【R18】婚約が有効だったとは知りませんでした【完結】

迷い人

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54.覚悟が足りない

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 狼から人の姿に戻れば、きっと、今より惨めな思いをするだろう。
 外見ばかりの、中身からっぽ……だと……。

 オレなんか、犬がちょうどいいんだ!!

 深い自虐と共に項垂れながらアルフレットは返事をしていた。

「分かったよ……」

 解析室へと戻るジュリの後をトポトポと付いて歩くアルフレットを背に、ジュリは呆れ交じりに溜息をつく。

「まだ、立ち直ってないの」

「やるべきことはやるから、問題ないだろう」

 返事にもならないアルフレットの返事に、ジュリは追い打ちするようにもう1度深い溜息をついた。

 未だアルフレットは悩んでいるが、何をどう悩めばいいのか分からなくなっていた。 ただモヤモヤだけが続いている。 だから、まず目の前のやるべきことやろうと考える事にした。

 それもまた逃げだと知りながら。



 正直、自分に無理やり女性との関係を敷いた奴等は嫌いだ。
 最高位の貴族でありながらアルフレットは上級貴族を嫌う。
 それこそ、喉元をそれこそ食いちぎってやりたいほどに嫌いだ。

 それでも、国には愛すべき者もいる。

 城下町の酒場の主人に気のいい常連客。
 ティアへの恋心を聞き、ティアの事を教えてくれた商人達。
 旅の最中に、共に戦い夜を明かした旅人達。
 除雪の時には街の者と一緒に働き、共に食事をした。
 インフラ整備に防災対策……民は何時もオレ達を見て、感謝してくれた。

 そんな大切な民を無視し、罠を張ってきた周辺3国におもねる事が正しいとは思えない。 もし、ここで屈すれば3国の思うツボだ。 事あるごとに脅迫してくるようになるだろう。

 街に魔獣が誘導され、放たれたら……誰が民を守るんだ。

 もし、自分が戦うことを辞めたなら。



 いつまでも狼の姿に逃げている訳にはいかない……。



 久しぶりに解析室に訪れれば、普段は研究所に籠っている魔力研究員、そして呪いにかかった色騎士達がいた。 魔力の抽出作業は大抵が4人がかりで行っており、研究員は顔を隠すようにフードを深くかぶり、仮面をし、ローブはぶかぶかのものを着ていた。

「なんだアノ格好は? それに人数……それほど大変なのか?」

「えぇ、相性もあるのでしょうけど、呪いによって魔力が激しく乱れているので、ソレを制御するものと、魔力を集めるものが必要なの」

「だからって、あの恰好に意味があるのか?」

「魔力コントロールを補助しているのよ。 後は……」

 アルフレットの耳元に赤い唇を寄せてごそごそと語る。

「魔力交流って言うのはね、とても大変なのよ」

「だが、リーンと……その……ティナはもっと簡単そうだったが?」

「それはリーンが魔術を得意としているのと、ティナとリーンの先祖をさかのぼると5代前が一緒だったの。 それも魔力操作がしやすかった理由かもしれないわ」

「ふぅ~ん」

 興味なさそうにアルフレットが返事をすれば、ジュリは肩を竦めて自分から聞いておいてとブツブツ文句を言う。

「なら、ロイの魔力抽出は?」

「そりゃぁ、まぁ……楽だったわよ。 他の人と比べれば」

 ロイとジュリは双子の姉弟であり、正式にはジュリもまたアルフレットのために購入し与えられた従者で気安い存在なのだ。

「オレも楽にすめばいいんだが……」

 憂鬱そうにアルフレットが言えば、ジュリは肩を竦めた。

「どうかしら?」

「それより、部屋の匂い酷くないか?」

「それは、団長が犬だからでしょうね。 この匂いで研究員たちは集中力を高めているんだから我慢して」

「はいよ……」

 アルフレットは「わふぅ」と大きな溜息をついた。

「じゃぁ、ベッドに横になってくれるかしら?」

「リーンは立ったままだったが?」

「アレは最初だったから、分からなかったから、そうしていたのよ。 あと、ティナと同等の事を求められても困るわ」

「なんか、すまん」

 色騎士達はベッドにうつ伏せ状態になり、その背に2人の研究員が手を添え魔力操作と抽出を行っている。 では残り2人は?

「あの2人は何をしているんだ?」

「えっと……まぁ、危険が無いように? って、やつね」

 そう言っていたかと思うと、魔力抽出を終わったものが、獣のごとく研究員女性を襲いかかろうとしていた。 ソレを強制的に取り押さえ眠りの魔法をかけている。

「なんだ?!」

 驚きを隠せないアルフレット。

「あれは……さっきも言ったでしょ……魔力の交わりって言うのはね、とても気持ちいい者なのよ。 それこそセックスの何倍もね」

 ニヤリと笑われ言われれば、アルフレットは顔をしかめながらベッドに横になった。

「さて、力を抜いて楽にしていて」

 アルフレットはリーンのように魔法系の力の持ちぬしではない。 彼の力の多くは身体強化に流れているため、本人は協力することが出来ずに任せきりで、それは双方にとって大きな負担を意味している。

 生ぬるい魔力の感触が身体の表面を滑るように触れると、同時に身体の中にジワリジワリと他人の魔力が入ってくる。 身体の中を駆け回る生温かな感触、相手との一体感。 それは通常の男女の行為以上の生々しさを持って、心と身体を刺激する。

「んっぐっ……や、辞めろ!!」

 アルフレットが立ち上がり、ベッドから逃げた。

「あら、ワンちゃん涙目になって、そんなんで本当女の子を相手にできるの?」

「うっるさい!! オマエが嫌なだけだ」

「なら、他の職員に任せる?」

「いやっだっ!!」

 研究員が姿を隠すのは、1つに性別を隠すこと、そしてもう1つの理由は、魔力と、魂の交流による快楽を恋と勘違いした際の対処として行っていたのだ。

「それだと何時までたっても治りませんよ」

 注意するのは見学に来たロイだった。

 姿勢を低くしうなりを上げるアルフレット。

「仕方ないわね。 ロイいける?」

「今のアルフレット様ぐらいならいけると思いますけど、余り期待しないでくださいね」

 そういうと共に、アルフレットの影が勢いよく伸びた。 影を食いちぎり回避方向を作り走り出すアルフレット。

「ちょっと部屋を壊さないでよね!!」

「無茶言わないでください!」

 そう言いながらも、細いリボンのように伸びる影は障害物を器用に避けアルフレットを追っていく。 アルフレット側も全力で逃げている訳ではない。 解析室にある品がどれぐらい特殊で高額かを知っているため、思い切り動ききることができずにいた。

「それ以上追ってくるなら、ココを破壊し給料減らすぞ!」

「横暴ですよ。 いつまでもそのままでいる訳にはいかないんですから諦めて下さい」

 そういいながらも回避ミス、操作ミスはあり、がしゃん、がしゃんと盛大な音と共に割れ壊れる。

「こんなの、聞いてなかった!!」

「言えば逃げるでしょうが!」

「当たり前だ」

「はい、そろそろ2人の給料3か月が飛ぶわよ」

 ジュリの声に動きが止まった。

 その瞬間アルフレットは側にいた研究員を押し倒し、その喉元に牙をあてる。

「コイツを無事で返して欲しければ、窓を開けろ」

 アルフレットは、低く唸りロイとジュリに告げた。
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