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43.存在しない存在

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「次、私達の相手をお願いします!!」

 と言うのは、侍女のお姉さん軍団。 生食鬼たちは陛下の方を見て指示を仰いでいた。 ナルサスとの戦いであれほど動いていながら呼吸の乱れはない。 まぁ、ナルサスの方もへっちゃらって顔をしているけれど。

 陛下が頷くと、ヘイシオは少しばかり生食鬼達と会話を交わし、侍女達との訓練に向かわせた。

「結局、あの子達全員残るのね」

 そう言いながら近寄ってきたナルサスに、ヒューゴが頷く。

「自分達の出生や、できることを考えれば、幾ら陛下の紹介付きであっても身分的なものを考えれば、貴族の元で働いて上手くやってくことは出来ないだろうと。 それに、皆とも別れたくないし、訓練をサボっていたのも事実ですが、時間をください。 と、言ってました」

 ここまではナルサスに向けたもので、ヒューゴは訓練を見つめる陛下をチラリと見て、少し笑いながら言葉を続ける。

「失望はさせないそうですよ」

「そうですか……馬鹿な方々ですね」

 陛下の声に自嘲めいた苦笑が混ざる。

「彼女達は、もう家族のようなもので、離れ離れになるのも寂しいそうですよ」

「あら、せっかくのチャンスなのに。 こんな森の中で一生を無駄にすると決めるなんて勿体ない事をするものね」

「それ、モイラさんの前で言ったら、アウトですよ団長」

 彼等も大概中良さそうに思えて……少し、寂しいと言うか、胸がチクッとしてしまう。

「わ、私も!! 仲間に、家族のようになれるかな?!」

 胸元から顔をだし、陛下に問えば陛下は綺麗に優しく微笑む。

「おチビちゃんは、卵の頃から私にとって大切な家族ですよ」

「ピッ」

 胸にもふっとすりよれば、指先で頭を撫でられた。

 なぜか側で呆れたような顔をするナルサスと、苦笑するヒューゴに、不思議そうにする2人だった。

 家族じゃダメでしょうとかどうとか、そんな2人のボソリとした会話を、エリスは知ること等なく、カイルと言えば眉間に深い皺を刻むこみ、またナルサスは肩を震わせ笑いをこらえ、肘でソレを突きとめるヒューゴが居た。

「ま、まぁ、それよりも皇妃の方、どうします?」

「放っておく訳にはいかないでしょうし、蟲を使いましょうか?」

 溜息交じりの陛下の言葉に2人は頷いて見せる。

「そうですね。 定期的に付き合いを続けないと敵に回られては面倒な相手ですし」

「私、あの人達は苦手だから、ヒューゴアンタが担当なさい」

「わかっています」

 私が首を傾げると、陛下はあっさりと教えてくれた。

「皇都内にあるギルドの、諜報専門組織ですよ。 表に出る事が出来ないような者達を集めた組織で、程よいお付き合いをさせていただいております」

「表に出る事が出来ないって言うと、犯罪者?」

「いえ……どう説明すればいいのでしょうね? 大地の民は身体の丈夫さ、その能力の高さが強みですが、稀に、五体に問題のあるものも生まれます。 そのような者の大半は、無事育たないと処理されるのですが、実は、得意分野が違うだけなんです」

「得意分野?」

「はい、そういう者には魔力があります。 強い身体能力を引き換えにするだけの魔力と、ソレを扱うための特殊因子が……、エイマーズにいた頃、生まれた赤ん坊を買い取る者がいたハズですよ?」

「えっと……知らない……」

「……そうですか……。 きっと、アナタに嫌われたくなかったんですね」

 そう、穏やかに陛下は言うけれど、私は……エイマーズ領を仕切っていたはずだった。 住民を登録させ、獣の因子を調査し、適した職業を宛がい、自由奔放な大地の民を管理していた。 マルスに変わり、中庸の社会を真似て大地の民に無理の無いよう管理しているはずだった。

 なのに、知らない事がある……。
 生まれた子が、売られていた?
 ソレに納得できなかった。

 プンッと腹を立てれば、頭部の毛が立ってしまう。 苦笑しながら陛下は首筋を撫でて来た。

 そんな事で宥められたりしないんだからね!!

 とは、思っていたけれど……甘く説明をしながら首筋を撫で続けられれば、私はとろとろと蕩けるような気分で、話を聞くしかなかった。

 陛下は、宥めるように、はみ出し者、小さき者、何者にもなれぬ者、時代により名を変える大地の民の亜種たちの説明をしてくれた。

 彼等は、獣ではない者の因子を持ち、動く事もままならず生まれる代わりに、強い魔力を持つと言う。 その者達の因子は、トカゲ、トンボ、セミ、クモ、カエル等さまざまで、とにかく小さいと言うのが特徴だと言う。 そして、トカゲは竜種に似ているが、竜種ではない。 トンボもセミも飛ぶことが出来るが翼ある者ではない。 カエルは水の中でも生きる事が出来るが水の民とは違う。

 そう言う魔力ある大地の者の多くは、身動きすら自由にならないほどの虚弱さをもって、自らの因子の先にある者を支配することが出来るのだと言う話だった。



 そして、なぜか私は陛下とカフェデートをする事となった。
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