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06.私、結婚したくありません!! この願いは叶いますか?
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「バラデュール伯爵、ご相談があるのですが」
「これでも俺は忙しい身分なんだがね」
彼の言葉が嘘ではないことを私は知っている。 当主としてバラデュール家を継いだ彼と、ドレスデザイナー兼職人として働きだした私。 違えられた最後の約束の日……10歳の私の誕生日を最後に、お互いのために会う事、二人きりで会うことはなくなった。
それでも、彼が若いながらも貴族としての立場を確固たるものにしていると言うことは父から聞いていた。
貴族院の若者たちの纏め役、相談役として。 その他にも外交官として活躍しているそうだ。 他国との商取引経験が豊富な父が助力し、報酬として商業的特権を得ることが出来たと喜んでいた。
仕事上関係する令嬢達は、憧れの視線を彼に向けており、多くの噂を耳にする。 だけど、令嬢達の意見は、主に外見を基とするため、私が知っているバラデュール伯爵の人柄がどう変化したのか余り参考にならない。
人柄
印象
ディディエ様の外見に惑わされた私が、未だ外見を語るのはどうかと思いますが……
ディディエ様の外見を、朝露を纏う白薔薇と表現するなら。
バラデュール伯爵は、夕焼け時のカラスと言う印象でしょうか?
黒髪と紫がかった黒い瞳、嫌味っぽく笑う口元、気付けば距離を置いて私を見ていると言うのは、1度や2度ではない。
年配の婦人方からは……女性に対して冷たいとか、商取引を戦争と勘違いしているとか、彼の行動によって社会的抹消を余儀なくなされたものがいるとか、不安と共に語られる彼の評価は余りよいものではない。
「そうですか……忙しいところ面会の時間を与えて下さりありがとうございました。 御覧いただいた通り……いえ、伯爵がおっしゃっていた通り、ディディエ様との約束は反故されましたので、バラデュール伯爵家のお庭にお伺いしたいと言う願いは、取り下げさせてくださいませ」
「オマエは本当に、退屈なほどに物分かりがいい」
言われて頭に血が上ったが、上手く言葉が出てこなかった。 深呼吸を繰り返し私は黙り、そして考えこむ。 別に彼に頼まなくても相談に乗って下さるご婦人は何人も知っている。 だけど、私が何かを話すより、彼の方が先に口を開く。
「昔のようにかわいくお願いできたなら、その願いを聞いてやろう」
その言葉にキョトンと私は伯爵の顔を見上げた。 ほのかに……頬が赤いのは気のせいでしょうか? でも、そう言って頂けるなら……。
「エミールお兄さま、私……あの方と結婚したくありません。 なんとか回避する方法はありませんでしょうか?」
「あのな、俺は、軍事会議に赴く勇ましさを持った問題提起ではなく、可愛くお願いするようにと言ったのだが?」
そう笑うバラデュール伯爵の笑みは、懐かしいもので、だから私は幼い時のように拗ねて見せた。
「私は人生の一大事なんです! お兄さま助けて!」
「分かった。 と、言いたいところだが、どうしても断れない仕事があるんでな。 5時間。 いや3時間で用事を済ませ戻ってくるから。 ミモザ様にお譲りする、婚姻準備品もまとめておくといい。 途中、オラール家によって届けてしまおう。 向こうのペースに乗るのはよく無いからな。 わかるな?」
そう言って、バラデュール伯爵……エミールお兄さまは去って行った。
私は言われた通り、花嫁となるために準備した品をまとめる。 その殆どは既に梱包済で大した時間はかからないのだけれど、ほんの少し前までは、ディディエ様と仲良さそうにするミモザ様が、私のドレスに触れる事すら嫌だったのに、今はディディエ様と共に歩むために作られたドレス、普段着、装飾品などに接することすら苦痛で仕方がなかった。
「シシリー様。 お手伝いいたします」
そう背後から現れたのは、エミールお兄さまの侍女。
2人かかりで荷物をまとめているが、想像以上に時間がかかっている。 侍女さんサボっているのかな? と任せた部屋へと私は向かった。
「そっちの梱包まだ終わりませんの?」
侍女の手元を覗けば、私の普段使いの着替えまでまとめあれていて、
「それは!! 違います。 お譲りするものではありませんから!」
「いえ……主には、しばらくシシリー様をお預かりするために、その準備もしておくようにと命じられておりますので……」
「お預かりされてしまうのですか?」
「はい……、ミモザ様の件がなければ、オラール伯爵とシシリー様は今晩にも一線を越えられたはずです。 きっと謝罪と称して強引な行動をとってくるだろうと、主は言っておられました。 シシリーが婚姻を回避したいと言うなら、しばらく彼の手に届かぬところに行くのが良いだろうと言うことです」
ディディエ様が、恍惚とした顔で私の下着を撫でる様子を思い出し、気持ち悪くなった。
「大丈夫ですか? シシリー様?」
「大丈夫です。ただ、私の考えの足りなさに……」
恐ろしかった。
「私にお礼は必要ありません。 全てが主の指示なのですから」
そうして、予定よりも時間はかかったものの2時間後には、オラール邸行きの荷物と、バラデュール邸行きの荷物の山が完成していた。
「持っていく先を間違えないように、しないといけませんわね」
私は多すぎる荷物に苦笑する。
「それは、入れ物の方に印をつけたので大丈夫です」
「お気遣いありがとうございます。 バラデュール伯爵がいらっしゃるまで、時間はありますしお茶にいたしましょう?」
私は手伝いをしてくれたバラデュール伯爵家の侍女に感謝を込めて、良いお茶と秘蔵のチョコレートを提供するのだった。
「これでも俺は忙しい身分なんだがね」
彼の言葉が嘘ではないことを私は知っている。 当主としてバラデュール家を継いだ彼と、ドレスデザイナー兼職人として働きだした私。 違えられた最後の約束の日……10歳の私の誕生日を最後に、お互いのために会う事、二人きりで会うことはなくなった。
それでも、彼が若いながらも貴族としての立場を確固たるものにしていると言うことは父から聞いていた。
貴族院の若者たちの纏め役、相談役として。 その他にも外交官として活躍しているそうだ。 他国との商取引経験が豊富な父が助力し、報酬として商業的特権を得ることが出来たと喜んでいた。
仕事上関係する令嬢達は、憧れの視線を彼に向けており、多くの噂を耳にする。 だけど、令嬢達の意見は、主に外見を基とするため、私が知っているバラデュール伯爵の人柄がどう変化したのか余り参考にならない。
人柄
印象
ディディエ様の外見に惑わされた私が、未だ外見を語るのはどうかと思いますが……
ディディエ様の外見を、朝露を纏う白薔薇と表現するなら。
バラデュール伯爵は、夕焼け時のカラスと言う印象でしょうか?
黒髪と紫がかった黒い瞳、嫌味っぽく笑う口元、気付けば距離を置いて私を見ていると言うのは、1度や2度ではない。
年配の婦人方からは……女性に対して冷たいとか、商取引を戦争と勘違いしているとか、彼の行動によって社会的抹消を余儀なくなされたものがいるとか、不安と共に語られる彼の評価は余りよいものではない。
「そうですか……忙しいところ面会の時間を与えて下さりありがとうございました。 御覧いただいた通り……いえ、伯爵がおっしゃっていた通り、ディディエ様との約束は反故されましたので、バラデュール伯爵家のお庭にお伺いしたいと言う願いは、取り下げさせてくださいませ」
「オマエは本当に、退屈なほどに物分かりがいい」
言われて頭に血が上ったが、上手く言葉が出てこなかった。 深呼吸を繰り返し私は黙り、そして考えこむ。 別に彼に頼まなくても相談に乗って下さるご婦人は何人も知っている。 だけど、私が何かを話すより、彼の方が先に口を開く。
「昔のようにかわいくお願いできたなら、その願いを聞いてやろう」
その言葉にキョトンと私は伯爵の顔を見上げた。 ほのかに……頬が赤いのは気のせいでしょうか? でも、そう言って頂けるなら……。
「エミールお兄さま、私……あの方と結婚したくありません。 なんとか回避する方法はありませんでしょうか?」
「あのな、俺は、軍事会議に赴く勇ましさを持った問題提起ではなく、可愛くお願いするようにと言ったのだが?」
そう笑うバラデュール伯爵の笑みは、懐かしいもので、だから私は幼い時のように拗ねて見せた。
「私は人生の一大事なんです! お兄さま助けて!」
「分かった。 と、言いたいところだが、どうしても断れない仕事があるんでな。 5時間。 いや3時間で用事を済ませ戻ってくるから。 ミモザ様にお譲りする、婚姻準備品もまとめておくといい。 途中、オラール家によって届けてしまおう。 向こうのペースに乗るのはよく無いからな。 わかるな?」
そう言って、バラデュール伯爵……エミールお兄さまは去って行った。
私は言われた通り、花嫁となるために準備した品をまとめる。 その殆どは既に梱包済で大した時間はかからないのだけれど、ほんの少し前までは、ディディエ様と仲良さそうにするミモザ様が、私のドレスに触れる事すら嫌だったのに、今はディディエ様と共に歩むために作られたドレス、普段着、装飾品などに接することすら苦痛で仕方がなかった。
「シシリー様。 お手伝いいたします」
そう背後から現れたのは、エミールお兄さまの侍女。
2人かかりで荷物をまとめているが、想像以上に時間がかかっている。 侍女さんサボっているのかな? と任せた部屋へと私は向かった。
「そっちの梱包まだ終わりませんの?」
侍女の手元を覗けば、私の普段使いの着替えまでまとめあれていて、
「それは!! 違います。 お譲りするものではありませんから!」
「いえ……主には、しばらくシシリー様をお預かりするために、その準備もしておくようにと命じられておりますので……」
「お預かりされてしまうのですか?」
「はい……、ミモザ様の件がなければ、オラール伯爵とシシリー様は今晩にも一線を越えられたはずです。 きっと謝罪と称して強引な行動をとってくるだろうと、主は言っておられました。 シシリーが婚姻を回避したいと言うなら、しばらく彼の手に届かぬところに行くのが良いだろうと言うことです」
ディディエ様が、恍惚とした顔で私の下着を撫でる様子を思い出し、気持ち悪くなった。
「大丈夫ですか? シシリー様?」
「大丈夫です。ただ、私の考えの足りなさに……」
恐ろしかった。
「私にお礼は必要ありません。 全てが主の指示なのですから」
そうして、予定よりも時間はかかったものの2時間後には、オラール邸行きの荷物と、バラデュール邸行きの荷物の山が完成していた。
「持っていく先を間違えないように、しないといけませんわね」
私は多すぎる荷物に苦笑する。
「それは、入れ物の方に印をつけたので大丈夫です」
「お気遣いありがとうございます。 バラデュール伯爵がいらっしゃるまで、時間はありますしお茶にいたしましょう?」
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