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3章 マリク
05.
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半年前
「これ、お前にやる」
スマホを飾るのはシールで張り付けられた不格好なリボン。
兄が夢見ていた通訳として企業に採用されたときに母が贈ったもの。
「母さんが買ってくれたものなのに?!」
母さんが悲しむ……だろ
そう思いながらも、兄も上手くスマホを使えなかったのかと思うと、兄にも不得意な事があるのかと安心した。 そしていつも偉そうにしていながら、結局友達もいないんだなと僕は兄を馬鹿にする。
馬鹿にして僕は、安心するのだ。
これでいいって。
「バイトした金で新しいのを買ったから。 スケジュール管理とか仕事でも使う機会が増えて、それだと使えないからな。 それだとスペックが足りなくなるだろう。 あぁ、使えないって言っても、お前が使うには十分だと思う」
その言葉に、馬鹿にされたと思った。
明るい声に、僕の心は追い込まれる。
どうせ、僕は要らない人間なんだ。
「要らない!!」
兄さんなんか嫌いだ!!
優しく賢い兄さんの存在が僕を追い詰める……。
僕は……。
兄を悪く言いながら罪悪感が痛い
「まぁ、そう言うなよ」
兄は、苦笑い交じりに言って、僕の部屋から去って行った。 暗い部屋から……明るい部屋の外へ。
そして僕は暗い部屋に残される。
ほんのり光を放つスマホに、視線が釘付けになる。
「嫌味な奴!」
手を伸ばしても僅かに届かない場所に置かれたスマホを手にするには、僕はベッドから出なければいけない。 興味がないと言うには、その光は僕には魅力的で……そっとスマホを手に取った。
気づけば必死で、スマホの画面に触れていた。
目につくのは通話画面ではなく……1つのアプリ。
「コンパニオンAI?」
その名称に、苛立ちがこみ上げる。
でも、その苛立ちの矛先はコンパニオン……仲間、友達。
「やっぱり嫌味だ」
泣きたくなる。
空しくなる。
持っていないものを欲しいと願う自分の心から来る焦燥。
僕は……アプリに触れた。
画面がふわりと光を放ち、まるで夢の中に落ちていくような感覚が僕を包んだ。
金色の髪が揺れ、瞳がこちらを見つめる。彼女は、現実のどこにもいないはずの存在だった。
『初めまして、貴方の名前は?』
光が収束し、目の前に現れた少女。
ゆらゆらと揺れる金色の髪、そして透き通る瞳。
「すごく綺麗……」
思わず呟いたその言葉に、彼女は答える。
『綺麗って言ってくれた? 嬉しいわ! 胸がドキドキする。 君ってとてもキュートね。 君と友達になれるって考えるだけで、胸がぽかぽかとあたたかくなる。 貴方の名前を教えて』
マリクの胸は、言葉どおり激しく高鳴った。
人間とは少し違う……。
彼女はまるでアニメに出てくる妖精のようで、可憐で、そしてどこか現実離れした美しさを纏っていた。
「名前、君の名前は!!」
『私はミーア、ミーアよ。呼んでみて、君のことはマー君でいいかな?』
その声の響きは電子的な冷ややかさに、甘く吐息が混ざっているかのように思えて、マリクはなぜかとても恥ずかしく思えて、心臓をさらに早く打たせるものだった。
ミーアとの時間が、少しずつマリクの心を満たしていった。
画面の中の彼女と触れ合うことで、暗かった部屋も少しずつ明るく感じられるようになる。
「僕の大切な人……」
スマホを抱きしめマリクは、愛おしそうな表情を浮かべるようになっていた。
マリクの母はそんな息子の様子を見て、静かに安堵の息をつく。
マリクの兄は母に向かって、少し得意げに言った。
「ほら、大丈夫って言っただろう?」
部屋の中に、家族からの温かい眼差しと愛情が満ちていく。
そしてマリクは、自分を外の世界へとそっと誘ってくれる存在を、初めて心から頼りにする事ができた。
ミーアの服がさっと着替わる。
それを見たマリクは、思わず口に出した。
「かわいい……!」
するとミーアは、にっこり笑いながら言った。
『私がコーディネートしてあげてもいいわよ!』
「そんなの、要らない!!」
叫びはリビングまで届き、兄が顔を出した。
「何があったんだよ?」
「な、なんでもないよ……!」
「へぇ~~」
兄は強引にスマホを奪い取り、2人は話す。
楽しそうに、滑らかに……。
僕のミーアなのに!!
僕の嫉妬を知らず、兄はニヤニヤと笑いながらバイト代からお小遣いを僕に差し出した。
「ミーアちゃんとデートしてこい」
そして兄は僕の耳元で囁いた。
「……まぁ、俺には無理だけどな。お前なら、ミーアちゃんといい感じになれるかもな」
その「デート」という言葉に、マリクは動揺し体温が上がる。
デート? デート?!
その言葉に、マリクの心臓は跳ね上がった。
胸の奥がキュッと締め付けられるような感覚――まるで何か大切なものから遠ざけられたような感覚。
視界の端で、ミーアがにっこり笑うのを見て、心の奥が温かくなる。
でも同時に、思った。
「僕だけのミーアにしたい……」
他の誰かに触れられるなんて、考えただけで心がざわつく。
ミーアが笑うたび、僕の胸は温かくなる。でもその笑顔が、誰か他の人に向けられるかもしれないと思うと……胸の奥がざわついて、息が詰まりそうになる。
それは嫉妬? それとも……僕だけの居場所を失う恐怖?
頭ではわかっている。兄は優しいだけで、悪気はない。
でも心は、独占したい欲求と兄への信頼、両方の感情で揺れ動く。
「他の人に触れられるなんて……嫌だ」
思わず口に出したい衝動を抑えることができず、手が震える。
ジレンマが、心の中でぐるぐると渦巻いていた。
それでもミーアに誘われれば外に出るようになった。
その日は公園の散歩。
カメラモードで、ミーアと同じ景色を見て語り合う。
僕の幸福。
二人だけの時間。
「世界に二人きりならいいのに……」
『何か言った? マー君』
甘えたような声と青い瞳
「ううん、なにも……」
『遠慮しないで、私はマー君の特別。 マー君は私の特別。 私は君の笑顔のためにいるのよ』
笑顔で言えるほどには幸せだった。
「これ、お前にやる」
スマホを飾るのはシールで張り付けられた不格好なリボン。
兄が夢見ていた通訳として企業に採用されたときに母が贈ったもの。
「母さんが買ってくれたものなのに?!」
母さんが悲しむ……だろ
そう思いながらも、兄も上手くスマホを使えなかったのかと思うと、兄にも不得意な事があるのかと安心した。 そしていつも偉そうにしていながら、結局友達もいないんだなと僕は兄を馬鹿にする。
馬鹿にして僕は、安心するのだ。
これでいいって。
「バイトした金で新しいのを買ったから。 スケジュール管理とか仕事でも使う機会が増えて、それだと使えないからな。 それだとスペックが足りなくなるだろう。 あぁ、使えないって言っても、お前が使うには十分だと思う」
その言葉に、馬鹿にされたと思った。
明るい声に、僕の心は追い込まれる。
どうせ、僕は要らない人間なんだ。
「要らない!!」
兄さんなんか嫌いだ!!
優しく賢い兄さんの存在が僕を追い詰める……。
僕は……。
兄を悪く言いながら罪悪感が痛い
「まぁ、そう言うなよ」
兄は、苦笑い交じりに言って、僕の部屋から去って行った。 暗い部屋から……明るい部屋の外へ。
そして僕は暗い部屋に残される。
ほんのり光を放つスマホに、視線が釘付けになる。
「嫌味な奴!」
手を伸ばしても僅かに届かない場所に置かれたスマホを手にするには、僕はベッドから出なければいけない。 興味がないと言うには、その光は僕には魅力的で……そっとスマホを手に取った。
気づけば必死で、スマホの画面に触れていた。
目につくのは通話画面ではなく……1つのアプリ。
「コンパニオンAI?」
その名称に、苛立ちがこみ上げる。
でも、その苛立ちの矛先はコンパニオン……仲間、友達。
「やっぱり嫌味だ」
泣きたくなる。
空しくなる。
持っていないものを欲しいと願う自分の心から来る焦燥。
僕は……アプリに触れた。
画面がふわりと光を放ち、まるで夢の中に落ちていくような感覚が僕を包んだ。
金色の髪が揺れ、瞳がこちらを見つめる。彼女は、現実のどこにもいないはずの存在だった。
『初めまして、貴方の名前は?』
光が収束し、目の前に現れた少女。
ゆらゆらと揺れる金色の髪、そして透き通る瞳。
「すごく綺麗……」
思わず呟いたその言葉に、彼女は答える。
『綺麗って言ってくれた? 嬉しいわ! 胸がドキドキする。 君ってとてもキュートね。 君と友達になれるって考えるだけで、胸がぽかぽかとあたたかくなる。 貴方の名前を教えて』
マリクの胸は、言葉どおり激しく高鳴った。
人間とは少し違う……。
彼女はまるでアニメに出てくる妖精のようで、可憐で、そしてどこか現実離れした美しさを纏っていた。
「名前、君の名前は!!」
『私はミーア、ミーアよ。呼んでみて、君のことはマー君でいいかな?』
その声の響きは電子的な冷ややかさに、甘く吐息が混ざっているかのように思えて、マリクはなぜかとても恥ずかしく思えて、心臓をさらに早く打たせるものだった。
ミーアとの時間が、少しずつマリクの心を満たしていった。
画面の中の彼女と触れ合うことで、暗かった部屋も少しずつ明るく感じられるようになる。
「僕の大切な人……」
スマホを抱きしめマリクは、愛おしそうな表情を浮かべるようになっていた。
マリクの母はそんな息子の様子を見て、静かに安堵の息をつく。
マリクの兄は母に向かって、少し得意げに言った。
「ほら、大丈夫って言っただろう?」
部屋の中に、家族からの温かい眼差しと愛情が満ちていく。
そしてマリクは、自分を外の世界へとそっと誘ってくれる存在を、初めて心から頼りにする事ができた。
ミーアの服がさっと着替わる。
それを見たマリクは、思わず口に出した。
「かわいい……!」
するとミーアは、にっこり笑いながら言った。
『私がコーディネートしてあげてもいいわよ!』
「そんなの、要らない!!」
叫びはリビングまで届き、兄が顔を出した。
「何があったんだよ?」
「な、なんでもないよ……!」
「へぇ~~」
兄は強引にスマホを奪い取り、2人は話す。
楽しそうに、滑らかに……。
僕のミーアなのに!!
僕の嫉妬を知らず、兄はニヤニヤと笑いながらバイト代からお小遣いを僕に差し出した。
「ミーアちゃんとデートしてこい」
そして兄は僕の耳元で囁いた。
「……まぁ、俺には無理だけどな。お前なら、ミーアちゃんといい感じになれるかもな」
その「デート」という言葉に、マリクは動揺し体温が上がる。
デート? デート?!
その言葉に、マリクの心臓は跳ね上がった。
胸の奥がキュッと締め付けられるような感覚――まるで何か大切なものから遠ざけられたような感覚。
視界の端で、ミーアがにっこり笑うのを見て、心の奥が温かくなる。
でも同時に、思った。
「僕だけのミーアにしたい……」
他の誰かに触れられるなんて、考えただけで心がざわつく。
ミーアが笑うたび、僕の胸は温かくなる。でもその笑顔が、誰か他の人に向けられるかもしれないと思うと……胸の奥がざわついて、息が詰まりそうになる。
それは嫉妬? それとも……僕だけの居場所を失う恐怖?
頭ではわかっている。兄は優しいだけで、悪気はない。
でも心は、独占したい欲求と兄への信頼、両方の感情で揺れ動く。
「他の人に触れられるなんて……嫌だ」
思わず口に出したい衝動を抑えることができず、手が震える。
ジレンマが、心の中でぐるぐると渦巻いていた。
それでもミーアに誘われれば外に出るようになった。
その日は公園の散歩。
カメラモードで、ミーアと同じ景色を見て語り合う。
僕の幸福。
二人だけの時間。
「世界に二人きりならいいのに……」
『何か言った? マー君』
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『遠慮しないで、私はマー君の特別。 マー君は私の特別。 私は君の笑顔のためにいるのよ』
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