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3章
35.お仕置き 08
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「あああああああああああああっーー!!」
本庄が絶叫を上げる。
身体が弓反りになり、皮膚に拘束ベルトが食い込み、それが新たな熱と痛みを誘って叫びとなる。
「うるさいなぁ……」
心の底から鬱陶しそうに颯太は本庄のうっすらと筋肉の割れた腹に向かって蹴りを入れた。
「ヒィッ!! ぐふぅうう」
本庄が呻き声をあげる。
綺麗に手加減がなされたナイフの痛み以上の痛みが本庄を襲う。 ジワリとした鈍い痛みは身体に重くのしかかるようで本庄は声を上げそうになるが、次の瞬間には悲鳴を飲み込んだ。
本庄が颯太を家族としなかったのは、何処までも自分の感情に正直で、正直過ぎて、コントロールが出来ない所にあった。 それでも人と関わる以上は颯太なりのルールと言うものが本人の中に決められているのだが、性質的に似すぎた二人が折り合う事が無かったと言えるだろう。
「偉い偉い、静かに出来たね」
拍手をした颯太はニッコリ笑い。 そして本庄の目隠しを外し、頭を固定していたベルトを解いた。
本庄は熱い溜息をつき、不満気に颯太を睨みつける。
「一体、何がしたい訳よ……」
本庄の声は震えていた。
「ぇ? そんな事も分からないの? ねぇ……もう少し、頭を使おうか? 教官ってさぁ、昔から自分本位だよね。 本当に」
はぁ~ぁ、と颯太は溜息をつくが、本庄にしてみればコッチのセリフよと言いたいところだろう。
「ねぇ……」
颯太が本庄の髪を掴み上向かせる。
「ふぅっぐぅ」
頭皮に痛みが走り呻きとなり、涙目で本庄は颯太を睨む。
「痛みってさ。 残酷だと思わない? 僕はさ、同情しているんだ。 雫さんに……」
「アンタが、そこまで深入りするなんて……なぁに、童貞でも捨てさせてもらったの? 雫ならアンタに付き合っても平気でしょうね。 だって、絶対に壊れたりしないんだからさぁ!!」
冷ややかな目で、颯太は本庄の頬を打った。
「彼女をそんな風に言うなっ!! 彼女は、僕にとって母親のような人なんだ!!」
「何よソレ!! 上手く手懐けられて!! ……あぁ、そうね……そういう事……食堂のおばちゃん達に混ざってご飯を作ってくれているからって、破けた服の手直しをしてくれるからって、傷跡をこっそり治してくれるからって、特別と勘違いしたのね!! そんなの、アンタだけにしている事じゃないでしょうが!! アンタは誰の特別にもなれないのよ!!」
「でも、優しくしてくれたのは、雫さんだけなんだ!!」
「馬鹿みたい。 どうせ、アンタは愛される訳ないのにさぁ。 だって雫がそうしているのも、皎一さんに命じられてなのよ。 心なんて、何処にもない、そんなものに縋ってさぁ~~。 あぁ~ぁ、なんて、可哀そうぉおおおお」
皮肉気に笑う本庄。
そして、
颯太は本庄を傷つけないよう左手に持っていた手術用のメスを手から離す。 メスは宙を飛び、颯太の右手に握りなおされ、そして頬に強く切り付けられた。
「ぎゃぁあああああああああ」
ナイフが頬を裂き、叫びと共に口を開ければ、ベロリと垂れ落ちた頬の肉の隙間から口内が覗き見える。
「ぁぁああああああっ」
本庄は叫び続けた。
「あぁああ、本当ウルサイんだから」
ボソリとした颯太の声を耳に捕らえる事が出来たのは、日頃の特訓と言えるだろう。 内心慌てながら本庄は叫びを止め、荒く乱れながらも深呼吸を繰り返す。
「もう少し静かに出来ないかなぁ。 大人しくしていれば僕だって優しくするのに、あぁ……こんなになっちゃって……でも、凄いね……。 傷がみるみる治って行く。 雫さんに感謝しないとね」
耐えようのない痛みに耐え、本庄は血と唾を颯太に吐きつけた。
「……もういいよ。 そう言うのはさぁ……。 自分の立場を理解できない人だっていうのは良く分かった……。 でもさぁ、教官が雫さんにしようとしたことは、ちゃんと理解してもらうから」
そう言って、もう一度轡をはめようとすれば、本庄は突然に屈した。
「ごめんなさい。 こんな事になって、混乱しているの。 お願い、止めて……」
「そういう演技は良いから。 ねぇ……」
颯太は本庄の耳元で囁く。
「アナタは何時だってそうだ。 傷つける側の人間で、傷つけられる痛みを知ろうとはしない。 あぁ、そうだった……教官が大切だって言う子達? 特別な存在になりたくって雫さんを襲ったようだね」
本庄が絶叫を上げる。
身体が弓反りになり、皮膚に拘束ベルトが食い込み、それが新たな熱と痛みを誘って叫びとなる。
「うるさいなぁ……」
心の底から鬱陶しそうに颯太は本庄のうっすらと筋肉の割れた腹に向かって蹴りを入れた。
「ヒィッ!! ぐふぅうう」
本庄が呻き声をあげる。
綺麗に手加減がなされたナイフの痛み以上の痛みが本庄を襲う。 ジワリとした鈍い痛みは身体に重くのしかかるようで本庄は声を上げそうになるが、次の瞬間には悲鳴を飲み込んだ。
本庄が颯太を家族としなかったのは、何処までも自分の感情に正直で、正直過ぎて、コントロールが出来ない所にあった。 それでも人と関わる以上は颯太なりのルールと言うものが本人の中に決められているのだが、性質的に似すぎた二人が折り合う事が無かったと言えるだろう。
「偉い偉い、静かに出来たね」
拍手をした颯太はニッコリ笑い。 そして本庄の目隠しを外し、頭を固定していたベルトを解いた。
本庄は熱い溜息をつき、不満気に颯太を睨みつける。
「一体、何がしたい訳よ……」
本庄の声は震えていた。
「ぇ? そんな事も分からないの? ねぇ……もう少し、頭を使おうか? 教官ってさぁ、昔から自分本位だよね。 本当に」
はぁ~ぁ、と颯太は溜息をつくが、本庄にしてみればコッチのセリフよと言いたいところだろう。
「ねぇ……」
颯太が本庄の髪を掴み上向かせる。
「ふぅっぐぅ」
頭皮に痛みが走り呻きとなり、涙目で本庄は颯太を睨む。
「痛みってさ。 残酷だと思わない? 僕はさ、同情しているんだ。 雫さんに……」
「アンタが、そこまで深入りするなんて……なぁに、童貞でも捨てさせてもらったの? 雫ならアンタに付き合っても平気でしょうね。 だって、絶対に壊れたりしないんだからさぁ!!」
冷ややかな目で、颯太は本庄の頬を打った。
「彼女をそんな風に言うなっ!! 彼女は、僕にとって母親のような人なんだ!!」
「何よソレ!! 上手く手懐けられて!! ……あぁ、そうね……そういう事……食堂のおばちゃん達に混ざってご飯を作ってくれているからって、破けた服の手直しをしてくれるからって、傷跡をこっそり治してくれるからって、特別と勘違いしたのね!! そんなの、アンタだけにしている事じゃないでしょうが!! アンタは誰の特別にもなれないのよ!!」
「でも、優しくしてくれたのは、雫さんだけなんだ!!」
「馬鹿みたい。 どうせ、アンタは愛される訳ないのにさぁ。 だって雫がそうしているのも、皎一さんに命じられてなのよ。 心なんて、何処にもない、そんなものに縋ってさぁ~~。 あぁ~ぁ、なんて、可哀そうぉおおおお」
皮肉気に笑う本庄。
そして、
颯太は本庄を傷つけないよう左手に持っていた手術用のメスを手から離す。 メスは宙を飛び、颯太の右手に握りなおされ、そして頬に強く切り付けられた。
「ぎゃぁあああああああああ」
ナイフが頬を裂き、叫びと共に口を開ければ、ベロリと垂れ落ちた頬の肉の隙間から口内が覗き見える。
「ぁぁああああああっ」
本庄は叫び続けた。
「あぁああ、本当ウルサイんだから」
ボソリとした颯太の声を耳に捕らえる事が出来たのは、日頃の特訓と言えるだろう。 内心慌てながら本庄は叫びを止め、荒く乱れながらも深呼吸を繰り返す。
「もう少し静かに出来ないかなぁ。 大人しくしていれば僕だって優しくするのに、あぁ……こんなになっちゃって……でも、凄いね……。 傷がみるみる治って行く。 雫さんに感謝しないとね」
耐えようのない痛みに耐え、本庄は血と唾を颯太に吐きつけた。
「……もういいよ。 そう言うのはさぁ……。 自分の立場を理解できない人だっていうのは良く分かった……。 でもさぁ、教官が雫さんにしようとしたことは、ちゃんと理解してもらうから」
そう言って、もう一度轡をはめようとすれば、本庄は突然に屈した。
「ごめんなさい。 こんな事になって、混乱しているの。 お願い、止めて……」
「そういう演技は良いから。 ねぇ……」
颯太は本庄の耳元で囁く。
「アナタは何時だってそうだ。 傷つける側の人間で、傷つけられる痛みを知ろうとはしない。 あぁ、そうだった……教官が大切だって言う子達? 特別な存在になりたくって雫さんを襲ったようだね」
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