婚約者は私から全てを奪った従姉妹との愛を正当化するくせに婚約破棄はしてくれません

迷い人

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01.無神経

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 獣人国家ミフェール。

 獣人国家と言いながら、獣人の数は決して多くはない。

 獣人は人間と交わる事で獣化の能力を失い、攻撃性を失い、警戒心を失い、本能を失った。 残されているのは、時折獣を連想させる耳や尻尾、角や鱗、牙等の外見的な特徴を持つ者が生まれるのみ。 獣として多くを失った彼等は、代わりに魔力を得た。

 だが、失われたモノは時に先祖返りとして現れる。

 突然で突発的で、偶発的。

 それに比べ、魔力は血統で受け継がれる……確実に……。
 何より人々の生活を便利にする魔道具の利用には魔力が必要不可欠で、地位の低い獣人たちほど人間との交わりを望む。 

 それが、獣人が人間と交わり人間に近づいて行った理由。

 そしてミフェール国には獣化を可能とする者はとても珍しいものとなった。






 木々の葉と、ガゼボの風が日差しの眩しさを隠す。

 一陣の風が吹き頬を撫でる。

 心地よいが、木々の葉が揺らされ厳しい日差しが手元を照らし、ペンを走らせる分厚い凹凸の多い紙の上に、美しい光と影が模様を描く。

 私はペンを止めて、溜息をついた。

 決して光と影が美しすぎたから、等と言う優雅な理由ではなく、目の前で笑みを交わしながら仲睦ましく話をしている婚約者と従姉妹の声にイラついたから。



 嫌い……。



 私ルルワ・ハーノイスが両親を事故で亡くしたのは3年前、両親が事故にあう3日前、私が生まれる前に祖父から追放処分を受けていた伯父が妻子を連れてやってきた。

 余りの偶然。

「私の成功を見ぬままに死出の山に旅立ってしまっていたなんて……父は私を毛嫌いしていたけれど、兄弟仲は決して悪くはなかった……私達の仲は両親によって引き裂かれていたと言っていい。 これから、仲良くしていこうじゃないか!!」

 嫌がる父。

 それを押し通した伯父は、私と使用人達と共に私の父の死を屋敷で聞く事となった。 そして……伯父は爵位も領地も屋敷も全て奪い、お前は家族ではないからと家名から追放と言う手続きを取ってまで追い出した。

 そう言う奴だ……。

 祖父は、顔も見たことの無かった伯父を憎々し気に語り、万が一のことを考えミフェール国で最初に住まいした迷わしの森と名付けられた、かつて魔導師達の避難地となっていた古城を私に残した。

 そんな曰く付きの伯父の娘……ナンシー・ハーノイスを良く思えるはず等無い。 なぜ、連れて来たのかと婚約者ジェフリー・ブラウンに対して不満ばかりを私は募らせてしまう。

 無神経……。
 私がハーノイス家から追放となった理由も知っている癖に。

 ジェフリー・ブラウン侯爵令息。

 彼は10歳の時にブラウン侯爵家の強い希望によって、婚約を交わした相手。

 無神経で、図々しくて、外面が良くて、プライドが高く、理屈屋。 それでもハーノイス伯爵家から追放され、使用人との繋がりを断たれ、領地は売り払われ、そんな状況へと貶めたと恨まれた私には帰る場所等無い。

 私にはジェフリー様との婚約だけが、人との繋がりであり、唯一の救いとなっていた。



 私には誰も居ない。



 だから……久々の逢瀬に従姉妹を伴ってきた挙句、

『君は簡単にできるのだから、ささっと彼女の課題をやって上げればいいだろう?』

『でも……』

『彼女の父が伯爵家から君を追放処分にしたのは、君が子供なのに領地を自分勝手に支配しようとする強欲さが目についたからと聞いている。 それにさ、君を追放した君の伯父とナンシーは別の人間だよ。 そこを一緒にしてイジメなんて最低な事をしないよね?』

 そう言って、従姉妹の課題を私に命じ、仲睦ましく会話する2人に虚しさを感じていても……婚約者と言う繋がりに縋ってしまう。



 昔はもっと優しかったのに……。
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