悪い女は身勝手で、皇子の心と身体を奪い逃げた先で勝手に幸福を手に入れる

迷い人

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3章 変革

30.捨てきれない感情

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 私の口調は自然と嫌味っぽいものとなった。 10年前、実家程の貧乏な貴族の数は少なかったが、今は……ずっと増えてしまったのだ。

 それでも分からない?
 分からないと言うの?

 もう関係ないと思いながらも苛立った。
 自分だって彼と同じで、何も知らなかったと言うのに。

 なぜ両親が借金をしてまで、自らが貧乏をしてまで、民に施すのかを知らなかった。 私がソレを知ったのは、バウスコール王国に起こった革命運動をきっかけだった。

 初めて、調べた。
 それも、安全な場所から。

 バウスコールは穀物の最大生産国だ。

 先々代孤高時代。
 成人男性1人で100の収穫が可能。
 50を年貢として国に納めた。
 10の穀物が年間1人によって消費される。

 3人家族なら30消費、20売却。
 ※子供の大きさは、今回は考えず。

 家庭で売却した20に対する対価を持って、1年間に必要となる様々な物を購入する。 というのが基本的な生活だった。


 国の愚策。

 元々1トン当たり50万の売却額だったのを30万までおとした。 これにより戦争はなくなったが、個人での穀物の売却額が今までの半値まで低下。 各国から買い付け量が増加したことで年貢が60、70と増加したのだ。 それでも妻子を労働力とした分の余剰で食いつなげる。

 が、国は国を通じない穀物の売買を禁じたのだ(実際には、領主がコッソリと売買を援助しているらしいが)。

 服や靴、日々必要な生活品も出る。
 家の修繕、様々な費用がかさむ。
 不作の年だってある。
 災害が起こる事だってある。

 生活は常に厳しく、民は不満を蓄える。

 子供の頃、自分が奪われる物しか見えなかったが、大人になれば、国にも逆らわず、民の生活も支え借金をしていた両親の事情が分かった。 苦しかったとは思うが、だからと言って、ソレを背負うかと言えば別だ。

 背負いきれるはずもないし、リックに背負わせる気もない。 だから、シェリルとして私が生きる事は絶対にしない。

 逃げたのに……人を責める言葉が止まらなかった。

「この事実を!! 本当に、知らないと言うんですか!!」

「それは……ですが、国の現状と、アナタと団長の関係に何の関係があると言うのですか、心配されているとは思わなかったのですか? 安心させようとは考えなかったのですか? 連絡くらいは……なぜ、いま、あそこまでなった団長の前に現れるんですか!!」

「彼は、友人ではありましたが、友人である以前に王族ですよ? 今だって、彼に何を相談すると言うのですか……」

 そう言いながらランメルト先輩に頼っているのだから矛盾だ。

「それでも、彼はアナタを探していたんですよ!」

 過去。

「諦めたところに、アナタが現れれば、無意識にもアナタを求める」

 今。

「7年も経っているんですよ。 探しているのは、過去であって、彼の中で膨らんだ幻想でしょう。 今の私ではありません。 それに、彼に言うべきを言うとするなら、それは私ではなく彼の側に居たアナタ方ではありませんか?! それと……恋人と……」

 視線を背けた。

 あぁも、関係性を示唆され敵意を向けられたのだ、今更誤解だと言うこともないでしょう。

「恋人?」

 本気で不思議がられた。

「えっと、あのロンって人」

「いえ、違います。 お世話係です」

「さっきの、その……あの、それでは、あのロンって人が余りにも不憫ではありませんか……」

 いや、何しろほら、1回の行為で子供が出来ていて、その後は子供が恋人で……その手の話しは余り得意ではないんですよね。

「あの痛み止めを持って来たのは彼です。 彼は覚悟の上で上官に尽くすと決め、薬を提供したんです」

「あの痛み止めが、何か分かっているんですか!!」

「丁度いいんですよ……様々な苦痛を忘れ、与えられる難題を乗り越えるのに」

 悲痛な顔をされれば、これ以上は踏み込むなと言う意味として私は理解した。 私もまた……逃げた人間なのだ。

 視線を背けた。
 背けたけれど、口は止まらなかった。

「何が難題を乗り越える。 ですか……。 言われた事を、操り人形のように実行してきただけでしょう」

 民を守ろうとする領主を、断罪として殺したと聞いている。

 ドンっという音と共に胸倉が掴まれる。

「えぇ、その通りです。 ですが、ソレであの愚王を納得させなければいけない!! 満足させなければいけない。 不満を抱かせる訳にはいかない。 どれほど……団長がそのために犠牲になっているか……なぜ、アナタは理解しようとしない」

 私は、どこまでも話が食い違う事にイラだった。 民の話をしているのではないのか? なぜフェリクス様の話に戻ると言うのだ。

「アナタ達は、何もかも人のせいにして、人に責任を求めて、何か利益になる行動をとったと言うのですか」

 シバラクの沈黙が続いた。

「えぇ、何もしていませんとも。 ですが、何を出来ると言うんです。 この国は弱い。 他国に逆らえば、その瞬間に他国から攻め込まれるだけなんですよ。 この国を維持するためなら、愚王を王の座に縛り付けておくためなら、団長でも領主でも犠牲にしますよ。 俺にも守るべき家族がいるんですから」

「新しい王を」

「誰がこんな終わった国の王になりたがる、こんな国にしがみついてまで王になろうというのは現国王と皇子ぐらいだ!!」

 私は大きく息を吐いた。

「終わっていませんよ。 なので、フェリクス様を追い詰めるのは、もうやめてください」



 結局、見捨てる事などできないのだ……。
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