【R18】私との婚約は破棄ですか? では、この書面に一筆お願いします。

迷い人

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11.一族固有の性癖と言うものが存在するのでしょうか? と言う質問はスルーされた。

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「ケイン、友情はどうでもいいから」

 そう告げるティアの背後では、ティアを送ってきた女性騎士は一礼し去って行った。

「どうでもいいんですか?」

 どこか拗ねた様子のティアに、ケインはカラカウように問えばやっぱり拗ねていて横を向かれた。

「私には関係ないもの」

「それも、そうですね。 それで、そんなに急いでどうしたんですか?」

「着替えるの手伝って? あと、髪」

「着替えるんですか? せっかく可愛いのに」

「やっぱり、こういう可愛い服は交渉向きではないと思うの」

「そうですか、残念です。 ですが、ティアの保護はファース様が引き受けてくれましたので、エーリク様に余計な媚びを売る必要はないでしょう」

「そういえば、ケイン。 ファース様に騎士団まで動かすように願ったのね。 余り私のことでご迷惑をかけないで?」

 戸惑いと困惑が入り混じった表情でティアはケインを見上げれば、ケインは安心させるべく微笑んでいた。

「ファース様の職務上も、都合がよろしいんですよ。 私が私欲で動かして頂いた訳ではございません」

 そんなことを言いながら、ティアの服を脱がせにかかるケインの口元は、うっすらと皮肉気に笑っていた。

 ケインは、ティアが無事な限り攻撃を仕掛けてくるだろう正義を掲げる無法者達を、大量検挙できるチャンスを作ってやったのだと言う意味合いで、ファースにとって『都合がよい』と言う言葉を表面上使っていた。

 実際には、革命組織はカスペルの悪行を分かりやすく確定させるために、ケインが後ろから手をまわし拡大化させたもの。 そして、カスペルを処分する段取りがついた今、都合が悪いものを撒き沿いにして、盛大に潰れてくださいと言っている訳だ。

「ソレは、俺ではなくオマエに都合がいいんだろう」

 ファースに言われてケインは笑う。

 だが、ファースにとっては、ケインの複雑な表情や内面よりも、彼の腕の中で大人しく服を脱がされ、目の前で恥じらう様子もなく薄地のキャミ姿となり、布越しに肌の色を露出させているティアの方が気になっていた。

「何をしているんだ……」

「着替えを手伝っているんですよ。 見てわからないのですか? ファース様にお仕えしていた時も、着替え手伝っていたでしょう?」

「いや……そこまで手伝っていたか?」

「手伝ってほしかったんですか?!」

「いらんわ!!」

「まさか、風呂まで入れている訳じゃないよな……」

 頭をかきながら言えば、

「一緒に風呂に入ったのは12の年までですわ!! 子供扱いしないでくださいませ」

 そう言ってティアはファースに怒る。

「いや……」

 ファースにしてみれば何を怒られているんだとばかりに言葉を失くした。 自分が妻に決めた相手の歪んだ甘やかされぶりに、頭をかきケインを睨んで見せるが、意に返すことなく得意げに微笑まれる。

「可愛いでしょう?」

 そう告げるが、今、着替えさせられた服は無粋の極み。 可愛いとは程遠いものである。

 シンプルなブラウスにリボンタイ、ファース達の母親が若かりし頃に流行っただろう。 長くストンとした地味な色のスカート。 そして豊かな美しい黄金色の髪は、後ろは頭痛がするのでは?と思うほどにギュッとまとめ結い上げ、反面前髪は表情を隠すように長くたらされていた。 そして極めつけは、老人がかけるような無粋な眼鏡である。

 ファースは初めてあった時のティアを思い出し苦笑する。

 2年前、ティアがカスペルの婚約者として紹介された社交の場。

 身体こそ小柄だし、デカい眼鏡と不格好な前髪に隠れた顔立ち、そして凍り付いた表情、キツク結ばれた口元、何世代も前に流行った不格好なドレス。 それは、彼女を老人のようだとわざと誤解させるような代物だった。 もし、本当の老人だとしても、そんな恰好を好んでする者などいないだろうが……。

 それでもダンスに誘った時に見せた、驚きと、揺れる前髪からのぞく、はにかんだ微笑みは、愛らしい少女のもので、奇妙な独占欲と、自分だけが特別なのだと言う不思議な感覚を覚えた。

 その時は、ソレがケインの大切にしている少女だとは知らず、ただ守って欲しいと願われたから守っていたに過ぎなかったが、観察するごとに不自然に偽られたティアに興味を抱き、結局ティアが帰るまで一緒にいたのを思い出していた。

「見事な変装だな」

 呆れたように言えば、

「私にとっての戦闘服ですわ」

「なるほど……だが、普通、女性にとっての戦闘服と言えば、こう流行のドレスなのではないのか?」

 苦笑交じりにファースが問えば、ティアは何を言っているのか分からないと言う表情をする。

「そんなのを着て仕事をするの? 侮られるし、余計な時間がかかって無駄だわ」

「わかった。 仕事には口出ししないと約束しよう。 だが、俺と二人の時間は、俺の選んだ服を着てくれ」

 そう呆れたようにファースが言えば、老人のような恰好をした眼鏡の奥でティアは笑った。

「ファース様も、亡き公爵と同じように言うんですね。 ベンニング家の方々はそういうのが好きなの?」

 そうケインに聞くから、ケインは笑っていた。

「どうでしょうね」

 キッチリと着替えを終えるのを見守ってから、ファースは2人に告げた。

「少しばかり仕事をしてくる。 大人しくここで待っているように」

 ソレは、ティアにと言うよりも、暴走気味に思われるケインに向けて言われる言葉だった。
 
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