私を裏切った運命の婚約者、戻って来いと言われても戻りません

迷い人

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11.力技

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「オマエ、今、解除って言ったな」

 黒クマがジッと私を見つめて来る。

 私はその視線の鋭さからシマッタと思った。 私自身の罪を認めたかのような罪悪感。

[ぇ、うん]

「なんで、しない。 この雨が迷惑だって気づいていなかったのか?」

 黒クマは想像通り私を責めて来る。
私は黙り込むみ、むぎゅっと白クマを掴み黒クマの眼前に盾のようにする。

「余り責めないで差し上げて下さい。 彼女は想像以上に幼い。 無知で、愚かなのですから。 ちゃんと話し合う事が大切なんですよ」

 白クマもなかなか辛辣で……甘い言葉ばかりかけられて育った身としては、シンドイ……。 まぁ、言葉ばかりだったんですけどね……。

 どうせ、私は引き返す事等出来ないのだ。

 逃げ出すにしても……この状態でどうできるかと言うと、実際は何も出来ない。 身体の側に居ないとマナはどんどん薄れていくのだから、それは自殺と同じ。

 そんな事を考えながら、視線は外を向いていた。

 降りしきる雨を。

 大量のマナを含んだ雨の中なら、私は自由に生き続ける事が出来るのかな? 誰にも見つからず、どこまでも自由に行きたいところまで行くのは、それはそれで楽しいかもしれない……。

 前向き……うん、前向きに考えながらも、私は……なぜか悲しかった。

 とは言え、今、ココで逃げ出す事は難しい。 だってさ、2匹のクマが私を見張っている状態なのだから。

[だって、身体に戻らない状態で、そんな事をしたら次はどんな術をかけられるかわからないし……]

 そう、そうよ。 結局は同じ事の繰り返しなのよ。

「なら、殺せばいい」

 黒クマの言葉に私は怯えた。
 怯えたけれど……。

[それは、多分対策がなされていると思うわ……だって、そうでなければ何時までもこの国に留まる方が危険だもの]

 父が殆どの魔術を自ら使わず、ヨハンに使わせている理由は……多分、ソレだ。 義母と姉は魔導師としての素質は余り無いから魔術を使わないのも分かるのだけど、大魔導師候補と言われた父が魔術を使うところを私は見たことがないと言うのは、変な話なのだから。

「小癪な奴、なら、身体に戻って防御しろ」

[簡単に身体に戻れるなら……苦労はしないわ]

 戻っているわよ。 と言う言葉は飲み込んだ。 だって、戻っても枯れた木のような身体は動かせなくて、自由に動き回れる今の方が良い。

[今は、偶然外に出る事が出来たけど……。 あの体の中に入って何かを自由にできるなんて思わないわ……だって、あの体は何も出来なかったんだもの]

「それは、術が刻まれていたからではありませんか? 世界樹の巫女があのような姿になるなどと言う話、私は聞いた事がありませんよ?」

 白クマが言うが……。

[クマさんの情報網の広さは知らないけど、余り宛てにならないわ……]

「それも、そうですね」

 白クマは苦笑してみせる。

 白クマと私の会話にボソリと黒クマが割って入る。

「安心しろ」

 そんな黒クマの言葉に何とかしてもらえるのでは? なんて希望を見出してしまったのだけど、結局その後の言葉に私は絶望するしかなかった。

「どのみち、オマエには終わりしかない」

[酷い!!]

「どっちが酷いんだよ!! 今、この国の皆がマナ酔いを起こして狂暴化しようとしているんだぞ!! 竜化できる奴等までもがそうなったら、それこそおしまいだとは思わないのか!!」

 そう言われて、私は……絶望と言うものを覚えてしまう訳だ……。

「まぁ、余りキツイ事を言うものではありませんよ。 彼女には何の意志も無いのですから」

「余計に悪い!! 公爵家に生まれながら、なんでコイツはこんなに馬鹿なんだ!! もう少し物を考えてはどうだ!!」

 さっきから私はダメージを受けっぱなしなのだけど……。

 私は、結局誰にも愛される事がない……存在って事なのかな……。 もう、気持ちは自暴自棄って言う奴だ。

[分かったわよ、やれば良いんでしょう!!]

 私は、雨の中、部屋を飛び出していった。

 公爵家本館に来るまでは傘をさしてもらっていたが、戻りはマナを含む雨が私を打つ。 肉の器がないと言っても、マナ自体はそこにある訳で、私は雨の中のマナを直接吸収してしまう訳だ……。

 少し、ばかり、気持ちが大きくなる?
 私は強いとか、そんな気持ちが出て来る。

 雨の中走る私の横を白クマがついてきていた。

「大丈夫ですか?」

[別に平気]

 何がなんて全然わかってないけれど……他に何を言いようがあるのだろうか? 丁度気が大きくなっているのもあって、私はマナを浴びる事に迷いが消えていた。

 本館と比べれば小さな家。
 素朴に暮らしていた家。

 それが見える。

 私は、私の身体のある自室へと戻った。

 2匹のクマは、窓の外から私を見ている。

 開ければ入って来るのかもしれない。 でも、なんか、なんか、もうどうでもいいし……色々考えるのが面倒だし!!

 自棄。

 そして私は自分の身体に書き込まれていた術式と向かい合う。

 中に入るのは出来ないが……ヨハンが私にするように、私自身が私に触れれば術式を書き換える事は出来る。 これが他人であれば拒否反応で相手を攻撃してしまうのだろうけど……。

 私の中には凄く沢山の術式があった。

 その術式の大半を私は習った事がないもので、とても複雑に絡み合いながら様々な術式が描かれている。 ただの雨ではないのは容易にわかる。

 私は私の身体に戻る事が最優先でここにいて……その後は、家族だと思っていた人達に愛されていなかった事実にショックを受けて、静かに色々と諦めていた。

 その責任。

 どんな風に思っても私には諦め以外の何かはない。

 とは言え、これは、どう崩せば良いんだろう??

 余りにも複雑な術は一気に消さなければ、ヨハンが気づいてしまいすぐに駆け付けて来て、術を修復しようとするだろう。 まぁ、流石に書くより消す方が早く出来るのは確かだろうけど。

 なんて、もう、どうでもいいかぁ……。

 私は、身体に刻まれた術式を一気に全て消した。

 その瞬間、身体に戻る事を覚悟した。 枯れて、枯れ果てて身動きが出来ない身体に……。 だが実際は違って、雨が止み、術式が消えても私は身体に戻る事は無かった。

 バタバタとした足音が聞こえだす。 これでは……また、術式が刻まれて終わりじゃないか……。 いや、何をしても……結果はこうなるんだ。



 そう思った時、黒クマが張り巡らされていた結界も全て無視するようなパンチで、窓ガラスを割って入って来た。

「持って逃げるぞ!!」

「随分と荒っぽいですね」

 文句を言いながら、白クマは私をチラリと見て、私の身体を棺桶の上に乗せて、そして黒白のクマは小さな身体で棺桶をもって逃げ始めたのだった……。

[きゃぁあああああああ、落ちる落ちる!!]

「うるせぇえええええ、シッカリ捕まっておけ!!」

 物凄い乱暴としか言いようのない力技に私は唖然とするしかなかった……。
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