【R18】親の因果が子に報い【完結】

迷い人

文字の大きさ
36 / 50
04.裏切者たちの叫び

36.お世話係 03

「そう……それで、娼婦の方達に嫉妬を?」

 身なりを整える環境の整っている娼館と、戦場では大きく違うのは納得できる。 戦果を挙げた男達の褒賞として抱かれるなら、身ぎれいでいる事も必要だろう。 だけれど、こんな旅の最中ですら身ぎれいにするだけの事が難しい。 なら戦場なら余計にそうだろう。

「思い人が娼婦相手に遊んでいるのを見て、嫉妬に打ち震える女性が居たのも事実です。 ですが、今、私が伝えたい事は違います!!」

 地位ある家に生まれた女性が、戦場の特異な雰囲気に飲まれ性行為を行っては、婚姻後に問題が生じるからと、かなり厳しく管理しているとエヴラール様から聞いた事がある。

 正直、面倒だなぁ……と思った。 そんな私の思いとは別に、メイリーはどんどん感情的になっていった。

「ですが!! 私達が不満に感じたのは、ソコではありません。 ラシェル様は、ウナギの処理は押し付けてきましたが!! 食事の手伝いをしてくださっています。 ですが、彼女達は旦那様の特別である事を理由に、身の回りの世話を私共に任せ、戦場で働く女性達を見下したんです」

「それは……気分の悪い思いをしましたね。 私にも覚えがありますわ……。 なぜ、何も出来ない愛人がただ贅沢を甘受し、私達が公爵家を切り盛りしなければいけないのか? 喜びと楽しみは愛人が受け、私達は労働と苦痛が背負わされました。 愛される愛人と、こき使われる令嬢……。 だからこそ愛されていると思った者達は調子に乗る」

「はい。 ラシェル様のおっしゃる通りです。 あと、ウナギの処理、スルーしましたね」

「うふふ、だってぬるぬるする長いものは苦手ですもの」

「私だって、嫌ですよ!!」

「でも、上手にさばいたじゃない」

「そりゃぁ、ずっと食事の世話もしてきましたから……」

 2人は沈黙した。

 そしてメイリーは口を開く。

「私達が、彼女達の身の回りの世話をいたしておりました。 戦場でありながら贅沢を好み、私達がスープと固いパンで腹を満たす。 そんな中、旦那様と情を交わした娼婦達は、同席が許され、普通の食事が許されていたのです。 戦争が終われば、世話になったからと愛人の座が与えられる。 理不尽です!! 不愉快です!! 何故!! 愛人の座を与えられるのですか?! 愛しているからと言うなら、旦那様にとって必要だから一緒にいたい。 そうおっしゃるなら納得するしかありません!! ですが、旦那様は世話になったから、怖い思いをさせたから、迷惑をかけたからって!!

「逆に、愛しているからと言うなら、私は側にいませんわ……」

 ボソリとした呟きは彼女には聞こえていないようだった。

「私達の気持ちはとても複雑です。 世話を命じられていた私共は……彼女達以下の存在だったと言うのですか!! 真摯に仕えたからこそ贄として食い殺されてしまった男達の妻は、子は、どうなるのですか!!」

 私は黙るしかなかった。

 想像以上に根深く、なぜ自分にその身を癒す役割を与えてくれないのかと直談判するカリナにすら、同情を覚えてしまう……。

「私が、お話をしましょう。 とりあえず食事のあとに」



 そんな訳で、微妙な空気の中でウナギのかば焼きは食べられ、夜は更ける。



「ユベール、食事の後にお話があるのですがよろしいかしら?」

「ぇ、あ、あぁ。 その、彼女との関係に勘違いはしていないよな? 俺が愛しているのは、ラシェル、お前だけだ」

 物凄く焦っているが……今の私は複雑な思いに身をモヤモヤしているのだ。 ぴしゃりと近寄るなと手で訴え、

「せっかくの食事、美味しく召し上がってくださいませ」

 愛想笑い100%で応じれば、すごすごとユベールは食事を再開した。 そして、余りよろしくない空気の中でも、ウナギは美味しくいただけて、そしてお茶を飲みながら私はカリナへと言葉を向ける。

「お話は、メイリーから伺いました。 貴方に対して同情の余地はありますが、だからと言って、私が貴方に侮辱される言われはございません。 娼婦達への対応、娼婦達の貴方方への対応が気に入らなかった。 そこも理解はできますが、もし、それ以前に貴方が彼から愛されていたなら、彼は娼婦を懐に入れる必要はなかったのですから……そこは勘違いなさらないように、で……ユベール」

「はい……」

 私は、メイリーからの話を、不満をそのまま伝えた。

 いつの間にか、ユベールは地面の上に正座をしていた。

「対応、間違っていますよね? もし、身体を重ねた方々を愛しているなら」

「愛していた訳じゃない!! 特別な感情がなければ対価に至らなかっただけだ!! だから少しばかり優遇したに過ぎない。 戦後の処理も、そうするべきだと言われたからだ!! 俺が特別なのはラシェルだけだ。 俺は女性の扱いなど知らぬ!!」

 子供のように声を荒げた。
 だだっこ?

 サージュへと視線を向ければ、苦笑いがなされた。

「女性に対する対応が不慣れなのは確か……要求すれば、そういうものかと割と何でも聞いてしまうのですから、無知をこじらせ、付け込まれたのも確かです。 主が愛人として認めた方々の多くは、別に主を持つ女性達ですから」

「えっと……スパイ的な?」

「そう、スパイ的なもので、彼女達を愛妾として迎えるようにと言ったのも、彼女達の背後にいる者達です。 其方は、ラシェル様の件と共に順次処理をしていく予定です」

 まだ18のユーグだとこの時知っていれば、仕方がないと思えたのでしょうが……この時の私は、1人の男性としてユベールを見ていたため……。

 冷ややかな視線で、圧をかけた。

「では、優遇すべきは彼女達ではございませんよね? 貴方の相手をした方達は、戦場にありながら、彼女達の生まれでは受ける事が出来ない贅沢を受けたのです。 むしろ、対価など必要ない。 いいえ、サージュの言っている事が必要なら、彼女達に必要なのは? わかりますわね?」

「は、はい……」

「とにかく!! 特別な感情があると言うなら別ですが!!」

「……愛情はありません……身体の関係を持つと言う事を特別と考えていた部分は、確かにありますが……ずっと愛していたのはラシェルだけです……」

 なぜか敬語になっていた。

「では、サージュも余り甘やかさず、自分の後始末は自分でさせなさい!! 私は情けない男は嫌いです!!」

「……はい……」

「なるべく早く通達したほうがよろしいですわ。 で、なければ、前公爵と同じだと、ちょろい、御しやすい男だと付け込まれますよ!!」

「……ラシェルは……ラシェルも、そう思っているのか?」

「これから次第かしら? だって、私はあくまでも情報として聞いているだけで、現場を見た訳ではありませから。 ただ、私の目の前で、マロリーと同じ事を貴方にしている女性がいれば……不愉快なので……何をするか分かりませんけど?」

 そうニッコリと笑った。

「ぁ……その、ラシェルが一番好きだから……勇ましいラシェルも好きだよ?」

 思わず、しゃもじを投げつけた。

 唖然とした表情で黙るカリナと、頬を紅葉させラシェルを見つめるメイリーがいるのだった。

 この時を切っ掛けに、自らの居場所を確立させるようになるのだから、運命とは不思議なものである。

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

愛を知った私は、もう二度と跪きません

阿里
恋愛
泥だらけのドレス、冷え切った食事、終わりのない書類仕事。 家族のために尽くしてきたエカテリーナに返されたのは、あまりにも残酷な追放宣告だった。 「呪われた男にでも喰われてこい」 そう笑って送り出した彼らは知らなかった。辺境伯ゼノスが、誰よりも強く、美しく、そして執着心が強い男だということを。 彼の手によって「価値ある女」へと生まれ変わったエカテリーナ。 その輝きに目が眩み、後悔して這いつくばる元家族たち。 「エカテリーナ様、どうかお助けを!」 かつて私を虐げた人たちの悲鳴を聞きながら、私は最愛の夫の腕の中で、静かに微笑む。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!