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3章 変革
29.相手を責めるのは、自分を顧みるより楽である
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私にとってフェリクス様は、昔友人だった人と言う認識でしかない。
今の私にとって優先すべきは、今ここにいなくても息子のリックなのだから。 だから、昔の友人が、少し、いや、かなり不幸な状態であっても、立ち入って息子を危険にさらすなどと言うのは、言語道断である。
そう優先順位は決まっていても、目の前にあんな酷い状態を見せつけられれば、割り切れるものではない。 そんな事を考えながら着いた眠りは浅く、激しい吹雪の音で何時もより早く目を覚ますこととなる。
大きな欠伸をしながら、調理場、食堂を温め、パンをこねる。
気温がなかなか上がらない事もあり、発酵時間を考えれば早めに目を覚まして良かったとか思った。 静けさは、騒乱を忘れさせ、ホッとしたひと時を私にもたらせてくれた。
下準備を終えパンを放置する間、家畜の世話が待っている。
「お手伝いしますよ」
背後から急に声をかけられビクッとする。
声をかけてきたのは、筋肉ムキムキのヨハンさん。
「いえ、ランメルト様のお客様にそのような事をさせられません。 後、足音たてて近づいてきてください」
「私たちは、アナタにはアナタの生活があった事も理解しております。 お子様もおいでなら平和な日常は大切でしょう。 あぁ、警戒は必要ありませんよ。 アナタの大切な日常を踏み荒らす気などありませんから」
丁寧な言い方ではある。
手伝い入らないとコチラで引いた線引きに対し、日常を壊したくなければ踏み込むなと言われたような気がした。 気のせい?
「でも、お客様はお客様です。 ランメルト様に恥をかかせるつもりはありません」
「お手伝いをすることが気になるのでしたら、食事時に少し量を増やしてくれれば良いですから」
まだ薄暗い中で、白い雪が降りしきる外を遠い視線でヨハンは眺めていた。 余りにもノンキそうに言われれば、キリキリしている私の方が間違っている、考えすぎているのかという気になる。
疲れるなぁ……。
彼等が、バウスコール王国でどう呼ばれているか、どう思われているか? 魔術師達は語ってくれた。 それにセーデルバリ王国でも情報は入って来る。
王の剣等と言うのはまだいい。
殺人集団。
気狂い集団。
王の狂犬。
暗殺者。
ランメルト様とは友好関係を築いたとしても、一人で全体の印象を変えると言う事は難しいと言うことだろう。
王国法に乗っ取り捌きを行うのではなく、あくまで王と皇子達の私情で動く事から、もはや騎士ではなく獣と言うのが周囲の評価である。
家畜小屋の片づけを任せている間、私は乳を搾り、卵を回収する。 最近は1人で屋敷に居た事もあり、乳も卵も増えているんですよね。 オヤツにプリンでも作りますか。
いや……外の寒さを利用し、部屋を暖かくしてアイスも良いですねぇ。 温かなアップルパイに……アイス。 先輩の酸味の多いアップルパイが恋しいです。
「何か考えごとですか?」
急に薄暗くなったかと思えば、すぐ後ろに立たれていて心臓が跳ね上がった。
「だ、だから、あ、足音たてて近寄って下さいよ」
「あぁ、すみません癖で」
「人が多い内に、溜まった卵を処理しようかと思いまして」
「卵料理ですか?」
「はい、何か希望がありますか?」
「チーズやキノコ入りのオムレツが好きですねぇ」
「では、朝食はソレにさせてもらいますね」
そう言って私は、見下ろされる居心地の悪さから逃げるように食堂へと戻り、発酵したパンを二次発酵させるうちに根菜のアッサリスープを作り、作り終えると同時にパンを焼き、オムレツを作る。
そして、日も上り、食堂には危険な集団が集まりだし、楽しそうに朝食をとりはじめるが、そこにはフェリクス様もロンもいない。 聞き耳を立てていれば、悪夢にうなされ暴れることもあり、余り良く眠れていないとのことだ。
一度は食事を終えて、食堂から去って行った人達が戻って来た。
「皆さん、どうかなさったんですか?」
ぞろぞろと、フェリクス様とロンと呼ばれた青年を除く、3人が食堂に集まって来た。
「いや……いつもなら暇があれば身体を鍛えているのだが、外が吹雪でしょう?」
ランスの言葉に、リンクとヨハンは付き合いだと告げる。
「吹雪でもなければ、除雪でもしてもらえますか? とお願いするのですが……。 そうですねぇ……古い書物ばかりですが、一応書庫もあります。 ご案内いたしましょうか?」
リンクは書庫への案内を望み、ヨハンは暇なので家畜と遊んでくるから、大工道具を貸して欲しいと言ってきた。 一体何をして遊ぶのだろうかと疑問に思うが、家畜を殺さないでくださいね。 なんて言える訳もない。
でも、殺さないよね?
「お茶のお替りは如何ですか?」
残ったランスさんに問うてみれば、
「お願いします」
丁寧に返される。
お茶を淹れた後、リックの古いセーターをほどき、今の身体に会わせて編みなおしていくのだが、それをランスは横でじっと見ていて、居心地が悪い。 だからと言って部屋にこもるのも違う気がしますし……。
「何をしているんですか……」
「セーターを編んでいるんですが?」
そう告げれば、ランスは憮然としたがその表情は直ぐに引っ込め、穏やかな声を作り言葉を続けた。
「なぜ今になって関わろうなどと考えているのですか。 国の状況を理解していらっしゃるのですか」
何が言いたいのか分からなかった。
フェリクス様の変化が怖いのか?
イライラが募る。
狂犬?
殺人集団?
そんな呼び名は脳裏からぶっ飛んでいた(後で後悔した)。
未だ彼の家名はわかっていないが、それでも貴族としては上位にあたる家柄だろう。 妻子持ちだと言えば余計に何をしているのだと思う。 そう思えば、苛立ちも限界となった。
「私に対する疑問よりも、自分達の行動を疑問に感じては如何ですか!! アナタ方も貴族ですよね?」
それも未だ騎士を継続、国王の命令、皇子の命令を遵守している。 物事を理解すべきは私ではなくアナタなのでは? そう問いたかった。
今の私にとって優先すべきは、今ここにいなくても息子のリックなのだから。 だから、昔の友人が、少し、いや、かなり不幸な状態であっても、立ち入って息子を危険にさらすなどと言うのは、言語道断である。
そう優先順位は決まっていても、目の前にあんな酷い状態を見せつけられれば、割り切れるものではない。 そんな事を考えながら着いた眠りは浅く、激しい吹雪の音で何時もより早く目を覚ますこととなる。
大きな欠伸をしながら、調理場、食堂を温め、パンをこねる。
気温がなかなか上がらない事もあり、発酵時間を考えれば早めに目を覚まして良かったとか思った。 静けさは、騒乱を忘れさせ、ホッとしたひと時を私にもたらせてくれた。
下準備を終えパンを放置する間、家畜の世話が待っている。
「お手伝いしますよ」
背後から急に声をかけられビクッとする。
声をかけてきたのは、筋肉ムキムキのヨハンさん。
「いえ、ランメルト様のお客様にそのような事をさせられません。 後、足音たてて近づいてきてください」
「私たちは、アナタにはアナタの生活があった事も理解しております。 お子様もおいでなら平和な日常は大切でしょう。 あぁ、警戒は必要ありませんよ。 アナタの大切な日常を踏み荒らす気などありませんから」
丁寧な言い方ではある。
手伝い入らないとコチラで引いた線引きに対し、日常を壊したくなければ踏み込むなと言われたような気がした。 気のせい?
「でも、お客様はお客様です。 ランメルト様に恥をかかせるつもりはありません」
「お手伝いをすることが気になるのでしたら、食事時に少し量を増やしてくれれば良いですから」
まだ薄暗い中で、白い雪が降りしきる外を遠い視線でヨハンは眺めていた。 余りにもノンキそうに言われれば、キリキリしている私の方が間違っている、考えすぎているのかという気になる。
疲れるなぁ……。
彼等が、バウスコール王国でどう呼ばれているか、どう思われているか? 魔術師達は語ってくれた。 それにセーデルバリ王国でも情報は入って来る。
王の剣等と言うのはまだいい。
殺人集団。
気狂い集団。
王の狂犬。
暗殺者。
ランメルト様とは友好関係を築いたとしても、一人で全体の印象を変えると言う事は難しいと言うことだろう。
王国法に乗っ取り捌きを行うのではなく、あくまで王と皇子達の私情で動く事から、もはや騎士ではなく獣と言うのが周囲の評価である。
家畜小屋の片づけを任せている間、私は乳を搾り、卵を回収する。 最近は1人で屋敷に居た事もあり、乳も卵も増えているんですよね。 オヤツにプリンでも作りますか。
いや……外の寒さを利用し、部屋を暖かくしてアイスも良いですねぇ。 温かなアップルパイに……アイス。 先輩の酸味の多いアップルパイが恋しいです。
「何か考えごとですか?」
急に薄暗くなったかと思えば、すぐ後ろに立たれていて心臓が跳ね上がった。
「だ、だから、あ、足音たてて近寄って下さいよ」
「あぁ、すみません癖で」
「人が多い内に、溜まった卵を処理しようかと思いまして」
「卵料理ですか?」
「はい、何か希望がありますか?」
「チーズやキノコ入りのオムレツが好きですねぇ」
「では、朝食はソレにさせてもらいますね」
そう言って私は、見下ろされる居心地の悪さから逃げるように食堂へと戻り、発酵したパンを二次発酵させるうちに根菜のアッサリスープを作り、作り終えると同時にパンを焼き、オムレツを作る。
そして、日も上り、食堂には危険な集団が集まりだし、楽しそうに朝食をとりはじめるが、そこにはフェリクス様もロンもいない。 聞き耳を立てていれば、悪夢にうなされ暴れることもあり、余り良く眠れていないとのことだ。
一度は食事を終えて、食堂から去って行った人達が戻って来た。
「皆さん、どうかなさったんですか?」
ぞろぞろと、フェリクス様とロンと呼ばれた青年を除く、3人が食堂に集まって来た。
「いや……いつもなら暇があれば身体を鍛えているのだが、外が吹雪でしょう?」
ランスの言葉に、リンクとヨハンは付き合いだと告げる。
「吹雪でもなければ、除雪でもしてもらえますか? とお願いするのですが……。 そうですねぇ……古い書物ばかりですが、一応書庫もあります。 ご案内いたしましょうか?」
リンクは書庫への案内を望み、ヨハンは暇なので家畜と遊んでくるから、大工道具を貸して欲しいと言ってきた。 一体何をして遊ぶのだろうかと疑問に思うが、家畜を殺さないでくださいね。 なんて言える訳もない。
でも、殺さないよね?
「お茶のお替りは如何ですか?」
残ったランスさんに問うてみれば、
「お願いします」
丁寧に返される。
お茶を淹れた後、リックの古いセーターをほどき、今の身体に会わせて編みなおしていくのだが、それをランスは横でじっと見ていて、居心地が悪い。 だからと言って部屋にこもるのも違う気がしますし……。
「何をしているんですか……」
「セーターを編んでいるんですが?」
そう告げれば、ランスは憮然としたがその表情は直ぐに引っ込め、穏やかな声を作り言葉を続けた。
「なぜ今になって関わろうなどと考えているのですか。 国の状況を理解していらっしゃるのですか」
何が言いたいのか分からなかった。
フェリクス様の変化が怖いのか?
イライラが募る。
狂犬?
殺人集団?
そんな呼び名は脳裏からぶっ飛んでいた(後で後悔した)。
未だ彼の家名はわかっていないが、それでも貴族としては上位にあたる家柄だろう。 妻子持ちだと言えば余計に何をしているのだと思う。 そう思えば、苛立ちも限界となった。
「私に対する疑問よりも、自分達の行動を疑問に感じては如何ですか!! アナタ方も貴族ですよね?」
それも未だ騎士を継続、国王の命令、皇子の命令を遵守している。 物事を理解すべきは私ではなくアナタなのでは? そう問いたかった。
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