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前編
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「う、嘘だ。 だって、ありえない。 私は……私は、アンジェをそういう風に見た事はない!! 私を信じて下さい!! 兄さん!! ジェシカ!!」
些細な事かもしれない。
でも、心がひんやりとした。
元々友達から、恋人へとシフトするような間もありませんでしたし。 ずっとアンジェとの関係を疑っていたので、2人の関係性に大きなショックは無かった。
私が冷ややかにマーティンを見たのは、言い訳を私よりもマーティス室長にする事を優先したから……。
「結婚式当日。 新人歓迎会に結婚祝いを兼ねた飲み会があったのは事実。 翌日には任地への出立だと言うのにお戻りにならずに、私が荷物を騎士団宿舎までお持ちしましたよね?」
普通なら初夜を迎えたはず……当時は、恋愛感情も無いのに……それでも、惨めな気持ちになったのを覚えている。
私の様子にマーティンが何かしでかしたのではありませんか? 体調が悪ければ休んで構いませんよ。 そう言ってマーティス室長が必死になっていたのですよね。 初夜のハズが何も無かったと伝える事が出来る訳等なく、誤魔化すのが大変でした……。
「ですが!! 学生時代、騎士課の方々と夜通し飲み明かすなんて何時もの事。 ジェシカなら分かってくれるでしょう!!」
「マーティン……今問題なのは、ジェシカさんとの初夜を台無しにしたことではなく、アンジェを身籠らせた事なんですよ? わかっていますか?」
呆れた様子でマーティス室長がいい、焦り、怯え、動揺を露わにしながらも、マーティンは必死に言い訳を続ける。
「ぇ、あ……はい。 で、ですが……私には記憶が……。 そ、そうだ!! 同僚に私の潔白を証明してもらいますよ!!」
「その必要はありません。 治療師の術には、子の親子関係を示す術式もあります。 何しろ血筋を重んじる家系は多いですからね」
そう言いながら、マーティス室長はアンジェとマーティンを前に、鑑定術式を発動させた。
「おめでとう……どんな言い訳をしようと2人の子です」
冷ややかなマーティスの視線、青白くなるマーティンと、開き直るアンジェ。
「手間が省けて良かったわ~。 ねっ、コレで分かってくれたでしょう? この子は大切な侯爵家の子なの!! ジェシカ育ててくれるわよね?」
アンジェの言葉にマーティンは割って入り問い詰める。
「なっ、なんで、そう言う事になるんです!! 私には記憶が無いと言うのに!!」
「だって、酔っぱらったあんたを同僚と一緒に騎士団の宿舎に送ったのは私なのよ? 随分と酔っていて介抱までしてあげたのに、酷いいいようね」
「私が、ジェシカとアンジェを間違うなんて、ありえないじゃないか!! 2人は全然違う!!」
「勘違いしたのよ……ねぇ、マーティン。 酒の飲みすぎは良くないわ。 寝て起きたら任地に向かわなければいけないのよ? さぁ、早くベッドに入って休んで」
きっと……その日を再現した発言だったのだろう。 アンジェの甘い囁きは、日頃の甲高いアンジェの声と違い、話す口調も落ち着いた声色もジェシカに良く似ていた。 ジェシカ本人には余り理解できないようだったけれど。
「それに、当日着ていた服や香水は、仕事初日に相応しいものをジェシカに選んでもらったのよね。 ほら、私の選ぶものってどうしても華やかでしょう? 今日はあの時の買い物お礼もあったのよ。 まぁ、誤解しても仕方がないかなぁ~~って。 だから子供を引き取って欲しいとは思っているけど、責任なんて求めていないのよ? 安心して!!」
無邪気にアンジェが言う。
「そ、そうか!! 良かった……。 ジェシカ、申し訳なかった。 だが、出来てしまったものは仕方がない。 アンジェの好意に甘えようでは」
マーティンの言葉は最後まで語る事は許されなく、マーティス室長が室長自身とよく似たマーティンの顔を殴った。
「つっ、何するんだよ兄さん!! コレは兄さんには関係ないでしょう。 私達の問題に口出しをしないで下さい!!」
「……ジェシカさんの顔を見なさい……自分の都合ばかりを押し付けて……」
「なっ……本当に申し訳ないと思っています。 ほら、アンジェも一緒に謝って」
「ごめんなさい」
「だけど、私達ならこの試練を乗り越える事が出来ると思うのですよ!!」
「はぁ……ジェシカさん、あなたを思いやる事が出来ないようです。 申し訳ありません。 侯爵家としてこの責任はきっちりと取らせて頂きます」
「兄さんに責任を取ってもらわなくても、私達で出来る!!」
「いい加減にしなさい!!」
マーティスの声に、2人が小さな子供のように、ピシッと姿勢を正し黙り込んだ。
「本当にどうしようもない人達ですね」
「わ、私は悪くない!! そうだ、思い出した。 あの日、アンジェはわざわざ騎士団の飲み会に合流して、私の沢山飲ませたんだ!!」
「飲んだのは、マーティンでしょ……」
頭が痛いと頭に手を置き、厳しい表情で目を閉ざすジェシカ。
騎士団の入団に喜び浮かれ、初の任務に浮足立ち、学生のノリで同期の者達と過ごした結果……結局、私は彼を友人以上には見なかったのだ。 もし、嫉妬を覚えるほどに本気だったなら少しは変わっていたかもしれないけど。
結婚式の準備も、義母様と両親で進めたのよねぇ。 いかにもな花嫁の準備に浮かれていた過去の私が恥ずかしいわ……。
「そう、だけど……騎士団の飲み会で、それも結婚祝いを兼ねていた飲み会で、酒を断れる訳がないでしょう。 酒の場に行かないあなたには分からないでしょうけどね」
何処までも続く言い訳に、マーティス室長がイライラとしていた。 私の不幸を本気で案じてくれるのだと、味方がいるのだと安心した。 何時もなら2人の謝罪に流されていたから。
「結婚初日に浮気をしておいて、言い訳ばかり。 なんて恥ずかしい……恥をしりなさい!!」
「だから、仕方が無かったんです!! それにアン「仕方がないと、彼方此方で子供を作る気なのですか!! あなたと言う人は!! せめて反省をすれば可愛げもあると言うものを……」
「きっと、アンジェが!!」
「え~~、カヨワイ私のせいにするなんて最低! やっぱり、あんたとは結婚は無理無理の無理ですぅ~。 でも、子供は引き取ってね」
「お互い相手のせいにして通用すると思っているのですか!! アンジェも同罪です!! ジェシカ……」
マーティスから不意に呼ばれて、慌てて返事をした。
「は、はい。 なんでしょう?」
「馬鹿な弟がスミマセン……コイツと今後も夫婦を続けていきますか? まだ関係をその身体の関係がないなら……浮気の件もありますし、離婚は簡単に認められますよ?」
「……えっと……結婚式をして頂いて……なのに、結婚生活を1日も過ごさないまま、離婚したいって言うのは、私のわがままにはなりませんか?」
「「そうだ!!(そうよ!!)誓い合っただろう(でしょう)」」
「ウルサイ!! そこの2人は黙ってなさい!! あぁ、もう……2人とも眠っていてください」
治療院研究室室長による眠りの魔法はかなり強烈だったらしく2人は呆気なく眠りについた。
マーティス室長は馬車を教会へと向けた。
「ジェシカさん。 もうすぐ教会です。 未練がないなら……いえ、あなたがマーティンと生きていくのが嫌だと言うなら、私が証人になります。 慰謝料も侯爵家から保証しましょう。 もし……再婚を望まれるなら……あなたが悪くない事を証明します」
「そんな……申し訳ないです。 何も、何も無かった訳ですから」
「それでも……。 いえ、それに。 今後もマーティンがジェシカさんとの婚姻を続けたいと言うなら、私達の母はマーティンの望みをかなえようと必死になることでしょう。 決意を急がせるようで申し訳ありませんが……離縁するなら今が一番なんです」
「そ、う……ですね……」
「不安なのですね。 でも、何があってもずっとあなたの味方だと誓いましょう」
「ご迷惑をかけて申し訳ありませんが……離婚したいです。 この2人から逃げたいです。 もう……やだぁあああ」
泣き出す私に室長は、もう一度謝った。
「すみません……辛いでしょう。 強行的な態度をとってしまえ申し訳ありません。 でも、この2人のせいであなたが不幸になるのは見ていられません。」
学生時代のノリでなんでも許されると思っているノリがついていけなかった。 アンジェの言っている事はめちゃくちゃで頭がオカシクなりそうだった。 学生時代、甘えん坊ではあったけれど……ここまで酷くはなかったのに……。
それに……結婚に理想は余り無かったとは言え、これでは夫ではなく、身体の大きな子供だ。 これから愛情が育まれるなどないと思う。
一番の問題は、両親はこれほどの良縁、少々の事で破断してどうすると怒りまくるだろう。 侯爵家からの支援も得てますし……。
でも!!
「協力をお願いできますか?」
「わかりました……」
呆気ない離婚成立だった。
その後、マーティス室長の提案で、マーティンとアンジェを眠らせたまま侯爵邸へと向かう事になった。
些細な事かもしれない。
でも、心がひんやりとした。
元々友達から、恋人へとシフトするような間もありませんでしたし。 ずっとアンジェとの関係を疑っていたので、2人の関係性に大きなショックは無かった。
私が冷ややかにマーティンを見たのは、言い訳を私よりもマーティス室長にする事を優先したから……。
「結婚式当日。 新人歓迎会に結婚祝いを兼ねた飲み会があったのは事実。 翌日には任地への出立だと言うのにお戻りにならずに、私が荷物を騎士団宿舎までお持ちしましたよね?」
普通なら初夜を迎えたはず……当時は、恋愛感情も無いのに……それでも、惨めな気持ちになったのを覚えている。
私の様子にマーティンが何かしでかしたのではありませんか? 体調が悪ければ休んで構いませんよ。 そう言ってマーティス室長が必死になっていたのですよね。 初夜のハズが何も無かったと伝える事が出来る訳等なく、誤魔化すのが大変でした……。
「ですが!! 学生時代、騎士課の方々と夜通し飲み明かすなんて何時もの事。 ジェシカなら分かってくれるでしょう!!」
「マーティン……今問題なのは、ジェシカさんとの初夜を台無しにしたことではなく、アンジェを身籠らせた事なんですよ? わかっていますか?」
呆れた様子でマーティス室長がいい、焦り、怯え、動揺を露わにしながらも、マーティンは必死に言い訳を続ける。
「ぇ、あ……はい。 で、ですが……私には記憶が……。 そ、そうだ!! 同僚に私の潔白を証明してもらいますよ!!」
「その必要はありません。 治療師の術には、子の親子関係を示す術式もあります。 何しろ血筋を重んじる家系は多いですからね」
そう言いながら、マーティス室長はアンジェとマーティンを前に、鑑定術式を発動させた。
「おめでとう……どんな言い訳をしようと2人の子です」
冷ややかなマーティスの視線、青白くなるマーティンと、開き直るアンジェ。
「手間が省けて良かったわ~。 ねっ、コレで分かってくれたでしょう? この子は大切な侯爵家の子なの!! ジェシカ育ててくれるわよね?」
アンジェの言葉にマーティンは割って入り問い詰める。
「なっ、なんで、そう言う事になるんです!! 私には記憶が無いと言うのに!!」
「だって、酔っぱらったあんたを同僚と一緒に騎士団の宿舎に送ったのは私なのよ? 随分と酔っていて介抱までしてあげたのに、酷いいいようね」
「私が、ジェシカとアンジェを間違うなんて、ありえないじゃないか!! 2人は全然違う!!」
「勘違いしたのよ……ねぇ、マーティン。 酒の飲みすぎは良くないわ。 寝て起きたら任地に向かわなければいけないのよ? さぁ、早くベッドに入って休んで」
きっと……その日を再現した発言だったのだろう。 アンジェの甘い囁きは、日頃の甲高いアンジェの声と違い、話す口調も落ち着いた声色もジェシカに良く似ていた。 ジェシカ本人には余り理解できないようだったけれど。
「それに、当日着ていた服や香水は、仕事初日に相応しいものをジェシカに選んでもらったのよね。 ほら、私の選ぶものってどうしても華やかでしょう? 今日はあの時の買い物お礼もあったのよ。 まぁ、誤解しても仕方がないかなぁ~~って。 だから子供を引き取って欲しいとは思っているけど、責任なんて求めていないのよ? 安心して!!」
無邪気にアンジェが言う。
「そ、そうか!! 良かった……。 ジェシカ、申し訳なかった。 だが、出来てしまったものは仕方がない。 アンジェの好意に甘えようでは」
マーティンの言葉は最後まで語る事は許されなく、マーティス室長が室長自身とよく似たマーティンの顔を殴った。
「つっ、何するんだよ兄さん!! コレは兄さんには関係ないでしょう。 私達の問題に口出しをしないで下さい!!」
「……ジェシカさんの顔を見なさい……自分の都合ばかりを押し付けて……」
「なっ……本当に申し訳ないと思っています。 ほら、アンジェも一緒に謝って」
「ごめんなさい」
「だけど、私達ならこの試練を乗り越える事が出来ると思うのですよ!!」
「はぁ……ジェシカさん、あなたを思いやる事が出来ないようです。 申し訳ありません。 侯爵家としてこの責任はきっちりと取らせて頂きます」
「兄さんに責任を取ってもらわなくても、私達で出来る!!」
「いい加減にしなさい!!」
マーティスの声に、2人が小さな子供のように、ピシッと姿勢を正し黙り込んだ。
「本当にどうしようもない人達ですね」
「わ、私は悪くない!! そうだ、思い出した。 あの日、アンジェはわざわざ騎士団の飲み会に合流して、私の沢山飲ませたんだ!!」
「飲んだのは、マーティンでしょ……」
頭が痛いと頭に手を置き、厳しい表情で目を閉ざすジェシカ。
騎士団の入団に喜び浮かれ、初の任務に浮足立ち、学生のノリで同期の者達と過ごした結果……結局、私は彼を友人以上には見なかったのだ。 もし、嫉妬を覚えるほどに本気だったなら少しは変わっていたかもしれないけど。
結婚式の準備も、義母様と両親で進めたのよねぇ。 いかにもな花嫁の準備に浮かれていた過去の私が恥ずかしいわ……。
「そう、だけど……騎士団の飲み会で、それも結婚祝いを兼ねていた飲み会で、酒を断れる訳がないでしょう。 酒の場に行かないあなたには分からないでしょうけどね」
何処までも続く言い訳に、マーティス室長がイライラとしていた。 私の不幸を本気で案じてくれるのだと、味方がいるのだと安心した。 何時もなら2人の謝罪に流されていたから。
「結婚初日に浮気をしておいて、言い訳ばかり。 なんて恥ずかしい……恥をしりなさい!!」
「だから、仕方が無かったんです!! それにアン「仕方がないと、彼方此方で子供を作る気なのですか!! あなたと言う人は!! せめて反省をすれば可愛げもあると言うものを……」
「きっと、アンジェが!!」
「え~~、カヨワイ私のせいにするなんて最低! やっぱり、あんたとは結婚は無理無理の無理ですぅ~。 でも、子供は引き取ってね」
「お互い相手のせいにして通用すると思っているのですか!! アンジェも同罪です!! ジェシカ……」
マーティスから不意に呼ばれて、慌てて返事をした。
「は、はい。 なんでしょう?」
「馬鹿な弟がスミマセン……コイツと今後も夫婦を続けていきますか? まだ関係をその身体の関係がないなら……浮気の件もありますし、離婚は簡単に認められますよ?」
「……えっと……結婚式をして頂いて……なのに、結婚生活を1日も過ごさないまま、離婚したいって言うのは、私のわがままにはなりませんか?」
「「そうだ!!(そうよ!!)誓い合っただろう(でしょう)」」
「ウルサイ!! そこの2人は黙ってなさい!! あぁ、もう……2人とも眠っていてください」
治療院研究室室長による眠りの魔法はかなり強烈だったらしく2人は呆気なく眠りについた。
マーティス室長は馬車を教会へと向けた。
「ジェシカさん。 もうすぐ教会です。 未練がないなら……いえ、あなたがマーティンと生きていくのが嫌だと言うなら、私が証人になります。 慰謝料も侯爵家から保証しましょう。 もし……再婚を望まれるなら……あなたが悪くない事を証明します」
「そんな……申し訳ないです。 何も、何も無かった訳ですから」
「それでも……。 いえ、それに。 今後もマーティンがジェシカさんとの婚姻を続けたいと言うなら、私達の母はマーティンの望みをかなえようと必死になることでしょう。 決意を急がせるようで申し訳ありませんが……離縁するなら今が一番なんです」
「そ、う……ですね……」
「不安なのですね。 でも、何があってもずっとあなたの味方だと誓いましょう」
「ご迷惑をかけて申し訳ありませんが……離婚したいです。 この2人から逃げたいです。 もう……やだぁあああ」
泣き出す私に室長は、もう一度謝った。
「すみません……辛いでしょう。 強行的な態度をとってしまえ申し訳ありません。 でも、この2人のせいであなたが不幸になるのは見ていられません。」
学生時代のノリでなんでも許されると思っているノリがついていけなかった。 アンジェの言っている事はめちゃくちゃで頭がオカシクなりそうだった。 学生時代、甘えん坊ではあったけれど……ここまで酷くはなかったのに……。
それに……結婚に理想は余り無かったとは言え、これでは夫ではなく、身体の大きな子供だ。 これから愛情が育まれるなどないと思う。
一番の問題は、両親はこれほどの良縁、少々の事で破断してどうすると怒りまくるだろう。 侯爵家からの支援も得てますし……。
でも!!
「協力をお願いできますか?」
「わかりました……」
呆気ない離婚成立だった。
その後、マーティス室長の提案で、マーティンとアンジェを眠らせたまま侯爵邸へと向かう事になった。
応援ありがとうございます!
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