悪い女は身勝手で、皇子の心と身体を奪い逃げた先で勝手に幸福を手に入れる

迷い人

文字の大きさ
25 / 33
3章 変革

25.腹の探り合い 01

しおりを挟む
 気候の乱れの合間を見計らって、私はランメルト先輩から渡されていた一つの術式を開放する。

 緊急救援術式。

 なんらかの被害があり、一人で脱出不可能な時に助けを求めるために持たされていた者だと言う。 術式発動から10日ほどした雪の日、隠れ家の扉が乱暴に叩かれた。

「この雪の酷さに、遭難してしまいました。 お願いします少しの間休ませてください!」

 必死に扉を打ち鳴らす背の高い青年。

 この時期に、雪山に入ろうとする事自体、普通の人間であればあり得ない訳で、大抵はアヤシイ人だし、この時期に雪山で過ごす人間もまたアヤシイものである。

 突っ込みは無しの方向で……。

 玄関先に一人。
 森の中に三人。

 魔力で探れるのはそれだけ。

 直ぐに玄関に出たかったのだけど、取れ過ぎたヤギの乳でチーズを作っている最中、私は窓を開けて大きな声で叫んだ。

「すみませ~ん。 手を離せないのでコチラの勝手口からお願いします!!」

 私が叫べば、森の中の気配が玄関先の人間よりも早く動き、そして止まり、わちゃわちゃしている。

 先輩曰く、急に襲い掛かって来ることは無いだろうと言う話だが、その速度に正直慌ててしまったけれど、その魔力の1つは先輩の物と近かったため、一応冷静さを保てた。

 だけど、さ、普通、複数人の大柄な男性に家にやってこられるとビックリしますよね?

 先輩……1人留守番恨みますよ……。

 怯える私に、扉を叩いていた赤髪の青年が勝手口の側で扉を閉ざさぬように固定し、私に言い訳を始める。 妙に凛々しい顔立ちの整った青年だった。

「すみません。 こんな所にある建物です。 用心をしてしまって、実は一人じゃないんですよ」

 苦笑と言うか愛想笑いを浮かべていた。

 灰色の髪を三つ編みに結び、農村の娘が着るシャツ、スカート。  先輩や魔術師達に、立派な田舎娘だと褒められるような姿をしており。 これで警戒を高め攻撃してくるようなチキンなら騎士を辞めた方が良いだろう。 と、思う。

 物心ついた時から王城にいたリックは、可愛いらしさの欠片も無い姿に不満そうだったが、これが一般的なのだと旅から戻ってきた頃には知る事だろう。 王城はね下働きでも特別だったんだよリック。 彼のショックな顔を思い出し、私は黒い雲を眺めた。

「そうですか、これから嵐が来るようですし、この建物まで無事に辿りつく事が出来て良かったですよ。 中にどうぞ、温かな飲み物と食事を提供いたします」

 深い雪だ、大きな荷物を背負っての行軍で、馬車等はない。

「た、すかります」

 赤髪の男は、戸惑い? 混乱? どこか気の抜けた様子で私の顔をジッと見ながらそう言った。

「どうかなさいましたか?」

「何処かでお会いしましたか?」

 私には、赤髪の青年に覚えはなかったけれど、青年には覚えがあったのでしょう。 大抵の貴族の子息・令嬢は学園に通いますからね。 とはいえ……胸をじっと見られるのは余り気分の良いものではありません、がっ!!

 どうせ、当時は性別不祥の体格でしたともさ!! ひきつりそうになる顔を必死に微笑ませ私は言う。

「私の髪色は、この山を抜けた北方に多い色合いですからね」

 バウスコール王国は、金、茶、赤髪が多い。 私のような薄く青みがかったグレー……人によって銀と呼んでくれる色の者は稀である。

 男は溜息をつき、私に問うた。

 青年は直ぐに、私が誰であって、ランメルト先輩がの元に、フェリクス様を連れてきたくて救難信号を出したのかに気づいたのだろう。

「人を探しています。 救難連絡はこの辺りから来たのですが、助けを求めるような人は見ませんでしたか?」

「私は、私を助けてくれると言い、私に助けて欲しいと言ったものと出会いました」

「その者は?」

「アナタ達は、山賊とは違いますよね?」

 無遠慮な視線に私は少し咎めるような音を含ませて聞いた。  190センチを超えていそうな赤髪の大男は、私から見れば壁である。 もし、私が魔術を遣えなければ、それだけで恐怖となっただろう。

「そういう者では決してちが、……騎士団に所属しています」

「ということは、貴族の方々と言う事ですか?」

「うるせぇ、メス豚、騎士と聞けばハイエナのように、機嫌を取りやがる」

 なぜか森の中から、雪を泳ぐように一人の私と背丈の変わらないぐらいの黒髪の青年が現れた。 どこまで肉を落としたその姿は、かつての自分を彷彿とさせる。 きっと寒くてイライラしているのだろう。

「グダグダと御託はいい、早く休ませろ!!」

「言葉遣い」

 私がニッコリと微笑めば、静かに赤髪の青年は頭を下げ、黒髪の青年の襟首をつまみあげ、軽々と数メートル先の雪の中に放り投げた。 1m以上は積もっている雪だ、決してケガになるようなことはない……が、凍傷になる可能性はある。

「どうも、ご迷惑をおかけしました。 よろしければ、ランメルト殿が戻るまで、コチラで待たせてもらえないでしょうか?」

「はい、ランメルト様からはそのように、指示を受けており、お部屋の方も準備しております。 この施設には、天然温泉もありますの。 旅の疲れをユックリと癒してくださいませ」

 森の中にも人がいるのは分かってはいるが、気付かない振りを通した。 ランメルト先輩からは自分が戻るまでの間フェリクス様が留まる事となるだろう。 その間に友好関係を築いて、国を治めるための最善策と言うものを提示し、納得させて欲しいと頼まれていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

雑草と呼ばれた令嬢は、氷の公爵の庭を咲かせる

もちもちほっぺ
恋愛
亡き母の形見の庭を守ることだけが、フェリシアの居場所だった。 継母に食卓での給仕を命じられ、義妹に母の形見の花を踏みにじられても、父は「仲良くしなさい」と言うだけだった。 植物魔法は「雑草いじり」と蔑まれ、フェリシアはルミナリス家の娘ではなく、使用人以下として生きてきた。 転機は突然訪れる。 「氷の魔王」と恐れられるギルバート・ウィンストン公爵との縁談。嵐の中、馬車も出してもらえず送り出されたフェリシアが辿り着いたのは、十年間何も育たなくなった荒廃した庭だった。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...