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45.望まぬ遭遇 01
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「店側とは話を済ませてあります。 目立つ容姿は仕方がありませんが、わざわざ目立つ必要はないので、目立たない席を作ってもらいましたから。 色々と用事を済ませたら戻ってきますので、大人しく待っていてください」
ヒューゴに言われ、
「それはそれで目立つんじゃないのかな?」
不思議そうにエリスが言えば、
「ずっと見られ続け、記憶に残らないのが大事なんですよ」
少女姿のカイルは、顔の良い庶民が貴族に気に入られて少し小綺麗なワンピースを与えられました。 そんな恰好。 少し特徴があると言うなら、小さな帽子を頭上にチョコンと乗せ、エリスが隠れる場所を作ってあると言うところ。
「ですが、なぜ、ここまでヒューゴが同行しているのでしょう? そして、コレは?」
コレは? で、カイルが右手を上げればソコにはヒューゴの手。 本来であれば、カイルは元の姿に戻ったエリスと手を繋ぎデートを考えていたのだが……。
不本意!!
「それは、アナタが方向音痴だからですよ」
「私が何時迷ったと言うのですか?」
「迷うと、空を飛ぶから結果として目的地にはたどり着いていますが、歩いている時、自分がどこにいるか理解していませんよね? 昔から。 大人しくしていてください。 後はよろしくお願いします。 エリス様」
「任せて!! 今日は、お姉ちゃんだから」
嬉しそうに響く帽子からの声。
まぁ、良いか……と、カイルを納得させた。
既にケーキセットが注文済で、席に着いた頃には数種類のケーキがケーキスタンドに並んでいた。 席は奥の方に観葉植物を目隠しする事で、上手く隠れていた。 もともと個室として使われていたのかもしれない。
「食べて良い?」
帽子から顔を覗かせたエリスが聞けば、カイルはどうぞと笑って答える。 恰好として1個だけ小皿にとりわけるが、甘いものはソレほど好きではないカイルは、外の景色と嬉しそうにいつもよりもユックリとケーキを堪能するエリスを眺めていた。
ユックリケーキを啄むから、ケーキスタンドの上がずいぶんと酷い事になっているが、まぁ、そんな細かい事を気にするはずもない。
戦争が無くなり5年、カイルにとっては短い年月だが、人にとってはソレなりの年月で、皇都となればかなり発展しているだろうと思っていたが、記憶の中の景色よりも悪くなっているように見えた。
多くの人がいる。
カイルの知っている景色の倍の人が目についていた。 倍となった人の多くが浮浪者や孤児だろう。 皇都にくれば、大金持ちになる機会があるとでも思って出て来たのか? 皇都の民の日常仕事を小銭で引き受け、日銭を稼いでいるのが想像ついた。
視力、聴力も人より優れているカイルには、薄汚れた浮浪者が受ける暴力、窃盗、そういう犯罪が見えていた。
「おチビちゃんは、この町をどう思いますか?」
「活気があると思いますよ。 整備されていて綺麗だし。 衣食住の全てが辺境とは違い都会的です」
それは、辺境に住んでいたエリスだから。 だけれどカイルは頷き、笑って見せる。
「そう、ですね」
昼間がこうなら……きっと、夜はもっと酷いのだろうとカイルは勝手に想像し、溜息をついた。
「どうしたの?」
「いえ、久々に町を見たら……思っていたのと違っていたもので」
言えば、嘴の先に色々と付けたままの小鳥が首を傾げた。
「定期的に変死体が出ると言ってましたが、そこに違和感を覚える者は少ないでしょうね。 そう思ったんです」
「いつも会っていた人や、コミュニティの人間が消えたら問題になるでしょ?」
「皇都に住民登録されている者はそうでしょうけれど、そうでなく外部から来たものたちは、皇都の人に認識されているかと言えば、違うはずです」
「違うの? 違えば警戒して覚えるし、馴染めば、親しい人として覚えない?」
「距離感の取り方と言うのは、中庸の民と、大地の民では違っていますから。 中庸と言うだけあって、そこも中途半端なのですよ。 特に中庸の民には生活魔法程度の魔力しかなく、戦うほどの筋力を持つ者はごく一部です。 なので、一般人は、危険は見てみない、自分はいないふりを徹底し身を守るんです」
「ふぅん?」
良く分からないと言う感じの返事を、お茶を飲み受け流す。
「おチビちゃん」
小皿にとったケーキをフォークで切り、エリスに差し出せば。
「食べないの?」
「後で、おチビちゃんの甘い匂いを吸わさせてもらえれば十分です」
「言い方がなんかイヤ」
言われてカイルは笑った。
他愛ない会話が続く。
外を眺めればネタには尽きない。
それが豪華で派手派手しい馬車が店の前に停止したことで様子が変わった。 家柄を示す紋章は皇家である。 人々がざわつく。
僅かな間をおいてざわつきと共に、情報が耳に入る。
「陛下と皇妃様がいらしたそうよ」
ヒューゴに言われ、
「それはそれで目立つんじゃないのかな?」
不思議そうにエリスが言えば、
「ずっと見られ続け、記憶に残らないのが大事なんですよ」
少女姿のカイルは、顔の良い庶民が貴族に気に入られて少し小綺麗なワンピースを与えられました。 そんな恰好。 少し特徴があると言うなら、小さな帽子を頭上にチョコンと乗せ、エリスが隠れる場所を作ってあると言うところ。
「ですが、なぜ、ここまでヒューゴが同行しているのでしょう? そして、コレは?」
コレは? で、カイルが右手を上げればソコにはヒューゴの手。 本来であれば、カイルは元の姿に戻ったエリスと手を繋ぎデートを考えていたのだが……。
不本意!!
「それは、アナタが方向音痴だからですよ」
「私が何時迷ったと言うのですか?」
「迷うと、空を飛ぶから結果として目的地にはたどり着いていますが、歩いている時、自分がどこにいるか理解していませんよね? 昔から。 大人しくしていてください。 後はよろしくお願いします。 エリス様」
「任せて!! 今日は、お姉ちゃんだから」
嬉しそうに響く帽子からの声。
まぁ、良いか……と、カイルを納得させた。
既にケーキセットが注文済で、席に着いた頃には数種類のケーキがケーキスタンドに並んでいた。 席は奥の方に観葉植物を目隠しする事で、上手く隠れていた。 もともと個室として使われていたのかもしれない。
「食べて良い?」
帽子から顔を覗かせたエリスが聞けば、カイルはどうぞと笑って答える。 恰好として1個だけ小皿にとりわけるが、甘いものはソレほど好きではないカイルは、外の景色と嬉しそうにいつもよりもユックリとケーキを堪能するエリスを眺めていた。
ユックリケーキを啄むから、ケーキスタンドの上がずいぶんと酷い事になっているが、まぁ、そんな細かい事を気にするはずもない。
戦争が無くなり5年、カイルにとっては短い年月だが、人にとってはソレなりの年月で、皇都となればかなり発展しているだろうと思っていたが、記憶の中の景色よりも悪くなっているように見えた。
多くの人がいる。
カイルの知っている景色の倍の人が目についていた。 倍となった人の多くが浮浪者や孤児だろう。 皇都にくれば、大金持ちになる機会があるとでも思って出て来たのか? 皇都の民の日常仕事を小銭で引き受け、日銭を稼いでいるのが想像ついた。
視力、聴力も人より優れているカイルには、薄汚れた浮浪者が受ける暴力、窃盗、そういう犯罪が見えていた。
「おチビちゃんは、この町をどう思いますか?」
「活気があると思いますよ。 整備されていて綺麗だし。 衣食住の全てが辺境とは違い都会的です」
それは、辺境に住んでいたエリスだから。 だけれどカイルは頷き、笑って見せる。
「そう、ですね」
昼間がこうなら……きっと、夜はもっと酷いのだろうとカイルは勝手に想像し、溜息をついた。
「どうしたの?」
「いえ、久々に町を見たら……思っていたのと違っていたもので」
言えば、嘴の先に色々と付けたままの小鳥が首を傾げた。
「定期的に変死体が出ると言ってましたが、そこに違和感を覚える者は少ないでしょうね。 そう思ったんです」
「いつも会っていた人や、コミュニティの人間が消えたら問題になるでしょ?」
「皇都に住民登録されている者はそうでしょうけれど、そうでなく外部から来たものたちは、皇都の人に認識されているかと言えば、違うはずです」
「違うの? 違えば警戒して覚えるし、馴染めば、親しい人として覚えない?」
「距離感の取り方と言うのは、中庸の民と、大地の民では違っていますから。 中庸と言うだけあって、そこも中途半端なのですよ。 特に中庸の民には生活魔法程度の魔力しかなく、戦うほどの筋力を持つ者はごく一部です。 なので、一般人は、危険は見てみない、自分はいないふりを徹底し身を守るんです」
「ふぅん?」
良く分からないと言う感じの返事を、お茶を飲み受け流す。
「おチビちゃん」
小皿にとったケーキをフォークで切り、エリスに差し出せば。
「食べないの?」
「後で、おチビちゃんの甘い匂いを吸わさせてもらえれば十分です」
「言い方がなんかイヤ」
言われてカイルは笑った。
他愛ない会話が続く。
外を眺めればネタには尽きない。
それが豪華で派手派手しい馬車が店の前に停止したことで様子が変わった。 家柄を示す紋章は皇家である。 人々がざわつく。
僅かな間をおいてざわつきと共に、情報が耳に入る。
「陛下と皇妃様がいらしたそうよ」
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