2 / 32
01.無神経
しおりを挟む
獣人国家ミフェール。
獣人国家と言いながら、獣人の数は決して多くはない。
獣人は人間と交わる事で獣化の能力を失い、攻撃性を失い、警戒心を失い、本能を失った。 残されているのは、時折獣を連想させる耳や尻尾、角や鱗、牙等の外見的な特徴を持つ者が生まれるのみ。 獣として多くを失った彼等は、代わりに魔力を得た。
だが、失われたモノは時に先祖返りとして現れる。
突然で突発的で、偶発的。
それに比べ、魔力は血統で受け継がれる……確実に……。
何より人々の生活を便利にする魔道具の利用には魔力が必要不可欠で、地位の低い獣人たちほど人間との交わりを望む。
それが、獣人が人間と交わり人間に近づいて行った理由。
そしてミフェール国には獣化を可能とする者はとても珍しいものとなった。
木々の葉と、ガゼボの風が日差しの眩しさを隠す。
一陣の風が吹き頬を撫でる。
心地よいが、木々の葉が揺らされ厳しい日差しが手元を照らし、ペンを走らせる分厚い凹凸の多い紙の上に、美しい光と影が模様を描く。
私はペンを止めて、溜息をついた。
決して光と影が美しすぎたから、等と言う優雅な理由ではなく、目の前で笑みを交わしながら仲睦ましく話をしている婚約者と従姉妹の声にイラついたから。
嫌い……。
私ルルワ・ハーノイスが両親を事故で亡くしたのは3年前、両親が事故にあう3日前、私が生まれる前に祖父から追放処分を受けていた伯父が妻子を連れてやってきた。
余りの偶然。
「私の成功を見ぬままに死出の山に旅立ってしまっていたなんて……父は私を毛嫌いしていたけれど、兄弟仲は決して悪くはなかった……私達の仲は両親によって引き裂かれていたと言っていい。 これから、仲良くしていこうじゃないか!!」
嫌がる父。
それを押し通した伯父は、私と使用人達と共に私の父の死を屋敷で聞く事となった。 そして……伯父は爵位も領地も屋敷も全て奪い、お前は家族ではないからと家名から追放と言う手続きを取ってまで追い出した。
そう言う奴だ……。
祖父は、顔も見たことの無かった伯父を憎々し気に語り、万が一のことを考えミフェール国で最初に住まいした迷わしの森と名付けられた、かつて魔導師達の避難地となっていた古城を私に残した。
そんな曰く付きの伯父の娘……ナンシー・ハーノイスを良く思えるはず等無い。 なぜ、連れて来たのかと婚約者ジェフリー・ブラウンに対して不満ばかりを私は募らせてしまう。
無神経……。
私がハーノイス家から追放となった理由も知っている癖に。
ジェフリー・ブラウン侯爵令息。
彼は10歳の時にブラウン侯爵家の強い希望によって、婚約を交わした相手。
無神経で、図々しくて、外面が良くて、プライドが高く、理屈屋。 それでもハーノイス伯爵家から追放され、使用人との繋がりを断たれ、領地は売り払われ、そんな状況へと貶めたと恨まれた私には帰る場所等無い。
私にはジェフリー様との婚約だけが、人との繋がりであり、唯一の救いとなっていた。
私には誰も居ない。
だから……久々の逢瀬に従姉妹を伴ってきた挙句、
『君は簡単にできるのだから、ささっと彼女の課題をやって上げればいいだろう?』
『でも……』
『彼女の父が伯爵家から君を追放処分にしたのは、君が子供なのに領地を自分勝手に支配しようとする強欲さが目についたからと聞いている。 それにさ、君を追放した君の伯父とナンシーは別の人間だよ。 そこを一緒にしてイジメなんて最低な事をしないよね?』
そう言って、従姉妹の課題を私に命じ、仲睦ましく会話する2人に虚しさを感じていても……婚約者と言う繋がりに縋ってしまう。
昔はもっと優しかったのに……。
獣人国家と言いながら、獣人の数は決して多くはない。
獣人は人間と交わる事で獣化の能力を失い、攻撃性を失い、警戒心を失い、本能を失った。 残されているのは、時折獣を連想させる耳や尻尾、角や鱗、牙等の外見的な特徴を持つ者が生まれるのみ。 獣として多くを失った彼等は、代わりに魔力を得た。
だが、失われたモノは時に先祖返りとして現れる。
突然で突発的で、偶発的。
それに比べ、魔力は血統で受け継がれる……確実に……。
何より人々の生活を便利にする魔道具の利用には魔力が必要不可欠で、地位の低い獣人たちほど人間との交わりを望む。
それが、獣人が人間と交わり人間に近づいて行った理由。
そしてミフェール国には獣化を可能とする者はとても珍しいものとなった。
木々の葉と、ガゼボの風が日差しの眩しさを隠す。
一陣の風が吹き頬を撫でる。
心地よいが、木々の葉が揺らされ厳しい日差しが手元を照らし、ペンを走らせる分厚い凹凸の多い紙の上に、美しい光と影が模様を描く。
私はペンを止めて、溜息をついた。
決して光と影が美しすぎたから、等と言う優雅な理由ではなく、目の前で笑みを交わしながら仲睦ましく話をしている婚約者と従姉妹の声にイラついたから。
嫌い……。
私ルルワ・ハーノイスが両親を事故で亡くしたのは3年前、両親が事故にあう3日前、私が生まれる前に祖父から追放処分を受けていた伯父が妻子を連れてやってきた。
余りの偶然。
「私の成功を見ぬままに死出の山に旅立ってしまっていたなんて……父は私を毛嫌いしていたけれど、兄弟仲は決して悪くはなかった……私達の仲は両親によって引き裂かれていたと言っていい。 これから、仲良くしていこうじゃないか!!」
嫌がる父。
それを押し通した伯父は、私と使用人達と共に私の父の死を屋敷で聞く事となった。 そして……伯父は爵位も領地も屋敷も全て奪い、お前は家族ではないからと家名から追放と言う手続きを取ってまで追い出した。
そう言う奴だ……。
祖父は、顔も見たことの無かった伯父を憎々し気に語り、万が一のことを考えミフェール国で最初に住まいした迷わしの森と名付けられた、かつて魔導師達の避難地となっていた古城を私に残した。
そんな曰く付きの伯父の娘……ナンシー・ハーノイスを良く思えるはず等無い。 なぜ、連れて来たのかと婚約者ジェフリー・ブラウンに対して不満ばかりを私は募らせてしまう。
無神経……。
私がハーノイス家から追放となった理由も知っている癖に。
ジェフリー・ブラウン侯爵令息。
彼は10歳の時にブラウン侯爵家の強い希望によって、婚約を交わした相手。
無神経で、図々しくて、外面が良くて、プライドが高く、理屈屋。 それでもハーノイス伯爵家から追放され、使用人との繋がりを断たれ、領地は売り払われ、そんな状況へと貶めたと恨まれた私には帰る場所等無い。
私にはジェフリー様との婚約だけが、人との繋がりであり、唯一の救いとなっていた。
私には誰も居ない。
だから……久々の逢瀬に従姉妹を伴ってきた挙句、
『君は簡単にできるのだから、ささっと彼女の課題をやって上げればいいだろう?』
『でも……』
『彼女の父が伯爵家から君を追放処分にしたのは、君が子供なのに領地を自分勝手に支配しようとする強欲さが目についたからと聞いている。 それにさ、君を追放した君の伯父とナンシーは別の人間だよ。 そこを一緒にしてイジメなんて最低な事をしないよね?』
そう言って、従姉妹の課題を私に命じ、仲睦ましく会話する2人に虚しさを感じていても……婚約者と言う繋がりに縋ってしまう。
昔はもっと優しかったのに……。
52
あなたにおすすめの小説
(完)なにも死ぬことないでしょう?
青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。
悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。
若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。
『亭主、元気で留守がいい』ということを。
だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。
ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。
昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。
(完結)元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・(5話完結)
青空一夏
恋愛
私(エメリーン・リトラー侯爵令嬢)は義理のお姉様、マルガレータ様が大好きだった。彼女は4歳年上でお兄様とは同じ歳。二人はとても仲のいい夫婦だった。
けれどお兄様が病気であっけなく他界し、結婚期間わずか半年で子供もいなかったマルガレータ様は、実家ノット公爵家に戻られる。
マルガレータ様は実家に帰られる際、
「エメリーン、あなたを本当の妹のように思っているわ。この思いはずっと変わらない。あなたの幸せをずっと願っていましょう」と、おっしゃった。
信頼していたし、とても可愛がってくれた。私はマルガレータが本当に大好きだったの!!
でも、それは見事に裏切られて・・・・・・
ヒロインは、マルガレータ。シリアス。ざまぁはないかも。バッドエンド。バッドエンドはもやっとくる結末です。異世界ヨーロッパ風。現代的表現。ゆるふわ設定ご都合主義。時代考証ほとんどありません。
エメリーンの回も書いてダブルヒロインのはずでしたが、別作品として書いていきます。申し訳ありません。
元お姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれどーエメリーン編に続きます。
(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)
青空一夏
恋愛
従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。
だったら、婚約破棄はやめましょう。
ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!
悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!
(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。
なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと?
婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。
※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。
※ゆるふわ設定のご都合主義です。
※元サヤはありません。
[完結]裏切りの果てに……
青空一夏
恋愛
王都に本邸を構える大商会、アルマード男爵家の一人娘リリアは、父の勧めで王立近衛騎士団から引き抜かれた青年カイルと婚約する。
彼は公爵家の分家筋の出身で、政争で没落したものの、誇り高く優秀な騎士だった。
穏やかで誠実な彼に惹かれていくリリア。
だが、学園の同級生レオンのささやいた一言が、彼女の心を揺らす。
「カイルは優しい人なんだろ? 君が望めば、何でもしてくれるはずさ。
でも、それは――仕事だからだよ。結婚も仕事のうちさ。
だって、雇い主の命令に逆らえないでしょ?
君に好意がなくても、義務でそうするんだ」
その言葉が頭から離れないリリアは、カイルの同僚たちに聞き込み、彼に病気の家族がいると知った。「治療費のために自分と結婚するの?」 そう思い込んだリリアに、父母がそろって事故死するという不幸が襲う。
レオンはリリアを惑わし、孤立させ、莫大な持参金を持って自分の元へ嫁ぐように仕向けるのだった。
だが、待っていたのは愛ではなく、孤独と裏切り。
日差しの差さない部屋に閉じ込められ、心身を衰弱させていくリリア。
「……カイル、助けて……」
そう呟いたとき。動き出したのは、かつて彼女を守ると誓った男――カイル・グランベルだった。そしてリリアも自らここを抜けだし、レオンを懲らしめてやろうと決意するようになり……
今、失われた愛と誇りを取り戻す物語が始まる。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。
「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」
私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。
(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ?
青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。
チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。
しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは……
これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で
す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦)
それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる