婚約者は私から全てを奪った従姉妹との愛を正当化するくせに婚約破棄はしてくれません

迷い人

文字の大きさ
18 / 32

17.脅威と認識されない人

しおりを挟む
 コツンコツンと音がなる。
 硬く石を叩く音。

 ジェフリーに対する理不尽さ、悲しみ、訳の分からないグチャグチャした思い音によって遮られる。

 コツンコツンと続く音に視線をあげた。
 小さな窓からは光が落ちていた。

 窓と言うにはお粗末な明かり取りの場は、半地下の天井部分につけられた幅1m高さ0.1mのもの。 光りを塞ぐ人影が見えた。

「静かに」

 そう語る声は覚えがあった。

「カイル様?」

「悪いね。 様子がおかしかったからつけさせて貰ったんだ。 君にあんな顔をさせる相手は彼ぐらいだろうからね」

「……」

「直ぐに助けてあげたいところだけれど、お願いがあるんだ」

 生憎と今の私は心が狭く、人のお願いをそうすんなりと叶える気にはなれなかった。 お世話になっている相手だと言うのに……お願いを聞くなら……

 私は何が欲しいのかと……僅かに考え泣きたくなった。 ただ……愛していると大切なのだと抱きしめて欲しいだけ……。 ソレを安易に望めば、また同じことが繰り返されるだろう事は簡単に想像がついて……。

 結局、私は短く返すのだ。

「なんでしょうか?」

 僅かに間が空いていた。

「どうかしたのか?」

「何が?」

「いや、様子が……。 まぁ、いい……。 君が攫われた理由は、魔道具を作らせるためだろう? その依頼内容を聞きたい。

「はい……」

 私を安易に屋敷に招き入れたこの人は、健康的な生活を与えてはくれた。 けれど、何故? 信用できるの? そうグルグルと脳裏をよぎりながらも、私は……それ以上物を考えずに答えた。

 手渡された図面を眺め見た。 そのまま渡せばいいのか説明をすればいいのか分からなかったから。

「えっと……」

 疑心暗鬼……を悪化させながらも、私はやっぱり人を頼りにしてしまう。

「これって……」

 制作を要請された魔道具は腕輪形式で、表立っての能力は通行証、そして細かく内側に付与されているのは……一瞬考え込んだ。

 それだけで術式として成立していなかったから。

 式と言うけれど文字列や数式が書かれている訳ではなく、魔力に命令を与える術式は、魔力文字……文様を使う事で、この世界に現実化させる。 その文様は魔術を知らない人には、不思議な模様、お洒落な模様ぐらいにしか感じない。
 術式として成立していないにも関わらず、背筋にゾワリとしたのは、触れてはいけない属性魔術として教え込まれていたものだったから。

『魔術師には触れてはいけない術式がある』

 精神に干渉する魔術。

 上手く使えば利点も多いけれど、危険度も高いため、触れてはいけない術式として注意するために知っているに過ぎないもの。 文様としては完璧ではないし、私が学んだものとは少し違う。 ソレを半分だと考えれば知識でもう半分を補う事はできた。

 高揚、自信、思考低下、楽観、依存……と言ったところでしょうか?

 半分かけた文様には、全てに同一の見たことの無い術式が組まれている。

「あの……少し時間を頂けますか?」

 今まで気づいたところを説明し、アクセス(精神感応)に加えてプラスされている共通術式が何かを調べ……ようとしたところに、プラスされる? と、私の中で何かが引っかかった。

 プラス……追加、これはそういう術式で、これと対になる術式があって、条件が合う事で別に準備された残りの術式と合わさって効果が出るのかもしれない。

「精神の術式は、その場だけと思っていても繰り返し受けていれば精神状態に大きな影響を与えてしまいます」

「大きな影響とは?」

「そうですね……」

 私は何故、こんな魔道具を作れと言われたのか動揺しながらも考えた。

「例えば、好意と言う精神感応の呪文を繰り返し使ううちに、術がなくてもソレを自分の気持ちとして勘違いしてしまうとか……。 高揚を使い続ける事で、術がなければ落ち込み続けるとか……。 個人の耐性や性格にも左右するでしょうが、色々なんですが、ハーノイス家では禁止されていた術式なのは確かです。 なんでこんなものを……」

 私は勝手に話して、勝手に黙り込んでしまい……はっとした気分で天井近くの明かりへと視線を向けた。

「ジェフリー・ブラウンの愛想の良さ……いや……」

 苦笑い、溜息、呆れ? なんとも表現し辛い息遣いから、カイル様は言葉を低い落ち着いた声で続けた。

「媚びを売り、相手の懐に入るのが上手い……何よりブラウン侯爵、彼の堅実で忠誠心の高さをジェフリー君の信頼に繋がっていると言っていい。 そして、ソレをハーノイス伯爵が行っている事業に利用している」

「事業?」

 私は、想像できずに言葉を繰り返すだけ。

「うちは魔導師の家系よ?」

 ハーノイス伯爵家の名は今はもう伯父一家のもので、ハーノイス伯爵家には魔導師はいないけれど。 これは私の中のプライドのようなもので腹立たしく思えてしまう。

「それと、この魔道具作成はどんな関係があるの? 精神的に影響力を与えるとは言っても、思考と真逆の行動を強制する事は出来ませんよ」

「賭け事も行き過ぎれば自滅を促す。 自滅の裏には必ず利益を得る者がいるものさ」

「大げさ……な気がする。 あの伯父様に貴族の方々が手玉に取られる?」

 確かにアッサリと私はハーノイスの名を奪われ、受け継ぐべきものの全てを奪われた。 それでも薄っぺらな笑みと、中身の無い会話、それで貴族をどう動かせるのか? そう思ってしまう。

「皆そう思って安堵する。 ハーノイス伯爵を格下だとね。 だが追放されていた間、何処で何をしていたか? これを放置すれば静かな戦争となる。 俺と、ごく一部の者はそう懸念している。 が、 魔道具の内容を聞けば各視認になった」

「わ、わたしも、ハーノイスのものだわ……」

「俺が保護している。 君は脅迫を受けている。 攫われ幽閉されている。 その魔道具の依頼を終えた時点で婚約破棄できるよう俺が力を貸そう。 まさか……まだ縋りつこうって事は無いよな?」

 言われれば不安を覚えた。

「ルルワ?」

「あ……一人、ぼっちになると思うと……怖い……」

「えっと……そうだなぁ……出て来れるか?」

「ぇ、ぁ……はい……」

 私は天井近くの明かり取りをくぐれるほどの小鳥へと変化した。 手のひらに乗るほどの小鳥。

 ちゅぴ……。

 明り取りをくぐり地面に降り立つ、そっと向けられる手は知っている。 とても大きくてかたくて沢山傷があるのに何故か温かい。

 チョンっと上に乗り首を傾げ、ぐりぐりと押さえつけるように小さく細く壊れそうな首を指にこすりつけた。

「撫でてやりたいが、ぽっきりと折れそうで怖いな」

 苦笑交じりの笑いに私はちゅぴっと鳴いた。

 手は顔の高さまであげられ、大きな顔が近寄って来てちょんちょんと数歩下がる。 小鳥で見る世界は大きすぎて、流石にちょっとビビる。

「俺達は家族だ」

 ぴよっ?!

 今、鳥としてしか話を出来なくて良かったと思った。

 家族? 家族って? どういう事?

 小鳥の姿であっても、私の戸惑いが目に見えて分かるのかもしれない。

「俺は同じ屋敷に住む者は皆家族だと思っている。 そもそも家族でなければ同じ屋敷に住めるはずがない。 だから婚約が破棄されたからと言って君は一人になる事はない。 むしろ婚約を破棄してからが始まりだ」

 ぴよっ

 私は頷く。

 あんな奴が夫となれば、懐に入れるにはリスクが大きすぎるのは分かるわ。

 私はお仕置き部屋に戻った。

「それで私は何をすればいいの?」

「精神魔術を込めずに、魔道具を作って欲しい。 そうしてくれると助かる。 もし、嫌なら」

「平気……作った魔道具の責任は取らないけど」

「それは当然。 毎日、食事は届けるし、側にいる。 何かあったら作業途中でもいい、頭突きをして逃げてこい」

 思わず、スズメで突進する自分の姿を想像して笑った。

「了解、ボス」



 そして私は与えられた仕事をする。

 彼等は……ハーノイス伯爵家の者達は、私がちゃんとしない事よりも、自分達の快楽の方が優先らしく、仕事のチェックに訪れる事は無かった。 それどころか、食事は届けると言ったのに食事も水ももらえなくて、これがもしカイル様が関与していない状況なら……餓死……よりもとっくに逃げ出していたと思う。

 仕事をして、日が落ちて、薄明りの中……私は小鳥で逃げ出して、カイル様をベッド代わりにお話ししながら眠りにつく日を過ごしていた。

『どうせ、確認する者がいないなら、屋敷でユックリ眠って良いだろう』

 そう言って貰えたけれど、それよりも側にいてお話してもらえるのが嬉しかったから。



 そして命じられていた魔道具を作り終えたのは5日目の事。 私は誰も見張りすらしない牢をそっと後にした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

(完)なにも死ぬことないでしょう?

青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。 悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。 若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。 『亭主、元気で留守がいい』ということを。 だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。 ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。 昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。

(完結)元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・(5話完結)

青空一夏
恋愛
私(エメリーン・リトラー侯爵令嬢)は義理のお姉様、マルガレータ様が大好きだった。彼女は4歳年上でお兄様とは同じ歳。二人はとても仲のいい夫婦だった。 けれどお兄様が病気であっけなく他界し、結婚期間わずか半年で子供もいなかったマルガレータ様は、実家ノット公爵家に戻られる。 マルガレータ様は実家に帰られる際、 「エメリーン、あなたを本当の妹のように思っているわ。この思いはずっと変わらない。あなたの幸せをずっと願っていましょう」と、おっしゃった。 信頼していたし、とても可愛がってくれた。私はマルガレータが本当に大好きだったの!! でも、それは見事に裏切られて・・・・・・ ヒロインは、マルガレータ。シリアス。ざまぁはないかも。バッドエンド。バッドエンドはもやっとくる結末です。異世界ヨーロッパ風。現代的表現。ゆるふわ設定ご都合主義。時代考証ほとんどありません。 エメリーンの回も書いてダブルヒロインのはずでしたが、別作品として書いていきます。申し訳ありません。 元お姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれどーエメリーン編に続きます。

(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)

青空一夏
恋愛
 従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。  だったら、婚約破棄はやめましょう。  ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!  悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!

(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。 なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと? 婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。 ※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。 ※ゆるふわ設定のご都合主義です。 ※元サヤはありません。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

[完結]裏切りの果てに……

青空一夏
恋愛
王都に本邸を構える大商会、アルマード男爵家の一人娘リリアは、父の勧めで王立近衛騎士団から引き抜かれた青年カイルと婚約する。 彼は公爵家の分家筋の出身で、政争で没落したものの、誇り高く優秀な騎士だった。 穏やかで誠実な彼に惹かれていくリリア。 だが、学園の同級生レオンのささやいた一言が、彼女の心を揺らす。 「カイルは優しい人なんだろ? 君が望めば、何でもしてくれるはずさ。 でも、それは――仕事だからだよ。結婚も仕事のうちさ。 だって、雇い主の命令に逆らえないでしょ? 君に好意がなくても、義務でそうするんだ」 その言葉が頭から離れないリリアは、カイルの同僚たちに聞き込み、彼に病気の家族がいると知った。「治療費のために自分と結婚するの?」 そう思い込んだリリアに、父母がそろって事故死するという不幸が襲う。 レオンはリリアを惑わし、孤立させ、莫大な持参金を持って自分の元へ嫁ぐように仕向けるのだった。 だが、待っていたのは愛ではなく、孤独と裏切り。 日差しの差さない部屋に閉じ込められ、心身を衰弱させていくリリア。 「……カイル、助けて……」 そう呟いたとき。動き出したのは、かつて彼女を守ると誓った男――カイル・グランベルだった。そしてリリアも自らここを抜けだし、レオンを懲らしめてやろうと決意するようになり…… 今、失われた愛と誇りを取り戻す物語が始まる。

(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ? 

青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。 チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。 しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは…… これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦) それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。

処理中です...