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44.お出かけもままならない
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訓練場から戻った執務室。
未だナルサスとヘイシオは、訓練に付き合い中庭にいたが、ヒューゴはいったん町にでて一度に用事を済ませるため、カイルとエリスと共に執務室へと戻っていた。
「町に行くなら、以前ナルサスと行ったカフェのロールケーキ、お土産に買ってきて欲しいな」
元々は武闘派が集まり、使用人となった離宮。 侍女が自分達で菓子作りをするように、料理人達は甘い物を作る事は余り得意ではない。
部屋に戻り、本来への姿に戻ったカイルは自分の席に座った。 ソレを視線で確認したヒューゴはお茶を入れる。
「構いませんよ。 持ち帰りに適したものを見繕ってもらいましょう」
「ありがとう」
そう言いながら、ヒューゴの周りを飛び回るエリスに手を差し出せば、羽根の力ではなくふわりと風に舞う花びらのようにエリスが戻ってきた。
「なぁに?」
首を傾げ、甘い声が聞いてくる。
カイルはエリスの首筋を撫でる時、わずかに生命エネルギーを流す。 小鳥の姿だと言うのに、そのうっとりとした表情で見上げてくるのが愛らしく、満足感に胸が満たされるから。
「お土産も良いですが、一緒にカフェに出かけませんか? おチビちゃんに身体を治していただきました、町の様子を、人々の暮らしを見てみたいと思っていたところなんですよ」
左手に停まっていたエリスは、小さな足で腕に移動しもふっと腰を下ろす。
「書類を書くので、そこは安定性が悪いですよ。 肩か頭にどうぞ」
ペンを持つのは右手だが、動作の大きさ的には左の方が大きいかもしれない。
「こっちの方が……考え事の合間に撫でてもらえそうなんで……」
「……なら、仕方ありませんね」
「ねぇ、それより、いいの? お出かけ。 私、鳥だけど、カフェに入っていいの?」
「元の姿に戻れるなら、それが一番ですが、他の客と席を離せば問題ないでしょう」
喉元を撫でれば、嬉しそうに目を細め上を向く。
「嬉しいな」
妙な擽ったさに、カイルは少し困惑し嬉しくて笑った。 僅かの間、その静かな空気に身を任せたヒューゴは、お茶が入るのを確認し声をかける。
「そう言えば陛下、蟲への依頼はどうしますか?」
「目、耳を。 挙動は危険の無い最小限の方法で、敷地内に入る必要もありません。 彼等本人が潜入する訳ではないとは言え、彼等の手足、目鼻を側で使えば、皇妃は発狂しかねませんからね。 彼女の事は余り知りませんが、世間一般的に蟲の連中が使役するモノは、好ましいとは思われませんから」
「では、調整役としてうちの団員を、蟲たちの補助に付けましょう」
翌朝、うたたねするエリスを横にカイルが出かける準備を進めていれば、ナルサスからちょっと待ってと制止が入った。
「その恰好は何? その気合の入りまくった格好は何?!」
「何とは? 出かけるのなら最善の恰好をと思っただけですよ」
「ダメよ!! 全くなっちゃいないわ!!」
「余り大きな声を出さないで下さい。 楽しみ過ぎたおチビちゃんが眠ったのは明け方近くなんですから」
「なら、そのフザケタ恰好を何とかなさい」
フザケタと言われても、カイル本来の姿なのだからとカイルは不満そうにしていた。
「世間で言うところの、今の陛下はあの偽物なのですから? 多少、似たところがあったとしても、そう、気にする者はいないはずですよ。 気配を薄めるようにしますから」
「まぁ、確かに今の彼は、陛下とは余り似ていないわ。 似せようと言う気を失くしたのね。 でも、戦場で貴方を見た事がある人は貴方を見れば気にするし、噂になれば皇妃が探りをいれてくるでしょうが!! もう、面倒ごとは止めて!!」
ふざけ半分だったのが、途中から本気でナルサスは怒り出していた。
「面倒ごとの大半は皇妃ですよね。 私のせいにされても困ります」
「だから何……、どっちでもいいのよ!! とにかく人が足りないのよ。 使える人が足りないの!! 超くだらない相手を生食鬼にするような連中よ……今だって、何人の生食鬼を抱えているか分からないのよ? うちの連中が仕上がるのが先か? 向こうが何か行動するのが先か? 本当ギリギリなんだから止めて!!」
そう、真面目に言われれば、妥協するしかない……。
だから、最初は少年姿へと転じた。
カイルの目的であるデートと言う意味合いを果たすためには少し物足りないが仕方がない。 少しでも好意を高めておきたいと願うのは、愛しているなら当然のこと。
「はぁ、もう……陛下の隠し子がいたと騒ぎになりたい訳?」
「そうですよ。 隠し子と言われなくても、新たな王族が見つかったとややこしい事になりますよ!」
「貴方まで……」
ふざけるナルサスは兎も角、ヒューゴの言葉は無視できない。 彼自身はナルサスよりも弱いが、人を動かすとこと、全体を見ることにおいては長けている。 仕方が……ない……。
ならばと、日頃から使っている女性姿……母様と言われるのは不満だけれど、食べに行くと約束した以上仕方がない。
「男を誘ってるの? 厄介ごと自分から招いてどうするのよ」
「失礼な方ですね。 男は対象ではありませんよ」
「それに、小さな小鳥を連れ歩くには、少し違和感がありますよ?」
「そうそう、清純さに欠けるのよねぇ~」
なんてやっているうちに……10歳未満の少女の姿となった。
「あら、やだ、カワイイじゃない。 いいわね」
そう言いながら笑われて、誰がありがたいと思えるだろうか? 当然のようにやさぐれては見るものの、目を覚まし喜ぶエリスまで悪く思えるはずが無かった。
「ちっちゃい!! カワイイ!! 綺麗!!」
「ソレは……どうも……」
少しだけ、やるせなかった。
未だナルサスとヘイシオは、訓練に付き合い中庭にいたが、ヒューゴはいったん町にでて一度に用事を済ませるため、カイルとエリスと共に執務室へと戻っていた。
「町に行くなら、以前ナルサスと行ったカフェのロールケーキ、お土産に買ってきて欲しいな」
元々は武闘派が集まり、使用人となった離宮。 侍女が自分達で菓子作りをするように、料理人達は甘い物を作る事は余り得意ではない。
部屋に戻り、本来への姿に戻ったカイルは自分の席に座った。 ソレを視線で確認したヒューゴはお茶を入れる。
「構いませんよ。 持ち帰りに適したものを見繕ってもらいましょう」
「ありがとう」
そう言いながら、ヒューゴの周りを飛び回るエリスに手を差し出せば、羽根の力ではなくふわりと風に舞う花びらのようにエリスが戻ってきた。
「なぁに?」
首を傾げ、甘い声が聞いてくる。
カイルはエリスの首筋を撫でる時、わずかに生命エネルギーを流す。 小鳥の姿だと言うのに、そのうっとりとした表情で見上げてくるのが愛らしく、満足感に胸が満たされるから。
「お土産も良いですが、一緒にカフェに出かけませんか? おチビちゃんに身体を治していただきました、町の様子を、人々の暮らしを見てみたいと思っていたところなんですよ」
左手に停まっていたエリスは、小さな足で腕に移動しもふっと腰を下ろす。
「書類を書くので、そこは安定性が悪いですよ。 肩か頭にどうぞ」
ペンを持つのは右手だが、動作の大きさ的には左の方が大きいかもしれない。
「こっちの方が……考え事の合間に撫でてもらえそうなんで……」
「……なら、仕方ありませんね」
「ねぇ、それより、いいの? お出かけ。 私、鳥だけど、カフェに入っていいの?」
「元の姿に戻れるなら、それが一番ですが、他の客と席を離せば問題ないでしょう」
喉元を撫でれば、嬉しそうに目を細め上を向く。
「嬉しいな」
妙な擽ったさに、カイルは少し困惑し嬉しくて笑った。 僅かの間、その静かな空気に身を任せたヒューゴは、お茶が入るのを確認し声をかける。
「そう言えば陛下、蟲への依頼はどうしますか?」
「目、耳を。 挙動は危険の無い最小限の方法で、敷地内に入る必要もありません。 彼等本人が潜入する訳ではないとは言え、彼等の手足、目鼻を側で使えば、皇妃は発狂しかねませんからね。 彼女の事は余り知りませんが、世間一般的に蟲の連中が使役するモノは、好ましいとは思われませんから」
「では、調整役としてうちの団員を、蟲たちの補助に付けましょう」
翌朝、うたたねするエリスを横にカイルが出かける準備を進めていれば、ナルサスからちょっと待ってと制止が入った。
「その恰好は何? その気合の入りまくった格好は何?!」
「何とは? 出かけるのなら最善の恰好をと思っただけですよ」
「ダメよ!! 全くなっちゃいないわ!!」
「余り大きな声を出さないで下さい。 楽しみ過ぎたおチビちゃんが眠ったのは明け方近くなんですから」
「なら、そのフザケタ恰好を何とかなさい」
フザケタと言われても、カイル本来の姿なのだからとカイルは不満そうにしていた。
「世間で言うところの、今の陛下はあの偽物なのですから? 多少、似たところがあったとしても、そう、気にする者はいないはずですよ。 気配を薄めるようにしますから」
「まぁ、確かに今の彼は、陛下とは余り似ていないわ。 似せようと言う気を失くしたのね。 でも、戦場で貴方を見た事がある人は貴方を見れば気にするし、噂になれば皇妃が探りをいれてくるでしょうが!! もう、面倒ごとは止めて!!」
ふざけ半分だったのが、途中から本気でナルサスは怒り出していた。
「面倒ごとの大半は皇妃ですよね。 私のせいにされても困ります」
「だから何……、どっちでもいいのよ!! とにかく人が足りないのよ。 使える人が足りないの!! 超くだらない相手を生食鬼にするような連中よ……今だって、何人の生食鬼を抱えているか分からないのよ? うちの連中が仕上がるのが先か? 向こうが何か行動するのが先か? 本当ギリギリなんだから止めて!!」
そう、真面目に言われれば、妥協するしかない……。
だから、最初は少年姿へと転じた。
カイルの目的であるデートと言う意味合いを果たすためには少し物足りないが仕方がない。 少しでも好意を高めておきたいと願うのは、愛しているなら当然のこと。
「はぁ、もう……陛下の隠し子がいたと騒ぎになりたい訳?」
「そうですよ。 隠し子と言われなくても、新たな王族が見つかったとややこしい事になりますよ!」
「貴方まで……」
ふざけるナルサスは兎も角、ヒューゴの言葉は無視できない。 彼自身はナルサスよりも弱いが、人を動かすとこと、全体を見ることにおいては長けている。 仕方が……ない……。
ならばと、日頃から使っている女性姿……母様と言われるのは不満だけれど、食べに行くと約束した以上仕方がない。
「男を誘ってるの? 厄介ごと自分から招いてどうするのよ」
「失礼な方ですね。 男は対象ではありませんよ」
「それに、小さな小鳥を連れ歩くには、少し違和感がありますよ?」
「そうそう、清純さに欠けるのよねぇ~」
なんてやっているうちに……10歳未満の少女の姿となった。
「あら、やだ、カワイイじゃない。 いいわね」
そう言いながら笑われて、誰がありがたいと思えるだろうか? 当然のようにやさぐれては見るものの、目を覚まし喜ぶエリスまで悪く思えるはずが無かった。
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少しだけ、やるせなかった。
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