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08.最強賢者の影響力 01
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戦場を除くギルモア国においてシアの持つ権限は、シアが困惑するほどに大きい。
シアの元で仕事を一緒にしたギルモアの人獣たちは、シアの決定に対してNoと言う事はない。 まるで自らにソレを課しているかの如く、統一された意志であるかの如く、シアの考えに従う。
何時だってシアに反発するのは、人獣に蹂躙されたことを言い訳に生きようとする人間だった。
『人獣の人達は、私の発言が絶対厳守のようで……なんだか時折、悪者になったような気分になる……』
そんな事を言えば、ドーラがどう返してくれるか考えるまでもない。 だけど、私は何時だって慰めて欲しくて言葉にするのだ。
『絶対厳守なのではなく、姫様が正しいから言う事を聞くのよ』
そう言ってドーラは抱きしめてくれる。
それでも自分の発言や行動は、なるべく気を付けてはいるのよね。 だって、ギルモア国はまだまだ改良点が多く、私は直ぐにギルモアの民を、彼等の意志を問う事無く都合よく利用してしまうから……。
「ねぇ……明日、改めて来訪連絡を取ってから、伺った方がいいんじゃないかな? もう、夜も遅いですし」
シアを横抱きにしながら、城を見下ろす大きな木の上に上がったドーラは、とんでもないと首を横に振った。
「問題ありません。 王は例え死の直前であっても姫様のお相手をされるはずですよ」
「それは、なんだかイヤな例えだわ」
「そうでしょうか? 何時でも、どんな時でも、誰がいても、王は姫様とお話したいと思われるはずです。 予定を聞いて調整して、数日後にまたきます。 そんなことを言う方が王は寂しいと思われるはずですよ。 私だったら……絶対そう思います」
「ドーラの言う通りですよ。 天使殿」
気配なく背後からかけられる声。
その声は低くとてもおちついた男性のもの。
男は、ドーラよりも2回り程大きな体をもっているが、肉は薄く、髪は白く、老いが見て取る事ができた。 それでも、金色の瞳は記憶通りとても優しい。
彼こそがシアの目的の人であり、この国の王様である。
「髪……どうされたのですか?」
王はアレクシアの短くなった髪を見て、その声に動揺を交え問いかけながらも、誰かが何かをしたというなら八つ裂きにしてやろうという強い意思が瞳に垣間見えた。
ぁ、良かった……元気そうだ。
そうシアは場違いな事を考え安堵した。
「旅に、邪魔だったから切ったの」
「ですが、数日前の報告では、そのような事は聞いておりませんぞ。 どう、なされたのかお話ください」
老いたと言っても、私と比べればかなり大きい王様は、木の上であるにも関わらず膝をつき、私と視線を合わせて必死な様子で問いかけてくる。
「本当に気分転換で切っただけ。 そんな事より、お願いがあって戻ってきたの」
「なんなりとお申し付け下さい」
王はそう言いながら、視線でドーラに控えるように告げ、シアを城内へと招き入れた。
執務室に通されたシアは、ソファに座るよう勧めら腰を下ろす。
数年前まで森の木の上で住んでいたとは思えない、人間らしい生活……美しい家具、照明等が目につけばシアは、自然と微笑んでいた。
人間との同盟も上手くいっているのね。
そう思いながらも、まさか……と言う思いが脳裏を過れば、シアの表情を上手く察知した王様は苦笑いを浮かべる。
「ちゃんと人間の商人から、対価を支払い購入しておりますよ」
「そう、よかったわ」
「天使殿には遅い時間ですから、飲み物は薄めのお茶を淹れましょう」
「もう大人だから、お酒でもいいのよ!!」
「薄いお茶を淹れましょう」
微笑みで返された。
「ズイブンと変わるものね」
「導きがあったからこそです。 このような地に足のついた生活ができるとは想像もしておりませんでした。 これこそ神の奇跡であり、そしてアナタは神の遣いです」
真面目に返され次の言葉に困る。 知識・情報はあっても、人と人が関わる事で生まれる関係性等は学んでこなかったから、シアはたびたび言葉につまり黙りこんでしまう。
「でもね、私は賢者なの。 聖女のように慈愛に満ち、自己犠牲に生きることは無いわ。 ワガママで身勝手な生き物なんだから」
「だが、それに救われている」
「相変わらず、人獣とは思えないほどお話上手ね。 羨ましい事だわ」
そう言えば、王は穏やかに笑った。
「荒くれものばかりで中で、苦労していますのでなぁ」
「ギルモアの王族の象徴とも言える黒髪が、白くなったのも? 何か大変な事があったなら、話を聞くわよ」
「天使殿が心配される事ではありません。 髪は若いときに少々無理をしましたからそのせいでしょう。 白い髪もなかなかイケるとは思いませんか?」
そうやって得意げに言うから、私はつい笑ってしまう。
「それより、髪をきったせいか天使殿はズイブン幼く見えますなぁ~」
そう言いながら甘い乾燥フルーツを出してくる。
「失礼ね。 ちゃんと6年分成長しているわよ。 あぁ、そうではなくて、王様」
「なんですか?」
「お願いの件だけど」
「なんなりと……」
「ランディ様との婚姻だけど……」
一気に言い切ろうとするシアの言葉を、いやな予感をした王は慌てて遮り早口に言い切った。
「ランディには直ぐ戻るよう、王命をだしております!!」
シアは6年前、100時間に及ぶ問答を王と行い、ギルモアの民の生き方を変えるように促し、王は問答を行う事でシアが信頼に値すると判断した。
それは、絶対的なものだ。
もし、シアが一族を導くために100の命を差し出せというなら、王は一瞬の悩みなく一族の者の命を、例えそこに自らの命が混ざって居ようと差し出すだろう。
「違うの、婚姻をね。 無かったことにして欲しいの」
シアの願いであれば、100の命でも差し出す王にもかかわらず、王はその願いに黙り込み苦悶の表情を浮かべたのだった。
シアの元で仕事を一緒にしたギルモアの人獣たちは、シアの決定に対してNoと言う事はない。 まるで自らにソレを課しているかの如く、統一された意志であるかの如く、シアの考えに従う。
何時だってシアに反発するのは、人獣に蹂躙されたことを言い訳に生きようとする人間だった。
『人獣の人達は、私の発言が絶対厳守のようで……なんだか時折、悪者になったような気分になる……』
そんな事を言えば、ドーラがどう返してくれるか考えるまでもない。 だけど、私は何時だって慰めて欲しくて言葉にするのだ。
『絶対厳守なのではなく、姫様が正しいから言う事を聞くのよ』
そう言ってドーラは抱きしめてくれる。
それでも自分の発言や行動は、なるべく気を付けてはいるのよね。 だって、ギルモア国はまだまだ改良点が多く、私は直ぐにギルモアの民を、彼等の意志を問う事無く都合よく利用してしまうから……。
「ねぇ……明日、改めて来訪連絡を取ってから、伺った方がいいんじゃないかな? もう、夜も遅いですし」
シアを横抱きにしながら、城を見下ろす大きな木の上に上がったドーラは、とんでもないと首を横に振った。
「問題ありません。 王は例え死の直前であっても姫様のお相手をされるはずですよ」
「それは、なんだかイヤな例えだわ」
「そうでしょうか? 何時でも、どんな時でも、誰がいても、王は姫様とお話したいと思われるはずです。 予定を聞いて調整して、数日後にまたきます。 そんなことを言う方が王は寂しいと思われるはずですよ。 私だったら……絶対そう思います」
「ドーラの言う通りですよ。 天使殿」
気配なく背後からかけられる声。
その声は低くとてもおちついた男性のもの。
男は、ドーラよりも2回り程大きな体をもっているが、肉は薄く、髪は白く、老いが見て取る事ができた。 それでも、金色の瞳は記憶通りとても優しい。
彼こそがシアの目的の人であり、この国の王様である。
「髪……どうされたのですか?」
王はアレクシアの短くなった髪を見て、その声に動揺を交え問いかけながらも、誰かが何かをしたというなら八つ裂きにしてやろうという強い意思が瞳に垣間見えた。
ぁ、良かった……元気そうだ。
そうシアは場違いな事を考え安堵した。
「旅に、邪魔だったから切ったの」
「ですが、数日前の報告では、そのような事は聞いておりませんぞ。 どう、なされたのかお話ください」
老いたと言っても、私と比べればかなり大きい王様は、木の上であるにも関わらず膝をつき、私と視線を合わせて必死な様子で問いかけてくる。
「本当に気分転換で切っただけ。 そんな事より、お願いがあって戻ってきたの」
「なんなりとお申し付け下さい」
王はそう言いながら、視線でドーラに控えるように告げ、シアを城内へと招き入れた。
執務室に通されたシアは、ソファに座るよう勧めら腰を下ろす。
数年前まで森の木の上で住んでいたとは思えない、人間らしい生活……美しい家具、照明等が目につけばシアは、自然と微笑んでいた。
人間との同盟も上手くいっているのね。
そう思いながらも、まさか……と言う思いが脳裏を過れば、シアの表情を上手く察知した王様は苦笑いを浮かべる。
「ちゃんと人間の商人から、対価を支払い購入しておりますよ」
「そう、よかったわ」
「天使殿には遅い時間ですから、飲み物は薄めのお茶を淹れましょう」
「もう大人だから、お酒でもいいのよ!!」
「薄いお茶を淹れましょう」
微笑みで返された。
「ズイブンと変わるものね」
「導きがあったからこそです。 このような地に足のついた生活ができるとは想像もしておりませんでした。 これこそ神の奇跡であり、そしてアナタは神の遣いです」
真面目に返され次の言葉に困る。 知識・情報はあっても、人と人が関わる事で生まれる関係性等は学んでこなかったから、シアはたびたび言葉につまり黙りこんでしまう。
「でもね、私は賢者なの。 聖女のように慈愛に満ち、自己犠牲に生きることは無いわ。 ワガママで身勝手な生き物なんだから」
「だが、それに救われている」
「相変わらず、人獣とは思えないほどお話上手ね。 羨ましい事だわ」
そう言えば、王は穏やかに笑った。
「荒くれものばかりで中で、苦労していますのでなぁ」
「ギルモアの王族の象徴とも言える黒髪が、白くなったのも? 何か大変な事があったなら、話を聞くわよ」
「天使殿が心配される事ではありません。 髪は若いときに少々無理をしましたからそのせいでしょう。 白い髪もなかなかイケるとは思いませんか?」
そうやって得意げに言うから、私はつい笑ってしまう。
「それより、髪をきったせいか天使殿はズイブン幼く見えますなぁ~」
そう言いながら甘い乾燥フルーツを出してくる。
「失礼ね。 ちゃんと6年分成長しているわよ。 あぁ、そうではなくて、王様」
「なんですか?」
「お願いの件だけど」
「なんなりと……」
「ランディ様との婚姻だけど……」
一気に言い切ろうとするシアの言葉を、いやな予感をした王は慌てて遮り早口に言い切った。
「ランディには直ぐ戻るよう、王命をだしております!!」
シアは6年前、100時間に及ぶ問答を王と行い、ギルモアの民の生き方を変えるように促し、王は問答を行う事でシアが信頼に値すると判断した。
それは、絶対的なものだ。
もし、シアが一族を導くために100の命を差し出せというなら、王は一瞬の悩みなく一族の者の命を、例えそこに自らの命が混ざって居ようと差し出すだろう。
「違うの、婚姻をね。 無かったことにして欲しいの」
シアの願いであれば、100の命でも差し出す王にもかかわらず、王はその願いに黙り込み苦悶の表情を浮かべたのだった。
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