【R18】親の因果が子に報い【完結】

迷い人

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01.公爵家の妻と言うものは……

02.婚約破棄

「ダンベール公爵である息子ユーグとの間に交わした婚約を破棄していただけるかしら?」

 燃えるような赤い髪、挑発的な金の瞳、前公爵の愛人である場末の酒場で踊り子をしていた女は、仕事中の私に迫った。

 当のユーグ本人と言えば、父親である前当主が目の前の赤髪の女に骨抜きにされ、公爵家に定められた仕事を放棄したために起きてしまった戦争の責任をとるべく、ダンベール領の兵士達を引き連れ前線へと赴いている。

 前当主が無くなったのは、私とユーグが13の時だった。

 あれから5年。

 ダンベール領の民は戦場から戻る事を許されていない。
 全ては、馬鹿な前公爵のせい。

 馬鹿な公爵は、その責任を放り出し死に、彼を愛し続けた公爵夫人も共に死んだ事で、公爵夫人に公爵家を治めるべく育てられた私がダンベール領、公爵館、そして……戦地の物資調達を行ってきた。

 ユーグ・ダンベール公爵の婚約者としての責務として。

「へっ?」


 子爵家に生まれた私、ラシェル・バシュレは、命名の儀を受けに神殿に出向いた際、その高い魔力を見込まれて、ダンベール公爵家の長子ユーグ・ダンベールとの間に婚約を交わすよう国王陛下に命じられた。 そうだ……。

 小公爵ユーグを生んだ彼の実母マロリーは、場末の酒場で踊っていた旅の踊り子。 神の加護を持つ血統でもなければ、その魔力は生活魔法すら満足に仕えないレベルのもの。 それでも、情熱的な燃えるような赤毛と、獲物を狩るかのような挑発的な金色の瞳は、男性にとってはとても性的で魅力的なものだったらしい……。

 次代のダンベール公爵家の当主を生む程度には……。

 金を持たせ、堕胎を迫ろうにも、ダンベール公爵の実子である事を秘密にさせようにも、神に定められた次期公爵としての力を示す紋章を持つ子供だったため、いずれも難しかったと生前公爵夫人は幾度も私に語り聞かせた。

 生活魔法もままならぬほどの魔力しかもたぬ次期当主として生まれたユーグ。

 ユーグの子には十分な魔力を持たせよう。
 早く次次代の当主を確保しなければ!

 そんな王家の焦りが、魔力を多く持って生まれた私を小公爵であるユーグの婚約者として選んだ理由だった。



 魔力の多さゆえに婚約者候補となったが、実際、次期公爵の妻となれば魔力の素質があればいいと言う訳にはいかない。 だけれど貧乏子爵では、公爵の妻として十分な教育を受けさせる事は出来ない。 そんな理由から2歳の誕生日を迎えると共に、私は公爵家で育てられる事となった。

「お前は、両親に売られたんだ。 これが、その証文だ。 良く公爵家に仕えるがいい」

 証文など読めるはずもない2歳児相手に、威圧的に告げる理由等、大人になった今も理解等できない……。

 魔力適正の低い息子が馬鹿にされないようにか?
 それとも、子爵家の娘を息子の妻としなければならない罪悪感か?




 ベルナール国では、16歳と共に成人として扱われ家名の責任を負うが、私とユーグが13の年に公爵と公爵夫人の2人が暗殺された事で、公爵家の責任を幼くして負う事となった。

 共に力を合わせて……。

 そんな言葉等は出る訳がない。
 私達の仲はお世辞にも良くはないのだから。

 仲良くは無かったが、その後オルガ国から戦争を仕掛けられた。 その原因が亡き先代公爵が行うべき仕事を行わなかったためであり、挙句公爵夫人も同乗する馬車の中で愛妾とおっぱじめた事で暗殺者に対応できず、将軍の地位を授けながらアッサリと亡くなったためとなれば、ダンベール公爵家の負うべき責任は大きい。

 仲良くなくとも、一国に対する責任を語られれば、背を向けて逃げ出す等出来なかった。 出来ない程度に……公爵夫人にダンベール公爵家の責務を叩き込まれていたのだ。

 ユーグとはそれだけの関係に過ぎない。

 なにしろ、私は無責任に色ボケし、職務を放棄し亡くなった前公爵も大嫌いだし、公爵夫人を無視し女主人を気取った挙句、使用人以下の生活をさせようとした愛妾はもっともっと大嫌いだし、別に悪感情を抱くような出来事が無くても、2人の子であると言うだけでユーグを嫌ったとしても私の罪ではないだろう。



 嫌い。

 そう思えば、目の前に鼻息荒く立ちふさがるマロリーの顔面に、淹れたての紅茶をかけて追い出したくなる衝動を必死に抑えていた。

 ドンッと執務用のデスクが叩かれれば、紙の束が置かれた。 また、請求書か……。 今回の戦争を事前に止める事が出来なかったダンベール公爵家の罪は大きく、ソレを理由に社交界への参加を禁じ、お茶会の開催も禁じて来た。

 また、何時もの事だろうと、私は同じ言葉を繰り返そうとすれば、今回は違っていた……。

「へっ?」

 思わず聞き返せば、得意満面でマロリーは告げる。

「ユーグ公爵との婚約を破棄してくれるかしら?! 公爵となった私の息子には子爵ごときの娘など分不相応ですのよ」

「ぇ? ぁ……はい」

 あぁ……でも、

「分かりました……と言いたいところですが、ダンベール公爵家としての務めはどうされるおつもりですか? 遊んでばかりの踊り子に公爵家の運営が務まるとは思えませんが? そこに問題が無ければただちに引かせていただきますが?」

 この5年の間、公爵の代理として屋敷だけでなく領地運営、戦地に送る物資の捻出、あらゆる苦労を目の前の女は理解することなく我儘を繰り返し、私は「お断りします」「無理です」「状況を理解していらっしゃるのですか?」「仕事の邪魔」「出て行け」これをひたすら繰り返してきた。

 現当主ユーグの実母である彼女は、何時もの言葉を返されると思っていたのだろう。 必死に婚約破棄、婚約破棄と鼻息荒く追いすがる。

「さぁ、婚約破棄を受け入れなさい!! 貴方は私の息子にはふさわしくないわ!! 公爵家としての花がありませんもの。 まぁ、貴方は嫌がるでしょうけどねぇ。 あの子は今回素晴らしい実績をたてたの。 前公爵の失態を補って余るほどの戦果よ。 世間はあの子を見返したのよ!! あの子の妻となり、あの子を支えたいと言う令嬢が山のように名乗り出ましたのよ!! 貧乏子爵程度の婚約者しか得られなかった以前とは状況が変わりましたの」

「あぁ、なるほど……それならば問題ありませんね。 了承しました。 準備ができ次第、コチラを失礼させて頂きますので、ご安心なさってください」

 たぶん、私は人生で初めてこの愛妾に笑みを向けたと思う。

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