44 / 59
04
44.お出かけもままならない
しおりを挟む
訓練場から戻った執務室。
未だナルサスとヘイシオは、訓練に付き合い中庭にいたが、ヒューゴはいったん町にでて一度に用事を済ませるため、カイルとエリスと共に執務室へと戻っていた。
「町に行くなら、以前ナルサスと行ったカフェのロールケーキ、お土産に買ってきて欲しいな」
元々は武闘派が集まり、使用人となった離宮。 侍女が自分達で菓子作りをするように、料理人達は甘い物を作る事は余り得意ではない。
部屋に戻り、本来への姿に戻ったカイルは自分の席に座った。 ソレを視線で確認したヒューゴはお茶を入れる。
「構いませんよ。 持ち帰りに適したものを見繕ってもらいましょう」
「ありがとう」
そう言いながら、ヒューゴの周りを飛び回るエリスに手を差し出せば、羽根の力ではなくふわりと風に舞う花びらのようにエリスが戻ってきた。
「なぁに?」
首を傾げ、甘い声が聞いてくる。
カイルはエリスの首筋を撫でる時、わずかに生命エネルギーを流す。 小鳥の姿だと言うのに、そのうっとりとした表情で見上げてくるのが愛らしく、満足感に胸が満たされるから。
「お土産も良いですが、一緒にカフェに出かけませんか? おチビちゃんに身体を治していただきました、町の様子を、人々の暮らしを見てみたいと思っていたところなんですよ」
左手に停まっていたエリスは、小さな足で腕に移動しもふっと腰を下ろす。
「書類を書くので、そこは安定性が悪いですよ。 肩か頭にどうぞ」
ペンを持つのは右手だが、動作の大きさ的には左の方が大きいかもしれない。
「こっちの方が……考え事の合間に撫でてもらえそうなんで……」
「……なら、仕方ありませんね」
「ねぇ、それより、いいの? お出かけ。 私、鳥だけど、カフェに入っていいの?」
「元の姿に戻れるなら、それが一番ですが、他の客と席を離せば問題ないでしょう」
喉元を撫でれば、嬉しそうに目を細め上を向く。
「嬉しいな」
妙な擽ったさに、カイルは少し困惑し嬉しくて笑った。 僅かの間、その静かな空気に身を任せたヒューゴは、お茶が入るのを確認し声をかける。
「そう言えば陛下、蟲への依頼はどうしますか?」
「目、耳を。 挙動は危険の無い最小限の方法で、敷地内に入る必要もありません。 彼等本人が潜入する訳ではないとは言え、彼等の手足、目鼻を側で使えば、皇妃は発狂しかねませんからね。 彼女の事は余り知りませんが、世間一般的に蟲の連中が使役するモノは、好ましいとは思われませんから」
「では、調整役としてうちの団員を、蟲たちの補助に付けましょう」
翌朝、うたたねするエリスを横にカイルが出かける準備を進めていれば、ナルサスからちょっと待ってと制止が入った。
「その恰好は何? その気合の入りまくった格好は何?!」
「何とは? 出かけるのなら最善の恰好をと思っただけですよ」
「ダメよ!! 全くなっちゃいないわ!!」
「余り大きな声を出さないで下さい。 楽しみ過ぎたおチビちゃんが眠ったのは明け方近くなんですから」
「なら、そのフザケタ恰好を何とかなさい」
フザケタと言われても、カイル本来の姿なのだからとカイルは不満そうにしていた。
「世間で言うところの、今の陛下はあの偽物なのですから? 多少、似たところがあったとしても、そう、気にする者はいないはずですよ。 気配を薄めるようにしますから」
「まぁ、確かに今の彼は、陛下とは余り似ていないわ。 似せようと言う気を失くしたのね。 でも、戦場で貴方を見た事がある人は貴方を見れば気にするし、噂になれば皇妃が探りをいれてくるでしょうが!! もう、面倒ごとは止めて!!」
ふざけ半分だったのが、途中から本気でナルサスは怒り出していた。
「面倒ごとの大半は皇妃ですよね。 私のせいにされても困ります」
「だから何……、どっちでもいいのよ!! とにかく人が足りないのよ。 使える人が足りないの!! 超くだらない相手を生食鬼にするような連中よ……今だって、何人の生食鬼を抱えているか分からないのよ? うちの連中が仕上がるのが先か? 向こうが何か行動するのが先か? 本当ギリギリなんだから止めて!!」
そう、真面目に言われれば、妥協するしかない……。
だから、最初は少年姿へと転じた。
カイルの目的であるデートと言う意味合いを果たすためには少し物足りないが仕方がない。 少しでも好意を高めておきたいと願うのは、愛しているなら当然のこと。
「はぁ、もう……陛下の隠し子がいたと騒ぎになりたい訳?」
「そうですよ。 隠し子と言われなくても、新たな王族が見つかったとややこしい事になりますよ!」
「貴方まで……」
ふざけるナルサスは兎も角、ヒューゴの言葉は無視できない。 彼自身はナルサスよりも弱いが、人を動かすとこと、全体を見ることにおいては長けている。 仕方が……ない……。
ならばと、日頃から使っている女性姿……母様と言われるのは不満だけれど、食べに行くと約束した以上仕方がない。
「男を誘ってるの? 厄介ごと自分から招いてどうするのよ」
「失礼な方ですね。 男は対象ではありませんよ」
「それに、小さな小鳥を連れ歩くには、少し違和感がありますよ?」
「そうそう、清純さに欠けるのよねぇ~」
なんてやっているうちに……10歳未満の少女の姿となった。
「あら、やだ、カワイイじゃない。 いいわね」
そう言いながら笑われて、誰がありがたいと思えるだろうか? 当然のようにやさぐれては見るものの、目を覚まし喜ぶエリスまで悪く思えるはずが無かった。
「ちっちゃい!! カワイイ!! 綺麗!!」
「ソレは……どうも……」
少しだけ、やるせなかった。
未だナルサスとヘイシオは、訓練に付き合い中庭にいたが、ヒューゴはいったん町にでて一度に用事を済ませるため、カイルとエリスと共に執務室へと戻っていた。
「町に行くなら、以前ナルサスと行ったカフェのロールケーキ、お土産に買ってきて欲しいな」
元々は武闘派が集まり、使用人となった離宮。 侍女が自分達で菓子作りをするように、料理人達は甘い物を作る事は余り得意ではない。
部屋に戻り、本来への姿に戻ったカイルは自分の席に座った。 ソレを視線で確認したヒューゴはお茶を入れる。
「構いませんよ。 持ち帰りに適したものを見繕ってもらいましょう」
「ありがとう」
そう言いながら、ヒューゴの周りを飛び回るエリスに手を差し出せば、羽根の力ではなくふわりと風に舞う花びらのようにエリスが戻ってきた。
「なぁに?」
首を傾げ、甘い声が聞いてくる。
カイルはエリスの首筋を撫でる時、わずかに生命エネルギーを流す。 小鳥の姿だと言うのに、そのうっとりとした表情で見上げてくるのが愛らしく、満足感に胸が満たされるから。
「お土産も良いですが、一緒にカフェに出かけませんか? おチビちゃんに身体を治していただきました、町の様子を、人々の暮らしを見てみたいと思っていたところなんですよ」
左手に停まっていたエリスは、小さな足で腕に移動しもふっと腰を下ろす。
「書類を書くので、そこは安定性が悪いですよ。 肩か頭にどうぞ」
ペンを持つのは右手だが、動作の大きさ的には左の方が大きいかもしれない。
「こっちの方が……考え事の合間に撫でてもらえそうなんで……」
「……なら、仕方ありませんね」
「ねぇ、それより、いいの? お出かけ。 私、鳥だけど、カフェに入っていいの?」
「元の姿に戻れるなら、それが一番ですが、他の客と席を離せば問題ないでしょう」
喉元を撫でれば、嬉しそうに目を細め上を向く。
「嬉しいな」
妙な擽ったさに、カイルは少し困惑し嬉しくて笑った。 僅かの間、その静かな空気に身を任せたヒューゴは、お茶が入るのを確認し声をかける。
「そう言えば陛下、蟲への依頼はどうしますか?」
「目、耳を。 挙動は危険の無い最小限の方法で、敷地内に入る必要もありません。 彼等本人が潜入する訳ではないとは言え、彼等の手足、目鼻を側で使えば、皇妃は発狂しかねませんからね。 彼女の事は余り知りませんが、世間一般的に蟲の連中が使役するモノは、好ましいとは思われませんから」
「では、調整役としてうちの団員を、蟲たちの補助に付けましょう」
翌朝、うたたねするエリスを横にカイルが出かける準備を進めていれば、ナルサスからちょっと待ってと制止が入った。
「その恰好は何? その気合の入りまくった格好は何?!」
「何とは? 出かけるのなら最善の恰好をと思っただけですよ」
「ダメよ!! 全くなっちゃいないわ!!」
「余り大きな声を出さないで下さい。 楽しみ過ぎたおチビちゃんが眠ったのは明け方近くなんですから」
「なら、そのフザケタ恰好を何とかなさい」
フザケタと言われても、カイル本来の姿なのだからとカイルは不満そうにしていた。
「世間で言うところの、今の陛下はあの偽物なのですから? 多少、似たところがあったとしても、そう、気にする者はいないはずですよ。 気配を薄めるようにしますから」
「まぁ、確かに今の彼は、陛下とは余り似ていないわ。 似せようと言う気を失くしたのね。 でも、戦場で貴方を見た事がある人は貴方を見れば気にするし、噂になれば皇妃が探りをいれてくるでしょうが!! もう、面倒ごとは止めて!!」
ふざけ半分だったのが、途中から本気でナルサスは怒り出していた。
「面倒ごとの大半は皇妃ですよね。 私のせいにされても困ります」
「だから何……、どっちでもいいのよ!! とにかく人が足りないのよ。 使える人が足りないの!! 超くだらない相手を生食鬼にするような連中よ……今だって、何人の生食鬼を抱えているか分からないのよ? うちの連中が仕上がるのが先か? 向こうが何か行動するのが先か? 本当ギリギリなんだから止めて!!」
そう、真面目に言われれば、妥協するしかない……。
だから、最初は少年姿へと転じた。
カイルの目的であるデートと言う意味合いを果たすためには少し物足りないが仕方がない。 少しでも好意を高めておきたいと願うのは、愛しているなら当然のこと。
「はぁ、もう……陛下の隠し子がいたと騒ぎになりたい訳?」
「そうですよ。 隠し子と言われなくても、新たな王族が見つかったとややこしい事になりますよ!」
「貴方まで……」
ふざけるナルサスは兎も角、ヒューゴの言葉は無視できない。 彼自身はナルサスよりも弱いが、人を動かすとこと、全体を見ることにおいては長けている。 仕方が……ない……。
ならばと、日頃から使っている女性姿……母様と言われるのは不満だけれど、食べに行くと約束した以上仕方がない。
「男を誘ってるの? 厄介ごと自分から招いてどうするのよ」
「失礼な方ですね。 男は対象ではありませんよ」
「それに、小さな小鳥を連れ歩くには、少し違和感がありますよ?」
「そうそう、清純さに欠けるのよねぇ~」
なんてやっているうちに……10歳未満の少女の姿となった。
「あら、やだ、カワイイじゃない。 いいわね」
そう言いながら笑われて、誰がありがたいと思えるだろうか? 当然のようにやさぐれては見るものの、目を覚まし喜ぶエリスまで悪く思えるはずが無かった。
「ちっちゃい!! カワイイ!! 綺麗!!」
「ソレは……どうも……」
少しだけ、やるせなかった。
0
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
いなくなった伯爵令嬢の代わりとして育てられました。本物が見つかって今度は彼女の婚約者だった辺境伯様に嫁ぎます。
りつ
恋愛
~身代わり令嬢は強面辺境伯に溺愛される~
行方不明になった伯爵家の娘によく似ていると孤児院から引き取られたマリア。孤独を抱えながら必死に伯爵夫妻の望む子どもを演じる。数年後、ようやく伯爵家での暮らしにも慣れてきた矢先、夫妻の本当の娘であるヒルデが見つかる。自分とは違う天真爛漫な性格をしたヒルデはあっという間に伯爵家に馴染み、マリアの婚約者もヒルデに惹かれてしまう……。
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる