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前編
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「割と普通に進んでいくんですね」
そう問うたのは、ウッカリ海に助けに入ったヴィセと言う男。
商船の用心棒と言うだけあって動きはかなり良い。 寒さ対策と言って、カワウソのオッズを連れて歩いてくれるのは正直言って助かっている。 まぁ……実際は人の姿に戻らせれば良いだけなんですけどね。
私のもふもふ愛の強さを知っている獣人達は、ルカを除いて人の姿に戻りたがらない。
私もまたアヒルのローズを抱き、もふもふしながら歩き進む。 柔らかな羽毛とお日様の香りが心地よい。 彼女は私が彼女の羽毛に顔を埋めるのが好きな事を知っているから、日光浴をかかす事はないのだ。
鍾乳洞に入って2日、既に彼女の羽毛の香りは潮っぽくなってますが……これも風情と言うものですわ。
『普通ってなんだよ』
今は襟巻のように肩の上に乗っているオッズがカラカラと笑う。
「私は資格がありますし、職務上定期的にコチラに降りてきていますので」
「へぇ……あなたのように可憐な方が、こんな場所にですか……魔物だっているのに……。 領地の下にこのように魔物がいるのは、恐ろしくはありませんか?」
穏やかで薄い微笑みと言うのでしょうか? ヴィセは常にそんな笑みを浮かべている。
もう2日も一緒にいるし、私を助けようと海を飛び込んだ人だと言うのに、どうにも気を許す気になれないのですよね。 それは黒虎のルカもそうらしく、何時も以上に警戒を解こうとしていなかった。
「それは、海を渡る船に乗る者に、地面が無いのは怖くないですか? と、問う事と同じですわ」
「なるほど、魔物を海に例えますか」
「決められた道を間違わずに通れば、魔物には遭遇しませんし……それに……」
私の視線の先には、巨大なネズミ、蜘蛛、トカゲ、蛇が魔物化したものがいるが、チラリとコチラを見るだけで襲ってくる様子はない。
「襲ってこない?」
「ここに訪れる者は、それなりの戦闘能力を持つ者達です。 戦えば痛い思いをする事を彼等は本能に刻み込まれているので、無暗に襲ってくる事はありません。 ただ……縄張りに踏み込んだり、騒ぎ立てたり、向こうにも血の気の多い者がいますからそういうのに遭遇すれば戦闘になりますけどね」
「あなたがご当主と言うなら、あなたも試練に立ち向かったと?」
「えぇ、その時は、安全地帯など教えられておらず大変でした」
私は獣人達を伴い試練に立ち向かった日を思い出す。 その時、共に来たルカとブラン、ローズ……他にも色んな者達を伴った。
「あなたが……」
眉間を寄せながら、私をマジマジと見て来る男に私は静かに笑って見せる。
「試練には一人で向かう必要はありません。 4代前の当主は、軍隊と共に試練に立ち向かったと言います」
「それはそれで大変なのでは?」
「試練に同行する者にも、加護が与えられますからね。 その当時は隣国との戦争があったために、道中の混雑や混乱よりも戦力を増強させる事を優先したと記録が残されています」
「なるほど」
「今、悪い顏をしましたね」
「いえいえ、元からこういう顔なんですよ。 とは言え、私にそのような事を漏らしても大丈夫なのですか? その情報を他国に売るとは思えませんか?」
「売られた所で我が国の脅威を知るだけでしょう?」
私は自らの身体を私に密着させながら歩くルカの背を撫でながら、男へとチラリと視線を向けた。
「加護付きのルカとあなたは戦う気になれますか?」
「いえ、加護以前にその姿を前に戦いを挑もうなどとは思いませんね」
そう笑って見せるが、慣れない鍾乳洞を歩く身のこなし、周囲への警戒の取り方を見れば、彼が強い……それも、加護がない頃のルカであればどちらが勝つか分からない。 そんな印象を私は彼から受けていた。 それでも、
「でしょう?」
そう言って私はコロコロと笑って見せる。
「脅威を知られる事はなんのデメリットもありません。 それに精霊が加護を与えるのはあくまでもその資格を持つ者だけ。 そしてここの入り口を開くのは試練通過者に限ります。 もし強引に入口を破壊しようとしたら」
「したら?」
「秘密です」
「おや」
試練の場と言うには穏やかだった。
それに何処の公爵家も当主以外に数名の試練通過者を保持しているものだ。 理由は、試練内部にある魔鉱石を採取し世に流通させる業務があるから、魔鉱石は魔物の力を吸いあげ生まれる特別な石。 上手くすれば魔物からも取れるけれど、市場で見かける塊等は試練の洞窟から採取されたものが殆ど。
この流通が止まれば国のあらゆる発展が止まると言われており、そして収入も減る。 だから予備として試練通過者を作っておくのだ。
流石に、そんなところまで案内をする気はありませんけどね。
「もう少し行ったところに広い空間があります。 そこで、食事でもしませんか?」
「本当に至れり尽くせりですね」
「あら、試練を受けるものは休む暇させ与えられないものですわ。 ねぇ、ルカ?」
『あぁ、アレは酷かった』
『本当にそうですわ……』
うんざりした声でルカとローズが言えば、
『俺、参加していなくて良かった』
と、ゾッとするような声で言うから面白かった。
鍾乳洞と言えど、生物がいる場。
そして精霊の加護がある場。
食べられるキノコやコケが存在する。
流石に、火を焚く訳にはいかないが、調理には熱があればいい。 それは、お茶会の湯を沸かす魔鉱石で幾度となく行っており、ヴィセの関心は魔導コンロに向けられていなかった。
「本当に食べられるんですか?」
「少しばかり癖はありますが、ローズは料理上手ですからね。 美味しく調理をしてくれますよ」
器用に羽根を手のように使い料理をしていくローズ。
『ほら、オッズ、魚を寄越しなさい』
とかやっている。
「ところで……、ヴィセ様、あなたはただの用心棒と言う訳ではありませんよね?」
私の問いにヴィセは薄く笑って見せ……それは、今までの彼の笑みとは何処か違い狂気を帯びており、余りにも不気味で……その瞬間私はシマッタと思うのだった。
そう問うたのは、ウッカリ海に助けに入ったヴィセと言う男。
商船の用心棒と言うだけあって動きはかなり良い。 寒さ対策と言って、カワウソのオッズを連れて歩いてくれるのは正直言って助かっている。 まぁ……実際は人の姿に戻らせれば良いだけなんですけどね。
私のもふもふ愛の強さを知っている獣人達は、ルカを除いて人の姿に戻りたがらない。
私もまたアヒルのローズを抱き、もふもふしながら歩き進む。 柔らかな羽毛とお日様の香りが心地よい。 彼女は私が彼女の羽毛に顔を埋めるのが好きな事を知っているから、日光浴をかかす事はないのだ。
鍾乳洞に入って2日、既に彼女の羽毛の香りは潮っぽくなってますが……これも風情と言うものですわ。
『普通ってなんだよ』
今は襟巻のように肩の上に乗っているオッズがカラカラと笑う。
「私は資格がありますし、職務上定期的にコチラに降りてきていますので」
「へぇ……あなたのように可憐な方が、こんな場所にですか……魔物だっているのに……。 領地の下にこのように魔物がいるのは、恐ろしくはありませんか?」
穏やかで薄い微笑みと言うのでしょうか? ヴィセは常にそんな笑みを浮かべている。
もう2日も一緒にいるし、私を助けようと海を飛び込んだ人だと言うのに、どうにも気を許す気になれないのですよね。 それは黒虎のルカもそうらしく、何時も以上に警戒を解こうとしていなかった。
「それは、海を渡る船に乗る者に、地面が無いのは怖くないですか? と、問う事と同じですわ」
「なるほど、魔物を海に例えますか」
「決められた道を間違わずに通れば、魔物には遭遇しませんし……それに……」
私の視線の先には、巨大なネズミ、蜘蛛、トカゲ、蛇が魔物化したものがいるが、チラリとコチラを見るだけで襲ってくる様子はない。
「襲ってこない?」
「ここに訪れる者は、それなりの戦闘能力を持つ者達です。 戦えば痛い思いをする事を彼等は本能に刻み込まれているので、無暗に襲ってくる事はありません。 ただ……縄張りに踏み込んだり、騒ぎ立てたり、向こうにも血の気の多い者がいますからそういうのに遭遇すれば戦闘になりますけどね」
「あなたがご当主と言うなら、あなたも試練に立ち向かったと?」
「えぇ、その時は、安全地帯など教えられておらず大変でした」
私は獣人達を伴い試練に立ち向かった日を思い出す。 その時、共に来たルカとブラン、ローズ……他にも色んな者達を伴った。
「あなたが……」
眉間を寄せながら、私をマジマジと見て来る男に私は静かに笑って見せる。
「試練には一人で向かう必要はありません。 4代前の当主は、軍隊と共に試練に立ち向かったと言います」
「それはそれで大変なのでは?」
「試練に同行する者にも、加護が与えられますからね。 その当時は隣国との戦争があったために、道中の混雑や混乱よりも戦力を増強させる事を優先したと記録が残されています」
「なるほど」
「今、悪い顏をしましたね」
「いえいえ、元からこういう顔なんですよ。 とは言え、私にそのような事を漏らしても大丈夫なのですか? その情報を他国に売るとは思えませんか?」
「売られた所で我が国の脅威を知るだけでしょう?」
私は自らの身体を私に密着させながら歩くルカの背を撫でながら、男へとチラリと視線を向けた。
「加護付きのルカとあなたは戦う気になれますか?」
「いえ、加護以前にその姿を前に戦いを挑もうなどとは思いませんね」
そう笑って見せるが、慣れない鍾乳洞を歩く身のこなし、周囲への警戒の取り方を見れば、彼が強い……それも、加護がない頃のルカであればどちらが勝つか分からない。 そんな印象を私は彼から受けていた。 それでも、
「でしょう?」
そう言って私はコロコロと笑って見せる。
「脅威を知られる事はなんのデメリットもありません。 それに精霊が加護を与えるのはあくまでもその資格を持つ者だけ。 そしてここの入り口を開くのは試練通過者に限ります。 もし強引に入口を破壊しようとしたら」
「したら?」
「秘密です」
「おや」
試練の場と言うには穏やかだった。
それに何処の公爵家も当主以外に数名の試練通過者を保持しているものだ。 理由は、試練内部にある魔鉱石を採取し世に流通させる業務があるから、魔鉱石は魔物の力を吸いあげ生まれる特別な石。 上手くすれば魔物からも取れるけれど、市場で見かける塊等は試練の洞窟から採取されたものが殆ど。
この流通が止まれば国のあらゆる発展が止まると言われており、そして収入も減る。 だから予備として試練通過者を作っておくのだ。
流石に、そんなところまで案内をする気はありませんけどね。
「もう少し行ったところに広い空間があります。 そこで、食事でもしませんか?」
「本当に至れり尽くせりですね」
「あら、試練を受けるものは休む暇させ与えられないものですわ。 ねぇ、ルカ?」
『あぁ、アレは酷かった』
『本当にそうですわ……』
うんざりした声でルカとローズが言えば、
『俺、参加していなくて良かった』
と、ゾッとするような声で言うから面白かった。
鍾乳洞と言えど、生物がいる場。
そして精霊の加護がある場。
食べられるキノコやコケが存在する。
流石に、火を焚く訳にはいかないが、調理には熱があればいい。 それは、お茶会の湯を沸かす魔鉱石で幾度となく行っており、ヴィセの関心は魔導コンロに向けられていなかった。
「本当に食べられるんですか?」
「少しばかり癖はありますが、ローズは料理上手ですからね。 美味しく調理をしてくれますよ」
器用に羽根を手のように使い料理をしていくローズ。
『ほら、オッズ、魚を寄越しなさい』
とかやっている。
「ところで……、ヴィセ様、あなたはただの用心棒と言う訳ではありませんよね?」
私の問いにヴィセは薄く笑って見せ……それは、今までの彼の笑みとは何処か違い狂気を帯びており、余りにも不気味で……その瞬間私はシマッタと思うのだった。
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