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38.選択すべき未来
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「陛下!!」
人々が口々に叫んだ。
だが妖艶な美女は彼女を呼ぶ声を無視し、生食鬼となった男女2人に冷ややかな視線を落とす。
「ひざまづきなさい」
静かなユックリとした声だが、力だけは妙にある。 そして、彼等を見下ろしたまま、陛下はボソリと呟いた。
「貴方方は、何も、出来ないのですね……」
彼等が生食鬼となるのは予定内だった。 ただ違うのは『今』なるとは思っていなかった事。 それでも、屋敷付きの使用人達は、全ての対象者を抑え込み被害をださなかった。
良く対応しましたね。
そう褒めてやりたい反面、悩むのだ。 皇妃にとってはどうでも良い、処分対象であろう存在に上位種の肉を使っている事が気にかかったのだ。
もし、これが鍛え抜かれた兵士であれば?
もし、これが自らの身体をコントロール可能とした生食鬼であれば?
もし、皇妃が……カイルの命を狙い、偽皇帝を盤石なものとしようとしているなら?
彼等は、何が出来る?
彼等が生食鬼を簡単に制圧できたのは、生食鬼が極限まで飢えていたから、理性が無く、戦略が無く、理解が無かったから。 そして幼子のような日々を送り、深窓の令嬢のような生活を送ってきた者達は、基礎となるべく戦う術もなければ、身体能力も保有していなかったから。
「何も、なんて!! 私達はしっかりと彼等を制圧しました!!」
「戦闘訓練に使うと聞いていたため、殺す事無く生け捕りにしました!!」
「事前に命じられていた通りの対応だと思います」
「それが、可能だったのは、彼等の精神が幼く、無知だったからです。 それでも、なぜなら、一筋でも貴方達に傷をつければ、彼等は優位な立場に立てた危険性を理解していますか?」
静かに瞳を伏せ、陛下は一滴の銀色の血を大地に落とせば、それは大気に溶けて2人の生食鬼は、異形の姿を自然と治め、人に近寄って行った。
「最初の命令です。 彼等を制圧できるだけの技術を身に付けなさい。 それが、アナタたちの生きる唯一無二の道です」
言えば、無言のまま生食鬼は、侍女達に襲いかかった。
陛下の住まう屋敷付きの使用人達の大半は、身の回りの世話に長けているから選ばれた訳ではない。 元々彼女達は、貴族ではないし、身体能力の高さを買われて、特殊な訓練を受け、万が一に陛下が暴走した時のために屋敷に配置された。
だからこそ、世話をする相手が陛下1人であるにもかかわらず、侍女だけで十数人の者が控えており、料理人、庭師、雑務等の男性職員も十数名、それに加えて警備の騎士と魔導師まで配置してある。
離宮に訪れ5年。
その間、危機的な状況等起きたことは無い。 のんびりとした日々を送り、エリス曰く堕落に身を置いていたと言えるのかもしれない。
2人の生食鬼は、生命力の弱い者から襲いだした。
本能が、根付いた芽が、生きる術を彼等に教える。 傷をつければ、その傷から流れる生命力を奪う事ができ、生命力を奪えば、彼等の皮膚は固くダメージを受け難くなる。 そして、時間の経過と共に動体視力が増していく。
時間の経過と共に、力を増していく2人は、戦いを知らないまま、本能に従い十数人の侍女達を制圧した。 制圧した2人にカイルは問いかける。
「自らの変化を理解できましたか?」
「はい……」
楽園での甘い生活が2人の全てだった、どうして? と言う思いと……多くの事を、見てみないふりを続けて来た自覚があった。
「今は、空腹ではなく、呪いの芽も抑えてあります。 ですが、ここにいる誰も、それがどのような働きをするかを理解していません。 その身を掌握し、理解するまで、不自由な生活となる事を納得するなら、面倒を見ましょう。 どうしますか? でなければ……処分します」
「よ、ろしく、お願いします……」
見えないものが見え、聞こえない音が聞こえ、今までの記憶が塗り替わった彼等に残されたのは絶望と、新たに示される道。 ソレは今までの幸福な幻想と比べれば苦難でしかないが……それでも、道があるだけマシだろう……。
彼等は自ら囚われる事に納得し、そして……その力を示す事で、訪れる可能性のある脅威を周囲に知らしめる事となる。
そして、屋敷に務める者にも問いかけられた。
皇妃が何を考えているか分からない以上、今の彼女達が残る事は、彼女達にとって危険でしかない事は、理解できたはずだった。
カイルはナルサスへと視線を向けた。
それは静かな夜を思わせるようなたたずまい。
「今の私は、暴走するような要因はありません。 彼女達に新しい勤務先の紹介を頼みます。そして騎士団の再教育、皇都の警備の見直し、順次対応をしていくように」
「ちょっとぉおおおおおおお!! いい加減にして頂戴! 幾ら私が天才だからって、1人で出来る事には限界があるのよぉおおおおお!!」
なんて、声が獣たちの遠吠えと共に夜空に響く……。
「うるさいっぴよ……」
人々が口々に叫んだ。
だが妖艶な美女は彼女を呼ぶ声を無視し、生食鬼となった男女2人に冷ややかな視線を落とす。
「ひざまづきなさい」
静かなユックリとした声だが、力だけは妙にある。 そして、彼等を見下ろしたまま、陛下はボソリと呟いた。
「貴方方は、何も、出来ないのですね……」
彼等が生食鬼となるのは予定内だった。 ただ違うのは『今』なるとは思っていなかった事。 それでも、屋敷付きの使用人達は、全ての対象者を抑え込み被害をださなかった。
良く対応しましたね。
そう褒めてやりたい反面、悩むのだ。 皇妃にとってはどうでも良い、処分対象であろう存在に上位種の肉を使っている事が気にかかったのだ。
もし、これが鍛え抜かれた兵士であれば?
もし、これが自らの身体をコントロール可能とした生食鬼であれば?
もし、皇妃が……カイルの命を狙い、偽皇帝を盤石なものとしようとしているなら?
彼等は、何が出来る?
彼等が生食鬼を簡単に制圧できたのは、生食鬼が極限まで飢えていたから、理性が無く、戦略が無く、理解が無かったから。 そして幼子のような日々を送り、深窓の令嬢のような生活を送ってきた者達は、基礎となるべく戦う術もなければ、身体能力も保有していなかったから。
「何も、なんて!! 私達はしっかりと彼等を制圧しました!!」
「戦闘訓練に使うと聞いていたため、殺す事無く生け捕りにしました!!」
「事前に命じられていた通りの対応だと思います」
「それが、可能だったのは、彼等の精神が幼く、無知だったからです。 それでも、なぜなら、一筋でも貴方達に傷をつければ、彼等は優位な立場に立てた危険性を理解していますか?」
静かに瞳を伏せ、陛下は一滴の銀色の血を大地に落とせば、それは大気に溶けて2人の生食鬼は、異形の姿を自然と治め、人に近寄って行った。
「最初の命令です。 彼等を制圧できるだけの技術を身に付けなさい。 それが、アナタたちの生きる唯一無二の道です」
言えば、無言のまま生食鬼は、侍女達に襲いかかった。
陛下の住まう屋敷付きの使用人達の大半は、身の回りの世話に長けているから選ばれた訳ではない。 元々彼女達は、貴族ではないし、身体能力の高さを買われて、特殊な訓練を受け、万が一に陛下が暴走した時のために屋敷に配置された。
だからこそ、世話をする相手が陛下1人であるにもかかわらず、侍女だけで十数人の者が控えており、料理人、庭師、雑務等の男性職員も十数名、それに加えて警備の騎士と魔導師まで配置してある。
離宮に訪れ5年。
その間、危機的な状況等起きたことは無い。 のんびりとした日々を送り、エリス曰く堕落に身を置いていたと言えるのかもしれない。
2人の生食鬼は、生命力の弱い者から襲いだした。
本能が、根付いた芽が、生きる術を彼等に教える。 傷をつければ、その傷から流れる生命力を奪う事ができ、生命力を奪えば、彼等の皮膚は固くダメージを受け難くなる。 そして、時間の経過と共に動体視力が増していく。
時間の経過と共に、力を増していく2人は、戦いを知らないまま、本能に従い十数人の侍女達を制圧した。 制圧した2人にカイルは問いかける。
「自らの変化を理解できましたか?」
「はい……」
楽園での甘い生活が2人の全てだった、どうして? と言う思いと……多くの事を、見てみないふりを続けて来た自覚があった。
「今は、空腹ではなく、呪いの芽も抑えてあります。 ですが、ここにいる誰も、それがどのような働きをするかを理解していません。 その身を掌握し、理解するまで、不自由な生活となる事を納得するなら、面倒を見ましょう。 どうしますか? でなければ……処分します」
「よ、ろしく、お願いします……」
見えないものが見え、聞こえない音が聞こえ、今までの記憶が塗り替わった彼等に残されたのは絶望と、新たに示される道。 ソレは今までの幸福な幻想と比べれば苦難でしかないが……それでも、道があるだけマシだろう……。
彼等は自ら囚われる事に納得し、そして……その力を示す事で、訪れる可能性のある脅威を周囲に知らしめる事となる。
そして、屋敷に務める者にも問いかけられた。
皇妃が何を考えているか分からない以上、今の彼女達が残る事は、彼女達にとって危険でしかない事は、理解できたはずだった。
カイルはナルサスへと視線を向けた。
それは静かな夜を思わせるようなたたずまい。
「今の私は、暴走するような要因はありません。 彼女達に新しい勤務先の紹介を頼みます。そして騎士団の再教育、皇都の警備の見直し、順次対応をしていくように」
「ちょっとぉおおおおおおお!! いい加減にして頂戴! 幾ら私が天才だからって、1人で出来る事には限界があるのよぉおおおおお!!」
なんて、声が獣たちの遠吠えと共に夜空に響く……。
「うるさいっぴよ……」
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