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20.皇帝陛下 03
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深い溜息のように空気の漏れる音。
何しろ陛下の声は、空洞を風が通る事で音を鈍く鳴らしているだけなのだから、溜息も声も余り多くは変わらない。
「好きにするがいい」
「ありがとうございます」
ニッコリと笑って見せた。
手袋の口部分に指をかけようとしたが、かなり長く作られているらしく、上着を捲り上げる必要がある。 シャツの肘ぐらいまで長い手袋を下ろそうとすれば腕部分に触れた。 袖の中といえば、マグマのようにボコボコとし湧き出し、柔らかな肉が蠢くかのような感じでイボ蛙を想像させる。
手袋の口は多分大きく伸び切り、膿を内包した皮? 肉? を締め付けている。 ソレを外そうとすれば、強引な引き締めを失った肉の塊がズルリと下方向へと移動した。
なるほど……腫れあがっているとかではなく、既に人体から切り離されているようだ。 そんな風に考えれば、次に興味がわいてくるのが、この切り離された肉は死んでいるのだから、死食鬼に食べさせたらどうなるのだろうか? と。
クスクスと自分のくだらない考えに笑ってしまえば、モイラが困った顔をした。
「エリス様?」
「ゴメンナサイ。 ちょっとくだらない事を考えてしまったの」
クスクスと言う笑いは小馬鹿にした印象を周囲に与えてしまったかと焦ったが、ナルサスとモイラもそういう風に受け取っていないらしい。 ただただ困惑している。 多分、手を私に預けたままの陛下も、身動きとらぬ状態を考えれば、そうなのだろう。
「痛みは、ないんですよね?」
もう一度確認をした。
「あぁ」
そして私は一気に手袋を引き下ろした。 ボタボタと手袋を取った瞬間に、腕から腐った肉が固まりとなり液体となり落ちていった。 白い布が薄汚く色を変えていく。 そして腕の方と言えば、再生と腐敗が激しく繰り返されている。
「う~ん」
「どうか、したのかしら……小鳥ちゃん」
怯えたような風にも感じるナルサスの声。
「この素材は本当に浸透性が低いのですね。 雨具などに使えそうです」
「「はっ?」」
ナルサスとモイラが困惑の声を漏らし、そして陛下は変な音を発した、音の刻まれ具合から言えば、多分笑っているのだろう。
「そこまで研究は進んでいる訳ではない」
くぐもった声で返事がなされた。
「そうなんだ、ざ~んねん。 面白そうなのに。 で、陛下、最近の食事はいつ、どんなものをなされました」
私の質問に、室内が静まり返った。
陛下の動揺は分かりやすく、そこに何かを飼っているのでは? と思えるような、闇色の影が揺らめいていた。 なので、私は一人で話し続けることにする。
「私は知識を求める翼ある者の血が濃いんですよ。 それもかなり純血に近く、母の死の直前に知識継承も行っています。 流石に生まれて18年なので、経験も未熟……ちょ、なんで年齢でビックリしているんですか!!」
私は「ぇ?」と声に出さず表情で表したナルサスとモイラに突っ込んだ。
「いえ、その、13~16歳程度かと……」
13~16と言うふり幅の大きさに変な気づかいを感じるのが切ない。
「18!! 18なんです!! まぁ、ただ幼体だから小ぶり……なんだと思う……。えぇ、成長自体はユックリなんですけど」
「……」
もうこの話は辞めよう。
「で!?」
陛下に視線を向けたが返事をもらえそうになく、モイラへと視線を向けた。
「寝起きに罪人を1人」
「帝都内で、性犯罪を繰り返していた罪人でございます」
「ふぅん、それは食事上の好み?」
「そんな訳ありません!! 陛下は食事事態疎んでおいでですから。 自然とその食事は罪人に偏るわけでございます」
「モイラ……」
ナルサスが、静かに止めた。
「ぁ、申し訳ありません……」
「年老いた者、罪人それで食事をすませようとするなら、5.6人は食べたほうがいいと思う。 そうすれば腐敗よりも再生の方が勝つと思うから」
私の言葉にギョッとした様子を向けられる。 陛下からは明らかに怒りが向けられていた。 私は早口で次の言葉を紡いだ。
「そういう意味では、大地の民を標的にしたのなら、それは正しい選択だと思うわ。 あと、キャノを帰らせたのも、良かったかも?」
陛下を見れば、皇妃様付き侍女の言葉も理解できてしまう。
私は自分の着ている服の袖を千切り取ろうとしたが……生憎と私には腕力はないのだ。 スカートを捲り上げ、テーブルの上の果物ナイフで薄く太ももを傷つけた。 なぜ太ももかと言えば、肉が分厚い分痛みが少ないかな? と言う些細な理由。 ちなみに痛みの比較をしようという気はない。
獣は痛みに強く、その因子を持つ者もまた強いと言われるけれど、強いと言うのと傷や痛みに対して恐怖が無いと言うのは別なのだ。
太ももから足先に流れる血。
「黄金の……血?」
ボソリとした呟きはナルサスのもの、モイラは私の自傷行為に慌てて治療道具を取りに行こうと部屋の扉へと向かっていた。
「構わないよ。 だって、私は治癒力も高いもの」
そうモイラに背を向けたまま言いながら、私はテーブルの上に座りこみ陛下に足を差し出した。
「どうぞ、お舐めなさいな」
これは好奇心だ。
そして、高い地位を持っているにもかかわらず、弱い立場にある者への嗜虐的な感情。
ふるふると震えているのが分かる。 理性と本能との間で争っているのだろう。 だが、それも長くは続くまい。 黄金色に輝く血は、長く放置すれそこに含まれた生体エネルギーや魔力エネルギーは、蒸発し赤いただの血液へと変化するのだから。
「いらないの?」
私は自分の血を指先で拭いとり、自分の唇をなぞった。
その瞬間、陛下の理性は決壊した。
何しろ陛下の声は、空洞を風が通る事で音を鈍く鳴らしているだけなのだから、溜息も声も余り多くは変わらない。
「好きにするがいい」
「ありがとうございます」
ニッコリと笑って見せた。
手袋の口部分に指をかけようとしたが、かなり長く作られているらしく、上着を捲り上げる必要がある。 シャツの肘ぐらいまで長い手袋を下ろそうとすれば腕部分に触れた。 袖の中といえば、マグマのようにボコボコとし湧き出し、柔らかな肉が蠢くかのような感じでイボ蛙を想像させる。
手袋の口は多分大きく伸び切り、膿を内包した皮? 肉? を締め付けている。 ソレを外そうとすれば、強引な引き締めを失った肉の塊がズルリと下方向へと移動した。
なるほど……腫れあがっているとかではなく、既に人体から切り離されているようだ。 そんな風に考えれば、次に興味がわいてくるのが、この切り離された肉は死んでいるのだから、死食鬼に食べさせたらどうなるのだろうか? と。
クスクスと自分のくだらない考えに笑ってしまえば、モイラが困った顔をした。
「エリス様?」
「ゴメンナサイ。 ちょっとくだらない事を考えてしまったの」
クスクスと言う笑いは小馬鹿にした印象を周囲に与えてしまったかと焦ったが、ナルサスとモイラもそういう風に受け取っていないらしい。 ただただ困惑している。 多分、手を私に預けたままの陛下も、身動きとらぬ状態を考えれば、そうなのだろう。
「痛みは、ないんですよね?」
もう一度確認をした。
「あぁ」
そして私は一気に手袋を引き下ろした。 ボタボタと手袋を取った瞬間に、腕から腐った肉が固まりとなり液体となり落ちていった。 白い布が薄汚く色を変えていく。 そして腕の方と言えば、再生と腐敗が激しく繰り返されている。
「う~ん」
「どうか、したのかしら……小鳥ちゃん」
怯えたような風にも感じるナルサスの声。
「この素材は本当に浸透性が低いのですね。 雨具などに使えそうです」
「「はっ?」」
ナルサスとモイラが困惑の声を漏らし、そして陛下は変な音を発した、音の刻まれ具合から言えば、多分笑っているのだろう。
「そこまで研究は進んでいる訳ではない」
くぐもった声で返事がなされた。
「そうなんだ、ざ~んねん。 面白そうなのに。 で、陛下、最近の食事はいつ、どんなものをなされました」
私の質問に、室内が静まり返った。
陛下の動揺は分かりやすく、そこに何かを飼っているのでは? と思えるような、闇色の影が揺らめいていた。 なので、私は一人で話し続けることにする。
「私は知識を求める翼ある者の血が濃いんですよ。 それもかなり純血に近く、母の死の直前に知識継承も行っています。 流石に生まれて18年なので、経験も未熟……ちょ、なんで年齢でビックリしているんですか!!」
私は「ぇ?」と声に出さず表情で表したナルサスとモイラに突っ込んだ。
「いえ、その、13~16歳程度かと……」
13~16と言うふり幅の大きさに変な気づかいを感じるのが切ない。
「18!! 18なんです!! まぁ、ただ幼体だから小ぶり……なんだと思う……。えぇ、成長自体はユックリなんですけど」
「……」
もうこの話は辞めよう。
「で!?」
陛下に視線を向けたが返事をもらえそうになく、モイラへと視線を向けた。
「寝起きに罪人を1人」
「帝都内で、性犯罪を繰り返していた罪人でございます」
「ふぅん、それは食事上の好み?」
「そんな訳ありません!! 陛下は食事事態疎んでおいでですから。 自然とその食事は罪人に偏るわけでございます」
「モイラ……」
ナルサスが、静かに止めた。
「ぁ、申し訳ありません……」
「年老いた者、罪人それで食事をすませようとするなら、5.6人は食べたほうがいいと思う。 そうすれば腐敗よりも再生の方が勝つと思うから」
私の言葉にギョッとした様子を向けられる。 陛下からは明らかに怒りが向けられていた。 私は早口で次の言葉を紡いだ。
「そういう意味では、大地の民を標的にしたのなら、それは正しい選択だと思うわ。 あと、キャノを帰らせたのも、良かったかも?」
陛下を見れば、皇妃様付き侍女の言葉も理解できてしまう。
私は自分の着ている服の袖を千切り取ろうとしたが……生憎と私には腕力はないのだ。 スカートを捲り上げ、テーブルの上の果物ナイフで薄く太ももを傷つけた。 なぜ太ももかと言えば、肉が分厚い分痛みが少ないかな? と言う些細な理由。 ちなみに痛みの比較をしようという気はない。
獣は痛みに強く、その因子を持つ者もまた強いと言われるけれど、強いと言うのと傷や痛みに対して恐怖が無いと言うのは別なのだ。
太ももから足先に流れる血。
「黄金の……血?」
ボソリとした呟きはナルサスのもの、モイラは私の自傷行為に慌てて治療道具を取りに行こうと部屋の扉へと向かっていた。
「構わないよ。 だって、私は治癒力も高いもの」
そうモイラに背を向けたまま言いながら、私はテーブルの上に座りこみ陛下に足を差し出した。
「どうぞ、お舐めなさいな」
これは好奇心だ。
そして、高い地位を持っているにもかかわらず、弱い立場にある者への嗜虐的な感情。
ふるふると震えているのが分かる。 理性と本能との間で争っているのだろう。 だが、それも長くは続くまい。 黄金色に輝く血は、長く放置すれそこに含まれた生体エネルギーや魔力エネルギーは、蒸発し赤いただの血液へと変化するのだから。
「いらないの?」
私は自分の血を指先で拭いとり、自分の唇をなぞった。
その瞬間、陛下の理性は決壊した。
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