私を裏切った運命の婚約者、戻って来いと言われても戻りません

迷い人

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15.全ては攻撃を避けるため

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 ヨハンとジェフリーは十数年に渡って様々な準備をしていた。

 寛大と言うよりは大雑把。
 竜の民にとって些細な事は蟻が蠢くのと変わらない。 不快ではあるが気に掛けるほどではない。 だから色々とやりやすかった。 多くの事が優位に動けた。

 それでも、ヨハンとジェフリーは気を付けていた。 一度、竜の民が彼等を脅威だと認識したならどうするか? その大きな力をもって叩き潰すだろう。 侮られた事を怒りそれ以外を考える事はしないだろう。

 だから隠れるために地下深くに生活空間を準備した。
 トロワ公爵家に与えられた建物の何倍もある空間だ。

 竜の民が持つマナは大きく、そこからの攻撃を排除するのはどんなに入念な術式を構築していても難しいだろうと言うのが答えだった。 だから、彼等は竜の民のマナから生まれる魔石に目をつけた。

 魔石となったマナを竜の民は、ただそこにある自然の物として認識している。

 腐敗の魔石を術式で反転させ、食べ物を保存した。
 空気のために小さな空気穴を彼方此方に作った。

 竜の民からの攻撃、物理的暴力を排除するために先ずは周囲の土を高質化させた。 魔法的攻撃を回避するため、全ての種類の魔石を使いマナを拡散する術式を構築した。

それで安全なはずだった。

 建物への攻撃を行えば、傲慢で恥をかく事を知らない彼等はそれで彼等を排除したと思い引き上げるだろう。

 そう考えたのだ。

 そして、ヨハン達の予測通り……2人の王子が引きつれた騎士、十数人が訪れ小さな小屋のような建物にやってきた。

「これは明らかな攻撃行為と言えるでしょう。 全ての部屋をチェックしてください。 彼等が作り上げた術式は術式と言う概念の無い私達にとって今後有用となってくれるでしょう。 もし、人と言う種が私達を馬鹿にしたなら、今後必要となってくる」

 細身の華奢な身体付きをしている白の王子は、自らが指揮する騎士達に建物内にある荷物を全て持ち出させた。

「チマチマと面倒臭い事をさせる。 お前の下に就く奴等は大変だ」

 黒の王子が、両腕を組み不遜な態度で見ていた。

「面倒臭いって……。 貴方は、彼等を探さないのですか? それこそ面倒がらずに彼等を探し捕獲してください」

「そんな必要ない。 終わったら呼んでくれ。 俺は昼寝する」

「はいはい、ごゆっくりどうぞ」

 書類探しは長時間続いたが、残念ながら、騎士団達はジェフリー達が作り上げた魔術を見つける事が出来なかった。 そして人もいなかった。

 マナを調べようにも彼等は、自分の大きなマナが邪魔をして後を追う事が出来ない。

「ぞっとする……」

 白の王子は美しい中性的ともいえる顔立ちに眉間を寄せながら呟いた。 黒の王子であれば蟻に馬鹿にされた屈辱に怒るだろう。 だが、白の王子は違っていた。 小さく認識し難い存在が噛みついてくる事は対処に困る事を脅威に感じたのだ。

「何時までかかっているんだ!」

 黒の王子が怒鳴り、白の王子が返す。

「彼等の研究結果と思われるものが、何一つ見つからないのですよ」

「無能が、後は俺に任せてお前達は帰って寝てろ」

 黒の王子は嫌味たらしく笑って見せた。 白の王子はムッとしながらも、トロワ公爵家の敷地を後にした。 その背後で、巨大な岩によって、シーラが育った建物を押しつぶす音がした。

 振り返れば、そこには巨大な岩だけがそこにあり、白の王子は久しぶりに顔を見せた空を見上げた。





 何の不安も感じてなかった。

 十数年かけてジェフリーはヨハンと共に竜の民を研究した。

 最終的に出した結論は、自分達ではその強大な力に敵う事はない事を理解していた。 理解した上で十分な対策を取っていた。 

 だから安心して今までの時を取り戻していた。 二人だけの世界は、どこまでも心地よいものだった。 まるで世界の終わりに取り残されたように、お互いを求めあった。

 永遠のように、一瞬のように、今、何が起こっているか知る事無く。



 ドスンッ



 とんでもない音が鳴った。

 地面の中に居ながら地面が揺れた。
 魔術や魔法、物理的な攻撃の影響を受けるはずがないのに……。

「ヨハン!! これは、この音は何なの!!」

 快楽による愉悦も全て吹き飛んだヴィヴィアンは叫んだ。

「大丈夫だ、彼等が行える暴力への対策は完璧だ。 そして私達は例え1年だってここで生きていける。 そうして待てばお師匠様が助けに来てくれる。 私達はただ今まで通り愛し合って、失った時間を取り戻せば良いんだ」

 ヨハンがそう甘く囁きヴィヴィアンを抱きしめた。
 


 抱きしめながらヨハンは思っていたのだ。

 ここ数日……ヴィヴィアンと二人きりでの地下生活はヨハンの気持ちを変えた。
 ヴィヴィアンを可愛らしい人だと思っていた。
 力のないヴィヴィアンを守らなければと思っていた。

 なのに、いざ、その関係が深まるほどにヨハンは、可愛いだけで無知なヴィヴィアンに嫌気をさしてきていたのだ。

 シツコク不安をぶつけられれば、疑われている不満が生まれた。 耳に鬱陶しいと思うようになっていた。



「大丈夫、大丈夫、何度も何度もそう言うけど、そんな問題じゃないでしょう!! 今凄い音がしたんだから!! 何か起こっているのよ!! 何が起こっているのか確認しないと!!」

 枕を抱きしめ、枕をヨハンに向かって投げつけて来た。

「止めなさい。 今すぐ確認するのは良くない。 何かあったんら地上に確認しにいくのは危険です。 見つかってしまうかもしれないでしょう。 折角攻撃を避けきったのに敵の目の前に姿を現してどうすると言うのですか。 さぁヴィヴィアン、こちらにおいで恐れや不安を感じると言うなら、抱きしめ、耳を塞いでおいてあげましょう」

 呑気な……。

 そうヴィヴィアンはイラつき、ヨハンから伸ばされた腕を叩き落とし、その腕から逃れて服を着始める。 そしてヨハンは服を着る行為を邪魔するために手を伸ばした。

「止めて、お腹が空いたのよ」

「どうせ、服なんてすぐに脱ぐんですよ」

 そうヨハンに微笑まれれば、下品だと感じて吐き気を覚えるヴィヴィアンは視線を背けた。

「もし、もしもよ。 万が一に入ってきたらどうするのよ。 私の裸を誰かに見られてもいいって言うの!!」

「そう言う事ではありませんよ。 私は、もう少し信用して欲しいと思っているんです。 私とお師匠様が作ったこの場を、彼等は見つけられるはずがありません。 その膨大なマナで彼等は私達が作るような術を見つける事は出来ないんだから」

「でも、ここの防御の大半は魔石に頼っているんでしょう!! 貴方のマナがどれほど少なかったとしても魔石が大きければ意味がないでしょう!!」

 屈辱の言葉が交ぜられていたことに気付かないはずがなかった。 ヨハンの中でも苛立ちが育って行く。

「魔石は自然界に溶け出した竜の民のマナなのですよ。 自然のマナ。 余計に判別がつかないさ。 知っているかい? 彼等はマナを必要としません。 だから彼等は魔石を採掘すると言う事をしません。 むしろ田畑を耕すのに邪魔だと考え、他国の商人達に金を出して回収してもらっているのです。 本当に馬鹿な奴等です。 自分達の足元には膨大なお宝が眠っているとも知らずに、世界樹を求め……他の国と同じ平凡な国に成り下がろうとしているのだから、あり得ない話だと思いませんか?」

 興奮気味に語るヨハンにヴィヴィアンは思うのだ。

 そんな事聞いてない。 なんか……飽きて来たわ……この男。 口先ばかりで、お父様の術式に乗っかっているだけで大した研究成果も出していない。 つまらない男……。

 もう必要ないかな……。
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