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03.快楽都市『デショワ』

18.それは私の憶測で…… 03

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 手を……触れられた……。
 ユックリと指が絡められる。

 手の感触は、自分とは全然違うものだった。

 差し出した手を包み込むように触れる手と指。 ドキッとして……手を引こうとすれば、そのまま掴まれて引き寄せられ……指に……男の唇が触れた。

「えっと……あの……な、何?」

 顔が熱い……。

 今まで男性に触れた事が無いなんて事は流石に言わないけれど、それでも、今まで触れた相手と言うと、馬での移動でケヴィンが私をケアしてくれていたり、落ち込んだ時に撫でてくれていたり……。 ケヴィン以外はなっ……く、は、ない? 記憶を紐解けば、ユーグは何時だって私に触れようとしていたなぁと思い出していた。

 何時も側にいてくれるケヴィンを好きだって思っていたけれど、こんなにドキドキしたことは無かったかもしれない。

 鼓動が早くなる

「……手を離してもらえますか?」

「なぜ? 俺は抱くつもりで、金を出したんだが?」

 そう言って意地悪く笑われれば、どうすればいいのか分からなくなって、連れの茶髪の男へと視線を向ければ、肩を竦め首を横に振って見せるだけ。

「でも……」

「なんだ? そのお勧め婚約者に操を立てているって?」

 テーブルを挟んで向かい合う位置にいたのに、気づけば黒髪の男は横にいて……唇が触れるのでは? と言うほどに側にいて……。 私は慌てて顔を背けた。

「そ、そういう訳ではないんですけど……」

 慌てたままで言えば、黒髪の男は何故かフリーズして黙り込んだ。 ソレはどういう現象なのだろうか? そんな風に思った私は茶髪の男に視線を向ける。

「気にしないで下さい。 彼は少しばかり厄介な神の加護を得てしまって……まぁ、おかしな言動はその副作用だと思って下さい」

「えっと……大丈夫ですか?」

 顔を覗き込むように言えば、両手を広げソファーの背もたれに腕を乗せていた。 それは、私には触れていないのに、なんとなく肩をだかれているような感じがして居心地が悪い。 もそもそと距離をとり逃げるようにモソモソ移動すれば、肩が掴まれ抱き寄せられた。

「ちょっ、急に何を」

「なぁ、ここの店主は、アンタを売る気はないって言った」

「うん、まぁ……そうでしょうね」

「わかってたのか?」

「私は、私の他に27人の見目の良い男女と共にこの都市に来たの。 その人達がどうしているかは分からないけれど、きっと私ほどの待遇を受けている人はいないはず。 どうしてか? ソレは誰にアピールをするためか? そう考えれば、私を誰かに売るつもりがないような気がする。 だからと言って、他の27人と一緒に運ばれた時、店主が私に手を出そうとした……。 だから、店主の意志と、命じた者の意志は別にある。 店主が私に嫌な事をしたのはその時だけですし。 私を利用して金を稼ごうともしないなら、ここの店主は私の利用価値を理解していない。 理解はしていないけれど、理解している者に命じられている。 だから、大まかと言うか乱暴な考えだけど、私はただここに保護されているだけ」

「だが、店主は、白金貨10枚を受け取った」

「そこには、私が誰かに抱かれる事を望んでいる人が多いと言う事……なのかもしれない」

「へぇ? どういうの?」

 そういいながら、私に顔を寄せて来た男は……私の匂いを嗅ぐ。

「な、に?」

「もっと……甘ったるい匂いがするんだと思ってた」

「そんな風に見える?」

「いや、見えない。 で、複数の意志って?」

「1人目、私を惨めで薄汚れた浮浪者に売りつけたい人。 2人目、とりあえず貴族の正妻に収まる事を回避したい人。 3人目、私を保護したと言う立場をとり、お勧め婚約者が正式な婚約者を得るまで私を……保護しようと言う人。 4人目、良く分からないから普通に金儲けにつかいたい」

「なるほど、5人目もつけくわえておいてくれ」

「何?」

「このまま連れて逃げたい人」

 ソファの背もたれを抱いていた腕と手が、私の背に回り、肩に触れていた。 指先で剥き出しの肩を弄ぶように触れてくる。

「くすぐったいわ」

「それぐらい、大したことないだろう? 多分、お前を欲しくて、金を出してもいいって連中の中では、俺はかなりマシな方だと思うんだが?」

 耳にささやくように言われるのは、脅しか? それとも挑発か?

「でも」

「でも、何?」

「なんかヤダ。 気持ち悪い……し、なんか、怖い」

 また、僅かな停止が見られた。

「……えっと、ソレは俺が気持ち悪いって言われた訳?」

「ぇ、やっ、そうじゃなくって……。 その、お勧め婚約者の産みの親が、所かまわず発情していて、ソレを見せつけられていて……なんか、ヤダまって……」

「うん、まぁ、アレだ……。 なんか、諸悪の根源って気がする。 先に始末しようか?」

 何故か、とっても爽やかに言った黒髪の男。 そして、両手でカップを持ち、お茶を飲んでいた茶髪の男はむせかえっていた。

「体調が悪いなら、帰って休めばどうだ?」

「……そう、ですね。 疲れたので、休ませてもらいますよ」

 帰ってなんて言うから、どこかにいくのかな? そう思っていたけど茶髪の男は、ソファにゴロンと転がった。

 まぁ、白金貨1日1枚と言って手渡したなら、決して広くないこの建物全部を貸切ったところで問題はないだろう(連れてこられた他の27人は、同オーナーの別店舗にタイプごとに割り振られ、時に雑用係として取り上げていた)。

「貴方は眠くないの?」

「眠気より食い気かなぁ……」

「何か準備するように頼みましょうか? ここの料理人は結構おいしいご飯を作るのよ」

「へぇ、アンタが居た貴族の家の料理とどっちがうまい?」

「それは……こっちだよって言いたいけど、本気に知らないの。 私がその貴族の家に行った頃は、もう愛妾が幅を利かせていて、食事も服も使用人程度のものしか与えられていなかったんだから」

「なんか……苦労していたんだな。 でも、ソレはソレ、コレはコレ」

「それは、もうわかったわよ。 だから何よ」

 何かって……別に分からない訳ではない。 むしろココはそういう場所で、彼はそういうのを目的にしていて……ソレしかない。

 はぁ、大きな呼吸と共に触れているようで触れていないハグがされた。

「ぇ、っと、あの……」

「悪いが、そろそろ、色々と無理……だ」

 男の手が私の頬に触れていた。 唇はさけ、私の顔にキスをし、舌を這わせる。

「入れないし、痛い事はしないし、恥ずかしくないようにする。 だから、俺にアンタを食わせて」

 気づけば、どこかで見たことがあるような気がする瞳の色は、熱を帯びたように潤んでいたような気がした。

「その……そうしないと、仕方が無いんですよね?」

「まぁ、そういう事。 放置すると残虐性が増して、最悪な結果になる」

 今ならまだ楽だよって感じで、脅されているような気がした。

 言っている事は無茶苦茶、だけど……これほど、私を理解してくれる人はいないだろう。 そんな気がして……ただ、そんな勘がして、私は頷いて見せた。



 ここにいれば、誰かに抱かれる。
 なら……彼がいい……。
 話を、私の事情を聴いて、理解してくれていた彼以上の人はいないだろう。

 多分……。
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