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37.新米化け物の取り扱いとは? 03
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明るい月が照らす夜。
死の印象が強い森の中では、オゾマシイ咆哮が響き渡った。
「ウルサイですよ。 私のカワイイおチビちゃんを寝不足にするつもり?」
現れたのは絶世の美女。
長い艶のある黒髪に青白い肌、赤く色香漂う唇から漏れる声は、欲情を誘う。 挙句、惜しげも無く肌を晒すナイトドレスは、身体に密着しそのスタイルの良さを際立たせていた。
侍女や使用人達の視線が、一斉に美女へと集まれば全員が思った。
誰?!
気持ちが分かるし、同情もするが、正直面白かったと言うのが本音。 ぴっ、ちちっと、小さく笑うように鳴くと、甘く蕩けそうな声で彼女(?)は、言う。
「起こしてしまったようですね。 おチビちゃん」
「これで眠っていられるほど、鈍感ではないよ」
胸の隙間から顔を出した時に見せた周囲の顔は、そりゃぁ素晴らしいものでしたとも。 まぁ、私だって自分の主が性別不詳だと知れば、驚くと思うから驚く人達を責める気はない。
「陛下、まだそのような恰好をしておいでだったのね……と言うか、悪化してるわよねぇ?」
ガックリしながらも、色香増し増しの主にナルサスは声を荒げた。 侍女や使用人は説明を求めるようにナルサスを見、そして陛下の個人秘書であるヘイシオはモイラを見た。 だが、いずれも視線をそらし冷や汗を垂らすだけ。
「陛下、随分と皆さん、驚いているみたいね」
私は楽しくて笑う。
「おかしな事ですよね。 以前の姿の方が余程驚くべき姿だと思うのですが?」
そう言いながら笑って見せるのだから、分かって言っているのだろう。 何が? って、彼等が敬意を抱いていたのは化け物である陛下だったと言うこと。
陛下は化け物である。
そんな当たり前が変化し、思考がついていかなくなったらしい。
でも私は思うのよ。 性別を変えるほどの力を惜しみなく見せつける今の方が化け物よね? 人型の腐れガエルのような姿は、醜くオゾマシく、どこまでも哀れで、それは本当の恐怖とは違う。 ただ……悲哀が漂うだけ。
生食鬼へと転じた者達は、陛下に恐れ、胸の谷間にいる私に羨望のまなざしを向けていた。 ようするに恐怖に食欲が勝つ的な?
「非常に不愉快ですね」
陛下の視線が冷ややかに、醜い異形へと向けられ……そして私は胸の間に押し込められた……。 相変わらずこの扱いが……と言うか、女の私よりも立派なお胸ってどういうことよ!! わさわさすれば、
「擽ったいから止めて下さい」
溜息交じりの穏やかな声で言われた。 異形へ向ける声と私に向ける声の変化は、まるで顔が2つあるかのようなほどに違う。
「おチビちゃん」
「何?」
呼ばれて顔を出せば埋められる。
おいコラ!! なんて思うが顔は出さない。 だって、同じ事を繰り返しても話は進まないし? それなら何か美味しい物をおねだりしたほうが良いや。
「で、何よ」
「おチビちゃんは、母君からの記憶を受け継いでいるのですよね」
「まぁ……ソレは……。 ただ、知っている事と出来る事は別ですけど?」
「では……」
陛下が言うのは、異形としての核となっている上位種に干渉できないかと言うもの。
「無理です……既に、命の中枢となっているから」
「そうですか。 では、こういう方法は?」
陛下が提示したのは、生食鬼と相対した時、普通であれば核を壊し殺害するが、未だ芽吹いたばかりの核であれば封じる事が出来るのではないか? と言うもの。
「封じたら、死にません?」
心臓を止めるようなものだ。
「ですから、成長を封じるのです」
母が綿々と受け継ぎ、私が受け継いだ記憶の中には、生食鬼の核を研究したものもある。
「私には理解不能なんで、情報を其方に流します」
「それは、どのように?」
私は記憶を込めた羽根を抜いて陛下に渡す。 別に羽根でなくても血でも、肉でも、問題はないけれど、小さな体でソレをやるのは危険だから。 そして私は、羽根を提供すると共にまた意識を落としてしまった。
「おや、眠ってしまったようですね」
指先で動かぬ柔らかな小鳥に触れて微かに笑い、そしてカイル・ガリウス・アドラムは、渡された羽根を食べた。 恍惚とした表情に誰もが見とれ、時には力なく足元から崩れるものも出たくらいである。
そして転じたばかりの化け物は、その至高を得ただろう存在に憎しみを覚え、押さえつけている者達を跳ね除けカイルに襲い掛かった。
カイルは襲い来る異形達に、ユックリとした動作で手を伸ばし、彼等を異形としている核へと触れる。
「あぁ」
憂いを帯びた声。
「……死んでしまいましたか……失敗ですね。 ですが、実験には十分の数です」
襲い来る異形の核に触れて、力を放つ。 柔らかな真綿のような闇の力を注ぎ込む。 それがどれほどの力があるのか、次の瞬間には人形のように地面に崩れ落ちていく。
結局、残ったのは2人だけだった。
小さな米粒ぐらいの核から胚を取り出すような行為である。
「まぁ、十分でしょう。 忠誠を誓うなら、私の血を分けましょう」
「ぁ、あああああああ」
獣は呻く。
「お、ひ……さ、ま」
「ふっふふふ、良い目をしていますね。 ですが、この子は渡しませんよ。 私の血で我慢なさい」
指先を爪で切れば、銀色の血がポトリと落ちる。
最初、カイル・ガリウス・アドラムが、エリスに聞かれた言葉。
上位種を食べた?
カイルは上位種を食べて等いない。
食べる必要はない。
紛れもなく、彼は竜なのだから。
本来、翼ある者は、卵を産んだ後に自らの側に置き、生命エネルギーを分け与え数百年の年月をかけて卵を孵す。 だが、カイルには生命エネルギーを与える親はおらず、かろうじて日と月と大地と風と水から、力を得ていたが……無理やり孵化を促されたのだ。
カイルの伴侶であるミラによって。
死の印象が強い森の中では、オゾマシイ咆哮が響き渡った。
「ウルサイですよ。 私のカワイイおチビちゃんを寝不足にするつもり?」
現れたのは絶世の美女。
長い艶のある黒髪に青白い肌、赤く色香漂う唇から漏れる声は、欲情を誘う。 挙句、惜しげも無く肌を晒すナイトドレスは、身体に密着しそのスタイルの良さを際立たせていた。
侍女や使用人達の視線が、一斉に美女へと集まれば全員が思った。
誰?!
気持ちが分かるし、同情もするが、正直面白かったと言うのが本音。 ぴっ、ちちっと、小さく笑うように鳴くと、甘く蕩けそうな声で彼女(?)は、言う。
「起こしてしまったようですね。 おチビちゃん」
「これで眠っていられるほど、鈍感ではないよ」
胸の隙間から顔を出した時に見せた周囲の顔は、そりゃぁ素晴らしいものでしたとも。 まぁ、私だって自分の主が性別不詳だと知れば、驚くと思うから驚く人達を責める気はない。
「陛下、まだそのような恰好をしておいでだったのね……と言うか、悪化してるわよねぇ?」
ガックリしながらも、色香増し増しの主にナルサスは声を荒げた。 侍女や使用人は説明を求めるようにナルサスを見、そして陛下の個人秘書であるヘイシオはモイラを見た。 だが、いずれも視線をそらし冷や汗を垂らすだけ。
「陛下、随分と皆さん、驚いているみたいね」
私は楽しくて笑う。
「おかしな事ですよね。 以前の姿の方が余程驚くべき姿だと思うのですが?」
そう言いながら笑って見せるのだから、分かって言っているのだろう。 何が? って、彼等が敬意を抱いていたのは化け物である陛下だったと言うこと。
陛下は化け物である。
そんな当たり前が変化し、思考がついていかなくなったらしい。
でも私は思うのよ。 性別を変えるほどの力を惜しみなく見せつける今の方が化け物よね? 人型の腐れガエルのような姿は、醜くオゾマシく、どこまでも哀れで、それは本当の恐怖とは違う。 ただ……悲哀が漂うだけ。
生食鬼へと転じた者達は、陛下に恐れ、胸の谷間にいる私に羨望のまなざしを向けていた。 ようするに恐怖に食欲が勝つ的な?
「非常に不愉快ですね」
陛下の視線が冷ややかに、醜い異形へと向けられ……そして私は胸の間に押し込められた……。 相変わらずこの扱いが……と言うか、女の私よりも立派なお胸ってどういうことよ!! わさわさすれば、
「擽ったいから止めて下さい」
溜息交じりの穏やかな声で言われた。 異形へ向ける声と私に向ける声の変化は、まるで顔が2つあるかのようなほどに違う。
「おチビちゃん」
「何?」
呼ばれて顔を出せば埋められる。
おいコラ!! なんて思うが顔は出さない。 だって、同じ事を繰り返しても話は進まないし? それなら何か美味しい物をおねだりしたほうが良いや。
「で、何よ」
「おチビちゃんは、母君からの記憶を受け継いでいるのですよね」
「まぁ……ソレは……。 ただ、知っている事と出来る事は別ですけど?」
「では……」
陛下が言うのは、異形としての核となっている上位種に干渉できないかと言うもの。
「無理です……既に、命の中枢となっているから」
「そうですか。 では、こういう方法は?」
陛下が提示したのは、生食鬼と相対した時、普通であれば核を壊し殺害するが、未だ芽吹いたばかりの核であれば封じる事が出来るのではないか? と言うもの。
「封じたら、死にません?」
心臓を止めるようなものだ。
「ですから、成長を封じるのです」
母が綿々と受け継ぎ、私が受け継いだ記憶の中には、生食鬼の核を研究したものもある。
「私には理解不能なんで、情報を其方に流します」
「それは、どのように?」
私は記憶を込めた羽根を抜いて陛下に渡す。 別に羽根でなくても血でも、肉でも、問題はないけれど、小さな体でソレをやるのは危険だから。 そして私は、羽根を提供すると共にまた意識を落としてしまった。
「おや、眠ってしまったようですね」
指先で動かぬ柔らかな小鳥に触れて微かに笑い、そしてカイル・ガリウス・アドラムは、渡された羽根を食べた。 恍惚とした表情に誰もが見とれ、時には力なく足元から崩れるものも出たくらいである。
そして転じたばかりの化け物は、その至高を得ただろう存在に憎しみを覚え、押さえつけている者達を跳ね除けカイルに襲い掛かった。
カイルは襲い来る異形達に、ユックリとした動作で手を伸ばし、彼等を異形としている核へと触れる。
「あぁ」
憂いを帯びた声。
「……死んでしまいましたか……失敗ですね。 ですが、実験には十分の数です」
襲い来る異形の核に触れて、力を放つ。 柔らかな真綿のような闇の力を注ぎ込む。 それがどれほどの力があるのか、次の瞬間には人形のように地面に崩れ落ちていく。
結局、残ったのは2人だけだった。
小さな米粒ぐらいの核から胚を取り出すような行為である。
「まぁ、十分でしょう。 忠誠を誓うなら、私の血を分けましょう」
「ぁ、あああああああ」
獣は呻く。
「お、ひ……さ、ま」
「ふっふふふ、良い目をしていますね。 ですが、この子は渡しませんよ。 私の血で我慢なさい」
指先を爪で切れば、銀色の血がポトリと落ちる。
最初、カイル・ガリウス・アドラムが、エリスに聞かれた言葉。
上位種を食べた?
カイルは上位種を食べて等いない。
食べる必要はない。
紛れもなく、彼は竜なのだから。
本来、翼ある者は、卵を産んだ後に自らの側に置き、生命エネルギーを分け与え数百年の年月をかけて卵を孵す。 だが、カイルには生命エネルギーを与える親はおらず、かろうじて日と月と大地と風と水から、力を得ていたが……無理やり孵化を促されたのだ。
カイルの伴侶であるミラによって。
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