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42.教育と調教
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昨晩から、生食鬼の管理を任せられていたヘイシオに、2人を中庭に連れてくるようにと連絡が入った。
陛下の個人秘書である彼は、今、陛下(女)の代理として2人の世話を行っていた。 好々爺としたおっとりとした様子は、現状に苦しむ2人を良く慰めていると言えるだろう。
「貴方方に、手錠は意味が無いでしょう。 ですが、こういうものは、怯えさせるつもりがないと相手に示すために必要なのです。 ご理解下さい」
「……はい……」
皇妃の元で、蝶よ花よとされていた時期であれば、なんて言って相手を責めたか分からないが、今となっては、変化する身体は痛み(人の姿へと戻ろうとしている)、ただ存在しているだけで激しい空腹を覚えていた。
それでも大人しいのは、一晩中淡々と言い含められたから。
『私を、襲っても構いませんが、私だってそう簡単にやられる訳にはいきません。 そして、貴方方2人にやられるほど未熟でもありません。 そんな姿となった貴方方は気の毒ではありますが、他の者達と比べれば恵まれている。 あの方の血一滴は成人男性5.6人の価値がございますからねぇ~』
陛下とナルサス、ヒューゴが一歩下がって廊下を歩く。
そして、私は再び女性姿となった陛下の胸元にいた。
「皇妃様は何をお考えなのでしょうか?」
そう問うたのは、ヒューゴだった。
「なぁに? ソレは、生食鬼なんてのを作り出している理由?」
「いえ……なんて言うか、良く分からない方ですよね」
「あの女が考えている事なんて、自分の美貌と欲、美しいものに囲まれて生きていきたいけどぉ~。 私が最も美しくないと駄目。 って、ところでしょう? 後はソレを成立させるための金、金、金。 陛下から金を引っ張りだせない以上、他の貴族に何かしている可能性も視野に入れないと駄目だしぃ。 あぁ、もう、すっごい面倒なんだけどぉ~。 いっそ、金、渡したら楽なんじゃないの?」
「気分的に無理です」
「分かるけど、余り忙しくされても、こっちも手足が足りないってものよ」
「なら、外部の者を使いましょう。 彼等にもソロソロ仕事を与えないと、金が欲しいと厄介な方に味方をされても困りますし」
薄く笑う陛下。
そんな会話をしながら向かった中庭では、膝をつき陛下(女)を待つ生食鬼の2人と、整列して待つ侍女や使用人達がいた。 今、そこにいないのは料理人達ぐらいだろうか?
「血を……命令を聞けば、また、血を……血を、くださいますか?」
苦し気に、飢えに顔を歪ませながら2人は訴える。
「あら、ヘイシオ。 躾、なってないんじゃない?」
「教育とは一朝一夕でなるものではございませんぞ」
今、この2人は、人の姿を取り戻そうと強い飢えに晒されているそうだ。 もし、2人が力のある兵士であったなら、人を襲い続けるほどの飢餓なのだとヒューゴは教えてくれた。
「貴方達が、私に従い良く働くと信用できるなら……」
陛下は、冷徹な視線をもって2人を見下ろしながら告げた。 2人の気持ちは分からない……。 だが尋問等を引き受けたヘイシオさんが言うには、人を襲いたくないと言う気持ちは強いのだと言う。 だけれど、それでは2人を配下に置く意味はない。
お互いに利益を提供しあえると分かって初めて、アナタ達は最低限の生が保証される。 人は襲うな、でも自分達が命じる相手は襲えと言うのだから、身勝手だと思われても仕方がないが、使いようの無い彼等は生かしておく意味が無いのだから、仕方ないよねと言うことらしい。
「は、はい!!」
「では、彼と戦ってもらいましょう」
「さ、先に血を……でなければ、食い殺してしまうかもしれません」
「食い殺される程度なら、ソレはソレで構いませんよ」
「あら、冷たいわねぇ~」
ナルサスは笑い、大槍ほどの長さの棒を手に取り、訓練が開始された。
生食鬼の2人は、武器の使い方も知らず、力押しである事から、その力を上手く受け流す事でナルサスは、槍替わりの棒を使い難無く生食鬼の2人をいなす。
一度に力任せに対処するのではなく、あくまでも訓練と言う体裁を保ち、ナルサスが教える側として立ち回っていた。
空振りする2人を適度に翻弄し、避け、背中を軽くつくだけで、突進する力は方向性を失い地面を抉る。 生食鬼の膨大な力を上手く空振りさせるナルサスに、彼の戦いを知る者以外は唖然としていた。
余裕、いや……華麗とも言えただろう。
「小鬼の2人は、全然相手になりませんね」
少しばかり残念と言うニュアンスを言葉に残した陛下には、つい突っ込みを入れてしまう。
『陛下、小鬼の2人とは謎の美女で会っているんだから、男姿、それも陛下として会うのは良くないんじゃないの? それに、今、陛下が、復活している事もバレるのはヤバイでしょう?』
と言うナルサスの無意味に嫌味たらしい発言の結果、陛下は過去使っていた偽名『シーラ』をそのまま流用し、謎の美女シーラとして存在する事となった事への、嫌がらせだろう。
「どっちを応援してる、っぴ!!」
攻防のあおりをうけ飛んでくる小石。 それが、身体にあたる前に落下するのを見れば、自分が生かしている同種のはずの存在に驚いてしまう。
「ふふふ、それは、まぁ……」
ニッコリと美人に微笑むが返事をしない。 そんな会話にヒューゴが乱入してきた。
「ですが、スピードは流石ですよ。 見えて、反応できなければ、技術なんか関係ありませんからねぇ、うちの団員の1割程度はついていけないでしょう」
「9割も対応できるの?」
「むしろ1割の者が対応できないの? と言うべきですね。 とは言え、その1割は戦争を知らない者達ですから、仕方がありません。 こればかりは経験と素質が物をいいますし……」
戦争があった時代は、身体能力を自慢の若者が手柄を立てようと戦場に集まっている中から、素質ある若者を選び、人柄や、背後関係を調査後、スカウトする形をとっていたが、今は家督に関係のない貴族の三男、四男、五男等が、入団を望むのだが断りにくい相手を介してくるのが厄介なのだと言う。
「実践経験を積めなくなった今、仕方ありませんよ」
「口先ばかりの貴族出身の騎士は、面倒なだけなんですよね。 いっそ平和協定等なくて、戦争の予感でも匂わせておいてくれれば、貴族も近寄ってこなかったでしょうに」
等と仲良く語るヒューゴと陛下。
「ちょっと、アンタたちちゃんと見てなさいよ!!」
「団長、そっちこそ、こっちを気にせず訓練してください!!」
ヒューゴの返しは何時でも陛下よりだ。
「アンタ、後で覚えておきなさいよ!!」
なんて言う言葉と共に、ドンッという音が2回響かせ、生食鬼を制圧し終えていた。
陛下の個人秘書である彼は、今、陛下(女)の代理として2人の世話を行っていた。 好々爺としたおっとりとした様子は、現状に苦しむ2人を良く慰めていると言えるだろう。
「貴方方に、手錠は意味が無いでしょう。 ですが、こういうものは、怯えさせるつもりがないと相手に示すために必要なのです。 ご理解下さい」
「……はい……」
皇妃の元で、蝶よ花よとされていた時期であれば、なんて言って相手を責めたか分からないが、今となっては、変化する身体は痛み(人の姿へと戻ろうとしている)、ただ存在しているだけで激しい空腹を覚えていた。
それでも大人しいのは、一晩中淡々と言い含められたから。
『私を、襲っても構いませんが、私だってそう簡単にやられる訳にはいきません。 そして、貴方方2人にやられるほど未熟でもありません。 そんな姿となった貴方方は気の毒ではありますが、他の者達と比べれば恵まれている。 あの方の血一滴は成人男性5.6人の価値がございますからねぇ~』
陛下とナルサス、ヒューゴが一歩下がって廊下を歩く。
そして、私は再び女性姿となった陛下の胸元にいた。
「皇妃様は何をお考えなのでしょうか?」
そう問うたのは、ヒューゴだった。
「なぁに? ソレは、生食鬼なんてのを作り出している理由?」
「いえ……なんて言うか、良く分からない方ですよね」
「あの女が考えている事なんて、自分の美貌と欲、美しいものに囲まれて生きていきたいけどぉ~。 私が最も美しくないと駄目。 って、ところでしょう? 後はソレを成立させるための金、金、金。 陛下から金を引っ張りだせない以上、他の貴族に何かしている可能性も視野に入れないと駄目だしぃ。 あぁ、もう、すっごい面倒なんだけどぉ~。 いっそ、金、渡したら楽なんじゃないの?」
「気分的に無理です」
「分かるけど、余り忙しくされても、こっちも手足が足りないってものよ」
「なら、外部の者を使いましょう。 彼等にもソロソロ仕事を与えないと、金が欲しいと厄介な方に味方をされても困りますし」
薄く笑う陛下。
そんな会話をしながら向かった中庭では、膝をつき陛下(女)を待つ生食鬼の2人と、整列して待つ侍女や使用人達がいた。 今、そこにいないのは料理人達ぐらいだろうか?
「血を……命令を聞けば、また、血を……血を、くださいますか?」
苦し気に、飢えに顔を歪ませながら2人は訴える。
「あら、ヘイシオ。 躾、なってないんじゃない?」
「教育とは一朝一夕でなるものではございませんぞ」
今、この2人は、人の姿を取り戻そうと強い飢えに晒されているそうだ。 もし、2人が力のある兵士であったなら、人を襲い続けるほどの飢餓なのだとヒューゴは教えてくれた。
「貴方達が、私に従い良く働くと信用できるなら……」
陛下は、冷徹な視線をもって2人を見下ろしながら告げた。 2人の気持ちは分からない……。 だが尋問等を引き受けたヘイシオさんが言うには、人を襲いたくないと言う気持ちは強いのだと言う。 だけれど、それでは2人を配下に置く意味はない。
お互いに利益を提供しあえると分かって初めて、アナタ達は最低限の生が保証される。 人は襲うな、でも自分達が命じる相手は襲えと言うのだから、身勝手だと思われても仕方がないが、使いようの無い彼等は生かしておく意味が無いのだから、仕方ないよねと言うことらしい。
「は、はい!!」
「では、彼と戦ってもらいましょう」
「さ、先に血を……でなければ、食い殺してしまうかもしれません」
「食い殺される程度なら、ソレはソレで構いませんよ」
「あら、冷たいわねぇ~」
ナルサスは笑い、大槍ほどの長さの棒を手に取り、訓練が開始された。
生食鬼の2人は、武器の使い方も知らず、力押しである事から、その力を上手く受け流す事でナルサスは、槍替わりの棒を使い難無く生食鬼の2人をいなす。
一度に力任せに対処するのではなく、あくまでも訓練と言う体裁を保ち、ナルサスが教える側として立ち回っていた。
空振りする2人を適度に翻弄し、避け、背中を軽くつくだけで、突進する力は方向性を失い地面を抉る。 生食鬼の膨大な力を上手く空振りさせるナルサスに、彼の戦いを知る者以外は唖然としていた。
余裕、いや……華麗とも言えただろう。
「小鬼の2人は、全然相手になりませんね」
少しばかり残念と言うニュアンスを言葉に残した陛下には、つい突っ込みを入れてしまう。
『陛下、小鬼の2人とは謎の美女で会っているんだから、男姿、それも陛下として会うのは良くないんじゃないの? それに、今、陛下が、復活している事もバレるのはヤバイでしょう?』
と言うナルサスの無意味に嫌味たらしい発言の結果、陛下は過去使っていた偽名『シーラ』をそのまま流用し、謎の美女シーラとして存在する事となった事への、嫌がらせだろう。
「どっちを応援してる、っぴ!!」
攻防のあおりをうけ飛んでくる小石。 それが、身体にあたる前に落下するのを見れば、自分が生かしている同種のはずの存在に驚いてしまう。
「ふふふ、それは、まぁ……」
ニッコリと美人に微笑むが返事をしない。 そんな会話にヒューゴが乱入してきた。
「ですが、スピードは流石ですよ。 見えて、反応できなければ、技術なんか関係ありませんからねぇ、うちの団員の1割程度はついていけないでしょう」
「9割も対応できるの?」
「むしろ1割の者が対応できないの? と言うべきですね。 とは言え、その1割は戦争を知らない者達ですから、仕方がありません。 こればかりは経験と素質が物をいいますし……」
戦争があった時代は、身体能力を自慢の若者が手柄を立てようと戦場に集まっている中から、素質ある若者を選び、人柄や、背後関係を調査後、スカウトする形をとっていたが、今は家督に関係のない貴族の三男、四男、五男等が、入団を望むのだが断りにくい相手を介してくるのが厄介なのだと言う。
「実践経験を積めなくなった今、仕方ありませんよ」
「口先ばかりの貴族出身の騎士は、面倒なだけなんですよね。 いっそ平和協定等なくて、戦争の予感でも匂わせておいてくれれば、貴族も近寄ってこなかったでしょうに」
等と仲良く語るヒューゴと陛下。
「ちょっと、アンタたちちゃんと見てなさいよ!!」
「団長、そっちこそ、こっちを気にせず訓練してください!!」
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