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02.今の私を作る過去
09.不自由
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「貴方は売られたのよ。 今も公爵様は貴方の実家に金を払っているの。 それは、貴方に公爵家のために完璧な子を産んでもらいたいから。 余計な事をしてはだめ、貴方は公爵家のための道具なのだから。 わきまえ、公爵家に感謝をしつくしなさい」
毎日、毎日……。
食事の前に必ず、そう語るようになっていた。
心が冷える……。
ユーグは私を道具になんてしない!! そう言う強い思いが揺らぎそうになっていく。 そして私の中に限界がきた。
それは雨の降る少し寒くなったころだった。
足場がぬかるみ、人々の気持ちはどんよりと曇っていく。
その日のミリヤ様は機嫌が悪かった。
前日まで公爵と出かけるのだと機嫌が良かった分、機嫌が悪くて……八つ当たり気味になっていた。
理由は簡単。 王族の出る社交の場はマロリーではなくミリヤ様の役割。 そう分担され落ち着いていたはずなのに、招待をしてきた夜会の主催者は、王族の人達にマロリーを紹介させて欲しいと言ってきたのだ。
「道具、道具、公爵家の道具……。 ミリヤ様や公爵様、いえ……公爵家にとって私は、公爵家を支えるための道具なのは分かりました!! もう、そんな言葉聞きたくない!!」
そう言って、初めてミリヤ様に反抗をすれば、
「ラシェル!! 私に逆らうと言うの!!」
自分を責めるように、納得させるために私を責めている事をミリヤ様は気づかない。 そして……私は5歳の時ぶりにミリヤ様から暴力を受けた。
雨の中に引きずり出され、濡れた大地に転がされ、蹴られ続けた。 反抗はしない……できないのだ。 私が暴力を振るえば、人を故意に傷つければ加護を失うから、治癒の加護とはそういうものだから。 だけど、私はもう12歳で……私は……両親のもとに逃げようと、自らの足を動かしたのだ。
何が原因だったか、荒ぶる心のままに馬を走らせれば……調べていた両親の元へと向かっていた。
「あの角を曲がって……」
もう少し、もう少しだ。
地図を眺め、道順を覚えた。
私は夢を見る。
両親が、涙を流し私に駆け寄り抱きしめる姿を。
「ごめんなさい、なんて私達は可哀そうな事をしてしまったんだ」
と……。
だけど私が見にしたのは大きな庭のある屋敷。
鉄柵で作られた門と塀は、その豪華さを周囲に見せつけていた。
雨の中怪訝そうな視線が向けられていた。
「大丈夫かい?」
雨に濡れ、ケガをし、みすぼらしい姿をした私を公爵家の関係者だと思う者はいない。
「はい……こちらの方は、どのような事業をなされているのですか?」
領地等持たない子爵家だったはずだ。
私の声に、通りすがりの女性は笑う。
「何もしとらんよ。 したのは、娘を売り払った事ぐらいさ。 私にもそういう金になる立派な娘がいればいいんだけどねぇ~」
実家の人達もまた、公爵家の3人が招待された夜会に招かれていたらしい。 侯爵家では、事前に招待客を調べ、両親が出る夜会には私を連れて行かないようにしていたのかもしれない。
屋敷の中から出て来た人達は、コチラをチラリと見て顔を顰めていたように見えた。 馬車に乗り込む主を見て、使用人が門を開ける。
「邪魔だ邪魔!! ひかれたくなけりゃぁ退け!!」
そう言って怒鳴ってくる。
泥だらけで酷い姿だけど、銀色の髪や紫色の瞳は子爵家の色だ……。
私は、私の側を通り過ぎる馬車を見上げた。 馬車の中の両親だろう人と、兄弟と思われる人は、泥だらけの私を見て笑うだけだった……。 しっかり自己紹介でもすれば態度をかえたかもしれない、礼を尽くしたかもしれない。
だけど、それは、私ではなく公爵家に対する礼だろう。
通り過ぎただけなのに、私の夢は一気にくずれた。
私は何処かで甘えていた。 何時か公爵家から逃げる時、両親は涙ながらに私を受け入れてくれるだろうと。
歪んで狂った公爵家から逃げるなら、ソレは自力でなければいけない。 自分で、生きる力を確実にしなければいけない。 人に頼ってはいけない。
私の中で生まれた信頼と言う言葉にはいつの間にかヒビが入っていた。
逃げ場など存在しなかったと言う事実によって。
だけど、私は機会を失った。
その日、公爵、ミリヤ様の2人が暗殺者によって殺されたから。 私を公爵家に縛りつける2人は死んだのに、私は自由を得るどころかより不自由を強いられる事となったのだ。
毎日、毎日……。
食事の前に必ず、そう語るようになっていた。
心が冷える……。
ユーグは私を道具になんてしない!! そう言う強い思いが揺らぎそうになっていく。 そして私の中に限界がきた。
それは雨の降る少し寒くなったころだった。
足場がぬかるみ、人々の気持ちはどんよりと曇っていく。
その日のミリヤ様は機嫌が悪かった。
前日まで公爵と出かけるのだと機嫌が良かった分、機嫌が悪くて……八つ当たり気味になっていた。
理由は簡単。 王族の出る社交の場はマロリーではなくミリヤ様の役割。 そう分担され落ち着いていたはずなのに、招待をしてきた夜会の主催者は、王族の人達にマロリーを紹介させて欲しいと言ってきたのだ。
「道具、道具、公爵家の道具……。 ミリヤ様や公爵様、いえ……公爵家にとって私は、公爵家を支えるための道具なのは分かりました!! もう、そんな言葉聞きたくない!!」
そう言って、初めてミリヤ様に反抗をすれば、
「ラシェル!! 私に逆らうと言うの!!」
自分を責めるように、納得させるために私を責めている事をミリヤ様は気づかない。 そして……私は5歳の時ぶりにミリヤ様から暴力を受けた。
雨の中に引きずり出され、濡れた大地に転がされ、蹴られ続けた。 反抗はしない……できないのだ。 私が暴力を振るえば、人を故意に傷つければ加護を失うから、治癒の加護とはそういうものだから。 だけど、私はもう12歳で……私は……両親のもとに逃げようと、自らの足を動かしたのだ。
何が原因だったか、荒ぶる心のままに馬を走らせれば……調べていた両親の元へと向かっていた。
「あの角を曲がって……」
もう少し、もう少しだ。
地図を眺め、道順を覚えた。
私は夢を見る。
両親が、涙を流し私に駆け寄り抱きしめる姿を。
「ごめんなさい、なんて私達は可哀そうな事をしてしまったんだ」
と……。
だけど私が見にしたのは大きな庭のある屋敷。
鉄柵で作られた門と塀は、その豪華さを周囲に見せつけていた。
雨の中怪訝そうな視線が向けられていた。
「大丈夫かい?」
雨に濡れ、ケガをし、みすぼらしい姿をした私を公爵家の関係者だと思う者はいない。
「はい……こちらの方は、どのような事業をなされているのですか?」
領地等持たない子爵家だったはずだ。
私の声に、通りすがりの女性は笑う。
「何もしとらんよ。 したのは、娘を売り払った事ぐらいさ。 私にもそういう金になる立派な娘がいればいいんだけどねぇ~」
実家の人達もまた、公爵家の3人が招待された夜会に招かれていたらしい。 侯爵家では、事前に招待客を調べ、両親が出る夜会には私を連れて行かないようにしていたのかもしれない。
屋敷の中から出て来た人達は、コチラをチラリと見て顔を顰めていたように見えた。 馬車に乗り込む主を見て、使用人が門を開ける。
「邪魔だ邪魔!! ひかれたくなけりゃぁ退け!!」
そう言って怒鳴ってくる。
泥だらけで酷い姿だけど、銀色の髪や紫色の瞳は子爵家の色だ……。
私は、私の側を通り過ぎる馬車を見上げた。 馬車の中の両親だろう人と、兄弟と思われる人は、泥だらけの私を見て笑うだけだった……。 しっかり自己紹介でもすれば態度をかえたかもしれない、礼を尽くしたかもしれない。
だけど、それは、私ではなく公爵家に対する礼だろう。
通り過ぎただけなのに、私の夢は一気にくずれた。
私は何処かで甘えていた。 何時か公爵家から逃げる時、両親は涙ながらに私を受け入れてくれるだろうと。
歪んで狂った公爵家から逃げるなら、ソレは自力でなければいけない。 自分で、生きる力を確実にしなければいけない。 人に頼ってはいけない。
私の中で生まれた信頼と言う言葉にはいつの間にかヒビが入っていた。
逃げ場など存在しなかったと言う事実によって。
だけど、私は機会を失った。
その日、公爵、ミリヤ様の2人が暗殺者によって殺されたから。 私を公爵家に縛りつける2人は死んだのに、私は自由を得るどころかより不自由を強いられる事となったのだ。
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