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04.裏切者たちの叫び

37.正体

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「ラシェル、先ほどの話に関わる事ですが……よろしいでしょうか?」

 苦い顔をしたサージュが私とユベールを交互に見た。

「止めろ!! まだ、証拠が挙がっている訳じゃないだろう……情報が確かと分かってからで十分だ」

 ユベールの焦りように、私は眉間を寄せサージュへと厳しい視線を向ける。

「何?」

「戦場に娼婦を派遣したのは、誰かご存じですよね?」

「サージュ!!」

 黙れと声を荒げるユベールを私は睨み止める。

「エヴラール様ね……。 そう、彼が派遣した娼婦達の中に……スパイが大勢紛れていたと……」

 私は群青色に染まった星空を仰いだ。

 最も信頼できると思っていた相手が、敵だったと彼等は言っているのだ。

 関わってきた時間を考えれば、当然優先すべきはエヴラール様であり、私に多くの事を教え守ってくれたケヴィンだろう。

 だけど彼等は疑っているから、リスクを負っても私を連れ歩いているのだ。

「ユベールは、私が好き?」

「あぁ……愛しているよ」

 向けられる瞳が、切ない色を揺らめかせていた。

「なぜ、貴方が傷ついた顔をしているのよ」

「……愛しているよ」

 確かに味方であると思っていた人間が最大の敵であれば、私が浚われる瞬間を作るのも、婚約破棄を受け入れ全てを放り出そうとするタイミングも作り出す事は容易だろう。

 好意を示してきたケヴィンに、私の愛情は受け入れられないと拒否されたのは、突き放されたのは、少し前の出来事だった。

 ケヴィンに拒絶されずとも、好意が得られないと分かれば、私は大人しくユーグとの婚約を正式に行い、妻となる覚悟を決めただろう。 貴族の婚姻なんてそういうものだと考えながら。 それをあえて彼は、愛する事は出来ないと言葉にしたのだ。

「それで、エヴラール様が繋がりを持っているのがバルゲリー公爵家だったと言う訳ね」

「そういう事です。 戦争は終えましたが、ラシェル様を無視し、愛妾を、娼婦を優遇すれば、人々の不満を引き出すのは当然の事。 それは、内乱に繋がり、ダンベール公爵家の終わりを意味します」

「ちょっと待って、なぜユベールの愛人が公爵家の……」

 そう問えば、ユベールの視線が背けられた。

「5年の年月に神の加護が加わり、随分と見た目が変わりましたからね。 後は……一人の男として好かれたいと、意固地になられていましたが、このまま何時までも秘密には出来ないでしょう」

「ユーグ?」

「は、い……」

 なぜか、黒い獣姿になって伏せていた。

「あなたねぇ……。 私を騙して、あんなことをして楽しかった」

「それは、まぁ……」

 ペシャリと頭を叩けば、尻尾も耳も伏せられる。

「ちょっと、何よ、モフモフになって誤魔化せると思ってるわけ?」

 首回りをもふりたおせば、金色の瞳が涙ながらに訴える。

「だから、嫌だったんだ!! だって、ラシェルは俺がユーグだと分かれば、男として見てくれないじゃないか!!」

「浮気しておいて、そんな事を言う悪い口は、誰の口?」

 と言えば、尻尾がひょこっとあがった。

「浮気って思ってくれるの?!」

「あんたはねぇ~~!!」



 まぁ、お説教とか語る事は色々あるが、とりあえずは公爵家の責務が優先されるべきだろうとなるのだった。
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