隣国の姫に寝取られた婚約者が婚約破棄を認めないので、罪人として幽閉されることにしました。 ココはなかなか快適ですよ?

迷い人

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1章 幼少期

10.前世のしがらみ

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 気分が悪い。

 吐き気を抑えるため、口を押さえていた。
 耳に届く、淫靡な水音、肉を打つ音。
 枕を噛みしめ、耳を塞いだ。

 そう長く続くまいと思っていたが、ユッタリと生々しく絡みつき2人の行為は長く続いた。 時間の感覚がオカシイのか、幼い体が感じる1分1秒が長いからか、その思考が何の解決にも至らないと、枕を投げ捨てたい気持ちを落ち着けた。

 正気を失えば負けだ。
 いや、もう負けている。

 だけど、これは私の負けであっても、国として負けではない……。 セシル殿下まで負けさせる訳にはいかない。

 なぜ、こうなった?

 ……あぁ、そうだ。
 私が思い出すのは前世の自分。

 ……私は、彼女のような奔放な女性が、上手く自分を使い、愛を獲得しようとする人間が苦手だった。

 どうにもならなかったんだ。

 そう……自分を慰めた。 前世の記憶で生きるなら、華やかで艶やかで人に愛されて当然としながらも愛されるための努力……いえ、愛されるための策略が出来る人が嫌いだった。 そう言う人達に前世多くを奪われた。 奪って当然なのだと、私のモノであれば何でも奪っていいのだと、奪って言った。

 目立たず謙虚に努力をすれば、年配の人から素直で可愛らしい子だと褒めて貰えた。 肯定されたから、それでいいと思った。 だけど違った。 気づいた時には私は感情を上手く伝える手段を失くしていた。

『我慢なさい、〇〇なんだから』

(相手が尊重する)お姉ちゃんだから。
(貴方が年上で)お姉ちゃんだから。
 どうせ、貴方に似合わないんだから。

 大人にとって理由なんて、なんでも良くて……私は我慢を強いられた。 その時の癖は、前世の記憶を持つ事で染みついている。 醜く嫉妬交じりに悪態を心の奥底で吐きだしながら、今も言葉には出来なかった。

 ならば前世を放棄すればいい。

 というものではないのが難しい所。



 あぁあああああああああ!! キモチワルイ!!

 グルグルとそんな言葉ばかり頭の中を巡っていた。

 サーシャ・ルヴィックは部屋から抜け出し、そのまま駆け足で中庭の池側に向かって走っていた。 白い素足が夜の湿気に濡れ土に汚れる。

 サーシャは駆けた。

 ケントがその様子を見れば、やはり庶民の娘はと鼻で笑うだろう。 何時も何時もせわしなく駆け足でいて鬱陶しいと彼は言うだろう。

 だけどサーシャを駆け足にさせたのはケントなのだ。

 見下す視線と、カロリーネに酔いしれ青い色香を身に纏う婚約者を思い出せば、吐き気に走る足を止めた。

 ごほげほっ、

 咳き込み、涙と共に嗚咽を漏らすが、吐くものは胃の中に無い。

 婚約者と言っても、政略的な婚約。

 金に困っている所。
 三流武力しか持ちえない事。
 戦略を所有していないと言う事。
 地位も名誉も金銭も自力回復が出来ぬ事。

 どこまでも相手を見下した上で、ルンデル伯爵家で必要とされていないだろう三男を指定した。 年齢だけのつり合いを言うなら、五男当たりが丁度良かったのに。 五人兄弟の中でケントが一番整った顔立ちをしていたのだ。 どうせならと言う思いが無かったと言えば嘘になる。

 ケントが自分を愛してくれるなら、私も愛するでしょう。 臆病故の受け身な態度、他人任せの卑怯な態度とも言えなくはない。

 そんな思いが、借金返済や地位の確保と言う恩恵をルンデル家に与えながらも、強気で出る事が出来ないサーシャの弱み。

 酷いことをしてしまったのは私なのだ……。

 前世の大人な私。
 幼いケント。
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