私を裏切った運命の婚約者、戻って来いと言われても戻りません

迷い人

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09.黒白のクマさん

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 黒白2匹のクマがポカポカと殴り合う。

 毛並が、もっふりとしていて余り痛そうに感じない……いえ、そうではなくて、今考える事は……、危険なの??

 クマなんて、実物は見たことない。
 けど、姉が持っていた絵本で見たことがある。
 小さな頃、姉の絵本を読んでわくわくした。

 そのカワイイ思い出だけなら良かったけれど、その後すぐに、姉は父の本を持ち出し獣達の被害を生々しく書いた書物を読み聞かせてきて言ったのだ。

『世の中はとても怖いから気を付けるのよ。 貴方ほどのチビッ子は、ぱくっと食べられて終わりになるわ。 だから外に出てはダメ……特に竜なんて最も恐ろしい獣。 だから、私達は檻の中にいるの……。 外は怖いし、人の姿に見えてもこの国の人々は皆、人の姿をした大きなトカゲなんだから』

 そう言って、生々しい血の被害を見せつけて来た。
 赤、何処までも濃い赤を……。

 ひくっ……。

 私の頬が引きつった。

 私は、姉が嫌がる私に幾度となく見せつけて来た赤を思い出した。

 ヌイグルに紛れ込むほどの大きさ。

 小さいけど、親熊が子熊を探し現れる事を考えれば、ニウスに言い排除してもらうべきなのだろう。 それとも……この国の人達は他国の人が猫を扱うようにクマを扱うのかもしれない。 何しろ竜なのだから。

 と……ここまで、私はパニックを起こしながら考えていた。

 赤い絵がチラチラするけれど、悲鳴をあげ逃げ出さずに済んだのは……今の私には食べられる肉体がないから。 あとは……見た目だけはとても可愛いクマさんだから。



 やがてポカポカと殴り合っていた2匹のクマは私の方を見ると言う想定外の事が起きた。

(ぇ?)

 だって、今の私は、魂をマナで保護した生物だから、見える訳がないのだ。 私はソロリソロリと後退り、部屋を後にしようとした。

 バタバタとクマたちは両手を万歳状態でばたつかせ、走り寄ってきた……から、私は慌てて部屋の外へと逃げ出す。

 切れる息もないけど、ドアに背を預けて……きっと普通なら心臓がドキドキしているはず……。 そんな身体はないのに……私の魂はその反応をしてしまう。

(ぁっ……)

 私は思い出したのだ。

 私は雨が降りしきる中で開け放たれたままの外に向かう扉。 愛情の証であるかのように見えた可愛らしい部屋に入り込む雨と、冷たい空気。 寒々しくなる……部屋を思えばなんだか寂しくて……。

 どうしよう……。

 そう悩んで、実際にはどうにかしたいと思っている自分に気付く。

 ドアに手を当てた。
 私の身体は、スルリと素通りできるのだ。
 そう、クマさんだって通り抜ける!

 なら、扉だけをしめて外に出る事だって出来る。

 よしっ!! 行こう!!
 私はそっとドアをくぐり抜けた。

 くぐり抜けた瞬間に、私の足元にはもう2匹のクマさんがいた。

(ひぃっ!!)

 後ろ足で立ち上がり、がお~~とでも言うように前足を立ち上げコッチを見ていた。 自分の肉体がないのに本能が逃げそうになってしまうのだけど、2匹はそのまま私に襲い掛かってきた。

 もふっ

 大きな肉球が、私の足にしがみ付く。

 逃げようとする私を妨げるように、2匹はそれぞれが右足と左足に抱き着いた。

 緊張に身体が停止してしまう。

 雷が鳴り響いた。
 風がなり、雨が部屋に入り込み。
 ガラスの扉がガタガタと鳴り響き、扉にたたきつける。

(ぁ、部屋が水浸しになる!!)

 歩こうとした……が、クマが邪魔をする。 なんで素通りしないんだろう?? と、思いつつ……噛みついてくる気がない事に安堵した。

(ごめん、とりあえず窓を閉めたいからはなしてぇ~~!!)

 言えば、ぱっと両手をはなして、バタバタとした様子で、私が扉を閉めるのと同じ行動を2匹は真似をし閉めてくれた。

 ……

 いや、違う……。
 クマを放り出さないと、親熊が来ちゃう。

(クマさん、森に帰って!! お母さんがきちゃうよ!! お母さんが来たら殺されちゃうわ)

 言えばクマさん2匹がお互いを見合って、またバタバタと前足を振って見せる。 それがただ彼等の行動パターンの1つなのか??

(えっと、お母さんクマは来ない。 って、事でいいのかな??)

 コクコクとクマさんが頷いた。

 言葉が通じている事に驚いた。

(触ってもいい、驚かない? ……ではなくて、お部屋のお掃除をしないと!! ちょっと待っていて頂戴!)

 クマに言いながら、私は掃除用具を探しに部屋の外に行けば、用具部屋は部屋の隣には用具部屋と使用人部屋があり、トロワ公爵家の子として丁寧に育てようとしていたのだと分かった。

 私はやっぱり微妙な気持ちになる。

 不満はなかったのだ……あの生活。
 そう言うものだと思っていたからかもしれないけど。
 それに、ここで育ったならどうなったのか自分でもわからない。

 掃除用具を手に取りながら自室へと戻った。

 クマさん達は不思議そうに私を見ていたけど、私はソレを無視して部屋に入り込んだ水を布巾で拭い取り、バケツの中に水を絞り出す。 水を吸い上げ外へと捨てた。

(綺麗な水が欲しいのだけど、何処に行けば貰えるかわかる?)

 私がクマに聞けば、2匹のクマがお互いを見合って、黒クマが白クマにどうぞと言う動作をし、白クマは右手を胸に左手を横に、足を交差し挨拶を……そしてバケツに向かい氷をごつごつと言う音を立てて落とし、そして、今度は黒クマが火をおこし、氷を溶かして水にしたのだけど……。

 黒クマの火が、氷をなかなか溶かし始める事が出来なくて、プッと笑った白クマごと燃やそうとする火を起こすから、思わず……両方にゲンコツをしてしまった。

 頭を抱えて黙り込む2クマ。

 それにしても……。

(魔法??)

 私が学んできた魔導師が使うのは、外部からマナを取り込み、体内で循環させながらマナを増やし日々を送る。 術自体は、術式をマナで描く事で完結させ事象を完成させる。 発動までに一定の時間をようするので……クマがつかったのは魔法の方、魔法は本人の持つ属性をコントロールしているに過ぎない。

 私の事が見えている時点で、この2クマはマナの塊と考えるべきで……精霊と呼ぶべきなのか??

 そこまで考え込む事数秒。

 ちょっと拗ねた感じの黒クマと、オマエが悪いとプンプンしている白クマ、私は膝をついて視線を落とした状態でお礼を言うのだ。

(ありがとう)

 掃除を終えた私に、白クマはお茶を淹れるように訴えて来た。 お菓子も準備されているけれど、私には食べるのは無理な訳で、2クマに食べて貰う事にした。 このまま捨てるのでは勿体ないからね。

 カップ2つを準備したところ、白クマがもう一つカップを持って来て並べた。 もうここまでくるとクマの形をした子供と考える方が良いのかも?

(気にかけてくれるのは嬉しいけど、私はお茶を飲めないの)

 と言うが、黒クマがテーブル上のお菓子を食べようとしているのを見て、白クマが止めに行ったので私は3つのカップにお茶を注ぐ事にした。

 そしてお茶会に至る。

 クマは、カップとお菓子から、固定されたマナだけを綺麗に取り出し、私の分としてくれたのだ。

(あ、ありがとう……いただきます)

 久しぶりの飲み物と……食べたことのない、ジャムが宝石のようにキラキラとしたクッキーはとても美味しかった。

 美味しく……美味しくて……身体に戻りたい……そう初めて思った。



 だけど……その反面、今まで生きていた場所に全否定された事を思い出せば、この状態に慣れながら生きていくのが良いのでは? そう思えた。
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