悪い女は身勝手で、皇子の心と身体を奪い逃げた先で勝手に幸福を手に入れる

迷い人

文字の大きさ
28 / 33
3章 変革

28.そんな存在を団長に据えていいのか?

しおりを挟む
「寒さも痛みも、余り感じてないようですから、余り心配なさらないでください」

 めっちゃ、行儀よく食事を食べているフェリクス様だけど、

「そういう、話しじゃありませんよね!! 大丈夫なんですかアレ、ヤバイ薬決めていませんか? って言うか、傷……も、放っておいてはいけないものでしょう? なぜ、治そうとしないんです」

 真顔で、調理場に隠れながら私はリンクに声を抑え叫んでいた。 本来なら調理場に人が踏み込む事は許さないのだけど、状況が状況だから仕方がない。

「全てが、身を守るためなんです。 ご容赦下さい」

「私が許しを乞われるようなことは……ならないでくださいよ。 ちょっと状況の説明を聞いて、いえ、やっぱり聞きたくありません」

 甘い匂いに混ざる腐敗した匂い。 触れた皮膚は鍛えられた筋肉と、ぬるりとした感触。 シャツから見えた肌も切り傷、火傷、無数に傷と傷が重なり合い、皮膚が醜く歪み色も紫や赤黒く変色していた。

 理性を失い、配下の声も聞こえず、力ずくで取り押さえられ、アレの何処が尊厳を捨てても王族に認められたいと思っている姿なんですか!!

 リックがいなくて良かった……。
 あの人を父親だとは言えない……。

 怒りと安堵が交互に襲ってくる。
 こんなのをどうしろと言うのよ!!
 私には無理です。

「腹が満たされて、沢山寝れば正気を取り戻すから」

 そんな慰めの言葉が、聞き流されていった。



 説明を受けずとも、そう言う薬の存在は何処からともなく耳に入って来ると言うもの。 強い沈痛作用を持つが、精神にも害を与える薬。 決して傷を治す類のものではなく、なんか凄い飢餓感に陥るらしいが、その飢餓を満たす段階で強烈な快楽? 満足? 幸福感を得るという。 そして、その一連を終えてようやく正気を取り戻すらしい。

「薬を使う前に、腹を満腹にするか、十分な睡眠をとらせておけばどうですか?」

「……その場合は、性欲或いは暴力行為に走ります」

 ランスが言い、リンクが補足説明する。

「過程の行為が重要なんですよ」

「……なんで、そんな薬使うんですか」

 ジッとリンクを見れば慌てた様子で言い訳を早口で呟いてくる。

「鎮痛効果が強く、思考を停止できるのが良いのだと……。 決して、無理強いなんてさせていませんから」

 何が楽しくて巨体な男3人と調理場でうずくまり話をせねばならんのか。

「ただ、目の前の餌よりも本命に行くとは想定外でした……。 今までは、肉の薄い人間ばかり標的にしていたと言うのに」

 リンクが言う。
 何気に失礼な人だ。 あと、

「人間扱いしてあげて……」

 思わず口ずさんでしまった。

 いや、そうではなくバレているのかぁ……。 茶番がものすごく恥ずかしく感じた瞬間である。 それはともかく、フェリクス様は食事を済ませた後に、カクンと気を失うように眠りについた。 次に起きた時は正気だから心配はいらないと言われましたが、どうにも、モヤモヤするのは何故でしょうか……。

 あと、

 フェリクス様を運ぶ黒髪の青年ロンに、敵意剥き出しで睨まれましたけど、私悪くないですよね?

「さて、問題は……今後、肉付きの良い人間も標的にされるだろうことだが……どうしようか?」

「食べ物をスタンバイさせておけばいいでしょう。 薬の塗りなおした後がヤバイだけなんですよね? なら食事の準備をして塗りなおせばどうです? スープ、肉類、パン、を基準に考えれば、そう難しくありませんよね

「はぁ……、男ばかりの騎士団で、直ぐに食べられる食糧を確保し続ける事がどれ程困難か……」

 貧乏なのか? 食い意地の張った者が多いのか?

 とりあえず、私は身の安全も考え、常にストックするための食糧を作り置くことにする。



 その日の夕食時、フェリクス様は眠ったままで、特に仕事もないのでユックリと眠らせておくことにしたそうだ。

 大人の靴程ある肉を、大きいままでコトコトと煮込んだビーフシチュー、パン、雪の下で冷やされ甘味を蓄えた大根をサラダとしてつけた。

 黒髪青年ロンだけは、食事が気に入らないのか筋肉ヨハンに、食事の半分を渡そうとしている。

「団長は、今後極端に痩せた子ばかりに欲求を向ける事は無いだろう。 シッカリ飯を食っておけ、体力切れでどれだけ道中迷惑をかけたか考えろ」

「たまたま、偶然! その淫売の元に向かっただけかもしれない。 もしかしたら、強い空腹から、食堂に来たのかもしれない。 僕は、僕はいままで精一杯仕えてきた……」

 だから、睨まれても……というより。 そんなにそばにいるなら、常にパンの1つや2つストックしておきなよと言いたい。

「そんな事を言っても、意識が、理性がないんだから、仕方ねぇだろうが」

 ヨハンが宥め続ける。

 結局パンもシチューも、数口食べてロンは残し、ヨハンが食べていた。

「行儀悪い」

 私が言えば、私の身体を眺めて吐き出すように言う。

「浅ましい」

 そういいながら、桃のタルトはしっかりと食べるんだ!!

 食事を終えて、片づけを終えれば、使用人としての私の仕事は終了。 彼等の部屋には暖炉用の薪はくべてあるし、追加用の薪の場所は伝えてある。 必要なら補充してくれるはずだ。 万が一、急激な寒さに襲われることもあるから、魔力暖房の使い方も別の部屋で説明はした。 水入りのピッチャー、水入りのヤカン、お茶用のセットも渡したし……まぁ、十分でしょう。

 そんなことを指折り確認し部屋に戻ろうとすれば、呼び止められる事になる。

「おぃ!! オマエ」

 ロンだ。

「何かしら?」

「明日からは、甘い菓子を作るな」

「お口にあいませんでしたか?」

「クソ不味かった」

「……分かりました。 明日から作る時は、食べる方を先にお伺いするようにします。 お食事の量も、他の方の半分程度が宜しいですか?」

「……そうしてくれ」

 そう言って腹立たしそうに去っていくロンの背を見送った。

「気分を害されたでしょう。 申し訳ありません」

 どこから出てくるのか謎なリンク……。

「私は、仕舞ってあったタルトを手にしているアナタの方が気になりますが? お茶淹れましょうか?」

「あははっはは、甘いものに目が無くて」

「魔術師寄りの方は、甘い物が好きですものね。 ランメルト様もそうでした」

「そうですね。 でも、桃の砂糖漬けが格別に美味しかったと言うのもありますよ」

「ありがとうございます」

 残り物のタルトを食べつくされ、その日は終わった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

雑草と呼ばれた令嬢は、氷の公爵の庭を咲かせる

もちもちほっぺ
恋愛
亡き母の形見の庭を守ることだけが、フェリシアの居場所だった。 継母に食卓での給仕を命じられ、義妹に母の形見の花を踏みにじられても、父は「仲良くしなさい」と言うだけだった。 植物魔法は「雑草いじり」と蔑まれ、フェリシアはルミナリス家の娘ではなく、使用人以下として生きてきた。 転機は突然訪れる。 「氷の魔王」と恐れられるギルバート・ウィンストン公爵との縁談。嵐の中、馬車も出してもらえず送り出されたフェリシアが辿り着いたのは、十年間何も育たなくなった荒廃した庭だった。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...