悪い女は身勝手で、皇子の心と身体を奪い逃げた先で勝手に幸福を手に入れる

迷い人

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3章 変革

26.腹の探り合い 02

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「申し訳ないのですが、他にも仲間がおりまして。 一緒にお世話になってよろしいでしょうか?」

「はい、問題はありませんわ」

 赤髪の青年、雪に埋もれた黒髪の青年、あと森に二人と思っていましたが、実際には森の中には三人いて総勢五人での来訪だった。

 そういえばフェリクス様の魔力は体の外に排出するのが難しく、それが魔術を不可能としているとかどうとかいう話でしたわね。

 来客1 赤髪の大男。 物腰の柔らかい紳士 名前はランス。
 来客2 黒髪の青年。 顔色悪く細身で喧嘩腰 名前はロン。
 来客3 金髪の青年。 身長180程ボサボサ髪の無精髭 名前はフェル。
 来客4 赤茶の大男。 筋肉もりもりで木こり風のオジサン 名前はヨハン。
 来客5 茶髪の青年。 割と美人で先輩と良く似た顔立ち 名前はリンク。

 以上の自己紹介があった。

 ジロジロと私に向けられた視線は痛い。

 全体の年齢的なものを考えれば、余程金銭的な余裕がない者以外は、学園時代にどこかで顔を合わせているでしょう。 ですが、王都を出て7年。 お互いを認識するのはそう容易ではないはずです。 私も、リンクと名乗った方がランメルト先輩の親戚の方だと分かる程度。

 人込みで出会ってしまえば、私はきっとフェルと名乗った人がフェリクス様だと気づかなかったでしょう。

「私の事はルシェとお呼びください」

 屋敷の付属品のように、機械仕掛けの人形のように微笑み頭を下げて見せた。 不思議にも……さっきから少し、お腹の中がヒヤッとした気がしていたから。

「お一人で一部屋使われますか?」

「お願いします」

「風呂は各部屋にも備えてありますが、温泉もありますので、ご自由にご利用下さい。 お食事は、特別なものはありませんが、私が調理場にいる時間であれば、何時でもご提供させていただきます」

 こう言っている間に、私の部屋がある調理場&食堂側から最も遠い部屋へと案内し、彼等を置き去りに食堂に戻る私は、ボソリと小さく呟いた。

「先輩、アナタがおっしゃっていたような、容易い状況には見えないのですが……」

 私は雪が降り始めた外へと視線を向け、溜息をつく。



 ランメルト先輩がいない間に友好関係を築く。



 庶民を母に持つ後ろ盾のない皇子と関わりを持つ事にメリットを見いだせない貴族令息・令嬢達は、フェリクス様の特別となろうと躍起になる事は無かった。

 彼は孤立していた。

 同じ年に王妃の双子の皇子がいた事も、フェリクス様を孤立させる要因の1つとなっていたでしょう。 見栄えが良く、家柄も良い貴族の子がフェリクス様を気にかければ、王妃の皇子達が癇癪を起したのだ。
 
 私は、成績こそ良かったものの、外見は見すぼらしくフェリクス様を貶めるには丁度良いと、側に居ても見過ごされていたのですよね。 そんな風にフェリクス様が孤独であったからこそ、私は友人となれたのだ。

 政治的立場を捨て、王の手駒となり、部下を持つフェリクス様相手に、どうすれば友好関係を築けると言うのですか!!

 何を材料にすれば言い訳ですか!! 先輩!!

 私は心の中で叫ぶ……。

 せめて、ネタ、いえ癒し係としてリックでもおいて行ってくれれば、良かったのに……。 リックったら、先輩に理想の父親を見ているからなぁ……。 一緒に旅をしようと言われ嬉々としてついて行きましたよ。

 母さん悲しい……なんて、一人心の中で悲劇を演じていれば、チーズ作りの作業を終えようとしていた。

「すみません」

「ぁ、はい」

「何か食べ物を分けて頂けますか?」

 風呂に入ってスッキリしてきたらしい。 赤髪ランスさん、筋肉ヨハンさん、茶髪リンクさんが現れた。

「パンとスープと、加工肉の焼いたものになりますが、宜しいですか?」

「温かいものを頂けるだけで、ありがたいです」

 山岳地域は、大雪が1日降れば50センチは雪が積もる。 私が来た頃は、まだ馬車も使えたので苦労も無かったけれど、今はもう1m程雪が積もっており、歩きで来たのだからさぞ大変だったろう。

 ミルク入り野菜とくず肉のスープを温め、肉を焼き、焼いてあったパンも焼いて温めなおし、溶かしたチーズも乗せ、口直しにピクルスを提供する。

「粗末なものですが、よろしければ食事の後にランメルト様が焼いて行ってくれた菓子も出しますよ。 日持ちのするキャラメルナッツを作っていてくださったんです」

「それは楽しみだ」

「他の御二方は?」

「後で来るので、その彼等の分の食事の支度を頼めますか?」

「はい」

 私は笑顔で対応する。



 ランメルト先輩からは今のフェリクス様は以前と全く違うと聞いている。

『王族に必要とされず、それでも王族に縋っておられる。 尊厳を捨て去っても、自らの精神が壊れても、死んだような目で王族の者達の命令に従い、信頼を得ようとしている。 君の知っているフェリクス様はいないんだ』

 先輩はそう悲しそうに言っていた。

『そんなフェリクス様だから、リックを見てどのような反応を示されるか、もしかすると自分と重ねられ、自分を責めるようにリックを苦しめるかもしれない。 だから、リックとは会わせないでおこう。 俺が戻るまで、フェリクス様が自らの環境を変えよう等と言う様子が見られない場合。 その時は……俺が君たちを安全な場所に逃がすよ』

 先輩の言葉を思い出している所に声がかけられた。

「その、お茶を貰えないだろうか?」

 筋肉ヨハンがカウンターから顔を乗り出して聞いてきた。

「あ、はい、少し待って頂けますか?」

 私は空になった食器を洗いながら答えた。

「水、冷たいでしょう。 後で俺達が洗おう」

 そう告げるのは赤髪ランス。

「いえ、大丈夫です。 慣れていますから」

「そう、でも、手伝うよ。 少し、話しをしたいし、こっちにおいで」

 言われて私は、お茶の準備を終えれば、ランスの側の椅子に腰を下ろした。

「俺、君とどっかであっている気がするんだけど」

「ナンパですか?」
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