婚約者は私から全てを奪った従姉妹との愛を正当化するくせに婚約破棄はしてくれません

迷い人

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18.謝罪

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 誰も来ない牢。

 魔道具が完成した日、それは雨によってお日様が隠れ……あかりとりから雨水が泥をまぜぽたぽたと落ちて来るそんな日。 泥と共に流れ込む虫やカエル……と仲良くなりたいとは思わず、カイル様が訪れるだろう夜を待つ気にはなれなかった。

 雨の音。
 水に濡れた土を踏む音。

 するべき作業が終われば、外を歩く人の足音、話し声が気にかかる。 その声に集中すれば作業の進み具合が語られており、私はただ飲み水も食事も与えられていなかっただけで、見張られていなかった訳ではない事を知った。

 とは言え、夜になればカイル様が訪れるのだから、明り取りの窓の向こうにいるのは見張りではなく、進捗状況を知るために様子を見に来ているだけの者なのだろう。

「誰? 誰かいるの?」

 完全に無視されている事。
 私の存在を無かった事にされた事。

 それは悲しくて空しい。 だからと言って自分が魔術に集中している間、自分を見ている人がいたと言う事実を嬉しいと思える訳等無い。

 自分が魔術に集中している間、自分を害する事が出来る人物がいたと考えれば、気持ち悪くなるほどに内臓が冷たく感じた。

「だ、誰!!」

 恐怖交じりの問いかけに返されたのは、無造作に壁を打つ音。 彼方此方から無数に聞こえる音、音、音、どんどんどんどん、ガンガンガンガン、きゃはっはははははは、子供の悪戯のようであるソレは、姿を見せず言葉も無い事に恐怖を感じる。

 ボソボソと言う声が雨音の混ざり聞き取れない。

次は泥交じりの水が勢いよく、明り取り用の天井近くの窓から滝のように流し入れられた。 

「誰よ!! どうしてこんな事をするのよ!!」

 床に落ちる泥水は跳ね上がり、部屋を、服を、顔を、髪を泥まみれにした。 泥水が積み上がり跳ね上がる。 中には蛇が混ぜ込まれ、ルルワは顔を青くし震えた。

 蛇嫌いのルルワはもう言葉を出す事も出来ず、鳥肌をたて狭い部屋の中で凍り付いたように動けなくなっても気が済まず、外では

「蛇が好きみたいだからもっと増やしましょう」

そう嬉しそうに誰かに命じている従姉妹の声が聞こえた。

「こんな事をして、作った魔道具が動作不能になったとしたら、貴方のせいなんだから」

どうしてこんな事をするの!! 訳が分からない……そう叫びたいが、蛇が怖くて叫ぶ事も出来ずに、ぼそぼそと私は呟く。

「ふんっ、まぁいいわ。 とても素敵な恰好だし許してあげる。 泥まみれなんて本当貴方にお似合い。 流石モグラの婚約者だけあるわ」

「貴方、ジェフリー様が好きな訳じゃないの?!」

「はぁ?! あり得ないし!! モグラ、モグラなんてうけるんですけど。 本当アンタとはお似合いだわ。 彼だっていずれ真実の愛に気付くわ。 本当に愛していたのはお姉様だったって、真実のツガイはお姉様だったって、だからこそ……お姉様を素直に愛する事が出来なかった事を彼はきっと精神誠意謝り、共に生きようと手を差し伸べて下さるはずだわ。 おめでとう!!」

「何を言っているの?」

 訳が分からなかった。

「本当魔術馬鹿って嫌だわ。 私ね、お姉様の婚約者に甘えた事を申し訳なく思っているのよ。 ツガイでもないのに、そう言う誤解させてしまって。 ツライ思いをさせてしまったわ。 本当ごめんなさい。 私が悪かったわ。 でもね……お爺様から追放されたお父様のお気持ちはこんなものでは無かったのよ!! そして、私だって!! 本来なら伯爵令嬢として育つべきだった私が、どんな惨めな日々を送って来たのか!! 貴方には理解できないでしょうね!! それに比べたら、少しばかりお姉様の婚約者に甘えるくらいカワイイものよね」

「私から、全て奪っておいて……そう言う問題じゃない……」

 声が震えるのは屈辱のせいではなく、ただ……蛇が怖いから……生理的に苦手なものと言うのは誰にだってあるはずだ。

「はぁ? 全然足りないんですけどぉ!! もし、爺が大人しくお父様に家督を譲り、隠居していたなら、ハーノイス伯爵家は伯爵家でありながら公爵家を、いえ、王族に等しいほどの力を持てたはずよ!!」

「お爺様とお父様が、上手く立ち回らなければ……」

 言っても仕方がない……。 いえ、彼等が何かをしでかす事を気にかけているカイル様がいるのを知って居ながら、警戒させるような事を口走る訳には行かないのでは? そんなことが脳裏をよぎり言葉を閉ざした。

「上手く立ち回る? 立ち回るって何よ!! お父様が何をしようとしていたかも知らずに、良くそんな事が言えるわねぇ!! 王子様の婚約者にだってなれたはず! 貴方達が無能だったせいで、私達は苦労しなければいけないのに、あの泥団子のような生き物に媚びを売らなければいけない私の屈辱、お姉様には理解できないでしょうね!!」

 最も苦手な生き物である蛇に感情が揺さぶられ、ナンシーの嘆きはそれほど私の心には届く事はなく、むしろ……泥団子等と言われたジェフリー様が哀れだとすら感じた。

「まぁ、いいわ……。 つい、ムキになってしまって……だめねぇ~。 そろそろ魔道具を作り終えるだろう貴方に、ご褒美を準備しなければと思っていたのに……お姉様を見るとイライラしてどうしようもなくなってしまうの」

 そう言って、ぶちまけられた泥の上に、パンとスープが落とされた。

「ご飯を食べた後には、次のご褒美が待っているから楽しみにしていて」

 そう言われナンシーと、その仲間たちは私の様子を見守っていた。 蛇が怖くて動けなくなっている私を見ていた彼女は、割とすぐに飽きてくれた。



 それから、本当に僅かな間で……地下に下りて来る足音が聞こえた。

 遠くからボソボソとした声が聞こえる。

 それは私に話しかけているのか、話しかけるために

「ルルワ、ごめん……君に会う事は許さないって言われて……会いたかった。 謝りたかった。 僕が全て間違っていた。 僕が間違っていた。 僕が馬鹿だった。 アイツはアイツ等は僕を馬鹿にするばかりで……屈辱を与えた。 ねぇ、僕の話を聞いている? 僕は彼女に騙されていたんだ。 話をしよう。 ここから出よう。 やり直そう……。 頼む!! 何か言ってくれ!!」

 扉が開いた先……。

 雨宿りをしていた小鳥が飛び立つのをジェフリーは目で追い、そして決して広いとは言えない牢の中、視線を巡らせルルワを探していた。
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