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9章

103.出張は遠足とは違う

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 早朝、まだ早い時間に新見にいみ親良しんらは、時塔の屋敷に迎えに訪れた。

 直ぐに出発をする予定だったにもかかわらず、

「直ぐに朝食の準備が整います。」

 そう言って屋敷の中に連れ込まれる。

「うすっ」

「おはよう」

 着崩したスーツを着た晃は、Tシャツにジャケットそしてジーンズ姿の親良を見て晃は眉間を寄せた。

「スーツをと言う話では?」

 とは言え晃が着ているのも吊るしの安物のスーツで、実質大差は無い。



「あぁぁあああああ、何と言う事でしょう」

 リビングに顔を出した執事は、大げさに嘆き2人を非難した。

 その声に、ギョッとする晃。 親良と言えば……うんざりと言う顔をしており、晃は親良の落ち着きように食事を続ける事にした。

 もくもくと食事をする2人に執事は言う。

「今日は、とても重要な方々とお会いすると伺っております。 そのような恰好で面会をなさるつもりですか! 旦那様の名誉にかかわる事、着替えていただきますからん!!」

「一体ドチラから伺ったのでしょうかねぇ……」

 親良は食事を終え、フォークを置きながら聞くが、その答えは既に親良自身の中にあった。



 外部から事件の調査依頼が親良の所に来るまで、幹部会の会議が行われる。

 柑子市は外との接触を良しとはしない。 ルールを覆してまで事件調査の依頼を受けるのだから、幹部達がそれを必要だと判断しなければならない。 そして……時塔皎一がその幹部の1人であるのだから、身なりを整えさせるのも……当然なのかもしれない。

 そして晃と親良は、着せ替え人形とされた。

 2人は、飾り気のないまでもスタイルの良さを見せつける年相応とも言えるデザインでありながら、年相応では決して購入する事は無いだろうブランドのスーツを着せられた。

 そして、メイド達による写真撮影がなされる。

「何がしたいんだ……」

「旦那様が準備されていたものです。 旦那様にお見せするのは当然の事でしょう」

 そう告げる執事……。

「なら、当然、俺達はお礼を言わないとだな」

 晃の言葉は嫌味なハズだったが、それもそうですねと執事は皎一に対してアッサリ連絡を取り、晃と親良はスーツのお礼……いや、日常生活に対する支援のお礼の言葉を尽くし並べ立て電話を前に頭を下げるのだった。

 冗談のつもりだったのに正直焦る……。 晃の内心を知ってか知らずか、親良はボソリと呟いた。

「余計な事を……」

 日頃丁寧な言葉を使う親良がボソリと告げれば、晃は驚き……そして、その方が似合うと思った。 気疲れをしたとばかりに煙草を吸いだす親良から、1本おすそ分けを貰う晃。

 そして、それを真顔で撮影するメイドにうんざりした様子で告げる。

「何をしたいんだ」

「……記録でございましょうか?」

 戸惑い、誤魔化し、そこに私欲が混じっているのが分かれば、本気で聞かなければ良かったと晃は溜息交じりに煙草の煙を吐きだした。



 出発は予定よりも2時間ほど遅くなった。

「時間は、大丈夫なのか?」

 安全運転と言うべきか、ドライブを楽しむかのようなのんびりとした様子で車を走らせる親良に晃は聞いた。

「問題ありませんよ。 寄り道に使う時間を綺麗に潰されただけですから」

「こういう事は、たびたびあるのか?」

「こういう事と言うと、出張の事ですか?」

「まぁ、それも含めて……柑子市の連中が他県にまで出向く事だな」

「元々、外部からの依頼や、スカウトによって柑子市は成立していますからねぇ。 晃の場合は安全保障機構としてのスカウトでしたから、当時教育部に所属していた本庄エリィを派遣しました。 子供である場合は、精神科医と児童施設が動きます」

「コレは? 勧誘?」

「いえ、事件ですよ……書類は、鞄の中に」

 そう言われて晃は明らかに私物ではないだろうカバンへと手を伸ばした。 カバンには鍵がかかっており、親良は小さな声で解除ナンバーを告げた。 中を開けば……チビカラスが飛び出してきて晃の顔面に抱えついてくる。

『今日は私の勝ちですな晃殿』

「なぜ、こんなところに入っている……」

 晃がコメカミをヒクッと動かしながら窓を開けようとすれば、親良がそれを止めた。

「それは荷物ですから、捨てないでくださいよ」

「……荷物? お荷物的な何かか?」

 言えば親良は笑いながら説明をする。

 晃がカラスの視線を奪うと言う行為は、周囲にアッサリと受け入れられた。 そして……当然ソレは親良もだった。

「柑子市外で、カラスの協力を得ようとした場合、中継器が必要になってくるとチビに聞いたものですから」

「本当は?」

『嘘ではございませんぞ!! それで報酬は、大衆的なハンバーガーなるものを所望いたしまする』

 時塔家ではカラスと言えど贅沢で、ジャンクフードと言うものを食べたくなるのだと、人間の子供のような事を言いだして親良と晃は苦笑する。

「晃さえ良ければ、チビの要望通りテイクアウトを考えているのですが?」

「悪くはないな」

 そんな事を言いながら、晃は紙の束を手にすれば、その下からノートパソコンが入っていた……。

「印刷をするのは、その方た確認がしやすいからですよ」

「いや、俺が気になるのは、チビが何処に入っていたのか? と言う事だ……」

「……」
「……」

『ハンバーガー、ハンバーガー♪』

 浮かれるカラスには謎が多い。
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