材で作られているのですか? 布に樹液で光沢を出しているのでしょうか?」

 私の質問に答えたのはモイラだった。

「それは南方の研究施設で生み出された化石燃料を素材とした布地です」

「へぇ、ソレを着ている理由は、軽いから? それともよく伸びるから?」

「後者です。 浸透性が低く、あの布地は水を吸い込まない性質を持っておりますから」

「それは……凄いですね」

「まだ研究途中ですが、陛下の体質上、必要となるため取り寄せております」

「南方といえば5年前の進軍はソレを手に入れるため?」

「そうではありませんよ。 ただ5年前、陛下の影武者が女性を斡旋されて子を身ごもらせられました。 その賠償と責任を要求されたため、根本的な解決を行ったに過ぎませんよ」

「そんなの影武者に責任をとらせればいいのに」

「すぐに代替えが用意できたならねソレで済んだのよ、でも、その影武者だけど……その……皇妃様の寵愛を受けた愛人だったの……」

 余りにもナルサスが言い難そうにいうから本当なんだなと思えて、思わず私は笑ってしまった。

 確かに、陛下が影武者で、それが皇妃様の愛人なら、ヤバイよねぇ……。 陛下自身は負い目があって追及はしていないし……多分、皇妃様を愛して等いないよね? でなければ、精神的に破壊されていただろう。

「陛下、よろしければその新素材、見せて頂いていいですか?」

「え、エリス様、何をおっしゃっているのですか!!」

「小鳥ちゃん?!」

 慌てるモイラとナルサス。

「すぐに陛下の衣装のスペアをお持ちさせましょう」

「いいよ、陛下から借りるから」

「い、いえ、それは」

 私は立ち上がり、テーブルを回り込んで陛下の隣にストンと座って見せた。 嗅覚、鼻と口から感じる匂いは麻痺しているが、死の気配は風のように揺らめきながら、私の精神を意味もなく削っていく。 エネルギー摂取のためではなく、私に近づくなと威嚇するかのように。

 相手が拒絶する暇を与えることなく、私は陛下であろう人物の手をとる。 液体を浸透させない手袋はパンパンに膨れ上がっていた。 素材を確認することを目的に近寄ったものの、本当は触れる事に大きな抵抗があったことは秘密である。

 好奇心よ!!
 今こそ、その知識欲によって人を救え!

 なんて、人の手を取るだけで言うべきことだろうか? 私はうつむき隠れて笑いながら、手をとってみたのだ。 陛下は、私の行為から逃げ出すだろうと考えていたが、そうすることはなく、なんだかモジモジとしているようにすら感じた。

 手を撫でるようにすれば、手袋はつるつるとしていて、素材は思ったよりも薄い作りだ。

「触れると痛いですか?」

「いや……」

「手袋をとってもいいですか?」

 返事をもらうまで凄く長い沈黙が流れた。
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