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04.銀狼の青年
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モルトと共に銀狼の一族の者13名が、村を襲いリシィを陥れようとした犯罪者一行を引き連れ戦場へと向かう。 銀狼の身体能力をもってすれば過剰過ぎる戦力と言えるだろう。 だが、それはモルトの希望であり、銀狼の長はモルトの切なる願いに応じた故の人選だった。
拠点とされる場は、敵軍と睨み合うような位置に作られている。
一目見て誰もがオカシイと感じた。
だが、誰もが視線を逸らし、口を閉ざした。
戸籍を持たぬ彼等は、獣と同等に考えられ扱われた。 彼等が人らしい生活をおくることができるようになったのは、ギルベルトがクローステル領主に定められ、リシィが領主代行を務めるようになってから。 大人たちは、十分過ぎるほどに、この世界で生きるためには、身体能力が高いだけでは意味がない事を身をもって学んだのだ。
だから、見て見ぬを振りをした。
だから、見て見ぬ振りができぬものもあらわれた。
1人の青年が自ら乗る馬を、護送用の馬車に近づける。
「モルトさん、フランセン軍は戦争をする気があるのですか?」
リシェが領主代理を務める今のクローステル領には、使用人らしい使用人はおらず、元王太子あったギルベルトの側近であったモルト自身が護送用の大きな馬車の御者を務めている。
銀の髪の村人達は身振り手振りで口出しするなと訴えるが、アビィの兄『ルカ』は、引く事はなかった。 モルトはチラリとルカへと視線を向け、直ぐに視線は正面へと戻される。
「戦場の都合は、その場で戦うものにしか分からないものです」
ボソリと小さな呟き、それは銀狼の一族だからこそ聞こえるような小声。
ルカがオカシイと言ったのは、
北にある高い山脈を超えてやってきたウォルランドの軍勢は、山脈を背に広く陣地をとり、石塀を築き、街を作っているかのように見えた。 その陣営の中へと視線を向ければ、数千の人間が生活している。
その地は、彼等の住まう小さな村よりも余程立派で、敵国に来て、陣営を敷き、神を介して宣戦布告をした国のようには到底見えない。
反して、迎え撃つ側フランセンの拠点は、野営地程度の規模しかない。 それでもテントの数だけは多いのだが、鎧を身に着けている者はおらず、目につく性別比は男女半々と言ってもいい。 別に女性が戦場に出る事をオカシイと言う訳ではないが、楽しそうに会話し、甘い雰囲気を醸し出している男女がいるのだから戦場かと問いたくなるのも無理はないだろう。
「これが戦争をする騎士ですか!! こんなもののためにリシェ様は寂しい思いをされているのですか!!」
「お黙りなさい……。 ここはリシェ様にとっての敵地です」
モルトに厳しい声で言われれば、ルカは黙るしかなかった。
アビィが一緒でなくて良かった。
反射的にそう思った。
もし、あの子がいたなら、泣きながら暴れ手に負えなくなっただろう。 領主様を殴りにいっただろう。 首根っこをつかみ馬車に放り込み村へと急いだだろう。
いなくて良かった。
本当にそうか? あの子に出来るのに、なぜ俺には出来ないんだろう。 そう頭のどこかで囁いていた。
初恋の相手が悲しむところなんて見たくないのに……。
彼女を連れて逃げ、幸せにできるような世の中だったなら迷うことなく連れ去っただろう。 もし、彼女が人妻でなかったなら……。 せめて、俺がアビィほど小さかったなら、この恋心を忠誠として仕えることができたかもしれないのに、何もかも中途半端じゃないか!!
自分への怒りが、未だあった事もないギルベルトへと向かう。
「なら、俺にとっても敵です!!」
ルカは馬の腹をけり馬速を早め、モルツを残して駆け抜ける。 腑抜けた門番は容易にルカを素通りさせ、追いかけるような人間もおらず。 ただ……ルカは、この陣営内で怖いと感じる場所へと向かった。
一際立派なテントの前で馬を飛び降りれば、急に止まれない馬はそのまま走り抜ける。 見張りもいない分厚い布地でできた入口を開けば、そこに裸の男の身体を愛おしそうに触れる女の姿があった。
恍惚とした表情で筋肉質な身体に触れる白い手はエロチックで、こぼれる溜息の熱まで見えるようだった。
「り(しぇ様を寂しがらせて何をしているんだ!!)」
声を上げるのをルカは辞めた。
目の前の男の髪色が紫色だったから。
リシェ様から聞いている領主様の髪色は鮮やかな黄金色。 全能神の色をしていると聞いていた。 なら、目の前の人間は領主様では、リシュ様の夫ではない。
「何者だ?」
薄暗く低い声。 陰鬱な性格がにじみ出るかのような声色だった。 淡々とした声は、世間に対する無味無臭な感情を彷彿とさせる。
ツマラナイ人間だ。
そう思ったのに、恐怖だけは振り払う事ができず、ルカは考えるよりも早く片膝をつき頭を下げる。 なんだか呼吸がしにくいような気がする。 そう思った時には既に肩で息をし、冷たい汗をかいていた。
モルトが、ここの人間はリシェ様の敵だと言ったのを思い出し言葉を選ばなければと考えるが、頭が上手く働かない。 とにかくリシェ様の名を出してはいけない。 彼女の不利になることをするわけにはいかない。 守りたいのだから。
「申し訳ありません。 モルト様の元でお世話になっている銀狼族のルカと申します」
「ふぅん、この女を外に放り出せ」
男は側に倒れこんだ女へと視線を向ける。 いつの間にか女は白目をむき、口元から泡を吹き倒れており、言われたままに女性を外へと出すべく近寄れば、男がただ裸でいた訳でないことを知った。 傷の手当をしていたのだ。
逞しく鍛えられた体には、大小さまざまな傷跡。 真新しい傷跡には薬が塗り込められており、初めてここが戦場なのだと理解し、息を飲んだ。
「はい」
ルカは、男の言葉に従い女をテントの外に放り出す。
「それで? 何かあったのか?」
「それは……ギルベルト様に直接お伝えするべきことですので、よろしければギルベルト様がどちらにいらっしゃるかお教えいただけないでしょうか?」
そう告げたところで、モルトが肩で息をしながらテントへと入ってきて、ルカが振り返った瞬間に頬を打たれれば、軽い音がその場に響き、頭を大地にたたきつけるように押さえつけられた。
「旦那様、お騒がせして申し訳ありません。 この犬は未だ首輪もつけておらぬ野生の犬ではございますが、とても情に厚く良く仕えてくれております。 ご無礼を許してやってください」
モルトの言葉にルカは間抜けな表情を浮かべた。 目の前の男は、リシェ様から聞いていた姿と雰囲気と随分と違っているじゃないか!!
「リシェ様は……」
「リシェがどうした?」
そう問いかけてくる声には、リシェを案ずるかのような微妙な揺らぎを感じ取る事ができ、安堵と共に甘く切ない思いが胸を過ぎ去っていった。
拠点とされる場は、敵軍と睨み合うような位置に作られている。
一目見て誰もがオカシイと感じた。
だが、誰もが視線を逸らし、口を閉ざした。
戸籍を持たぬ彼等は、獣と同等に考えられ扱われた。 彼等が人らしい生活をおくることができるようになったのは、ギルベルトがクローステル領主に定められ、リシィが領主代行を務めるようになってから。 大人たちは、十分過ぎるほどに、この世界で生きるためには、身体能力が高いだけでは意味がない事を身をもって学んだのだ。
だから、見て見ぬを振りをした。
だから、見て見ぬ振りができぬものもあらわれた。
1人の青年が自ら乗る馬を、護送用の馬車に近づける。
「モルトさん、フランセン軍は戦争をする気があるのですか?」
リシェが領主代理を務める今のクローステル領には、使用人らしい使用人はおらず、元王太子あったギルベルトの側近であったモルト自身が護送用の大きな馬車の御者を務めている。
銀の髪の村人達は身振り手振りで口出しするなと訴えるが、アビィの兄『ルカ』は、引く事はなかった。 モルトはチラリとルカへと視線を向け、直ぐに視線は正面へと戻される。
「戦場の都合は、その場で戦うものにしか分からないものです」
ボソリと小さな呟き、それは銀狼の一族だからこそ聞こえるような小声。
ルカがオカシイと言ったのは、
北にある高い山脈を超えてやってきたウォルランドの軍勢は、山脈を背に広く陣地をとり、石塀を築き、街を作っているかのように見えた。 その陣営の中へと視線を向ければ、数千の人間が生活している。
その地は、彼等の住まう小さな村よりも余程立派で、敵国に来て、陣営を敷き、神を介して宣戦布告をした国のようには到底見えない。
反して、迎え撃つ側フランセンの拠点は、野営地程度の規模しかない。 それでもテントの数だけは多いのだが、鎧を身に着けている者はおらず、目につく性別比は男女半々と言ってもいい。 別に女性が戦場に出る事をオカシイと言う訳ではないが、楽しそうに会話し、甘い雰囲気を醸し出している男女がいるのだから戦場かと問いたくなるのも無理はないだろう。
「これが戦争をする騎士ですか!! こんなもののためにリシェ様は寂しい思いをされているのですか!!」
「お黙りなさい……。 ここはリシェ様にとっての敵地です」
モルトに厳しい声で言われれば、ルカは黙るしかなかった。
アビィが一緒でなくて良かった。
反射的にそう思った。
もし、あの子がいたなら、泣きながら暴れ手に負えなくなっただろう。 領主様を殴りにいっただろう。 首根っこをつかみ馬車に放り込み村へと急いだだろう。
いなくて良かった。
本当にそうか? あの子に出来るのに、なぜ俺には出来ないんだろう。 そう頭のどこかで囁いていた。
初恋の相手が悲しむところなんて見たくないのに……。
彼女を連れて逃げ、幸せにできるような世の中だったなら迷うことなく連れ去っただろう。 もし、彼女が人妻でなかったなら……。 せめて、俺がアビィほど小さかったなら、この恋心を忠誠として仕えることができたかもしれないのに、何もかも中途半端じゃないか!!
自分への怒りが、未だあった事もないギルベルトへと向かう。
「なら、俺にとっても敵です!!」
ルカは馬の腹をけり馬速を早め、モルツを残して駆け抜ける。 腑抜けた門番は容易にルカを素通りさせ、追いかけるような人間もおらず。 ただ……ルカは、この陣営内で怖いと感じる場所へと向かった。
一際立派なテントの前で馬を飛び降りれば、急に止まれない馬はそのまま走り抜ける。 見張りもいない分厚い布地でできた入口を開けば、そこに裸の男の身体を愛おしそうに触れる女の姿があった。
恍惚とした表情で筋肉質な身体に触れる白い手はエロチックで、こぼれる溜息の熱まで見えるようだった。
「り(しぇ様を寂しがらせて何をしているんだ!!)」
声を上げるのをルカは辞めた。
目の前の男の髪色が紫色だったから。
リシェ様から聞いている領主様の髪色は鮮やかな黄金色。 全能神の色をしていると聞いていた。 なら、目の前の人間は領主様では、リシュ様の夫ではない。
「何者だ?」
薄暗く低い声。 陰鬱な性格がにじみ出るかのような声色だった。 淡々とした声は、世間に対する無味無臭な感情を彷彿とさせる。
ツマラナイ人間だ。
そう思ったのに、恐怖だけは振り払う事ができず、ルカは考えるよりも早く片膝をつき頭を下げる。 なんだか呼吸がしにくいような気がする。 そう思った時には既に肩で息をし、冷たい汗をかいていた。
モルトが、ここの人間はリシェ様の敵だと言ったのを思い出し言葉を選ばなければと考えるが、頭が上手く働かない。 とにかくリシェ様の名を出してはいけない。 彼女の不利になることをするわけにはいかない。 守りたいのだから。
「申し訳ありません。 モルト様の元でお世話になっている銀狼族のルカと申します」
「ふぅん、この女を外に放り出せ」
男は側に倒れこんだ女へと視線を向ける。 いつの間にか女は白目をむき、口元から泡を吹き倒れており、言われたままに女性を外へと出すべく近寄れば、男がただ裸でいた訳でないことを知った。 傷の手当をしていたのだ。
逞しく鍛えられた体には、大小さまざまな傷跡。 真新しい傷跡には薬が塗り込められており、初めてここが戦場なのだと理解し、息を飲んだ。
「はい」
ルカは、男の言葉に従い女をテントの外に放り出す。
「それで? 何かあったのか?」
「それは……ギルベルト様に直接お伝えするべきことですので、よろしければギルベルト様がどちらにいらっしゃるかお教えいただけないでしょうか?」
そう告げたところで、モルトが肩で息をしながらテントへと入ってきて、ルカが振り返った瞬間に頬を打たれれば、軽い音がその場に響き、頭を大地にたたきつけるように押さえつけられた。
「旦那様、お騒がせして申し訳ありません。 この犬は未だ首輪もつけておらぬ野生の犬ではございますが、とても情に厚く良く仕えてくれております。 ご無礼を許してやってください」
モルトの言葉にルカは間抜けな表情を浮かべた。 目の前の男は、リシェ様から聞いていた姿と雰囲気と随分と違っているじゃないか!!
「リシェ様は……」
「リシェがどうした?」
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